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Danas je lep dan.

2010-06-21 誰が虐殺の文法を紡いだのだろうか

[]「ルワンダの鉈」伝説について

 うーむ。適切なカテゴリが見当たらないので取り敢えず「歴史」に入れておくけど。

 1994年に起きた忌まわしいルワンダ・ジェノサイドについて,こういう理解がよく見られる(ように思う)。

(……)加害者の人数や期間次第では鉈や棍棒といった原始的武器でもそういう大量殺戮は可能です。

一例を挙げれば、1994年のルワンダ虐殺では鉈や棍棒といった武器で80万から100万もの人々が殺害されたと言われています。*1

「日本軍最強伝説」は歴史修正主義者の捏造宣伝 - 模型とかキャラ弁とか歴史とか

 僕もずっとこういうイメージを持ってきたが,ルワンダ・ジェノサイドに関する本を読んだところ,どうもこの理解は微妙に違っているらしい。そもそもルワンダ・ジェノサイドはきわめて短期間の内に数十万もの人命が奪われた惨事だったが,何故そうなったかというと,行政や軍の積極的な関与があったからだという。

 (……)短期間で大量の殺戮が可能となったのは,軍や警察が参加し,彼らが所有する銃や爆弾を使用したためであった。大部分の殺戮は,公共の場所に集められた[,または,避難場所を求めて集まってきた――引用者註]トゥチ避難民を,民兵に加えて軍や警察が小火器で攻撃するという形を取った。このため,短期間に膨大な数の犠牲者が生じたのである。*2

 (……)とくに[避難場所となった――引用者註]教会や学校における大規模な殺戮においては,軍や憲兵隊が動員され,銃や手榴弾など近代的な武器が用いられることが多かった。逆に言えば,近代的な武器によって,人々を「効率的に」殺戮できたからこそ,きわめて短期間にジェノサイドが進行したのである。他方,農村における小規模な襲撃は,数十人の集団でトゥチを狩り出し,殺害するという形を取った。ここでは火器はほとんど用いられず,手製の武器や農具が殺人のために用いられた。*3

現代アフリカの紛争と国家

現代アフリカの紛争と国家

 というわけで,流石に鉈などの原始的な武器で短期間に数十万人も殺した,というのは一種の都市伝説みたいなもので,実際には小火器などが用いられていたらしい。

 ちなみにこの時ラジオで「ゴキブリ」という単語が連発されたことも知られているが,どうも亡命トゥチの民兵組織の名前(蔑称?)が「ゴキブリ」だったらしい。単なる悪口雑言じゃなく,そういう意味を込めたヘイトスピーチだったとは(いや,そこまでこの本に書いてあったわけじゃなくて,後半は推測だけど)。

*1:ここで亜門さんを取り上げてるのはたまたま目についたからで,別に恨みがあるとかそういうのじゃありません。実際には他にもこういうことを書いてるひとは何人もいると思いますし。

*2:武内進一『現代アフリカの紛争と国家――ポストコロニアル家産制国家とルワンダ・ジェノサイド』明石書店,2009,pp.319-320。脚注は省いた。以下同じ。

*3:同,p.334。

ApemanApeman 2010/06/22 00:38 南京事件否定論のテンプレとの関連で補足しておけば、1937年・南京の日本軍には自動小銃こそありませんでしたけど機関銃や手榴弾は実際にしようされましたから、ルワンダの事例が否定論への反証になることには変わりないですね。そんなことのために別の大虐殺を引き合いに出さねばならないのは残念なことですけど。

MukkeMukke 2010/06/22 00:49 Apemanさん>
それに関してはまったく異論はありません。まさか否定派の方々も日本軍が鉈しか持っていなかった原始的な軍隊だったなどと自虐的なことは言い出さないでしょうから(笑)

LuchsLuchs 2010/06/22 02:14 そういえば以前見た映画「ルワンダの涙」でも
虐殺の際はマチェテ(山刀)が多用されている様子が描かれていました。
(かなり衝撃的なシーンでしたが…)
エントリにもありますが、農村等のレベルだと農具や刃物が使用されたケースが
多かったのかもしれませんね。

しかし軍や警察等の治安機関が虐殺に関与する事態と言うのは本当に恐ろしいですね。

スピノラスピノラ 2010/06/22 09:53 とはいえ原始的な武器でも短期間での大量殺戮が不可能というわけではないと思いますよ。古代や中世では包囲戦の末に都市を占領した軍隊が、住民を数日間虐殺するなんて珍しい話じゃありませんから。例えばガリア戦争中のアウァリクム包囲戦とか。

D_AmonD_Amon 2010/06/22 11:22 ご指摘どうもです。
私も最近になって、フツ族に対するフランスの武器支援があったこと。それが原因でツチ族反攻後のルワンダでは公用語がフランス語から英語に変更されるということになったことなどを知りました。
当該記述については後日訂正したいと思います。

MikaguraMikagura 2010/06/25 09:44  ルワンダ虐殺の件について言えば、あそこまで大規模な虐殺に「成功」したのは、武器の性能云々ではなく、極めて組織的計画的に行動したからでしょうね。
 武器で虐殺の範囲が変化するとすれば、それこそバグみたいな革新的兵器でも登場しないと変わらなさそうかなぁ、とも。

MukkeMukke 2010/06/28 21:12 Luchsさん>
農村部では実際に鉈を手にしたトゥチ狩りが行われたのでしょうね。行政が関与するというか,行政機構を牛耳っていたお偉方によって行政機構が動員される,といったような形だったようです(要するに,行政もパトロン=クライアント・ネットワークから自由でいられない)。

スピノラさん>
モンゴル帝国なんかはその典型でしょうね。

D_Amonさん>
補足エントリ上げていただいてありがとうございます。あの辺は難しいですよね……

Mikaguraさん>
嫌な言葉ですね,「効率」というのも……

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