木曜時代劇 ぼんくら2(3)「鬼の棲(す)む家」 2015.11.11


(お六)キャ〜!あっ!あっ!あ〜っ!
本所深川見廻り方同心井筒平四郎が懇意にしていた佐吉が実の母葵を殺したとしてお縄になった。
湊屋は久兵衛を使い事件をもみ消すのだが…
(久兵衛)こらえて下さいまし。
お願いでございます。
これが気に入らない平四郎は弓之助や政五郎と共に下手人捜しをすべく解き放たれた佐吉から事件に至るまでのあらましを聞く事にした
(佐吉)あれは藤の花が咲く頃でした。
(烏の鳴き声)うわ〜!
(鳴き声)
元は鉄瓶長屋が建っていたこの場所に湊屋総右衛門は女房おふじのために屋敷を建てた。
そこは…おふじ一人が住んでいた事もありいつの間にかふじ屋敷と呼ばれるようになる。
そのふじ屋敷に佐吉が呼ばれたのはこの春の事であった
(おふじ)佐吉。
お前が植木職人になったと聞いてねずっと旦那様にこの庭の手入れをさせてほしいとお願いしていたんだ。
それがようやくかなって私はうれしいよ。
おふじ様が…。
そうさ。
お前の母親の事があってお前にはずっと冷たくしてきたけれどね大人気なかったとそう思ってさ。
お前はうちの者なんだから少しはひいきにしてやりたい。
そう思った訳なのさ。
うちの者…。
ありがとう存じます。
今じゃここもふじ屋敷なんて呼ばれているだろ。
だから藤の花を咲かせたいと思ってさ。
今年から見る事ができるだろうね。
聞いております。
親方の知り合いから立派な藤を都合してきて庭木に絡ませようと思っておりますので。
平気かい?藤の花は強うございますから。
私のようにかい?いえそんなつもりじゃ…。
いいんだよ。
フフフ…。
フッ…。
その藤はふじ屋敷に植え替えても花の出来栄えに遜色はなかった
(おふじ)随分と濃い赤だこと。
はい。
土が変われば色と姿が変わる事はございます。
多分ここの土は金気が強いんでしょう。
お気に召さないようなら肥やしを変える事で来年は色目を加減する事もできると思います。
いいさ。
どうやったってこの藤の花は赤くなると決まってるんだ。
…えっ?でも佐吉。
立派になったもんだね。
あの世の葵さんも一人前になったあんたを見てきっと喜んでるでしょうよ。
おふじ様どういう事でしょうか?おふくろは死んだんでしょうか?それはいつの事でしょうか!?フフフ…。
おふじ様。
アハハ…!おふじ様!おふじ様!
(雷鳴)
それ以降佐吉はおふじには会えなかった。
とうとう我慢しきれず佐吉は総右衛門に掛け合った
旦那様。
一体おふくろはどうして…。
いや本当に死んだんでしょうか?
(総右衛門)ああ。
葵は死んだよ。
おふじの言うとおりだ。
いつ…でしょうか?湊屋を出て間もなくだ。
いろいろと差し障りがあるからどこに葬ったかは今は言えない。
西方浄土を拝んで母親の菩提を弔っておくれ。
いいね?
(弓之助)「菩提を弔って…おくれ…」ですか。
本当に…。
そう怒るな。
怒ってなぞいません。
いやいや字が怒ってる。
いや…ちょっ…ちょっ…!筆が怒ってるだけです。
いやいや…。
いやいや…ちょっ…ちょっ…。
ちょいちょいちょい…!ちょっ…叔父上!叔父上!ちょっ…いやいや…ちょっとちょっと。
申し訳ございません。
坊ちゃんにこんなお話をお聞かせして。
いや…どうして佐吉さんが謝るのですか?どうしてそんなにお人よしなのでしょうか。
大人を説教するのはおねしょの癖が直ってからだ。
そんな事を言う叔父上は嫌いです。
ハハッ。
まあまあそうむきになっちゃいけません。
大人はそうやって子どもをからかうもんです。
ハハハ。
話を元に戻すが湊屋にそんな事を言われてお前の腹はおさまったのか?…いや〜おさまる訳はねえ。
そうだな?…はい。
旦那様とおふじ様は俺にうそをついてた。
だったらまだうそがあるんじゃねえか。
いろんな事が頭を駆け巡って…。
そんな時めっそうもない考えが頭をよぎったんです。
そうだ。
おふじ様はおふくろを嫌ってた。
もしかしたらあの言葉は…。
どうやったってこの藤の花は赤くなると決まってるんだ。
おふじ様がおふくろを手にかけたって事なんじゃねえかって…。
旦那。
俺がこの間官九郎の事を知らせに上がった時あれは口実で本当はその事を相談したかったんです。
ああ…。
俺はてっきりお前がお恵とけんかでもしたんじゃねえかって思ってたぜ。
あ…私もです。
こちらから戻ったあといざこざがあったんです。
お恵のやつが急に当たり散らして…。
(お恵)どうせ私の事なんかどうでもいいと思ってるんでしょうから!お恵!離して!
(佐吉)俺の様子がおかしかったんで俺がお恵の事を嫌いになったと思ったらしくて…。
そんな事ある訳ないじゃない!けどそのいざこざも収まったんですね。
へい。
お恵に全てを打ち明けてあいつにも励まされてそのうち湊屋の旦那様に会おうと決心した時…。
何かあったのか?実はおふじ様が屋敷の庭で首をつろうとなさったんです。
奥様!誰か!誰か〜!奥様〜!離せ〜!離せ〜!
(佐吉)おふじ様は「この藤はどうやったって赤くなる」。
そうおっしゃいました。
それってつまりご自身の手が血で汚れてるという意味だったんじゃないでしょうか。
旦那様。
佐吉はもう子どもではございません。
お願いします。
本当の事を…まことの事を教えて下さい。
旦那様…!葵は…お前の母親は…生きているよ。
おふじは死んだと思い込んでるが葵は生きて六本木の芋洗坂の近くに住んでいる。
芋洗坂のどこですか?今は言えない。
旦那様!いいかい?勝手に会いに行ってはいけない。
葵にも支度がある。
あれとよく相談して会う日取りを決める。
それまで辛抱しておくれ。
いいね?
だが辛抱たまらず佐吉は芋洗坂に出向いてしまったのである。
それがあの日の事だった
(佐吉)いきなり名乗るつもりはありませんでした。
遠くから顔を見るだけでいい。
第一俺はおふくろの顔を知りませんし向こうだって同じです。
ごめんくださいまし。
(佐吉)風に乗ってお香の香りでしょうか。
いい匂いがしてきたんです。
葵様。
そろそろお薬…。
葵様…?キャ〜!そうか…。
お前はとうとうおふくろさんと言葉を交わさないままになっちまったんだな。
えっ…そうですね。

(戸をたたく音)・
(佐吉)俺だよ。
お帰り。
政五郎は本所元町で女房のお紺にそば屋を切り盛りさせている
じゃあ芋洗坂からの帰りで?岡っ引きの八助にな定町廻りの佐伯殿に会いたいので渡りをつけてくれと頼んできたところだ。
シマが違うとはいえ同じ町方の旦那なんですからじかに掛け合った方が話は早いんじゃありませんか?いや〜だがそれじゃ八助を蚊帳の外に置く事になる。
へそ曲げられても困るからよ。
(お紺)井筒様どうぞ。
お代わりです。
おう。
これでもちっとは考えてんだぜ。
…で八助はのみ込んだんで?俺たちはただ本当の事が知りたいだけだ。
もし下手人が出てきた場合は佐伯の旦那とお前たちにそっくり渡す。
だから頼む!…ってなあんばいでな。
まああっしもね佐吉は人殺しなんぞができる男じゃねえって感じるとこもあったんですよ。
これはもしかしたら湊屋さんは佐吉が下手人じゃねえという事を知ってて誰かをかばってんじゃねえかって…。
こりゃ驚いた。
だとしたら誰の顔が浮かぶ?へっ?まさか…。
一度は葵を殺した女。
おふじにはおふじの心がある。
もし…もしもだ。
おふじが葵をし損なってる事に感づいていたとしたらどうだ?ですがおふじは自分で首をくくったんですぜ。
それどう考えたって自分のやった事…。
おふじが首をくくったのは湊屋総右衛門に対する当てつけだと思ってらっしゃるんで?だが死ねなかった。
…で考えた。
どうして私が死ななきゃならない?ぬけぬけと生き延びてたのは葵の方じゃないか。
でもって芋洗坂に乗り込んで…。
いや…まだそうだと決まった訳じゃねえ。
一から調べるんだからな。
一から…。
うん。

(志乃)いかがなさったのでございますか?お前の着物を質に持ってくといくらになるかな?えっ?俺何か言った?どうして私の着物を売り払わねばならないのですか?おっ…。
またどこぞの女水芸人に入れ揚げてるのでございますか?まさか。
ハハハ…。
ようございます。
着物を質に入れてみたらいかがです?どうなるかお分かりになるはずでございますから。
(小平次)うへぇ。
それにつけても金の欲しさよ。
えっ?定町廻りの佐伯殿のシマであれこれ嗅ぎ回るためには佐伯殿をもてなさねばならん。
できるだけぜいたくにお膳立てを整え先方をいい気分にさせておいて話をまとめる。
そのためには金が要るが…ない。
かといって金を惜しんでケチなやつだと思われるのは大いにまずい。
あ…でしたら河合屋で要るだけ用立てます。
これでも俺には俺の面目がある。
あ…だったらお徳さんではいかがでしょうか?お徳?
(お徳)嫌ですよ私は!そんな何だか知らないけど屋根船で出す仕出し料理こさえろなんて急に言われたって…。
どうしたって駄目です!どうしてもおもてなしをせねばならんお方がいてなそのためにはおいしい料理と酒が必要だ。
しかも安くだ。
頼むお徳!助けてくれ。
分かんない人だね旦那も。
えっ?そんなの作れっこありませんて言ってるでしょさっきから!作れてるじゃねえかよ。
これはその…けどできゃしませんて!けどとってもおいしそうですよ。
ねえ坊ちゃん。
あっはい。
ねっ?は…はい。
はい。
そんな事言いますけどね坊ちゃんおかず屋だってまだ始めたばかりなんですよ。
仕出し料理だって食い物を作る事は同じですよ。
お引き受けしましょうよ。
おかみさん。
細かい段取りは私が教えるし手伝いますから。
仕出し屋とっ始めのいい機会ですよ。
それに何たって井筒の旦那のたっての頼みだ。
断っちゃおかみさんの女が廃る。
いい事言うぜ。
けど…けど…あれだよ。
そうだよ。
器だよ!肝心なのは。
彦さんも言ってたじゃないか。
客に出す料理は器も味のうちだってさ。
そうですよ旦那。
器なんてありゃしませんからね。
無理無理。
だから借りてくるんですよ石和屋から。
えっ?事情を話して石和屋のおかみさんに頼めば銭なんてかかりゃしませんて。
いやそいつはいいぜおい。
頼むぜ彦一。
お任せ下さい。
そんな安請け合いして!いやもう!知らないからね〜!
(彦一)おかみさん!やったぜ弓之助。
え…?よいしょ…。
アハハ。
ああ…。
うへぇ。
お前はつくづく女ったらし…いやいや人転がしの天才だな。
あ…。
あっ叔父上。
うん?私はおでこさんの顔を見に行ってまいります。
ああよろしくな。
(弓之助)はい!葵の家に勤めるお六に会ってみよう。
お六は葵が死んだ時その場にいた女だ。
何か知ってるかもしれねえ。
旦那!びっくりした!もうお帰りで?猿の干物が顔出したのかと思ったぜ。
ププッ!えっ!?気にするな。
うへぇ。
猿の干物!?はっ!俺だよ俺。
ああ!ああ…あっ先日の…。
荷造りしてたのかい?じゃあ新しい奉公先が見つかったんだな。
そいつはよかった。
あ…はい。
そう硬くなる事はねえ。
どうせ久兵衛に葵の事で余計な事をしゃべるなとか言われてんだろ。
だがなお六。
葵を殺したのは佐吉じゃねえぞ。
…と言ったところで素直には信じちゃくれめえが…。
お六。
久兵衛はお前さんにあの佐吉が葵の伜だって事を教えたかい?…伜?おうさ。
18年も前に生き別れになった子どもだよ。
いやきれい事すぎるなそれは…。
葵は佐吉を捨てたんだよ。
捨てた?ああ。
やっぱり…。
やっぱり?やっぱりってのはどういう事だい?ああ…いえ。
お六。
お前下手人が誰か心当たりはねえか?よし。
ちょいと長い話になる。
その話を聞けばお前が俺に何を話そうが久兵衛や湊屋がちょっかいをしてくる事は間違ってもねえって事が分かる。
平四郎は湊屋総右衛門と葵の間柄かつて起こったおふじによる葵殺しから今日の事までをお六に語って聞かせた
まあそんなこった。
(すすり泣き)この話はな誰にでも語って聞かせられるような話じゃねえ。
葵の人生最後に立ち会ったお前さんだから話したんだ。
俺はな生きてる葵には会えなかった。
だからあっちの言い分は聞いてねえ。
どうしても佐吉の側に立っちまう。
葵を責めるような言い方をして気を悪くしたら勘弁してくれ。
(すすり泣き)いいえ。
でも…葵様も佐吉さんという人の事をお忘れになっていた訳じゃないと思います。
葵様は昔の話をする方じゃありませんでしたけどただいっぺんだけ…いっぺんだけおっしゃった事があるんです。
(葵)お六。
私は幽霊なんだ。
子盗り鬼よりももっとひどい子捨ての親でもあるんだよ。
子捨ての親…。
はい。
ですから葵様も佐吉さんという息子さんにすまなかったというお気持ちだったのだと思います。
ずっとずっと…。
聞いてみなくちゃ分からねえなあ。
そんな事を言うようだと葵はお前さんを気に入ってたんだな。
もっともそうじゃなきゃ一つ屋根の下3年も一緒に暮らせねえか。
優しいお方でした。
いつもよくして下すって…。
息子さんがつらくて寂しくって葵様を恨んでいたとしてもしかたがないのかもしれません。
でも…葵様もおかわいそうです。
お二人とも気の毒です。
優しいなお前は。
…でもう一度聞く。
お六。
お前下手人が誰か心当たりがあるのかい?孫八じゃないかって。
孫八?誰だそいつは?旦那はこの家に出る子盗り鬼の話を知ってますか?ああ葵が言ってたという。
そういや芋洗坂の下っ引きもこの屋敷は化け物屋敷だ。
子盗り鬼が出るとか何とか言ってたが。
子を盗む鬼の事です。
その子盗り鬼が出たんです。
…出た?このうちにいたんじゃありません。
私にくっついてきたんです。
それが孫八なんです。
旦那!あっ出た!ああっ!旦那!お六さんの娘さんたちが。
(おゆき)おっ母さん手習いに行ってくるね。
そうかい。
気を付けてね。
偉いなあ。
手習いに通ってるのか。
はい。
葵様のお勧めでこの先にある法春院ってとこに。
女の先生が文字や針仕事を教えてくれるんです。
小平次送ってやれ。
はい。
申し訳ありません。
(2人)行ってきます。
(小平次)さささ…。
ハハッ。
それで?あいつの話をするにはちょっとだけ私の話を聞いてもらわなきゃなりません。
子だくさんの貧しいうちに生まれて子どもの時からお使いから子守まで何でもやって生きてきました。
けど新吉さんと知り合って…。
死んだ亭主の事ですけど新さんと一緒になってあの子たちが生まれてようやく人並みな幸せってやつをつかんだんです。
だけど…。
(せきこみ)
(荒い息とうめき声)あんた?…あんた!?あんた!あんた!
(お六)あっという間でした。
前の日は元気だったのに…。
人ってこんなにあっけなく死んでしまうものなのかって思いました。
私はまたその日暮らしの毎日に戻りました。
けど娘たちがいましたからめそめそなんてしてられなかった。
そんな時です。
私に縁談が持ち込まれたんです。
じゃお先です。
ああ。
(鈴の音)
(お六)そいつが孫八で死んだ亭主の仕事仲間だったんです。
死んだ亭主に操を立てたってどうなるもんでもないだろう。
それでもあの人の分まで頑張って働いてこの子たちを一人前にするのが私の役目ですから。
だからさ女一人じゃ大変だろうから俺が助けてやろうってんじゃないか。
その日暮らしの賃仕事で一体これからどうやってやってくってんだ。
なあ母ちゃんに言ってやんな。
おじちゃんが親父になったら菓子でも何でも買ってもらえるってさ。
あの…奉公先の当てが出来たんです。
平河って料理屋で住み込みで構わないってそう言われて。
ですからこの話はなかった事にして下さいな。
ほら!お前たち手洗っといで!
(2人)は〜い。
ふ〜ん。
そうかい。
だが話はそこで終わらない
お六に手を出したのはお前か!?
この一件でお六の奉公の口ははかなく消えたのである
(鈴の音)あっ!お帰り。
それで逃げ出したんだな?孫八から。
働いていた飯屋に居合わせたお方がその事を知ってここの家をお世話して下さったんです。
(お六)仕事はお身の回りのお世話を一切合財1人でやる事。
住み込みで用足しのほかは家から外に出ない事。
私にとっては願ったりかなったりの話で。
ただ…。
子盗り鬼?そうです。
昔から子どもを盗って食らう鬼がこの屋敷に棲んでるっていう悪い言い伝えがあってね。
今でもこの家のどこかに潜んでいて夜中になるとさまようらしい。
そのおかげでこの2年の間に3人の女中が薄気味悪がって逃げ出してるんですよ。
でも信じておられないんですね。
お前は信じるかえ?…分かりません。
けど正体の分からない子盗り鬼よりもっと怖いものが世の中にはいますから。
私は孫八の話をしました。
…そんな訳でございます。
お前が気に入りました。
今日から働いておくれ。
はい!あの方お一人のお世話でしたから大変ではありませんでした。
時折旦那様がいらっしゃる時だけ膳を2人分とお酒をご用意するくらいで。
総右衛門はよく来たのかい?決まってはいませんでした。
ひとつきも来ない時もあれば4日後に来る時もあって。
でもこの家には一度もお泊まりにはなりませんでした。
いつも葵は…何をしていた?ただぼんやりと。
黄表紙を読んだり縫い物をしたり写経をなさったり。
(おゆきおみち)・「大黒様という人は」いいねえ。
子どもたちの声が聞こえるってのは。
そうだ。
この先にね法春院って寺があって寺子屋を開いている女先生がいるんだよ。
子どもたちを通わせるといい。
うん。
(お六)そうして幸せな日々が3年続きました。
書けました。
(おみち)私も。
あらあら。
(鈴の音)よう!お六さん。
久しぶりだったなあ。
捜したぜ。
ここの奉公先に借金があるんだろ?俺がきれいに払ってやるから。
なあ?だから一緒に暮らそうや。
親子4人でさ。
分かったよ。
旦那様に文を書いて人をよこしてもらう。
そんな…。
孫八には私が会おうじゃないか。
50両の借金がある事にしよう。
そいつを持ってこない限りお六も子どもたちもこの家から一歩も出さないとね。
50両。
それなら…。
安心するのはまだ早いよ。
今度は「借金に縛られてかわいそうだ。
一緒に逃げよう」と言いだすはずだ。
嫌がっても無理にでも連れ出そうとする。
それが駄目なら子どもたちを盾に取る。
そういう男だよ。
私はねお六。
お前よりずっとよく知ってると思うよ。
世間に潜んでいる鬼の怖さをね。
欲しいものは何でも手に入れる。
そのためだったら何でもするし自分の都合のいいように考える。
世間にはそういう鬼がごろごろしている。
でも葵様。
私はそんな事して頂かなくても。
私がここから逃げれば…そうです。
もっと遠くに…。
どこに逃げるっていうんだえ?今のお前が逃げる先といったら大川の底へドブンだ。
行きたかったら一人でお行き。
子どもは私が預かる。
お前は考えた事がないのかい?ご亭主の死にざまがおかしいと思った事は一度もないのかい?えっ?お人よしにも程があるってもんだ。
あいつが仕事仲間のご亭主の女房だったお前に懸想して邪魔なご亭主を片づけたって考えてもちっとも不思議じゃないじゃないか。
あ…。
しゃんと背筋伸ばして戦うんだ!子どもを守るためだけじゃない。
ご亭主の敵を討つためにもだ。
そうか。
葵がな…。
…で?やって来たのが久兵衛かい。
はい。
葵様と久兵衛さんに50両の借金があると聞かされて不承不承ながらも孫八は一旦は退散したんです。
けどそれからしばらくして孫八のやつみちをどこかにかどわかしたんです。
葵の言ったとおりになったって訳か。
我慢できずに番屋に駆け込もうとした私を久兵衛さんは止めました。
岡っ引きが乗り出せば孫八はお縄にはできるだろうがそんな野郎なら子どもの居場所は金輪際吐かないだろうからな。
久兵衛さんもそう言ってました。
そして一晩だけ時を稼いでほしいって言われて私必死になって孫八に頼んだんです。
一晩したら一緒に逃げるから明日来てくれって。
何?祈とう師が来てる?葵様がみちがいなくなったのは子盗り鬼の仕業に違いないとおっしゃってゆきを押し入れに閉じ込めてしまわれたの。
だから孫八さんゆきを連れ出してちょうだい。
そんなもののけがいる訳ねえじゃねえか。
あんた!父親になりたいんだろ?頼むよ。
みちはどこにいるの?私はそこで待ってるから。
本当だな?うそなんか言うもんかね。
信じておくれよ。
分かったよ。
おみちは向島の元橋だ。
あたり湯って湯屋の2階にいる。
先に行ってるよ。
じゃゆきを頼んだよ。
父親としての初仕事だ。
任しときな。
おみちの事は心配するな。
お前は中をのぞくといい。
見ものだよ。
あっ!はあ…はあ…はあ…。

(子盗り鬼)ああ〜!我を呼ぶのは誰だ!?我を起こすのは何者だ!?子盗り鬼!キャ〜!
(子盗り鬼)己はなぜ我を起こす。
(祈とう師)冥府魔道の獄卒に追われし者よ。
そなたが連れ去りし幼き魂をどうぞお返し願いたい。
そはいまだ地上の者なり。
(子盗り鬼)この家は我の休みどころ。
我は踏み入る者を食らう。
はっ…はっ…!この家に生きながら我の同胞となるべき者の息がある。
(祈とう師)道を阻む形なき者よ。
連れ去るのならばそなたの同胞を!
(子盗り鬼)ならばこれは我がものか?人の血を食らう我が同胞をこの影の身に奉ずるか?しかり!鬼道衆の長のもとへこの人殺しの血をささげたまえ!俺じゃねえ!俺じゃねえ!俺は人殺しなんかじゃねえんだよ!うろたえるな!既に逃れる道はない。
お前が魂に浴びた不浄の血を鬼道衆にささげるのじゃ!あ…あっあっ…ああ〜!…でそのあと孫八はどうなったんだ?詳しくは存じません。
孫八…。
葵を殺したのは誰なのか。
おふじかはたまた孫八か。
そして定町廻り同心佐伯のおもてなしはどうなるのか。
問題山積の平四郎ではある
(くしゃみ)
(杢太郎)大変だ!晴香先生!おはつ坊を知りませんか?どうしたんだ?一体!子盗り鬼か…。
鬼より怖いものが棲み着いているんだもの。
子盗り鬼が子どもの首を絞めるもんかな?匂いがしました。
お香のような甘ったるいいい匂いが…。
準備万端整ったようだな。
私と旦那の仲じゃないですか!目くらまし?まるでもののけの親戚だな。
2015/11/11(水) 03:10〜03:53
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 ぼんくら2(3)「鬼の棲(す)む家」[解][字][再]

宮部みゆきの時代劇ミステリー「ぼんくら」シリーズ第2弾。個性豊かなレギュラー陣に加え、新たなキャラクターも続々登場。ミステリー色も一層濃くなり、満足度倍増です。

詳細情報
番組内容
おふじ(遊井亮子)の一言から、佐吉(風間俊介)が葵(小西真奈美)の亡骸を目の当たりにするはめになったと知った平四郎(岸谷五朗)は、葵殺しを探りなおすため、現場を管轄する同心・佐伯錠之介(嶋田久作)へのもてなしをお徳(松坂慶子)に頼むことにした。そんな頃、葵の女中・お六(西尾まり)に付きまとっていた孫八(なだぎ武)という男を、葵が、「子盗り鬼」騒動を利用してさんざんに痛めつけたことを、平四郎は知る。
出演者
【出演】岸谷五朗,奥貫薫,風間俊介,秋野太作,志賀廣太郎,小西真奈美,遊井亮子,西尾まり,村川絵梨,黒川智花,なだぎ武,螢雪次朗,嶋田久作,鶴見辰吾,大杉漣,松坂慶子,【語り】寺田農
原作・脚本
【原作】宮部みゆき,【脚本】尾西兼一
音楽
【音楽】沢田完

ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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