旭化成建材が過去10年で手がけた3040件の杭打ち工事のうち、少なくとも266件でデータの偽装があった。同社がきのう、発表した。

 不正が発覚してから1カ月。問題の規模が広がるにつれ、建設業界そのものの信頼が問われる事態になっている。この際、業界の病根を解明すべきだ。

 横浜市のマンションでの不正が明らかになった10月、旭化成建材の幹部は、工事の現場責任者について「ルーズな感じがした」と、原因が個人の資質にあるかのように話していた。

 しかし、偽装はこの人物に限らず、なかば常態化していたことがわかった。同様の不正をした人数は50人以上にのぼる。

 杭打ちのデータを記録し損ない、重い覚悟で偽装したというよりも、「気軽にデータをコピーする感じ」と関係者は言う。それだけに事態は深刻だ。

 問題の50人以上の大半は、旭化成建材に出向していた別会社の従業員で、様々な会社の現場を渡り歩いていた。となれば今回の266件は氷山の一角で、他社でも偽装があったのではと考えるのが自然だろう。

 また、大手のジャパンパイルが一部の杭工事でデータを流用していたことも明らかになった。自治体レベルでは、他社の工事にも広げて調べる動きが出ている。国交省が率先して業界全体の調査に乗り出すべきだ。

 不正が判明した物件については、安全かどうかの確認が急務だ。杭の状態を見極め、建物全体の判定が必要だろう。

 ただ、特にマンションでは、調査作業で住民の生活に影響がでかねない。住民同士で意見が割れることもあろう。販売業者や元請けは、住民に丁寧に説明しながら進めるべきだ。

 問題の背景として、ゼネコンなど元請けの「現場力」の低下も指摘されている。コスト削減で、現場に常駐する元請け社員が減り、一人あたりの仕事は増えた。現場監督なのにデスク仕事に追われ、工事を見極める力が弱まった。その結果、下請けまかせになり、基本的な工事でもヒヤリとすることが少なくない、と専門家は言う。

 実際、横浜の件の元請けである三井住友建設は、多くの杭打ち工事に立ち会っていなかった。同社は「管理に落ち度はなかった」というが、ではどこに問題があったか検証すべきだ。

 元請けには現場を管理し、何よりも安全を優先する責任がある。「現場力」の向上には何が必要か。国、自治体、業界は、識者の意見も聴いて早急に改善策を練ってほしい。