トップページ反対派の精神構造と思考構造

反対派の精神構造と思考構造
スウェーデン・バッシング
哀しき他虐史観の産物

選択別姓の反対論者をふくめた、バックラッシュたちは、
スウェーデンを目のカタキにし、スウェーデンを攻撃することに、
血道をあげるかたが、たくさんいらっしゃります。

スウェーデンは、世界でただひとつ、選択別姓を導入している国だ、
などと言って、スウェーデンがいかに不幸におちいっているかを、
とうとうと語る反対論者もいたりします。
選択別姓が認められている国は、スウェーデンだけではないですから、
スウェーデンをいやしめようという悪しき目的が、
ここにはあることが、強く示唆されます。


ほとんどの外国でも、非改姓結婚が認められていると言うと、
「オーストリアは、結婚したあとも、生来の姓が名乗れるが、
同姓の婚氏を定めておく必要がある」とか、
「ドイツは、婚氏を届けるのが原則で、届け出なかったとき別姓になる」
とか言って、「スウェーデンのような完全な選択制ではない」などと、
「違い」を強調してくる反対論者もいるようです。

ところが、もともとは、夫婦で苗字が異なることが、
家族のきずなに影響するかどうかが、問題だったのでした。
ドイツやオーストリアでは、日常的には、ほとんど婚氏を
意識することがないですし、そんな状況において、
完全な選択別姓と比べて、深刻な違いが見られるとは思えません。

くだんの反対論者は、スウェーデンとほんのわずかでも、
「違い」が見つけだせるかどうかに、いつのまにか、
論点がすり変わってしまったのでしょう。
こんなのは、スウェーデンを悪者にするために、
重箱の隅をつついて、揚げ足取りをしているだけと言えます。
まさに、バッシングのためのバッシングと言えるでしょう。

もっとよく言われることとして、スウェーデンの離婚率は
50%もあって、「他国と比べて驚くべき高い」というものがあります。
そしてこれは、選択別姓のせいにほかならないのだそうです。
「離婚率が50%」という数字は、女性向けのサイトに、
出てきたこともありますし、ウェブを見ていても、
この数字ゆえに、なんとなくスウェーデンは離婚大国だと、
イメージされているかたも、すくなからずいらっしゃるようです。

『福祉国家の闘い』(武田龍夫著、中公新書)という本に、
スウェーデンでは、強姦の発生率が日本の20倍以上、
強盗は100倍以上と書いてあるのも、よく引き合いに出されます。
このような高い犯罪率は、まさに選択別姓のような
家族制度のせいで、家庭が崩壊しているからだそうです。
あるいは女性が働きに出て、子どものそばにいないから、
愛情が不足してすさんでくるのだ、などと言うこともあります。

まだいくつもありますが、反対論者たちのこうした主張は、
根拠のとぼしいもので、言いがかりと言ってもよいものです。
つぎのサイトで、このあたりをくわしく検証していますので、
ご覧になるとよいと思います。
「スウェーデンをディスるコピペに対する疑問」
「根拠の乏しい、夫婦別姓反対論」
「スウェーデンは犯罪大国か?」


反対論者の言う、「スウェーデンの離婚率は50%」は、
じつは婚姻数と離婚数の比を、取っているだけだったりします。
「結婚したカップルの2組に1組が離婚している」と、
早合点しそうですが、そうではないので、まちがえないでくださいね。
日本では2006年に、死亡率が出生率を上回りましたが、
これを「日本では死亡率が100%を超えた」と言うのと同じです。
離婚が多いと思わせるための、「こけおどし」でしょう。

反対論者の定義(離婚数と結婚数の比)による「離婚率」は、
スウェーデンは53.6%(2003年)ですが、ドイツとイギリスは、
それぞれ56.3%と54.9%(2003年)で、日本は37.7%(2004年)になります。
スウェーデンだけが、飛び抜けて高いのではないようですね。
おそらく反対論者たちは、ろくに調べもせず、50%という数字だけで、
「他国と比べて驚くべき高い離婚率」などと、言っているのでしょう。

厚生労働省で使われている、本当の意味での「離婚率」は、
人口1000人あたりの離婚の数と定義されています。
日本は2.15(2004年)で、スウェーデンは2.36(2003年)なので、
すでに日本は、スウェーデン並みの「離婚の多い国」と言えそうです。
ちなみに、ドイツは2.59、イギリスは2.80(ともに2003年)です。


犯罪の発生率は、国連の統計や、インターポールの統計など、
いくつかありますが、これらを読むときの注意として、
「国どうしで単純に比較してはならない」というものがあります。

犯罪とされる法律上の扱いが、国ごとに異なるし、
未遂事件の扱いや、警察が犯罪とみなす基準もさまざまだからです。
また統計の取りかたも、国ごとに違いがあって、
たとえば、「強盗殺人」の場合、これで1件する国と、
「強盗」と「殺人」の2件とする国があったりします。

強姦の場合、日本では犯罪と認められるしきいが高いですし、
また女性が泣き寝入りするケースも、まだまだ多いので、
発生率が少なくなることが考えられます。
スウェーデンでは、強姦が犯罪とされる基準がきびしく、
女性も声をあげることが多いので、結果的に強姦発生率が
高くなっているのかもしれないです。

したがって、「強姦の発生率が日本の20倍」と言っても、
意味のないことですし、これを理由にして、スウェーデンが、
日本と比べて強姦の異様に多い「犯罪大国」と言うことは、
まったくできないことがわかります。

ご存知のように、スウェーデンは、社会福祉や家族政策が、
充実していて、女性の社会進出も進んでいる国です。
そのため、社会福祉やジェンダー問題に、たずさわっている人たちは、
しばしばモデル国家として、スウェーデンを評価することがあります。

こうした状況を、選択別姓の反対論者をはじめ、
バックラッシュたちは、ゆゆしく思っていたのでしょう。
そこへ、武田龍夫氏の『福祉国家の闘い』という、スウェーデンの批判
(というより悪口)を、たくさん書いた本が出てきたのでした。
それで、これさいわいと飛びついて、攻撃をはじめたのだと思います。

デンマークやノルウェーなど、ほかの北欧諸国も、
スウェーデンと社会制度は似ているのですが、
これらの国について、反対論者たちがなんとも言わないのは、
なんでだろうと、思ったかたはいらっしゃるでしょうか?
武田の本には、スウェーデンだけで、ほかの国のことは書いていないので、
なにも言えないのだということは、想像にがたくないでしょう。


それにしても、評価している人たちが、言わんとしているのは、
社会福祉や女性政策のことであって、スウェーデンの、
何から何まですばらしいと、言っているのではありません。
ところが、反対論者たちのあたまの中では、「フェミはスウェーデンの
すべてを無条件で礼讃する」とでも、変換されるようです。

それで、あら探しをするかのように、これでもかと、
スウェーデン・バッシングに、興じることになるのでしょう。
まさに、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ですが、
こんなかたちで、外国のことを論難するのは、どういうことなのか、
彼ら反対論者たちには、モラルというものがないようです。

痴漢や下着泥棒は、欧米諸国ではきわめてまれですが、
日本ではとても多く、日本独特の性犯罪と言えるくらいです。
これを「日本は夫婦同姓で、事実上女性に改姓させる、
女性差別をしている国だから、痴漢や下着泥棒が多いのだ」などと、
外国人が言っていたら、あなたはどういう気持ちになるでしょうか?
バックラッシュたちのやっていることは、これと同じと言えます。

武田龍夫氏は、北欧諸国の外交官を長年勤めたかたで、
いくつものすぐれた著作を、書いてもいらっしゃります。
ところが、『福祉国家の闘い』という本は、とてもお粗末なしろものです。

bk1の書評を書いたかたも、「教訓となるお話はない」
「他人の悪口をこっそり聞かされたようだ」
「買って後悔した」と、さんざんに言っています。
ただひたすら、スウェーデンで目についた気に入らないことを、
並べているだけという感じが、わたしもとてもします。
「哀しき他虐史観の産物」とは、よく言ったものです。

犯罪発生率のくだりも、「スウェーデンの統計を読むと」と、
134ページに書いているだけで、出典を書かない非良心的なものです。
さきにリンクしたブログでは、統計資料を探していますが、
「強姦20倍」「強盗100倍」にあてはまるデータは見当たらないようです。
犯罪統計資料の扱いも、「他国と比較できない」という、
基礎的な認識もないようで、まったくのしろうとと言えます。

また、犯罪発生率の高いことと、福祉国家であることと、
どう関係があるのか、関連をしめしているのでもないです。
比較文化論にもとづいた考察は、ないと言ってもいいでしょう。
外交の専門家が書いた滞在体験記だから、相応の水準だろうと
思いがちですが、そうとは限らないという、ひとつの見本でしょう。


武田龍夫氏は、どうしてこんな本を書いたのでしょうか?
べつにバックラッシュに加担したい、というわけではなさそうです。
強盗や強姦についても、単に発生率は高いと書いているだけで、
選択別姓のような家族政策や、ジェンダー政策とか、
あるいは、夫婦共働きのせいとまでは、書いていないです。
これらはバックラッシュたちが、オリジナルで加えたものです。

ここからは、わたし、たんぽぽの邪推になるのですが、
欧米に対する反発、ないし、感情的しこりではないかと思います。
職業柄、欧米人とたくさん付き合うことになりますが、東洋人ゆえに、
彼らからいやな思いを、させられたこともあるかもしれないです。

そんなとき、欧米コンプレックスも手伝って、
「欧米人は、日本人をばかにしている、傲慢なやからだ」と
思ってしまうこともあるかもしれないです。
それで、欧米を研究していて、よく理解しているはずの人にかぎって、
悪口を吐き散らすようなことが、ままあるのかもしれないです。

参考文献、資料
  • 総務庁統計局 世界の統計2007
    http://www.stat.go.jp/data/sekai/pdf/al.pdf(ページ数が多くやたら重い)
    「2章人口」-「2-16 婚姻率・離婚率」(62ページ)。
    本文中に登場した国だけ抜粋しておきます。
    (反対論者式「離婚率」は、わたしが計算して加えたものですよ。)
    年次婚姻率
    (人口1000人当たり)
    離婚率
    (人口1000人当たり)
    反対論者式「離婚率」
    (離婚率/結婚率)
    日本2004年5.72.1537.7%
    スウェーデン2003年4.42.3653.6%
    ドイツ2003年4.62.5956.3%
    イギリス2003年5.12.8054.9%

「反対派の精神構造と思考構造」にもどる
トップにもどる


inserted by FC2 system