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修羅の国受難

日常

今日は男尊女卑で知られる修羅の国における個人的な受難をグチグチ書きます。

 

かつて父の口癖は「えらそうな口を利くなら自分で稼いでからいえ」でございました。
幼少期、迷子になって警察のお世話になり、ようやく家に帰り着くと「門限破りだ」とぶちくらされます。最初から迷子にならなければぶちくらされないわけです。迷子になったのが悪いんだからぶちくらされて当然というわけです。

 

高校に入ってからも門限は17時。少しでも部活動など参加すると「15時ごろ下校している生徒がいた!おまえは何をしているんだ」と帰宅後ぶちくらされます。

男女交際なんてもってのほか。地元の文化センターにやってきた谷山浩子のコンサートの帰りに、ばったり出会った先輩男子と立ち話をしていたことがありました。迎えに来た父は一目見るなり「男とつきあうのはまだ早い」と問答無用で娘をぶちくらすのでございました。

 

ラジオに投稿するネタはがきを取り上げられ、恥ずかしさに取り返そうとすると「何様のつもりか!」とぶちくらされ、椅子から転げ落ちます。

父の部屋でこっそりレコードを聞いていると文字通りドアを蹴破って入ってきて、鋭利な金属製の重いオーディオアンプを投げつけられます。そんなときの父は目の赤い王蟲みたいなものなので、平素たいせつにしている自分の持ち物をうっかり壊してしまうのです。もちろんそのあとぶちくらされます。

 

なぜこんな乱暴狼藉がゆるされるのか。なぜなら父は稼いでいるからです。家庭内で正当な発言権があるのは稼ぎがある父だけ。妻や子供にモノをいう権利はありません。「文句があったらベルサイユにいらっしゃい」ってなもんです。

 

わたしに・・・仕事があったら・・・!

 

そんなある日、ついに堪忍袋の緒が切れたわたしは下校時に家出して東京へ。その後神奈川で就職して一人暮らしをはじめました。無断で学校を辞めたこと、家を出たことでもちろん父は激怒しましたが、就職したわたしには経済制裁が効きませんでした。*1ざまあみろ。金で自由は買えるのだ!ブラボー!とわたしは思いました。

 

そんなわたしのひそかな誇りは親にお金をかけさせなかったことでした。親元に残った兄弟姉妹はなんだかんだで「え!」という額を親から引き出していました。彼らはいつも親に不満たらたらでしたが逆らうことができません。わたしはたいそうつましく暮らしておりましたが「ここにあるものはみんな自分で買ったのだ」ということが誇りでした。

 

しかし3年前の春。仕事で上京してきた父はわたしに言いました。
「おまえには何もしてやらなかった。だからおまえさえ気に入れば生前贈与として俺が持ってる博多のマンションをやる」

まじで?!

 

ってなわけで半信半疑でその週のうちに視察に来て、あれよあれよというまに翌月には福岡へ移転する運びとなりました。実際にはマンションといっても古い分譲団地だし、博多から30分以上かかるしで、市場価格にすればささやかなものでした。それでも日当たりがよく広々とした部屋は父の愛情のあらわれと思えば十分ありがたく思えたのです。

 

引越し後。

「やあ、よかった。もっちゃんも会社に入ってくれたし、おまえも近くに住むと思うと俺はうれしい」
「うん。喜んでもらえてよかったよ。ところで名義と贈与の手続きはどうしたらいいの?」
「ああ、あの部屋な。会社の持ち物なんだよ」
「え?」

 

父の話を要約すると「経営ははてこ弟に譲ったから会社のものは社長のもの。銀行でローンを組んで会社から買え」ということでございました。

さすがは海千山千で生き馬の目を抜く渡世を生き抜いてきた経営者、いうことが違います。そうだよね、ありえる話だったよね。親子だからつい油断しちゃったよ。感動的な和解話かと胸を打たれたわたしどもが間抜けなのでございます。

 

いまにして思えば父の狙いはわたしではなくもちお。「将を射んと欲すればまず馬を射よ」ということで疎遠な娘を呼び寄せ、婿と酒を酌み交わし、父はあふれる魅力と圧倒的な丸め込み力でまんまともちおを虜にしたのです。

 

 

今日はこっからが本題です。

 

 

そんなわけでいまわたしは身内の持ち家に賃貸で暮らしております。去年の暮れに浴室とトイレで共有している換気扇が老朽化で壊れました。型が古いから天井壊す特殊なやり方じゃないと直せないんだって。へえ、そうなんだ。おいくら?

 

換気扇修理としては、ちょっとびっくりする額だった。

 

こういうのふつう大家が直すじゃないですか。そうだよね?

 

で、大家である父にいうと、社長(はてこ弟)にいえっていうんですよ。
で、弟(社長)は、会社のものは会長(はてこ父)のものだっていうんですよ。
なんでもいいから直してよ。

 

しかもこの話、わたしが直接弟や父に話すともちおが怒るんですよ。
俺を飛ばすなと。
なんだか知らないけれど、こっちは女が直接男にものを言うのはダメらしいんですよ。

 

妻は夫に話して、夫が経営者に話して、経営者は会長に話を通さないとダメなんだって。途中飛ばすと飛ばされた人の面目丸つぶれなんだって。あと身内であっても女から直接意見されると周囲から見下されるみたいな風潮があるらしいですよ。

 

なんかもうもちおは会社でね、「妻に口を出させるな」ってすごく言われるみたい。引越しが決まってからは「姉になめられてなるものか」って弟も戦々恐々としてたらしい。弟に会う前に「あいつはもう大人だからおまえは弟にもの言うな」って父から何度も何度も言われたしね。

 

「なにそれ」「いや会社の経営とか興味ないから」って思いますけどね、わたしももう大人なので、地域の変わった風習もマナーとして尊重しておくかなと思うんですよ。親兄弟とはいえ家族じゃないしね。

 

まあそんなこんなでね、「じゃあ見積もりをとるから」ともちお経由で弟の話を聞いてからもう11ヶ月ですよ。1ヶ月じゃないですよ。十一ヶ月。じゅういちかげつね。

 

換気扇まわらないまま11ヶ月。窓のない浴室とトイレで。
もうだいぶ発狂するよね。

 

その間にしびれを切らしたわたしが何社か業者に見積もりを頼んだんですけどね、それも直接弟のところに出したらダメだってもちおが言うんですよ。

「じゃあおまえがさっさと持っていけよ」
と思いますけどね、もちおもだんだん女に意見されることで昔以上に傷つく感じになってきちゃって、もうやりづらいったらない。

 

わたしはただ浴室がいい具合に乾燥してくれればいいんですよ。入浴後タイルを全部拭き上げる生活から開放されたいんですよ。あとトイレを使った後あれこれしなくても自然に換気されるようになってほしい。それだけですよ。なんなの?お役所なの?

 

ほいで、昨日やっともちおが見積もりを弟に提出して話をしたらしいんですけどね、弟、なんていったと思います?「じゃあ見積もりをとるから」って言ったそうですよ!*2年の瀬に出前する蕎麦屋か!

 

あともちおには「台所の換気扇もダメだから、これこれこういう理由で業者がこういっていたからその辺も話を通してほしい」と再三念押ししておいたんですけどね、言ってないんですよ。これが。

 

台所使わないからわからないんだよ!って思うじゃないですか。
風呂場拭かないで便所掃除しないからわからないんだよ!あんたたちは!って。

でもなんかね、こういう魂の叫びであっても女から言われると傷つくらしんですよ。

 

でもいわないと進まない。11ヶ月。子供なら生まれてきょろきょろしだすくらいになってる。

もちおとさんざん揉めてから、さっき弟に直接やんわりLINEで現状を報告しましたけどね、また「会長が」「見積もりが」っていうんですよ。

ここまで待って、譲歩して、LINEを数行送ったくらいでね、女に意見された弟も、自分の報告にダメだしされたもちおも「面目丸つぶれ」って顔しますよね。「まったく女は仕事がわかってない」「こいつは俺らの立場や心情を汲んでくれない。なんて鈍感で自分勝手なんだ」って。*3*4

 

男尊女卑だって女尊男卑だっていいんですよ。家庭内のごっこ遊びみたいなものなら。役割分担に当事者同士がそれで納得していてしあわせなら。でも風呂の換気扇直すのに面子とかどうでもいいだろ。誰が言ったかとかどこで言われたかとか関係ないだろ。問題は湿気なんだよ!とわたしは思うのです。

 

ああ、やっぱりそうだ。金が人を自由にするんだ。ここでは稼ぎの少ないわたしに発言権はないんだ。こんな部屋、ポンと一括で買える貯金があれば「うるさい黙れ」ってなるのに。

 

そう思いました。

 

金がないと発言権がなく、換気扇一つ直すにもこんなに待たなければならない。

ブログなんか書いてる場合じゃないですよ。働かないと。働いて自由を手にしないと。 もちおが九州男児に染まりきる前に。

 

*1:ちなみに母の殺し文句は「言うことが聞けないなら出て行きなさい」でしたが、これは出て行ってしまった娘には効かない。

*2:わたしが業者に出してもらった見積書は目も通さなかったらしい。

*3:ちなみに九州、とくに福岡で生まれ育った女性はこういう男性をよしよしするのが上手な人が多いです。ナチュラルなアイドル対応、お水スキルが高い。熊本出身の森高千里や福岡出身の橋本環奈や松田聖子がけして上から目線にならないのはその辺じゃないかと思う。

*4:弟はそういう女性に非常にモテるので、いまとなっては姉と会話することはほぼ不可能。いっぽう全国各地で女を口説いてきた父はそれが標準対応でないことは理解しているので、場によって態度を使い分けている。