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朴大統領が慰安婦問題にそこまでこだわる理由

武藤正敏 前・在韓国特命全権大使

武藤正敏 [前・在韓国特命全権大使]
2015年11月12日
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 マスコミの対日の論調も大統領の発言で前向きになります。安倍総理の戦後70年談話が出たとき、マスコミは反省とおわびへの言及は間接的と批判しました。しかし、朴大統領が「物足りない部分はあるが、歴代内閣の立場が揺るぎないとはっきり明らかにした点に注目」と述べると、マスコミも「朴大統領は未来志向で対応」と評価しました。韓国社会に日韓関係を改善したいとの思いはあっても、自分たちからは言い出せないのです。しかし、大統領が言い出せば別です。

 朴大統領は、慰安婦問題の解決が首脳会談の前提との立場を取ってきました。しかし、首脳が反目し合っているときに、下のレベルでいくら協議しても解決策など出せるものではありません。首脳会合で「国交正常化50周年を念頭に、早期妥結を目指して交渉を加速化させる方針で一致」したことで初めて交渉できる環境になったと思います。

なぜ首脳会議が開かれたか
韓国側の事情とは

 韓国側が首脳会談を開かなければと考えるようになったのにはいくつかの要因がありますが、一言でいえば韓国が周辺国の変化に取り残されると考えたことにあります。

 第一に、日中首脳会談が2回開かれたこと。韓国は中国と歴史問題で共同戦線を張ってきましたが、中国が抜け駆けした。

 第二に安倍総理の訪米で日米関係が蜜月となったこと。朴大統領の外交ラインは日韓の不和の原因が安倍政権の歴史歪曲にあるとして、米国が乗り出して正すことを期待していましたが、米国の政治家が歴史問題に対する言及が不十分な安倍総理の議会演説も評価しているのに衝撃を受けたと言われます。しかし、私にはむしろ集団的自衛権の行使に踏み込み、日米ガイドラインを改定し、AIIBでも米国と歩調を合わせる安倍政権を、米国が当然評価することを、韓国がなぜ理解できないのか不思議です。

 第三に、その米国から日韓関係を改善するよう促されていること。米国は東アジアの平和と安全の確保のためには日米韓の連携が重要であることを再三指摘しています。

 第四に、TPPが大筋合意したこと。韓国国内でも政府の対応の遅れに批判が集まっています。

 第五に、韓国にとって日韓首脳会談は慰安婦問題の見通しが立たない状況下では負担が大きいのですが、日中韓首脳会談のホスト国としてこれを主催しておきながら、日韓だけ首脳会談を行わないというのは、国際的常識からあり得ず、政府としても格好がつかないこと。

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武藤正敏 [前・在韓国特命全権大使]

むとう・まさとし 1948年生まれ、1972年横浜国立大学経済学部卒業。同年、外務省入省。在ホノルル総領事(2002年)、在クウェート特命全権大使(07年)を経て10年より在大韓民国特命全権大使。12年に退任。著書に「日韓対立の真相」(悟空出版)。


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