クローズアップ現代「日本酒ルネサンス〜人気の秘密に迫る〜」 2015.11.10


山田君、も、もう一杯どうだい?
部長、あしたがありますから。
俺の酒が飲めないの?
日本酒といえばおじさんの酒というイメージの方も多いかと思いますが…。
それは、今や昔話。

乾杯!
20代、30代の若者たちが新たなブームを作り出しています。

香り高く甘酸っぱい味や低アルコールの発泡タイプなど多彩な日本酒が次々と登場。
さらに、酒のお供も様変わり。
ラーメンあり、エスニックあり。

今夜は、進化を続ける日本酒の秘密とブームの背景に迫ります。

こんばんは。
クローズアップ現代です。
世界中でブームになっている日本食の大きな魅力の一つが日本酒です。
今、多様な消費者の好みに合う新たなお酒が次々と全国の酒蔵で生み出され、日本酒の魅力の幅が広がっています。
1600を超える酒蔵で造られる日本酒の数は1万種以上。
純米酒に大吟醸、濁り酒。
さらにはスパークリングから低アルコール。
きりっとした辛口だけではなく酸味や甘みのあるものなど味わいも多彩で個性的です。
魅力の広がりに伴い若者や女性のライフスタイルに日本酒が溶け込み始めていまして新たな市場の掘り起こしにつながっています。
大手グルメサイトが行ったアンケートでは、今後日本酒を飲む機会を増やしたいと答えた人の割合は20代、30代の男性そして20代の女性において特に高くなっています。
1970年代半ばごろから下がり始めた日本酒の出荷量。
ピーク時の3分の1にまで減り長らく冬の時代とされてきましたが、この3年ご覧のように純米酒、とりわけ付加価値の高い純米吟醸酒の出荷量が伸びています。
お酒を飲まなくなったといわれてきた若い世代を引き付けている日本酒。
独自性を打ち出した新しい日本酒の開発は観光や地域の活性化にも結び付くと期待されています。
日本酒はどんな変化を遂げているのか。
そして若者たちは、日本酒の何に引かれているのかご覧ください。

都内の病院で臨床検査技師をしている宮沢絵梨奈さんです。
休日の昼下がりに、職場の先輩と一緒に訪ねたのはお気に入りの居酒屋。
店の自慢は常時60種類以上という日本酒の品ぞろえです。
去年、日本酒の味に目覚めて以来すっかりとりことなった宮沢さん。
まだ味わったことのない日本酒を見つけるのが楽しみです。

この日まず勧められたのは…江戸時代から続く山形県の蔵が去年から限定800本で生産しているという純米大吟醸酒です。

甘いね。
おいしい。
初めて味わう香りにうっとり。

続いて出てきたのは鳥取県の蔵が、昔ながらの手法で手間をかけて造ったお酒。
瓶で3年寝かせた熟成酒です。
色からして、違うんですね。

爽やかな酸味から苦みや渋みまで。
その個性豊かな味わいが魅力だと宮沢さんは言います。

米と麹
(こうじ)、そして水を発酵させて造る日本酒。
なぜ今、これほど多彩な味わいが生まれているのでしょうか。
かつて日本酒には最高峰とされる一つの定説がありました。
YK35。
香り豊かな辛口の酒を生み出す方程式です。
Yとは、山田錦という酒米。
Kとは、熊本酵母。
そして35とは、精米の割合35%です。
ところが最近、この定説を破る動きが加速しています。
新たな酒米が登場し今ではおよそ100種類。
酵母も次々と開発され20種類以上。
そして、精米については…従来は米は磨けば磨くほどおいしい酒になると考えられうまみのもととなる部分を雑味として削ってきました。
しかし今、あえて削らないことで米の個性を生かす手法が広がっています。
こうした常識を覆す酒造りに挑むのは若き造り手たち。
みずから米作りに乗り出し独自のうまみを追求する蔵元。
新たな酵母を使って、酸味のある日本酒を模索する蔵元。
若い力が、これまでにない多彩な日本酒を次々と生み出しているのです。

いらっしゃいませ。

日本酒の進化に合わせて食べ方の定説を破る若者たちも増えています。
都内の大学に通う、北本幸夏さん。
最近、北本さんがはまっているという楽しみ方とは。

日本酒と食べ物との意外な組み合わせを見つけることです。

ご注文いただいたタンドリーチキンですね。
出てきたのはタンドリーチキン。
鶏肉を、ヨーグルトとさまざまな香辛料に漬け込み焼いたインド料理の定番です。
合わせるのは酸味が特徴の日本酒。
ぬるめのおかんにしてあります。
果たしてその相性は?
相性の秘密は日本酒に含まれた酸味。
味付けに使われたヨーグルトの酸味と調和しているといいます。

さらに、ラーメンにも。
合わせたのは、地元の米をほとんど削らずに仕込んだ独特なうまみのある日本酒。
フランス料理の鶏レバーのパテには濃厚で甘みのある熟成酒を合わせました。

こんにちは。

多彩で個性ある日本酒が生まれる中、こんな楽しみを見つけた若者も。
この日、寒川祐見さんが参加したのは、会社の先輩が企画した日本酒パーティー。
参加者は、自分の出身地の日本酒を持ち寄るのがルールです。

お互いに地酒をふるまいながら、お国自慢を披露します。
広島県出身の寒川さんも。

それぞれの風土や文化を語り合う。
それもまた、日本酒の魅力だと寒川さんは言います。

今夜のゲストは、東京農業大学醸造科学科教授の穂坂賢さんです。
日本酒の造り方を教えていらっしゃるということなんですが、本当にいろんな香り、いろんな味を持った新しい日本酒が登場して、皆さん、楽しんでらっしゃって。
私も飲みたく、ついなってしまったんですけれども、今、どんな状況ですか。
先生見てらして。
日本酒は、昔の日本酒っていうと、ちょっとですね、画一的なお酒で、線が細かったような、あるいは一つのものだったと思うんですけれども、最近、だんだんだんだんとバラエティーに富んでいて、味わいがある、あるいは香りがあるとか、そういうふうにすごく幅が広がってきたんではないかなと、私はちょっと思ってるんですよ。
そういう意味では、非常に酒の多様性というか、個性のある酒が増えてきた、それが今の酒の日本酒の様子じゃないかなと思ってますけど。
前はどちらかというと、画一化してたんですか?
以前は、お酒というのは、昔、特1級、2級があった時代は、本当に普通のお酒だったんですね。
それが合わせて吟醸酒が生まれるようになって、どんどんどんどん酒は香りと味わいがあったんですけれども、どうしても売れる酒になってきますと、普通のシンプルなものになっていったと思うんですね。
その点やっぱり、どんどんどんどんそれに合わせた酒造りがいったんですけれども、それではやっぱりもの足りなくなった時代があって、それで味と香りが膨らんできた、そのきっかけがたぶんうま口というか、そういうことばになって広がってきたんだと思います。
それで今、それがさらにきたという、まさに違う言い方すると、ビッグバンみたいな形で、なったんではないかなと思います。
そういうふうにはじけてきた、それが今の酒の多様性、またいろんな種類が出てきたきっかけだと思いますけど。
そのはじける、背景ですけれども、どういうことがきっかけで、造り手が意欲を持っていろんな可能性を追求するようになったんですか?
一つは、背景としては、たぶん杜氏制度があったと思うんですけど、その杜氏制度がやっぱり厳しくなってきた。
それで併せて、この業界が、酒の消費が、お酒の消費が下がってきた。
そのときに初めて、今の若い世代たちが蔵に戻ったときに、なんとかしなきゃいけないと、それでお酒造りを始めて、それで杜氏制度が崩壊するのと一緒に、自分たちがオーナー杜氏として頑張っていかなきゃいけなくなった、それがやはり新しい自分の酒造りに向かってったんだと思います。
前の杜氏制度だと、どうしても、オーナーさんに言われたものを造らなきゃいけないというところもあったと思いますんで、それが蔵元杜氏になったおかげで、オーナー杜氏になったおかげで、造りたいものができるようになったというところにあると思いますね。
米と水とこうじで、例えば脂っこい味に合うお酒が出来たり、もっとどうでしょうかね、エスニックに合うものが出来たりと、微妙にいろんなバリエーションが出来るものなんですか?
確かに、普通に考えたらば、できないように思いますけれども、今、お米の品種も多種多様にあって、山田錦に始まり、あるいは五百万石、美山錦、こまち、そのほかに亀の尾とかもありますし、各県でも奨励米あります。
それだけでも確かに違いますし、酵母も、今使われている酵母は、協会酵母があったり、あるいは県の酵母があったり、いろんな酵母があって、幅が広がっている、そういうのをかけ算しますと未知数ですよね。
それで合わせて水が違うという、そのためにも非常に未知数なものが出来ているといっても過言ではないでしょうかね。
さあ、多様な消費者のニーズに応えようと、地域を挙げて今、新しい日本酒造りに挑む産地があります。

先月30日。
山形で開かれた日本酒の試飲会です。
乾杯!
県内、40の蔵元が自信作を披露。
食事との組み合わせや年齢ごとの好みなど多様化する消費者のニーズを捉えるのがねらいです。
水戸部朝信さん。
100年以上の歴史を持つ蔵元の5代目です。
去年、常識破りの製造方法で日本酒を開発し大ヒット商品となりました。
日本酒にワインの醸造技術であるマロラクティック発酵を世界で初めて採用。
低アルコールでまろやかな酸味が効いた味を実現しました。
水戸部さんが家業を継いだのは15年前。
勤めていた東京の総合商社を辞め故郷に戻ってきました。
当時、日本酒業界は冬の時代。
消費が減り続ける中、蔵は赤字。
経営の危機に陥っていました。
水戸部さんはこれまでの酒造りを根本から見直します。
杜氏に一任していた製造を経営者みずからが行う蔵元杜氏に切り替え消費者が求める味を徹底的に追求することにしたのです。
最も力を入れたのは酒の味の土台となる米作りです。
以前は、酒米をほかの地域から仕入れていましたが自分たちの手で栽培。
その多くを地元の品種に切り替えました。
その土地ならではのよさを打ち出した戦略は功を奏し5年で黒字化が実現しました。

水戸部さんがこの日、訪ねたのは県の工業技術センターです。

失礼します。

去年のヒット商品はこの研究所と共同開発したものです。
今回、水戸部さんが新たな企画として持ち込んだのはデザートの写真です。

デザートに合う日本酒の開発。
その土台となるのはこの研究所が長年取り組んできた科学的な分析です。
県内すべての酒蔵から米や水の成分発酵の温度管理などのデータを集めおいしい酒造りの条件を数値化。
それをもとに米を選び数十種類の酵母の中から最適な組み合わせを絞り込んでいきます。

職人の技と科学的な分析を融合させる。
そこから、革新的な日本酒が生み出されています。
今のブームを、一過性のもので終わらせないために水戸部さんは新たな取り組みを始めています。
この日、集まったのは地元の30代から40代の若手蔵元6人。
門外不出だったそれぞれの技術を公開し共同でより質の高い日本酒を生み出そうというプロジェクトです。

今後は、日本酒造りの歴史や技術、そして地域の文化も含めて世界に発信していきたいと考えています。

山形では、造り手とそして山形県の工業技術センターが一体となって、新しいものを生み出そうとしている、どうご覧になられますか?
私は、工業技術センターを中心に物事考えるっていうのは、地方のものの考え方としては、非常にいいことだと思っています。
山形県自身も、たぶん、昔は工業技術センターが、積極的にやってたかどうか、ちょっと知りませんけれども、それをきっかけにして、今の出羽燦々を生んだとか、あるいは山形酵母を生んだとか、こういうふうな実績もありますし、それと同時に酒造組合とタイアップして、しっかりとしたものを造っています。
県全体でレベルアップを上げてきた、それによその県が、見習いたいぐらいに模範になってるという意味で、すごいいい取り組みだと、私は思っていますので、これからももっともっとこれが他県でも広がっていくことを、期待したいと思いますけれども、非常におもしろい取り組みというか、いい取り組みだと、私は思ってますね。
そして互いに自分の手の内をさらけ出しながら、またいいものを造っていこうという。
実は、だいぶ昔を見れば、なかなか業界であるので、ライバルですよね。
だからなかなか手の内は見せなかったと思いますけど、やはり厳しくなってくると、自分1人で何もできない、だから積極的に皆さんと取り組んで、協力し合ってやっていくっていうのは、普通のことではないかなと思うんですけどね。
それと、長い間、冬の時代が続いて、今ようやく、新しいこうした革新的な動きが出てきて、希望を感じるんですけれども、これからの可能性っていうのは。
私、これからの可能性は、非常にあると思いまして、特に先ほどのVTRでもありましたように、若い女性が自分の味を見つけたとか、こういうふうな表現をされていましたよね。
やはり消費者が、自分の味を見つけてきた、海外にちょっと目を向ければ、海外の方たちは、どっちかっていうと、自分の味を持っていて、自分の味に合う酒を自分で探そうとしています。
ところが、日本は、そうじゃなくて、情報を、あるいは値段を、あるいは銘柄をという形で、お酒を見てきたと思うんですよ。
それが造り手とか、あるいは流通の方々の苦労があって、やっと消費者にそれが少しでも浸透してきて、自分の味を探したい、こんなふうになって今、非常に変わってきたんじゃないかなと思います。
そういう意味では、日本も初めてですけども、おもしろい方向に進んでいくんじゃないかなと思っています。
これから人口減少もあって、国内の市場っていうのは縮小しがちですけれども、やっぱり日本食が、これだけ世界的なブームになって、その食の大きな柱は日本酒にもなりえるわけですよね。
世界にアピールしていくうえでは、海外に本当に打って出るために必要な、これから何が大事ですか?
やっぱり海外に打って出るっていうことは、今、市場が、国内市場が狭まってますから、海外にいくのはありますけど。
やはり海外は、先ほど言いましたように、味をよく知っていますよね。
だから日本もですね、日本で売れてる酒を海外に持っていくんではなくて、海外の人たちが何を望むっていうよりも、自分はこういう酒を造ってるんだ、こういう酒をきいてくれと、飲んでみてくれと、こういうふうな流れじゃないかなと思うんです。
やはり売り手のものの考え方より、造り手のものをやっぱり見て、それでそれをPRして、出ていったほうが、これからの海外戦略にもつながっていくんじゃないかなと思います。
そして歴史。
歴史は一番大きいと思いますよね。
日本はなかなか歴史を、作ってませんけれども、海外の積み上げた歴史ということを。
2015/11/10(火) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「日本酒ルネサンス〜人気の秘密に迫る〜」[字][再]

今、従来のイメージを大きく覆す個性豊かな日本酒が次々と誕生。飲み方や食べ合わせなど、新たな楽しみ方も広がっている。進化を遂げる日本酒の秘密とブームの背景を探る。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京農業大学醸造科学学科教授…穂坂賢,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東京農業大学醸造科学学科教授…穂坂賢,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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