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北星学園大学で再び焦点化 植村隆さんの雇用継続問題

 11月9日(月)15時59分配信

昨年、元朝日新聞記者の植村隆さんの雇用をめぐり大揺れとなった
北星学園大学。全国的な議論が起き、今年は雇用継続となったが、
さてこの秋、来年度の雇用をめぐって再び激しい議論が起きつつある。

 元朝日新聞記者で北星学園大学非常勤講師の植村隆さんが1991年、朝日新聞に書いた従軍慰安婦に関する記事をめぐり、植村さんと家族、北星学園大学が卑劣な脅迫にさらされた問題で、「許すな暴力」「私たちも北星だ」の呼びかけのもとに市民有志が結集した「負けるな北星!の会」(略称マケルナ会)が発足から1年を迎えた。この1年を振り返るシンポジウム「『北星問題』の意味するもの」が9月19日、大学がある札幌市内で開かれ、北星問題があぶり出した日本社会のゆがみなどについて議論が交わされた。
 支援の広がりを受けて大学は植村さんの2015年度の雇用を継続したが、来年度の雇用については「警備費がかさんでいる」などとして予断を許さない。北星問題への関心は海外にも広がっている中で、再びふらつき始めた大学に対し、ともに歩むための一層の取り組みが求められている。
 シンポジウムは市民約160人が参加。後半で森啓さん(NPO法人自治体政策研究所理事長)をコーディネーターに勝村務・北星学園大学准教授、神沼公三郎・北海道大学名誉教授、秋山孝二さん(札幌市民)、北星学園問題を米紙ニューヨーク・タイムズで大きく報道した元同紙東京支局長、マーティン・ファクラーさん、郷路征記弁護士、宮崎理さん(元北星学園大学大学院生)がパネリストを務めた。

植村さんの雇用見通しと 大学に漂う疲弊感

 現在は大学への攻撃はほぼ沈静化している。しかし、植村さんの来年度の雇用について、「大学の偉い人たちは『もう無理だよね』という感じになっている」。勝村さんはいまの大学に漂う雰囲気を明かした。大学が昨年12月に下した「雇用継続」の決定は理事長と学長の最終判断による。後押ししたのは大学の自治や学問の自由が暴力に屈してはならないという「社会的合意」だったという。大学への攻撃が沈静化し、「社会的合意」も揺るがない中で、なぜ大学はぶれるのか。「警備費の負担が年間3200万円にのぼっていることと疲弊だ」と勝村さんは解説。疲弊を理由に雇用を更新しなかった場合、「相手を疲弊させれば所期の目的を達成できるという誤ったメッセージを発信してしまう」と懸念を示した。
 この発言に神沼さんは「脅迫は少なくなったのに、疲れているというのは説得力がない」と疑問を投げかけた。「もう一回、北星を励ますべきだ。16年度は雇用しないとなると、去年の決定(の意義)が後退してしまう」と述べた。
 秋山さんは北星問題を当初は「元朝日記者というエリートにふりかかった問題」と冷めた感覚で受け止めた。市民の雰囲気にもそれを感じた。しかし、執拗な脅迫が植村さんの子供にまで及んでいることを知り、「一人の人間に対する社会のいびつな構図への憤りに父親、夫としての立場でたどりついた」と支援に加わった理由を述べた。そのうえで「植村さんの授業は人気があると聞いている。原点だろう。徹底して応援しなくてはと思う」と改めて決意を示した。
 他の大学が北星を支える関係を構築できていない問題点も浮き彫りになった。会場から発言した高橋一・北星学園理事(学外、元酪農学園大学教授・牧師)は「いまも恐怖感は続き、教職員の中に深い疲労感がおりのように漂っていると思う」と指摘。「道内のほかの大学からの支援はほとんどなかった。道外からは明治学院大学だけが強いサポートと署名活動をしてくれた」と振り返った。他大学が対岸の火事として傍観を決め込む姿について、知日派ジャーナリストのファクラーさんは「市民社会にとって非常にまずいことだ」と厳しく批判した。
 勝村さんは訴えた。「大学が社会の公器としてどうあるべきかという問題として、北星の頑張りの意義が学内外でいまいちど認識され、頑張れるように支援をいただかないと、頑張るのは難しい。支えていただきながら頑張りたい」
 植村さんの雇用を守る意味について、ファクラーさんは一つの問題提起をした。「北星に対する圧力は逆にみると、北星が日本の歴史に名前を残すチャンスだ。植村さんを正規雇用に変えてはどうか。完全に仲間に迎えて言論と学問の自由のために一緒に闘おうという北星の姿勢を見たい」。もしも圧力に負けたとき、学生に与える「負の教育効果」についても大学側に熟考を求めた。

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最終更新:11月9日(月)15時59分

創

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