シンポジウムでは昨年の学内議論の一部が明らかにされた。脅迫は昨年5月から始まっていたが、学内では教員にさえ事実が伏せられ、勝村さんが知ったのは9月。勝村さんらは「大学の自治と学問の自由を考える北星有志の会」を結成し、大学当局に全学公聴会の開催などを働きかけた。「日ごろはリベラルな教員が『非常勤講師(植村さん)の雇用は学問の自由の問題ではない』と発言した。評議会では2人しか植村さんの雇用継続を支持しなかった」(勝村さん)。現場の教員の腰が引ける中で、クリスチャンを中心に構成する学校法人の理事会が「頑張れ」と原則を貫く構図だったという。
学外理事の高橋一さん(会場から発言)は臨時理事会の場で幹部教員から「もし卒業式、入学式、オープンキャンパスで爆弾をしかけたという電話が一本あったら終わりですよ。あなたはどう考えるのか」と詰め寄られたという。
森さんが質問した。「植村さんにはこの際辞めてもらった方がいいと考える教職員は多いのか、少ないのか?」。勝村さんが答えた。「少なくとも(昨年は)多かったと思う。『困った人』と植村さんを表現する人もいた。いまでもそれなりにいると思う」
学生はどう動いたのか。宮崎さんは昨年11月、同じ社会福祉学を専攻する大学院生とともに4人で「北星・学問の自由と大学の自治のために行動する大学院生有志の会」を旗揚げ。きっかけは10月31日の田村信一学長の記者会見にあった。田村学長は植村さんの雇用契約を更新しない意向を表明。1.学生の間になぜ雇い続けるのかという声がある2.いまの学生には大学の自治とか学問の自由という言葉は届かない――ことを理由に挙げたと翌日の報道で知った。脅迫も報道で知らされた。学生をカヤの外に置きながら「学生のため」と物事を決めていく大学のパターナリズム(父権主義)に違和感を持った。「決定のプロセス、何が起きているのかを学生にも知らせ、議論してほしい」と学長に申し入れた。
宮崎さんが公開の場で発言するのは初めて。「植村さんが過去の記事を理由に脅迫され、解雇されるならば、私たちも研究の内容によって解雇されたりする恐れがある。学問の自由を脅かす重大なこと」。宮崎さんたちはそう考えた。社会福祉学の研究対象は差別や貧困、抑圧。「身近な人権侵害に沈黙する一方で、障害者の人権侵害や貧困は問題だ、と言えるのか。学問に対する知的誠実さを行動で示さなければならないと思った」
一方で、学部生たちの声は依然聞こえてこない。去年の学園祭時期、学園祭実行委員の学生が学長にこんな質問を浴びせたという。「自分たちが準備してきた学園祭が『爆弾をしかけた』という電話一本で吹き飛ぶことと植村さんのどちらが大切なのですか」。大学の昨年の決定は称賛を浴びたが、実際のところ、大学は学生に何を語ってきたのか。問題の本質を共有する対話はできているのか。そのような疑念を抱かせた。