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【かすむ航路~公明党結党50年】番外編
「見解」批判恐れ、固唾のむ支持団体(2014.5.25 )
集団的自衛権の行使容認に関する自民、公明両党の与党協議がキックオフを3日後に控えた17日未明。眠りにつこうとしていた公明党関係者の携帯電話が突然、着信を知らせた。
「どうなってんだ、聞いているのか!」
電話の主は公明党の支持母体、創価学会の副会長。学会広報室が朝日新聞の求めに応じ、集団的自衛権の行使容認に「反対する」との見解文書を出し、それが朝日の17日付朝刊に掲載されるという知らせだった。
党関係者も寝耳に水の話で、「そんなの知らない。そっちこそ、どうなっているんだ」と言い返した。
「見解」をめぐる学会内の騒ぎはすでに大きくなっていた。
学会広報室は、見解を載せた朝日新聞に「一般論としての回答で、そういう(反対表明の)趣旨で回答していない」と抗議した。
一方で、学会会長の原田稔ら首脳は、各地方を統括する地方代表の「方面長」たちに電話で「あの見解は学会(全体)の方針ではない」と“釈明”に回った。方面長は各都道府県を統括する「総県長」らに“釈明”を伝えるという「伝言ゲームに発展した」(学会幹部)という。
■悪夢の国会招致
会社の広報部が発表する見解は本来、その社を代表したものとみなされる。にもかかわらず、学会首脳部が「広報室独自の見解」にしようとしたのは、20日から始まる与党協議への影響を懸念したためだ。特に、学会と公明党の双方が最も懸念したのは、今回の見解をきっかけに「いわれのない政教一致の批判が起きるかもしれない」(党幹部)ことだった。
昭和45年、創価学会会長、池田大作は学会と公明党の組織上の「明確な分離」を宣言し、公明党の人事、財政、政策には関与しないという原則を決めた。しかし、学会はその後も、党に対して強力な支援を続けている。このため、政局の節目ごとに「学会と公明党は、単なる支持団体と党の関係ではない」(民主党幹部)と指摘される。
学会と政治との関係が注目を集めたのは、最近では自民党が初めて下野した平成5年からの数年間だ。
6年には自民党組織広報本部長、亀井静香ら同党有志議員が「憲法20条を考える会」、同党の肝いりで創価学会に批判的な識者や宗教関係者らが「四月会」を相次いで発足、憲法20条の「政教分離」をもとに「宗教団体が政治を操ろうとしている」などと猛烈な学会批判キャンペーンを始めた。同年12月には、二大政党制を目指す新進党が結成され、公明党議員のほとんどが合流した。
四月会の仕掛け人たちは、新進党の最大の集票マシンとなった学会を揺さぶり、新進党から学会を引きはがすことを狙った。自民党機関紙「自由新報」などで学会幹部の個人攻撃(のちに撤回)を行い、国会でも学会攻撃を繰り広げた。
自民党幹部らは、宗教団体の政治活動に対する法規制や、20条の政教分離規定の解釈変更、宗教法人に対する税制の見直しなどさまざまな規制を検討した。
極めつきは、宗教法人法の改正をからめて学会名誉会長の池田を国会に招致することだった。元公明党書記長で新進党幹事長代理、市川雄一らを中心に必死の抵抗を続けたが、7年12月の参院宗教法人特別委員会に、会長の秋谷栄之助が参考人招致された。
学会幹部の一人は「本当に大変で、悪夢のような時期だった」と語る。
■与党協議「傍観者」
宗教団体である創価学会が集団的自衛権行使容認に「反対」の方針を打ち出し、公明党が追随するのではないかという批判は回避しなければいけない。
「見解」の真意をめぐって学会幹部が国会に招致される事態も回避するため、「学会ではなく、『広報室』の見解にとどめた」と解説する学会関係者もいる。
だが、一般の学会員の間では「見解」を歓迎する声が大半だ。「平和の党」を掲げる公明党が、首相、安倍晋三や自民党の「ブレーキ役」を果たすことへの期待は大きい。仮に、公明党が政府・自民党に大きく譲歩した格好で限定的な集団的自衛権の行使を容認した場合、反対すると信じる学会員は失望する。党の学会への説得は困難を極める。
来春には統一地方選が控える。公明党は毎回、国政選挙なみの力を注ぎ、全員当選の「完勝」を目指すが、別の党関係者は「集団的自衛権の行使を容認すれば、選挙の実動部隊である学会の動きは確実に鈍る」と気をもむ。政調会長代理の上田勇は18日のBS-TBS番組で、行使容認について「長年積み上げてきたものを大きく変えるのは、簡単な手続きでやるべきではない」と明言した。
与党協議への影響を懸念する官房長官、菅義偉(すが・よしひで)は19日の記者会見で、学会広報室の見解に関し「影響はない。与党間で真摯(しんし)に話し合えば一致点を見いだせる」と述べ、幕引きを急いだ。
小渕恵三政権で公明党の政権入りを主導し、今は安倍の集団的自衛権行使容認に反対の立場をとる元官房長官、野中広務は、23日のTBS番組収録で学会広報室の見解について、学会と公明党との関係を踏まえてこう指弾した。
「政教分離と言いながら、特に憲法について発言したのは非常に問題だ」
自民、公明両党は27日の与党協議で、政府が提示する「グレーゾーン事態」など15前後の事例をもとに見直しの可否など具体的な議論を本格化させる。学会は、表向きは「党対党の話」として与党協議について「傍観者」に徹し、固唾をのむしかなさそうだ。=敬称略。肩書は当時
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