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朴大統領が慰安婦問題にそこまでこだわる理由

武藤正敏 前・在韓国特命全権大使

武藤正敏 [前・在韓国特命全権大使]
2015年11月12日
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頑迷さの陰にある過酷な人生経験
だが日韓関係の悪化を父はどう思うのか

 これまで首脳会談が開かれなかったのは、慰安婦問題のためです。なぜそこまでこだわるのでしょうか。

 朴大統領は、原理原則を重視する人物であり、人のいうことも聞かない、と言われます。それには、朴大統領のこれまでの人生経験が反映されていると思います。

 朴正熙元大統領が暗殺された直後の朴槿恵嬢の第一声は、「38度線は大丈夫ですか」だったと言われています。22歳で母親が暗殺され、その5年後に父も殺されて、自分たち兄弟の行く末に暗雲が垂れ込めている最も悲しい瞬間に、真っ先に国家を思っていたわけです。

 母を失ってからはファーストレディの代行を務め、「国母」と言われた母の行動を範としてきました。その頃から国を強く思う訓練ができていたのでしょう。しかし、父親の国葬が終わってからは、父が可愛がっていた部下から見放され、不遇な隠遁生活を送ることになりました。そうした過去が、部下に対して“自分が一番国を思っているのだから、私の言うことを聞きなさい”という対応になるのだと思います。

 朴大統領が隠遁生活を終え、再び社会活動を始めた目的は、尊敬する偉大な父の業績を再検証することでした。朴正熙氏は、現在では韓国発展の基礎を築いたとして歴代大統領の中で最も人気が高い大統領です。しかし、執権当時は独裁者として多くの政敵がいました。

 そして、日本との関係では、国内の強い反対を押し切り、歴史問題をきちんと整理しないまま、国交を正常化したことに批判が集まっています。その目的は、日本の協力を得て、国を発展させることでしたが、現在の韓国では、国交正常化後の日本の協力はほとんど知られていません。父親をこよなく尊敬する大統領としては、父が批判されていることを自分が代わってやらなければと考えても不思議はありません。加えて元慰安婦の平均年齢は90歳になり、早く解決するためには、通常の交渉ではらちが明かないと考えたのでしょう。

 ただ、朴大統領の父は今の日韓関係をどのように見ているでしょうか。元大統領は日韓国交正常化を成し遂げ、それを基盤に韓国の発展の基礎を整えた人です。日韓関係がぎくしゃくした今の状況を最も残念に思っておられるのは、父・朴正熙元大統領でしょう。

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武藤正敏 [前・在韓国特命全権大使]

むとう・まさとし 1948年生まれ、1972年横浜国立大学経済学部卒業。同年、外務省入省。在ホノルル総領事(2002年)、在クウェート特命全権大使(07年)を経て10年より在大韓民国特命全権大使。12年に退任。著書に「日韓対立の真相」(悟空出版)。


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