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【社説】

名張・死後再審 まだ、目は閉ざせない

 迷走した司法判断の末に死刑囚を獄死させた名張毒ぶどう酒事件は、異例の手続きとなる死後再審の可否が問われることになった。疑問の数々に目をつぶってしまうわけにはいかないのである。

 無実を訴え続けた奥西勝元死刑囚が先月、八十九歳で獄死するまでの長い年月の間に、司法の判断は二転三転した。

 一九六四年の一審津地裁判決は無罪。第五次再審請求では、逆転死刑判決の根拠とされた歯形鑑定の信用性が崩れた。第七次請求では二〇〇五年、一度は名古屋高裁が再審開始を決定した。

 司法判断の迷走は有罪判決を支える証拠のもろさを示し、冤罪(えんざい)の疑いは深まりこそすれ、消えることはなかった。三審制のルールに基づいて確定した死刑判決ではあったが、これでは、とても執行命令は出せまい。

 結果として、確定判決という重さの前に司法が身動きできなくなってしまい、意地の悪い言い方をすれば、タイムアップを待っていたようにも見える。一連の経過は残念ながら、司法の権威に傷をつけてしまったのではないか。

 元死刑囚の死亡を理由に第九次再審請求の審理は打ち切られ、あらためて妹の岡美代子さん(85)が第十次となる再審請求を名古屋高裁に申し立てた。

 再審自体が例外的な手続きとされ、死後再審ともなれば例外中の例外ということになる。だが、一九五三年に起きた徳島ラジオ商殺人事件で、懲役刑が確定した受刑者の死後、遺族の請求で再審が認められ、無罪判決が出された例もある。極めて困難な道だが、挑戦する意味は大いにあるだろう。

 近年の再審事件では、DNA鑑定が新証拠となって確定判決が覆ることが多いが、あいにく名張の事件の証拠には、DNA鑑定の対象となるものは見当たらない。

 数多く残ったままの疑問を検討するのに必要なものは、むしろ、検察側の手元にある数々の未提出証拠だろう。再審無罪となった東京電力女性社員殺害事件や静岡地裁が再審開始を決定した袴田事件では、検察側が未提出証拠の開示に応じ、冤罪の疑いが深まる大きな要因となった。

 証拠の評価に市民感覚を反映させようという裁判員裁判の時代を迎え、冤罪の疑いがぬぐえぬままの名張の事件で旧来の流儀にこだわる理由はなかろう。司法への信頼を守るためにも、裁判所と検察庁には、未提出証拠の開示を含めて積極的な対応を求めたい。

 

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