14/23
〇一四 一緒に寝る関係
その後は比較的無難な世間話をしながら食事が進んだ。
そろそろ食べ終えようとする頃、玄関から声が聞こえた。
「ただいまー」
母の声だ。
姉が呟くのが聞こえた。
「チッ。こんなに早く……」
「え?」
「まだ八時過ぎじゃない。何が遅くなるよ……。あの人、わたしに食事を作らせたかっただけなんじゃないの?」
「姉ちゃん、何言ってんの?」
「ノゾム。お風呂は今度ね」
「お風呂?」
ひょっとして風呂も一緒に入るつもりだったとか。
母が食堂に入ってきた。
「あら。もうご飯済んだの? ありがとう、ヒトミ。助かるわぁ」
「いいの、ママ。わたし、お料理好きだから」
「わたしよりずっと得意そうよねー。これからも頼んじゃおっかな!」
「まかせて、ママ。お仕事、大変なんでしょ?」
「そうなのよねー。もー、やんなっちゃうー」
母は近所の町工場の事務員。それなりに仕事は大変なのだろう。ぼやきながら、一階奥の自室に去っていった。着替えるのだろう。
姉が囁いてきた。
「あの人、わたしに家事を押し付けて、男遊びするつもりよ」
「そうかな……」
「ま、いいけど。わたしだって、もうあの人にあんたの食べるものを作らせたくないしね」
「姉ちゃん……」
てことは、来週から毎日、弁当も姉が作るのか? 確かにうまいが、黒いハートはやめてほしいところだ。
…………
風呂は普通に一人ずつ入り、二階の部屋でくつろぐ。明日は休日。朝早起きしないといけないのは憂鬱だが、それでも心は解放感に満ちている。
姉は一階の居間で母と談笑しているようだ。あれだけ辛辣なことを陰で言っているくせに、どういうわけだろう。女心はわからない。
それはさておき、今夜はどうなるのだろう。別々に寝るのか?
それとも……。
ネットでしばらく時間をつぶした後、机に向かって受験情報誌を広げる。
今、十月下旬。来月には志望校の調査がある。ノゾムは公立高校に進学するつもりだ。滑り止めに私立高を一校、併願優遇制度というのを利用して受験する予定。
第一志望は、姉が通う面洲高校。何しろ家から近い。ところが、十月の模試の結果では、ノゾムは合格のボーダーラインギリギリのところにいた。多分合格するが、来年二月の入試の点数次第では不合格もあり得るらしい。
「ふーん。あんたもこんな雑誌読むこと、あるんだ」
不意に肩口で声がした。ギクッとして振り返る。
姉だった。無表情に雑誌を覗き込んでいる。
長い髪が前に垂れ落ちてきて、肩をくすぐった。シャンプーの残り香が漂う。
「ね、姉ちゃん! いつの間に……。ノックくらいしてくれよ」
「したわよ。あんたに聞こえないくらいにそっとね」
「意味ないだろ、それ」
「あんたが万一勉強してたら、邪魔しちゃ悪いなと思ったの」
「……。いいけど、何か用?」
「あんた、絶対面洲高校に入りなさいよ」
「俺もそうしたいけど、どうやら俺、ボーダーラインギリギリみたいなんだ」
「ボーダーラインギリギリって、ボーダーラインの上? 下?」
「上」
「じゃ、入れるでしょ。志望校は面洲高校で提出しなさいよ」
「ああ……」
姉が表情を緩め、ニッコリ微笑んだ。
「入試の成績が心配なんでしょ? まかせて。わたしがこれから手取り足取り、教えてあげるわ」
「手取り足取り?」
「そう。手取り足取り」
「それはありがたいけど……」
「あんた、苦手科目は何?」
「国語と社会かな」
「それって、わたしの得意科目ね。まかせて」
姉は余裕で面洲高校に合格した。優等生らしく、全教科万遍なく成績優秀だ。
ノゾムは理系科目は得意だが、文系科目が苦手なのだ。人の心や社会の動きにさして関心が湧かないことと関係しているのかもしれない。
「けど、なんで面洲高校に行かなきゃいけないの?」
「決まってるでしょ。このあたりで一番の名門高校だからよ。何より、あんた、わたしと同じ学校に通いたくないの?」
「そりゃ通いたいけど……」
「あんたを守るには、同じ高校に入学させるのが一番。頑張って」
「はあ……」
「じゃ、寝るわよ」
「え?」
「明日、五時半起きよ。六時半に出るんだから。もう寝なきゃ」
「そうだな……。じゃ、おやすみ」
イスに座ったまま、目の前に立つ姉としばらく見つめ合う。姉は無表情のまま、動く気配がない。
「さあ、早く寝なさい」
「ああ、雑誌とか片付けて、トイレ行ってから寝るよ」
「そう。じゃあ、先に寝るわよ」
「うん。おやすみ」
姉が動いた。
ベッドの掛布団をめくり上げて、いそいそと中に潜り込んでいく。呆気に取られてその様子を見守る。
ベッドの中に横たわり、姉が顔をこちらに向けた。
「何してるの? 早くトイレに行っておいでよ」
「うん……。姉ちゃん、そこで寝るのか?」
「決まってるでしょ。わたし達、もう別々に寝る関係じゃないでしょ?」
「え……」
「てか、あんた、一人で寝たら、一人でするつもりでしょ。そんなの、矢舞家の家長にふさわしくない」
「そ、そうなのか」
「今後、やりたくなった時はわたしを相手におやりなさい」
「マ、マジで!?」
「当たり前でしょ? 絶対だからね。約束だよ」
「……。姉ちゃん!」
性欲が急激に高まり、無性にやりたくなった。姉に飛び掛かる。
「あっ! ノゾム! おトイレは!?」
「トイレなんか後でいいよ。姉ちゃんとやりたい!」
「もう、仕方ないなあ……。いいよ。好きにして」
姉に覆いかぶさり、首筋にしゃぶりつき、おっぱいを揉む。風呂上がりのフェミニンな芳香が、姉自身の清楚な匂いと混ざり合い、ノゾムの理性を吹き飛ばしていく。激しく姉の体を貪り始める。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。