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日大名誉教授が山口組幹部に借金

11月13日 17時8分

日本大学の名誉教授が指定暴力団山口組の元幹部から投資に充てる資金として2000万円を借り、今も返済していないことがNHKの取材で明らかになりました。さらにJOC=日本オリンピック委員会の当時の役員も、元幹部と面会していたことが分かりました。
学問やスポーツの世界で指導的な立場にある人たちと反社会的勢力の関わりが浮かび上がった今回の問題について、社会部の取材班が解説します。

名誉教授は法廷で“2000万円借金”明言

今回の問題は、金銭トラブルを巡って、山口組のナンバー3だった元暴力団組長がおととし、さいたま地裁越谷支部に起こした民事裁判の中で明らかになりました。日本大学の77歳の名誉教授は去年8月、この裁判に元組長側の証人として出廷し、10年ほど前、海外での投資に充てる資金として、当時現役だった元組長から2000万円を借りたと証言していました。

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NHKが入手した裁判記録には、名誉教授が元組長から2000万円を借りた経緯などが詳しく書かれています。
去年8月に行われた証人尋問で名誉教授は『元組長からお金を借りたことはありますか』と弁護士から質問され、『あります。2000万円』と答えたうえで、「海外の案件なんです。お借りしてその経費として使わせていただいた」と述べ、投資目的の借金だったとしています。
また、借りた時期について、裁判官から『10年以上前ですか』と尋ねられると『そのくらいになります』と答え、返済については『まだ具体的に始まっているわけではない』と述べて、全く返済しないまま借り続けていることを明らかにしました。
さらに、借用書について『私から進んでお金を借りる以上、いくら友人の間でもきちんとしておきたいと申し上げみずから書きました』と説明していました。
裁判記録では、元組長が裁判の原因になった別の投資話を知人に持ちかけられた場に、名誉教授が同席していたとされ、この理由について元組長は法廷で『私より知識が高いと思っているから。名誉教授の肩書きから言ってもそうなので立ち会ってもらった』と証言していました。

貸したのは山口組のナンバー3

名誉教授に2000万円を貸していたのは、西日本に本部を置く山口組系暴力団の初代の組長で、現在82歳です。
関係者によりますと、現役当時は資金力が強く、企業経営者などを集めて不動産取引や投資話の会合を頻繁に開く「経済ヤクザ」として知られた存在だということです。
また警察関係者によりますと、山口組の組織内では5代目組長の時代に「中四国・九州ブロック長」を、平成17年に6代目組長の体制になって以降は「組長」「若頭」に次ぐナンバー3の「顧問」を務め、3年前、高齢を理由に引退しました。

名誉教授「すべて悪いはおかしい」

名誉教授は今回の問題が明らかになるまで、大学院法学研究科で英米法などの授業を担当する非常勤講師でした。
NHKの取材に対し、金を借りた相手が山口組の幹部だと認識していたとしたうえで、「日頃からつきあいがあり、軽い気持ちで借りた。これまで返済を求められていないので借りたままだが、そのうち返すつもりだ。反社会的勢力だからすべてが悪いというのはおかしいと思う」と説明していました。

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日本大学は名誉教授を解雇

今回の問題が明らかになった今月9日の夕方、日本大学は緊急の記者会見を開きました。この中で池村正道法学部長は、今月に入りNHKの取材で初めて事実を把握したとしたうえで、「教育機関の立場として、反社会的勢力とつきあいがあったことが分かったことは、あってはならないことで大変残念だ」と述べました。
そして翌日には、本人から元組長との関係や資金を借りた経緯などについて聞き取ったうえで、「大学の名誉を傷つけた」として、大学院法学研究科での非常勤講師の契約を打ち切り、解雇しました。

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大学側に対して名誉教授は、現職の法学部教授だった10年前と8年前に1000万円ずつ借り入れたと説明し、「元組長とは知り合った直後に反社会的勢力に属している人物だと認識したが、つきあいを続けてしまった。大学と学生に大変な迷惑をかけてしまい、深く反省するとともに自分の脇が甘かったことを後悔している」と述べたということです。
日本大学は「学内で、これまで以上に反社会的勢力との関わりが不適切だとの認識を徹底し、再発防止に努める」とコメントしています。

JOC元役員も元幹部と面会

民事裁判の記録からは、元組長とスポーツ界の関係者とのつながりも明らかになりました。名誉教授が裁判所に提出した手書きのメモには、7年前の平成20年5月、名誉教授が当時現役だった組長と会食した際に、JOCの当時の役員も別の用件で元組長と面会していたことを示す記述があったのです。

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メモには、元組長や名誉教授など投資話の相談をするために集まった7人とJOCの元役員ら2人が合流して、料理店やクラブで飲食したと書かれています。
JOCの元役員は取材に対し、面会したことを認めたうえで、「指導しているスポーツ選手などが繁華街などで暴力団員とトラブルになるのを避けるため、あいさつに行った。飲食をしたかどうかは覚えていない。それ以来、元組長とは会っていない」と説明しています。
このほかにも、この裁判の証人尋問の記録には、元組長と国内のスポーツ団体で顧問を務めていた男性が、たびたび会っていたとする複数の証言も記載されていました。元顧問の男性は取材に対し、「元組長とは古くからの知り合いだが、団体の業務に関するつきあいはない」としています。

「力の誇示に利用されるおそれ」

今回の一連の問題に、日本弁護士連合会で民事介入暴力対策委員会の委員長を務める河野憲壮弁護士は強い懸念を示しています。
名誉教授の借金問題については、「常識として、教育者の立場にある人が暴力団と特別な利害を持つ関係に入ってしまうのは批判されるべきだ。暴力団排除条例も、教育者が青少年に教える立場にありながら関係を持つことは、そもそも想定すらしていない。教育者が暴力団関係者と交際してはいけないことは当然の前提となっている」と話しています。
またJOCの元役員が「トラブルを避けるため、あいさつに行った」と説明していることについて「会うこと自体が適切な行為でなく、なぜ頭を下げたのか、それまでどういう関係があったのか。自分の行為が社会から見てどういう評価を受けるのか分からないようでは、役員になってはいけない」と批判しています。
そのうえで、「暴力団がみずからの利益を追求する方法は、『威力』や『威信』を彼らの道具として維持し、それを誇示することだ。その点で『有名人や大学教授ともおれはつきあいがあるんだ』というように、力の誇示に使われてしまう」と指摘しています。

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今回の問題を受け、名誉教授は非常勤講師を解雇されただけでなく、20年以上務めていた、総務省から委嘱を受けて国の機関に対する苦情や相談を住民から受け付ける「行政相談委員」も解嘱されました。
JOCの元役員についても、JOCが本人に聞き取りを行うなど経緯の確認を始めています。

近年、警察による暴力団員の犯罪行為の摘発だけでなく、企業や市民も暴力団関係者との関わりを絶つことで社会全体で暴力団を排除しようという動きが強まっています。
大学生やスポーツ選手を指導する立場の人たちが、暴力団と関わりを持っていたことを明らかにした今回の取材では、暴力団問題の根深さを再認識するとともに、安易に反社会的勢力に近づくような行為には厳しい姿勢で臨む必要があると感じました。


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