プロフェッショナル 仕事の流儀「和牛の神様、愛情の牛〜肉牛農家・鎌田秀利〜」 2015.11.09


2番ふくとみ。
脅威の粘りでサヨナラ勝ちの日本生命。
都市対抗野球に続いて頂点に立ち、史上3チーム目の2大タイトル制覇です。
食の芸術品と称される「和牛」。
中でも日本最高峰とされるブランド牛肉がある。
5年に一度日本一を決める品評会で史上初の2連覇を成し遂げた。
その躍進の立て役者は宮崎県の南端にいる。
ねじり鉢巻き30年。
この男牛と会話ができる。
「和牛の神様」と呼ばれる男。
独自に配合したエサと徹底的な栄養管理で日本一の肉質を生み出す。
愛情の数でこの仕事は決まる。

(主題歌)暑いなあハハ。
繁殖から飼育までピカイチの技術を持つ鎌田。
育てた牛の評価は桁違いだ。
(拍手)5年前宮崎を襲った口蹄疫。
異常気象に見舞われた夏。
子牛たちに異変が!その時迎えた予期せぬ難産。
日本の食を担う現場がここにある。
「この仕事は大変だよ」と事前に言われていた。
朝6時から深夜までとにかく一日中歩き回るという。
普通なら1年はもつ長靴を鎌田は僅か2か月ほどで履き潰す。
鎌田が飼っているのは黒毛和牛200頭余り。
多くの肉牛農家は買ってきた子牛を育て出荷するが鎌田は繁殖から飼育まで一貫して行う。
全国でも珍しいこの農法にこだわるのは生まれたての頃から目をかけないと良い牛に育たないと信じているからだ。
牛は極めてデリケートでちょっとした環境の変化でもすぐに体調を崩してしまう。
そのため鎌田は牛たちにとって最適な環境作りを追求する。
温度や湿度が気になればこうして牛舎の周りの木の枝を切る。
においも重要な要素だ。
寝床の掃除も古いおがくずをあえて少しだけ残しにおいを変えないように注意する。
和牛の神様鎌田。
牛飼いの極意はこれだけではない。
この日見回りをしていた鎌田が足を止めた。
生後間もない子牛が下痢をしていた。
すぐに薬を作り始めた。
作ったのは子牛のものではなくなぜか母牛に飲ませる薬。
便の色から母牛の体調不良が子牛に影響を与えていると読んだ。
見えないものを見るためどれだけ牛の気持ちになりきれるか。
その姿勢は徹底している。
鎌田は日中ほとんど食事をとらずガムをかむ。
鎌田の言うとおり体調を崩していた子牛は翌日元気になっていた。
鎌田さんが育てた牛は生後およそ30か月2年半で加工場に送られる。
鎌田さんは手がけた肉の仕上がりを必ず確かめる。
これが鎌田さんの霜降り肉。
きめ細かな脂肪が詰まった肉は通常の5倍もの値で取り引きされる。
鎌田さんをはじめ多くの日本の農家がこの脂肪を入れる技術を長年追求してきた。
霜降り肉は海外の牛肉との差別化を図るために発展させた日本オリジナルのもの。
和食ブームの今世界各地で人気を博している。
輸出額はこの10年で15倍に拡大。
霜降り肉は農家の未来にとって大きな可能性を秘めている。
世界に誇る霜降り肉を生み出す鎌田。
その真骨頂は常識破りの栄養管理にある。
牛は餌を与え太らせるだけでは質の良い霜降りにはならない。
きめ細かな脂肪を入れるにはビタミン量の調節が鍵になる。
牛は体内のビタミンが減るにつれ蓄える脂肪の量が増えていく。
そのため肉牛農家は牛の成長に合わせてビタミン量を減らし脂肪を入れていく。
しかし減らしすぎると体調を崩してしまう。
ビタミンを減らしながら育て上げるのは至難の業だ。
だが鎌田は一般の農家の半分以下までビタミン量を減らす事ができる。
他の農家から「神業」と言われる鎌田の栄養管理。
それを実現する一つの流儀がある。
鎌田は決して無理に餌を食べさせる事はしない。
5キロ4キロと毎日一頭ごとに調子を見て餌の量を変えていく。
その上で成長に応じて餌を独自にブレンドする。
このほかにも海藻や大豆米ぬかなど10種類以上を使い分ける。
更に一般的には朝夕2回の餌やりを鎌田は4回に小分けして行う。
手間は倍かかるが胃に負担をかけさせないよう心掛けている。
この日4回目の餌やりを終えたのは10時過ぎだった。
ここにきてようやくこの仕事の大変さが分かってきた。
一日を終える前鎌田は一つの事を自らに問いかける。
365日妥協なく努力し尽くす。
それが鎌田の日常だ。
鎌田さんは3人の男の子のお父さん。
妻幸美さんと共にこの農場を運営している。
忙しいながらも平穏な日々。
しかしほんの5年前はそうではなかった。
口蹄疫が宮崎を襲った。
あの時の事を語ってくれた。
29万頭もの家畜が殺処分された口蹄疫の悲劇。
あの日を境に鎌田さんも変わった。
「肉牛農家はもうかる」。
その言葉で鎌田さんの人生は決まった。
24歳の時地元の農場に就職。
負けず嫌いな性格から朝誰よりも早く牛舎に入り600頭の牛と向き合った。
少しでも利益を出そうと牛を早く太らせる事に躍起になった。
ひたすら餌を与え続けた。
出荷した牛の8割を最高レベルに近い4等級以上に仕上げノルマの倍を売り上げた。
そして40歳の時1億円の融資を受けて独立。
結婚し子供も生まれた。
しかし間もなく壁にぶつかった。
いくら餌を与えても思うように牛たちが食べない。
牛の血液や水質などを必死に調べたが原因は分からない。
質の良い霜降り肉を作れなくなり売り上げは低迷した。
そのさなかあの事件が起きた。
口蹄疫が発生。
感染の可能性のある家畜は全て殺処分された。
鎌田さんの農場がある地域は殺処分を免れたが想像を絶する牛たちの死に胸が張り裂けそうになった。
5か月後口蹄疫は終息したが次に待っていたのは風評被害。
1,000軒を超える肉牛農家が廃業。
産地復活のためには質の良い牛を作り信頼を取り戻すしかない。
でも鎌田さんの牛たちは思うように育ってくれない。
鎌田さんは決めた。
「とことん牛の立場で考える」。
一日何度も何度も牛を見て回った。
風通しはどうか。
日当たりはどうか。
一頭一頭餌の配合や量を変えた。
牧草も食べやすく短く切った。
それから2年。
鎌田さんの牛は国内最大の品評会で肉質日本一に輝いた。
牛の飼育に何が正解なのかは分からない。
でも結果は牛が教えてくれる。
その事を胸に鎌田さんは今日も牛舎を歩き続ける。
この夏は異常だった。
6月7月の降水量は例年の倍以上。
気温も高く牛舎は蒸し暑い状態が続いていた。
環境の変化に敏感な牛たち。
特に生後数か月の子牛にとってこの異常気象は命に関わる。
この道30年の鎌田。
かつてない厳しい夏を迎えた。
鎌田が異変に気付いた。
生後ひと月の子牛が立ち上がれずにいた。
すぐに獣医を呼んだ。
腸のねじれが疑われた。
筋肉を緩める薬と点滴を打ち様子を見る事にした。
それから2時間後の事だった。
突然の事だった。
子牛はそのまま息を引き取った。
原因は不明。
鎌田にとっても経験のない事だった。
だが事件はこれで終わらなかった。
3日後。
気がかりな牛がいた。
出産を控えていたが予定より1週間も早く産気づいている。
肉牛農家にとって出産という仕事は最も難しい。
特に夏場は母子共に著しく体力を消耗するため危険が伴う。
更に折からの異常気象。
出産には最悪ともいえる環境だった。
その日の夜。
しかし胎児を覆う膜は見えるもののなかなか産まれない。
鎌田はある可能性を考えていた。
子牛の体勢がおかしくどこかで引っ掛かっているのではないか。
鎌田が動いた。
自ら子牛を引き出す。
鎌田の予感は的中。
夜11時過ぎ。
一日がかりで難産を乗り越えた。
ところが間もなく。
41度の高熱。
母乳も出ていない。
このままでは子牛の命も危険だ。
鎌田は一つの賭けに出た。
強い解熱作用を持つ薬ステロイドを打つ。
ステロイドは免疫力も下げてしまうため産後はリスクが大きいが踏み切った。
ずっと見守り続ける鎌田。
2日後。
母牛の熱は何とか下がった。
しかしなぜか母乳が十分に出ない。
応急処置として粉ミルクを飲ませる。
子牛は拒んだ。
いっそ親から引き離し無理にでも人工的に育てる手はある。
だが母乳を欲しがる子牛。
母牛も懸命にそれに応えようとしている。
しかし水分と最低限の栄養は補給できたとしても長引けば子牛の発育に影響する。
今の自分に何ができるか。
鎌田は雨で汚れた床を掃除し始めた。
せめて母牛を少しでもリラックスさせたい。
生きようとする親子。
あえて手助けせずぎりぎりまで辛抱する。
出産から2週間が過ぎた。
母乳が出始めた。
子牛はそれを力強く飲んでいた。

(主題歌)鎌田はいつものように牛舎を回る。
この夏をそしてこれからも牛と共に生きていく。
プロフェッショナルなん…わしはそんなもんじゃないけどな。
まあ何やろね。
都合のいい妥協をしない事やろうね何事にもね。
一生牛と向き合わないかんからなわしらはな。
そこに妥協があったら失礼やろうで。
2015/11/09(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「和牛の神様、愛情の牛〜肉牛農家・鎌田秀利〜」[解][字]

5年に一度の「和牛オリンピック」の肉質部門で日本一に輝いた肉牛農家・鎌田秀利。芸術品と言われる霜降り肉を生み出す“和牛の神様”と牛たちが繰り広げる、命のドラマ。

詳細情報
番組内容
5年に一度の品評会「和牛オリンピック」で史上初の2連覇を成し遂げた宮崎牛。その立役者であり、肉質部門で日本一に選ばれたのが“和牛の神様”と呼ばれる肉牛農家・鎌田秀利(51)だ。きめ細かな霜降り肉は芸術品と言われ、通常の5倍もの値が付く。その秘密は、独自の栄養管理などの驚きの飼育法、牛の僅かな変化を見極める眼力、そして徹底して牛に寄り添う姿勢にある。日本の食を支える畜産の現場、命のドラマに密着する。
出演者
【出演】肉牛農家…鎌田秀利,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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日本語
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日本語(解説)
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