クローズアップ現代「“座りすぎ”が病を生む!?」 2015.11.12


私は今、考えている。
こうした座り続ける行為が実は死を招くかもしれないということを。

職場や自宅などで一日の多くの時間を座って過ごす私たち。
今、最新の研究で座り続ける時間が長くなると体に深刻な影響を及ぼすことが分かってきています。

座り続けることで私たちの体に一体何が起きるのか。
今夜は座りすぎに潜む知られざるリスクとその対策を伝えます。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
たかが座りすぎと思われるかもしれませんが最近、長く座り続けていることで起きる健康リスクについての研究結果が次々と明らかになっています。
職場でのデスクワーク家に帰れば食卓に座り食事のあとは、ソファーでテレビ。
あらゆる場面で腰掛けています。
2本の脚で立ち上がり活動することで進化を遂げてきた人類。
しかし生活環境によって現代人は今、座ることをいわば強いられた状態に置かれているともいわれています。
座る時間が長い人はどんな健康リスクにさらされているのか。
慢性的な腰痛はもちろん糖尿病や心筋梗塞、がんなどを発症しやすく、死亡するリスクも高まるというのです。
世界の20の国と地域を対象にした調査で日本人は座っている時間が最も長いという結果が出ています。
これは、起きている時間の過ごし方を活動量ごとに分類したグラフです。
ほとんど動かずに座ったままの時間が半分以上を占め立ち仕事・家事などを行う時間は40%程度。
普通に歩く以上の運動しているのは僅か5%にすぎません。
座りすぎの健康リスクにいち早く着目した海外の国では…座りすぎは新たな喫煙か?という問いかけをして、座りすぎへの注意喚起をしようとしています。
座り続けることで私たちの体に何が起きるのか。
対策に乗り出したオーストラリアの取り組みとともにご覧ください。

国を挙げて座りすぎの対策に取り組むオーストラリア。
メルボルンにある小学校を訪ねてみると。

この小学校では、去年から長時間座り続けることを避け立ちながら授業を受けられるようにしています。

オーストラリアでは官民一体となって座りすぎに警鐘を鳴らすキャンペーンを展開。
職場では1日2時間以上立って過ごすよう勧めています。

積極的な啓発活動に取り組む背景には長く座ることの問題を指摘したある研究がありました。
国内の45歳以上の男女22万人を3年近くにわたって追跡した調査。
期間中に亡くなった人たちの生活スタイルを調べたところ座る時間が大きく影響していました。
1日4時間未満の人たちと比べて11時間以上だった人たちは死亡するリスクが40%も高まっていたのです。
なぜ長く座り続けることが健康へのリスクを高めるのか。
ネヴィル・オーウェン博士。
15年前から座りすぎと健康との関わりを研究してきた第一人者です。

これまでの研究から長く座り続けると体の代謝機能や血液の流れに悪影響を及ぼし深刻な病につながることが分かってきました。
立ったり歩いたりしているときは脚の筋肉がよく働きます。
このとき、筋肉の細胞内では血液中から糖や中性脂肪が取り込まれエネルギーとして消費される代謝が盛んに行われます。
ところが座ると、全身の代謝機能を支えてきた脚の筋肉が活動せず、糖や中性脂肪が取り込まれにくくなり血液中で増えてしまいます。
さらに座った状態が長く続くことで全身を巡る血流が悪化し血液がどろどろになります。
その結果、狭心症や心筋梗塞脳梗塞、さらに糖尿病などのリスクが高まるのです。

明らかになってきた座りすぎのリスク。
そうした中、世界で最も座る時間が長い国、日本です。
世界20の国や地域で座っている時間を比較した調査では、最も長い7時間という結果が出ています。

1、2、1、2…。
早稲田大学では去年から座りすぎが健康へどのような影響を与えるのか追跡調査を始めています。

調査では、370人の参加者に、加速度計と呼ばれる測定器を渡し、1日のうち座っている時間を集計します。
参加者の1人武者英之さん、52歳です。
ゴム部品を製造する工場を営む武者さん。
健康のため朝は歩いて出勤するのが日課です。
職場でも事務所と工場の間を頻繁に行き来するようにしています。

ところが、計測の結果は。

武者さんが座っている時間は1日なんと9.8時間にも及んでいました。
一方、歩くなど動いている時間は僅か1時間余りにすぎません。

あれだけ体を動かしていたのになぜこんな結果になってしまったのでしょうか。
実は武者さん、出勤するとデスクワークに追われ午前中は、ほとんど座りっ放し。
午後、外回りに出かけても得意先まで往復2時間の運転中もずっと座りっ放し。
家に帰っても食事をしたり、テレビを見たり寝るまでの4時間ほとんど座り続けていました。
運動することは心がけていてもいったん座ると、なかなか立ち上がることのなかった武者さん。
体にも影響が見られました。
代謝が進まずおなか周りは98センチ。
内臓脂肪は標準の1.5倍に達していました。

さらに最近、長く座り続ける生活が、より深刻な病につながる可能性も明らかになってきました。
北海道大学の鵜川重和さんは全国およそ12万人の生活スタイルと病気の関係を20年にわたって調査したデータを解析。

長時間の座位行動を取る人っていうのは。

すると男性の場合、座ってテレビを見ている時間の長さが肺がんの発症率に関わることを突き止めました。
座っている時間が、2時間未満の男性と比べ、4時間以上だと肺がんの発症率が3割以上上がっていたのです。

今夜のゲストは、座りすぎがもたらす健康リスクに着目して、研究を続けていらっしゃいます、早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗さんです。
その座りすぎがもたらす健康リスク、心筋梗塞や糖尿病、さらにはがんと、本当に多くのリスクをはらんでるわけですけれども、これはどこまで、科学的なエビデンスとして、裏付けられた研究なんでしょうか?
座りすぎの健康リスクの研究というのは、ここ15年ぐらいで、非常に進展しました。
その中でも、座りすぎてることっていうのが、先ほどのVTRにもありましたように、死亡のリスクにつながっているだとかいったようなことがあります。
それらは、大事なことっていうのは、体を動かしている、あるいはたばこを吸ってる、そういったような、死亡に関わるようなところの影響を統計学的に調整したとしても、認められるということなんですね。
そういった点が非常に重要なところだと思います。
そのメカニズムに関しまして、体を動かすということが、これまで例えば大腸がんであるとか、閉経後の乳がんであるとか、そういったことの予防につながるということは、分かってはいるんですけれども、まだまだ座りすぎががんの予防と、どうしてがんが発症するのかということに関係するかどうかというのは、まだまだメカニズムは分からないところがあります。
今、ありましたように、座りすぎてることが、例えば糖尿病につながっていくと。
非常に代謝機能が落ちていくというのは分かってるんですね。
そのメカニズムっていうのは、まだまだなんていうんですかね、分からない部分もあるんですけれども、例えば、筋肉から糖のとり込みに関わるようなグルコースの輸送体というようなものであったりとか、そういう機能が低下したり、それから脂肪の分解酵素といわれているような、リポタンパクリパーゼというようなものの機能が非常に低下すると。
それが結果として、糖尿病だとか、その先にあるような心身疾患だとか、脳卒中だとか、そういったもののリスクを引き出すというふうに考えられていると思います。
今のリポートで、武者さんは、自分は本当に歩くことや、そして事務所と工場の間を行ったり来たりするなど、一生懸命うごいているつもりだったけれども結果を見ると、ものすごく座りすぎだったということに、ショックを受けてたんですけど、こうした結果はたぶん、多くの人々に通じるものなんでしょうね。
そうですね、武者さんの場合、大体10時間ぐらい、1日座っていられるということと、それが生活、起きている時間の6割ぐらいを占めるということだったと思うんですね。
それも見ていただければ分かるとおり、仕事はパソコン、移動は車、それから家に帰るとずっと座って、テレビを見たりすると。
一般的な生活習慣だとは思うんですけれども、すべてどちらかというと、環境が非常に、例えば、仕事はもう常にパソコンに向かっていますので、座り続けてしまいます。
そういったリモコンであるとか、家に帰ってもリモコンを使って、テレビを見たりとか、そういったようなことで、非常に環境が大きく影響しているんじゃないかなという思いはあります。
座ってること自体が問題なんですか?
そうですね。
座ること自体はあまり問題ではないというかですね、やはり長時間、続けて座ってしまうことが、座り続けていることが大きな問題なんだと思います。
もちろん立って、立ち続けてる立ち仕事の方なんかずっと立ち続けている、そういった方々が腰痛になったりとか、そういうふうなリスクもありますし、要するに同じ姿勢をずっと続けているといったようなところが大きな問題になってくるんだと思います。
そうすると、ベストとしては、どれぐらい座ったあと、立たないといけないんですか?
そうですね、まだはっきりとした時間というところも、まだまだ分かっていないところが多いんですが、大体30分、あるいは1時間に1度くらいは少なくとも立ってですね、少し動いたりするといったところが、重要になってくるかと思います。
オーストラリアでは子どものときから、認識を持たせようという取り組みが、もうすでに始まってるんですね。
特にオーストラリアなんかは、肥満の問題が非常に多くあります。
それによっては、子どものころの肥満が、やっぱり大人になっても、そのまま持ち越されてしまうといったようなことも分かっていますので、子どものころからしっかり対策をしていくというのが重要なんだと思います。
さあ、日本でも座りすぎのリスクに目を向けて、新たな対策を始めようという企業も出てきました。

オフィス環境の大改革に乗り出した大手IT企業です。
皆さん、パソコンに向かい座ってお仕事かと思いきや。
あれ?立ってる。

この企業では、ことし8月社員1万3000人分の机を一新しました。
最高125センチまで上げられ立ったままデスクワークができます。

机は1台18万円ほど。
多額の費用をかけても社員の健康を守ることは企業にとっての責任だと考え導入に踏み切りました。

この机を開発した事務機器メーカーです。

こちらには戦後から現代まで。

事務用のいすを主力製品としてきたこのメーカー。
これまで60年以上ひたすら座り心地のよさを追求してきました。

より快適ないすが求められるようになったのは1990年代。
職場にパソコンが普及し始めたのがきっかけでした。

長時間座り続けても疲れないいすを開発するため素材や形状などの研究が加速しました。
ところが座りすぎの健康リスクが相次いで報告される中このメーカーでは大きな方針転換を迫られたのです。

どうすれば座りすぎの弊害を避けることができるのか。
新たな製品開発の突破口が業界で長く定着してきた机の高さを見直すことでした。

立ったままでの仕事を可能にしたこの机。
仕事は座ってするものという従来の発想を転換する大きなチャレンジでした。
発売から10か月座り続けることをやめたことで思わぬ効果が出ている職場もあります。
この日、事務機器メーカーの担当者は、110台の机を導入した企業を訪ね聞き取り調査を行いました。
すると、体調面の改善に加え社員の働き方にも影響を与えていることが分かりました。

さらにこんな声も。

あちらこちらで社員どうしが立ち話をする光景が見られるようになり職場の風通しがよくなったといいます。

長く座って働くことが当たり前だった日本の職場。
座りすぎのリスクを減らす取り組みは、オフィスの風景を変えていくことになるのでしょうか。

なんか仕事は座ってするものだというふうに、当たり前のように思い込んでましたけど、そろそろそういった常識を変えるころに来てるんでしょうかね。
そうですね、じゃあ立ちましょうか。
立ちますか?立ちますか?分かりました、はい、立ちます。
やっぱり健康に悪い?
そうですね。
これまでだとやっぱり、働けば働くほど、不健康になるようなオフィスという感じだったと思うんですね。
これからはやっぱり、目指すべき、健康経営といったようなことばも浸透してきてますし、働けば働くほど健康になるような、オフィスを、やっぱり作っていかなきゃいけないんじゃないかなと思うんですよね。
それが生産性の向上にもつながる可能性が?
そうですね。
社員の職務の満足感だとか、その仕事の能率がよくなるだとか、そういったことにもやっぱりつながっていくんじゃないかなというふうに思っています。
その求められるのは、歩いたり、走ったりといった、そういう行動ですか?
そうですね。
なんかやりにくいですね、大丈夫ですか?
こちらを見ていただきたいんですけれども、今、おっしゃっていただいたのはここの部分だと思うんですね。
これを増やすことっていうのは、非常に重要なことだと思うんですね。
一方で、今、やっぱりやらなきゃいけないなと思っていることは、この座っているという、ここの部分を、ここにありますような、さまざまな生活の中の活動っていうんでしょうか、自宅でできるような活動もそうですし。
具体的には家事や洗濯、水やり、ストレッチ、部屋の片づけ。
そうですね。
そういった自宅でのことであったりとか、職場でいえばコピーを遠くに取りに行ったりとか、少し立って歩くとかですね、そういったようなことを積極的にやるというのが大事になってくるんじゃないかなと思います。
特に、やっぱりここの活動ですね、増やしていこうというのが、非常に重要なテーマになっていると思います。
具体的に、われわれ今、立ってますけれども、立ったオフィス環境っていうのは、海外ではどれほど進んでいるものなんでしょうか?
そうですね。
例えば、アメリカ・シリコンバレーなどのITベンチャーなんかですと、非常に多くの人たちが立って、パソコンで仕事をしているというようなことを聞きますし、例えば北欧なんかで見ますと、新しくオフィスに導入する机がほとんど、9割方が、スタンディングデスク等の可動式のものを導入しているといったようなことも、情報としてあります。
かなりそれは健康への投資という考え方で?
そうですね。
これまでのコストという考え方から、社員への投資ということが重要なポイントなんじゃないかなと思います。
ただ、高齢化社会の中で、なかなか立つことが難しかったり、動くことが難しい方々も増えていると思うんですけれども、どういった動きが大事なんでしょうか?
そうですね。
やっぱり脚をしっかり使うということが大事になってくるかと思います。
例えば、今、立ってますけど、少しかかとをゆっくり上げたりですね、こういうようなことを、生活のいろんな場面でやったりとか、さらには、一番体の中の大きな筋肉ですから、このももの前の筋肉をこう、ゆっくり。
持ちながらでよろしいですか?
そうですね、持った形で、さまざま、例えば台所に行ったときとか、やれることたくさんあると思いますので、そういう運動を少し取り入れていくといいんじゃないかなと思います。
座ったままはどうですか?
座ったままでも、例えば、こういうような運動をするとかですねということを。
ひざから、もう一度やってください。
そうですね、こういうような、つま先を上に上げるといったようなところが重要なんだと思います。
ありがとうございました。
岡浩一朗さんと共にお伝えしました。
これで失礼いたします。
2015/11/12(木) 01:16〜01:42
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“座りすぎ”が病を生む!?」[字][再]

世界各国で「座りすぎ」が健康に悪影響を及ぼすという研究が発表されている。1日11時間以上座り続けるとがんなどのリスクが高まるというのだ。研究と対策の最前線を追う

詳細情報
番組内容
【ゲスト】早稲田大学スポーツ科学学術院教授…岡浩一朗,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】早稲田大学スポーツ科学学術院教授…岡浩一朗,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:898(0x0382)

カテゴリー: 未分類 | 投稿日: | 投稿者: