それにひきかえ、韓国には何があるだろうか。金学順(キム・ハクスン)さん(1924-97年)が慰安婦として強制徴用されたことを初めて告白したのが1991年のことだった。それ以降も生存者の証言が相次ぎ、資料が発見されたことから、慰安婦問題はあらゆる人権侵害の惨劇が溶け込む「悲劇のるつぼ」となった。ところが、あきれたことに文化界の主流を担う人々はこの悲惨な歴史を無視している。韓国にはなぜ『シンドラーのリスト』や『金陵十三釵』がないのか。数多くの映画監督やプロデューサー、高尚ぶっている文化権力者たちは何しているのだろうか。
「慰安婦をテーマにした韓国映画『鬼郷』がまもなく世に出る」といううれしいニュースがあった。この映画を作ったのはチョ・ジョンレ氏(43)という新進監督だ。チョ監督がこの映画を構想・企画したのは13年前のことだ。元慰安婦の姜日出(カン・イルチュル)さん(88)が描いた「焼かれる少女たち」という絵に衝撃を受けて脚本を書いたそうだ。
だが、投資者は見つからなかった。映画制作会社や企業・機関を訪ね歩いたが、ことごとく断られた。結局、一般の人々に募金を呼びかけ、約4万5000人から6億ウォン(約6300万円)を集めて撮影が可能になった。中国の南京虐殺映画は世界最高の巨匠が大金を使って作ったが、韓国の慰安婦映画は無名の監督が借金に頭を痛めながら作ったのだ。
制作費の不足分は出演者やスタッフが無償協力という形で補った。舞台女優ソン・スクをはじめとする助演俳優たちは時間を割いてノーギャラで出演した。悪戦苦闘の末、やっとクランクアップしたが、今度は上映館が見つからないという事態に陥った。もうからない慰安婦映画を喜んで上映する配給会社はなかった。