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月が導く異世界道中 作者:あずみ 圭

三章 ケリュネオン参戦編

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ふと見れば道は幾つも

[それで良いんですね、二人とも。もう一度だけ聞きますが後悔はありませんね?]

「勿論です。エヴァの名も、アーンスランドの家名も。それが代価だと仰るのなら差し上げます。どうぞ、お好きな様に」

 僕の最終確認に、エヴァさんはまるで悩む様子も無く即答した。
 もっと名前に拘ると思っていただけに意外だった。

「私も、構いません。元々、ルリア=アーンスランドでいた時間なんて少しの間だけですから。未練はありません」

 ルリアも姉に続いて同調した。
 微かに僕から逸れた視線は舞台の方に流れて、消えた。
 ああ、イルムガンドにちょっかいかけられたんだっけ。
 非難しか呼ばない名前はルリアには最早価値の無いものになっているようだと思った。

「ライドウ先生、ルリアにも質問をしていたんですね。意地の悪いこと。もしもどちらかが首を横に振ったらどうなさるつもりだったんですか?」

「ホントに。お姉ちゃんにも内緒に、って言ったのに。そういうのって性格悪いと思います」

[もしも意見が食い違うようなら、お二人にはあの選択を忘れてもらう気でいました。ですが、安心しました。近い内にその時は何らかの形で必ず来ます。どうか、この契約を忘れないように。ただの口約束ですが、もしも破られた時には命だけでは済まない事になるとご理解を]

 一瞬、ロナの事がよぎって僕は言葉を付け足す。
 今回の場合、僕は彼女たちの望みを叶える側だ。
 それほどの心配はいらないだろうけど、念の為。

「ああああああおおおおおおええええ!!」

 改めて姉妹が首を縦に振るのを確認すると、闘技場全体にそれが響いた。
 気味の悪い声がイルムガンド、いや元イルムガンドから吐き出された。
 その体は優しい水色の光に包まれながら、びくびくと時折痙攣しては、身体の各部を膨張させている。
 肌の色もコンクリートみたいな灰色に変色して、人型のナニカになりつつある。
 現状は直径二メートル位の肉だるまに手足がついている感じ。
 変身途中とでも言おうか。
 首なんかも不自然に伸びて結構ホラーだ。 

「他の倒れている者から魔力を取り入れています。察するにあの首飾り、特定の状態にある者の魔力を効率的に収集する為の道具ですね」

 識の冷静な言葉。

「ふむ、感情を釣り針にして魔力を括り、それを本体の目覚めと同時に周囲から回収し始める訳か。足し算出来るならアレだとヒューマン七人分の魔力を持つ怪物が出来る訳じゃな。しかも、それなりの数をバラ撒いておけば誰か一人の発動で他を餌にも出来ると。面白いものじゃな」

 巴はさして興味も無さそうに識に相槌を打つ。

「あれは食べたくありませんわね。悪酔いしそうな上に不味そう。汚いですし」

 澪は汚い不味いもの扱いで顔を横に向ける。
 ジンはまだ戻ってきていない。
 武器を取りに行っただけの途中退場だから、じきに舞台に姿を見せるだろう。

「識、あれが怪物になる仕掛けなのはわかった。で、元には戻せる?」

 エヴァさんとルリアから聞いた話だと、街にも、あのなれの果てみたいのが出ている様子。
 一応戻せる可能性があるかどうかは確認しておかないと僕の指示も変わる。

「難しいですな。あれはヒューマンを材料にした料理のようなもの。料理を材料に戻すのは、出来ぬ場合もございます。例え可能であったとしても、手をかけていればいる程、解明までに相当な時間がかかるかと思われます。果たしてそれだけの価値があるかどうか」

 識はあまり乗り気では無いみたいだ。
 でもあれが、僕の親しい人に向けられないとも言い切れない以上、対策は出来ればしておきたい。
 基本、僕らに味方はいないんだからさ。
 料理を材料に戻すなんて例えを聞いただけで僕はまず無理だと思うから、彼には苦労を掛ける。

「……わかった。巴、亜空からモンドを呼ぶ。ライムと組ませてアクア達の指揮をさせて街の騒動を鎮圧させろ。何体かサンプルにして識とアルケーに研究してもらうから樹刑も使って良い。お前はソレの運び込みも含めて監督してくれ」

「……御意」

 巴が頷いて踵を返すのを確認すると商会に待機していた従業員に騒ぎの鎮圧に動くように念話で伝える。
 ライムと、あとモンドも呼ぶから彼らの指示も聞いて動くようにって。
 街は酷い混乱のようだけど、うちの従業員は誰もが落ち着いたものだった。
 こういう時には本当に頼もしい。
 指示の為に念話を繋いだ時、彼らは陳列していた商品を既に奥に下げ終わっていて、さらに店を覆うように防御結界を展開、中で待機していてくれた。

「識は生徒達のフォロー。イルムガンドがどれだけ化けても識なら問題無いね?」

「勿論です。物の数でもありません。が、今のご指示に一言。商会に今いる者だけでは人数的に街全体のカバーは難しいかと思いますが」

 巴に出した指示で手間のかかる事をやる羽目になった事を察したのか少しげんなりした識が、僕への質問に頷くついでに出した指示の問題点を言ってくれた。

「……そっか。ならミスティオリザードも呼ぶ。魔物と勘違いされても困るから……イルムガンドを無力化させたら生徒を三グループに分けて手伝わせようか」

「三つにですか?」

「ああ、次に生徒に会わせようと思っていた三人目も呼ぶ」

「わかりました」

「それから澪と僕で……」

 怪物の数と位置を把握して、その後は皆のフォローを。
 そこまで考えて僕は口をつぐんだ。
 ……。
 待てよ。
 僕は、なにをしてるんだ?
 不意に昨日の苦味が蘇ってきて考えが中断される。
 確かにロナに一杯食わされた。
 それは彼女からすれば聞かれなかった事であり、僕からすれば当然汲んでくれた筈と思っていた事。
 そもそも同じ陣営にいる訳でも無いのに、今後の予定を勝手に先取りしたような甘い解釈でお願いなんかした自分が間抜けに見える。
 もう簡単に魔族を信用する事は無いと思うし、彼女との約束も、僕の中で大分意味合いを変えている。
 でもだからと言って、僕がここでクズノハ商会を動員して混乱を鎮圧する必要はあるんだろうか。
 ロナへの牽制にはなる。
 騙された事への意趣返しにもなるだろう。
 でもそれ以外の僕らへのメリットは?
 そうだ、考えてみろ。
 集中して一人で考えるいつものじゃなく。
 それは僕がこれまで慣れ親しんできた思考法だ。
 一人で弓を引くのが長かったからか、考え事は一人で深く行い、そのまま完結する事が多かった。
 だけどこっちに来てからは僕自身の限界からか、どうも上手くない。
 視野が狭いんだな。
 色々なものを天秤にかけて、その選択の先も、出来る限り考えないと。
 あのギルド代表の口にした考えも、損得を一番に考えるあのやり方も、参考にすべきかもしれない。

(巴、悪い。戻れるか)

(は。問題ありませぬ。モンドも亜空に戻しておいた方がよろしいですか?)

 もうモンドは商会に来ているのか。
 別に戻す必要は、無いな。

(いや、良い。ただ行動に出るのはちょっと待ってもらって)

 って、僕が自分で伝えれば良い事か。

(では待機を続けるよう命じて戻ります)

(ありがと。少し相談がある)

 まあいいや。

「識、さっきの指示は無し。二人とも、ちょっと聞きたいんだけど」

 今は非常事態の匂いがする。
 でも商会としてじゃなく、街に暴力がって意味の非常事態。
 つまり僕ら以外にとっての危機的状況だ。
 これって僕にとっては、かなりチャンスかもしれない。
 火事場泥棒なんて言葉があるけど、今はまさにその火事みたいなものだ。
 皆浮き足立って怪物という脅威に襲われている。
 僕がそれを狙ったんじゃないから付け火からの非道な泥棒行為と例えるのは違うけど。
 ここで僕が焦る必要は全く無い。
 荒っぽい方面なら結構どうとでも出来ると思っているから。
 泥棒ほどじゃなくても状況を利用する心づもりで動けるんじゃないだろうか。
 幸いと言うかなんというか。
 周囲は広々としている。
 皆異変に気づいて闘技場から次々と逃げ出しているからだ。
 正にパニック。
 イルムガンドだったモノさえ何とかすればここは結構安全だと思うのは、僕らみたいな少数派なのかもしれない。
 とは言え、恐らくレンブラントさんはこの状況なら僕を探そうとするはずだ。
 大体の位置は昨日伝えた席の番号でわかるだろうから、ゆっくりと会議するのは内容によっては危ない。

「ああ、巴。悪いね、ころころ意見を変えて。三人に相談したいんだけどさ、この状況、どうするべきかな? 僕とクズノハ商会としてはどんな動きが理想的なのか、識はどう思う?」

 巴の戻りを待って識に意見を求める。
 一番ロッツガルドとクズノハ商会を知ってくれているのは識だから。

「どう動くか、ですか……。エヴァとルリアはここに居るわけですから、まずはこの場所は安全にしておく事かと。商会として利益を、となると以降はいっその事最小限にしか動かずにおくのも手と考えます」

「動かない?」

 エヴァとルリアは識の言葉に少し安心したようだ。
 彼女たちにも、もう何を聞かれても構わない。
 二人とは契約を交わしたのだから。
 勿論、魔術としての契約じゃなくて、約束事って意味で。
 破れば覚悟してもらう旨も伝えてある。
 どう解釈するのも二人の自由だけど、それ程甘く考えてもいないだろう。

「はい。今後の商人からの要求その他にしましても、この騒ぎの被害が大きければ大きい程遅れる事が考えられます。そこまで上手くいく保証はありませんが、もしかしたら幾つかの商会は消えてくれるかもしれません。どちらにせよ、騒動を早急に鎮圧して我らの力を示してしまうよりは利が大きいかと。下手に率先して助けてみて図に乗ったギルドや大手商会の私兵の様に扱われてはたまりませんし、ギルド代表が喚いたように本当に利益の九割だの、流通の手法を共有しろだの無茶を要求されかねません」

 なるほど。
 ロナへの感情で動いて彼女の思惑を叩いたとしても、そこに利益は少ないかあ。
 魔王に対する牽制にもなるか、なんていう僕の発想は確かに危険かも。
 ギルドの方は……まだどうなるかわからないからな。
 碌な事にならないと半ば見えているから、今こうして少しでも足掻こうと思ってる訳だけど。

「巴はどう思う?」

「そうですなぁ……」

 巴は何か考え込んでいる様子だ。
 てっきり識に同調するかと思った。
 利害を冷静に見れるという所ではこの二人は似ているから。

「敢えてこの騒ぎを鎮圧して見せるのも手ですな。それも、正義の味方の様に」

「どういう事?」

 正義の味方って。
 また巴の悪い癖が出てきたか?

「商人どもに対してはこちらの戦闘能力を測られるデメリットもありますが、限りなく人命を尊重した上で見返りを求めず。店では無くこの都市の住民を味方にする事を目的として立ち回るのも良いかと。どれほど噛み付きたくとも、住民から英雄の如く好感情を向けられているとなれば手を出すにもそれなりの覚悟が必要になりましょう。例え見える部分だけでも、本当に善意の、住民たちを守り救う者である事は悪意に対しては意外な防壁になってくれるものです」

 演じるって事か。そうなると早期解決は必須だな。

「ならすぐにでも動いて事に当たらないとまずいね」

「いえ。まだ早いでしょう。それなりに被害が大きく、住民に絶望がさし始めた時が頃合かと。何事にも演出が重要ですので。開始五分で印籠では、ありがた味も薄まりますからな」

 彼女の言葉から行動を提案してみたけど、巴の意見は違った。
 ……そうか。
 確かに、正義の味方は誰かが襲われる前よりも襲われてピンチになってからの方がよく出てくる感じだ。危機になる前に動いて片付けたら誰も感謝してくれないよね。
 巴はその感謝を狙えと言っているんだ。
 成る程、最初にピンチがあった方が良いのか。
 となると、まだ時間はかなりあるね。
 街の何分の一かが崩壊する位まで待つか、街の防衛戦力と怪物が拮抗した時に行けば結構インパクトはありそうだ。
 ただ、それをやるともっと早く動けなかったのかと恨まれる可能性もあると思う。
 理由付けを上手くしないと諸刃の剣になりそうだ。

「澪は何か意見ある?」

 正直、あまり期待しないで澪に振る。
 彼女は直感からたまに凄い事を言うけど、基本的には考えるな感じろの人だから。

「この機に邪魔者を全部消してしまうというのはどうでしょう。今なら混乱に紛れて面倒になりそうな輩は仕留めておけると思います。若様の障害になっている商人だけを消すと疑いが向けられるかもしれませんが、そこそこ多めに消しておけば誤魔化せますわ」

 邪魔する奴は皆殺し。近くにいた奴も皆殺しって奴ね。
 何てストレートな意見だ。
 確かに即効性はあるだろうね。
 ただ、根っこを残して雑草を刈るようなものだから根本的にはあまり解決にならない気がする。
 多分にあの代表の印象が影響しているけど、商人ってそれなりに成功している奴はねちっこいだろうから今声を出している連中を何とかした所でそれだけで終わるとも思えない。
 そう思うとレンブラントさんは結構希少な人だったんだな。
 彼とて過去はどうだかわからないんだし。

「では、若はどうお考えで? 先ほどの指示を止めたと言う事は、曖昧ながら基本となる指針の素はお持ちかと察しましたが」

 巴から逆に質問された。
 確かに、その指示とは違う方向で少し思ってる事はある。

「……まあ、ね。僕らが何もしなかったとしても事態は解決するんじゃないか、と思ったのが一つと、もう一つ、魔将のロナへの感情だけで学園都市を救う事が今後の魔王との謁見を含めて考えると、どうなるのかって思ったんだ」

「ほう、魔王との謁見。如何なる形であれ、魔族の王と会って交渉をするお心算つもりなら鎮圧はマイナスになるでしょうな」

 巴の言う通りだ。
 少なくともプラスになる事は無い。
 と言うかお前には僕が話したんだから知っているだろうに。
 たまに何かを企むからな、巴は。
 さっきの答えも、もしかしたら選択肢を増やす意味で付け加えたのかも。
 識とも澪とも違う選択肢を示したし。
 もっとも、今は巴の内心を推し量る時じゃない。
 ここまで彼らに直接敵対していないから交渉する気になった訳で、今動けば魔族との交渉は全部水の泡になるかもしれない。
 荒野で魔族を数人倒してしまったけど、彼らとの事は誰も知らない。
 ただ巴が、自分を利用しようとした魔族がいたらしいと僕が教えた範囲で知っているだけ。

「ケリュネオンは、巴の指した地域だけでも欲しい。あんな奥地にあって、さして広くもなく、しかもエヴァさん達からの情報だと特産品があるでも資源が豊富な訳でも無い国だった所だ。未開の場所も多かったようだから将来の価値はともかく今魔族にとって価値があるとも思えないんだ。そんなに難しい交渉じゃないだろうって僕は思ってる。でも、彼らの作戦を潰したヒューマンとしての僕との交渉となれば、何かを貰ったり借りたりするだけでも物凄く難しくなるんじゃないかとも思えるんだ。ヘタをすれば会う事さえ出来ないんじゃないかってね」

「ケリュネオンについてのそのご推測はおそらく当たりですな。城を再利用したであろう砦に兵はおりましたが大した数でもなく、また警戒態勢でもありませんでした。軍事的な意味よりも、開墾を進める為のベースとしての扱われ方をしていたように感じました」

 巴の言葉に静かにしていたエヴァとルリアが目を見開く。
 当然だろう。
 だって、巴は今のケリュネオンを見てきて話している。
 それはヒューマンからすれば信じ難い事だ。
 ケリュネオンは魔族の支配領域のかなり奥まった場所なんだから誰もその現状など知る筈も無い。
 そしてこの事実こそ、僕が馬鹿げた事を考えた切っ掛けでもある。

「学園都市を鎮圧すれば、多分どれだけ上手くやってもロナには僕らの仕業だと思われる。巴と識の案を採用した場合ね。で、澪の案を使った場合、完全に魔族側に移住でもしないと後々ロッツガルドとツィーゲの店、それに僕と関係した人に迷惑がかかる可能性がある。これは今回何もせずにいて、さらに魔族との繋がりがバレた時の最悪なケースの話だけど」

 段々考える範囲が広がって末端まで展開がわからなくなってきて自分の中に混乱が始まりつつあるのがわかる。
 でもまだおおよその事を考えながら整理出来ている。
 もう昨日みたいな感じでやりこめられるのも嫌だから、頑張らないとな。
 我慢だ、我慢。
 一人なら簡単に完結出来るのに、他人を交えて考えをまとめようとすると異物が混ざってくるようでまだ難しい。
 現代にいた頃はこんなに真剣に何かに悩んだ事なんて無かったしなあ。
 将来だって漠然と弓道に関わって食べていけたら良いな、位にしか考えてなかった。

「若様と関係があると言いますと、レンブラント商会と学園の生徒位でしょうか。後は、ツィーゲの冒険者が何名か入りますか」

 識が補足してくれる。
 冒険者とは巴と澪の方が関わっているけど、クズノハ商会としては間違いない。
 僕があそこで直接関わったのはトアさん達くらいか。
 ライムにしても今の関係は巴経由みたいな感じだし。
 それに彼はもう亜空を知っている、いわばこちら側の人だ。
 レンブラントさんと生徒は、どうしようか。
 あの商人ギルドの代表の言い方だと、レンブラントさんが僕を搾取していた形にすれば彼がそこまで非難される事はなくなる可能性もありそうだ。
 ヒューマン全体に僕が魔族側だと知られる事にならない限りはそこまでの心配はいらないと思う。
 いや、それでも何があるのかはわからないか。
 最悪連れ出すのも考える必要があるかも。
 生徒については、まあ僕の従業員でも何でもない。
 累が及ぶ事なんてあるか?
 臨時講師が魔族と通じていたなんて言った所で、講義を受けていた生徒よりは学園の方が非難されるイメージなんだけど。
 別にあそこで意味不明な雄叫びを上げているイルムガンドみたいに危険な薬物は使ってないし、亜空の果物だって事前の検査で問題が出てきていない以上は問題無しの範囲内なんだろう。
 ……人を変異させる下地作りに使われる薬物も問題無しなんだから、少し疑問もある。
 それにジン達はあそこで力を見せた。
 多くの人が目撃している筈だ。
 それを考慮した上で尚彼らを責められる者がいるか。
 ヒューマンのこれまでを考えるなら、上手く匿って利用しようとする奴の方が多いんじゃないか?
 生徒については放置してもあまり心配いらない気もする。
 損得で考えてみると、成長めざましいと言っても現状は大した戦力じゃないってのもある。
 最悪は引き取れば彼らの身は安心だけど、そこに僕のメリットが無い。
 ……。
 そうなんだよな。
 利害優先で考えれば、学生を案じる必要は無い。
 むしろ魔族につく気なら切り捨て一択だ。
 力に釣られて生徒は講義を受け成長した、けれどそこには臨時講師が実はまずい出処だったって言う見えないデメリットがあった。
 それだけだもんな。
 でもなあ……。
 さらに言えば、レンブラントさんにしても……澪の言う様にやるなら必ずしも関係を続ける必要も無いんだけどさ。
 どちらも人として僕に躊躇いがあるだけなんだ。

「若。レンブラントがこちらを目指しているようです」

 レンブラントさん、やっぱり来るか。
 確かに最初は成り行きだった。
 でも彼に会って商人を続けていきたいと思った。
 今は愛着もある。
 しがらみを全部捨てて魔族の側でやり直すか。
 数少ないとは言え、親しくなった人を大事にするのか。
 これから色々な人と渡り合っていくのに今の僕の甘さは邪魔だけど。
 全部割り切って良いのか。
 そんな不安が拭えない。
 くそ。
 時間が無い。
 でももう結論を出さないと。
 いや、これも違うな。
 焦るな。
 周囲は大混乱に近い騒ぎだったのが、少し落ちついてきている。
 冷静になったんじゃない。
 半数を超える観客が逃げ出し終えただけだ。
 まずはレンブラントさんと会ってから、もう一度考えれば良い。
 よし。
 僕はレンブラント夫妻が僕を見つけて足を早めるのを確認して、逸る気持ちを抑えた。
真の思考は入り乱れております。
読み難いかもしれませんがご容赦下さい。

ご意見ご感想お待ちしています。
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