ミャンマーの総選挙で野党・国民民主連盟(NLD)が勝利した。与党・連邦団結発展党(USDP)の党首でもあるテインセイン大統領は平穏な政権移譲を約束した。

 軍事政権下で自由を求めて闘った人たちにとって歴史的な勝利であり、アジアの民主主義にとっても重要な節目である。

 上下両院664議席のうち憲法に基づく軍人枠などを除く491議席を争った。NLDは3分の2超を得て議会の過半数を制し、政権交代が実現する。

 投票は紛争地の7選挙区で実施されず、少数派イスラム教徒ロヒンギャの参加は拒まれた。有権者名簿に不備もあった。

 それでも投開票はおおむね公正に行われた。内外の監視団約1万2千人の存在は大きかった。国際社会の関心が自由な選挙の実現に役立ったといえる。

 各投票所には早朝の開場前から長い列ができ、一票にかける人々の思いや熱気が伝わった。

 政策はほとんど論争にならず、体制選択が争点だった。

 国民は変化を熱望し、NLDのアウンサンスーチー党首への期待、軍政とそれを引き継いだUSDPへの嫌悪を示した。

 来年1月末に招集される新国会で大統領が選出され、3月末に新政権が誕生する。軍と与党は、大統領が言うように着実な政権移譲を行わねばならない。

 外国籍の息子を持つスーチー氏は、軍政の制定した憲法の規定で大統領になれない。

 このためスーチー氏は「大統領の上にたって国政を運営する」というが、権力の二重構造は民主的に機能するか、行政経験のない党員が官僚を使いこなせるかといった疑問は残る。

 NLDには、政府・党運営の透明性と、旧体制に属した人も含む外部の人材を積極登用する柔軟性を期待したい。開放的な経済政策も継続して欲しい。

 難題が目白押しだ。現政権が進めた少数民族との停戦交渉、多数派仏教徒とイスラム教徒ら宗教的少数者の対立の解消などは一筋縄ではいかない。

 さらに憲法改正にどう取り組むか。国会の軍人枠に加え、軍が国防、内務、国境の各大臣を指名する。非常事態には軍が全権を握る。こうした規定が続く限り民主化は進まないが、改正は憲法上、軍の同意が必要だ。

 政権運営は綱渡りが予想され、軍の協力は欠かせない。だが民主化に踏み出さなければ、国民や国際社会の失望を招く。

 日本を含む国際社会は民主化への支援を惜しんではならず、一方で状況を慎重に見守る忍耐も必要となるだろう。