「顧客の創造」がマーケティングの目的である
2015年11月10日 森光威文

「この会社を薦めたいですか?」
究極のワン・クエスチョンが
業績アップへの道を開く

【プロフェッショナルからの提言】

「顧客満足度(CS)は高いのに、業績が上がらない」と悩む経営者は多い。そこで注目したいのが、ベイン・アンド・カンパニーが開発したNPS(ネット・プロモーター・スコア)だ。業績との相関性が高いことから、欧米ではCSよりも有用性の高い経営指標として活用されている。

顧客とのエンゲージメント度が
単純明快にわかる

Takefumi Morimitsu
一橋大学法学部卒業、ペンシルバニア大学ウォートン・スクール経営大学院修士課程(MBA)修了。東京、ソウル、ボストンオフィスなどで幅広い業種のコンサルティング経験を持つ。企業買収・統合後の事業戦略立案・価値向上プログラム立案および実行支援に数多く参画。顧客ロイヤルティではNPSを使った数々の企業のコンサルティング経験を有しており、講演や寄稿、番組出演も多数。

 どうすれば顧客との強い関係(エンゲージメント)を築き上げ、より強固にしていくことができるのか。

 企業にとって永遠の課題であるが、この課題と真摯に向き合い、明確な答えを探し続けることの必要性は、近年ますます高まっていると考える。

 それには、いくつかの理由がある。

 第1に、企業を取り巻く市場環境の変化は、年を追うごとに目まぐるしくなっている。その中で生き残っていけるのは、ダイナミックかつ柔軟に変化に対応していける企業だけだ。

 エンゲージメントの強い顧客は、そうした変化を教えてくれる助言者であり、また、環境がどんなに変化しても顧客であり続けてくれる可能性が高い。

 第2に、市場や業界のボーダレス化が進むにつれ、海外や異業種からの新たな競合相手に顧客を奪われる可能性は高まっている。しかもITの普及とともに、たとえニューカマーであっても、新規分野の顧客にリーチすることは非常に容易になった。顧客からすると、既存の企業以外にも選択肢が無数に増えているのだ。

 消費者は、自分たちを向いているのはどの企業か、どこまで自分たちの声に耳を傾けているのかということを敏感に峻別する。自社はどう評価されているのかを知り、その声を反映しながら商品やサービス、業務の改善を繰り返していくことが肝心だ。

 その指標として有効なのが、ベイン・アンド・カンパニーのフレッド・ライクヘルドが開発したNPS(ネット・プロモーター・スコア)である。

 NPSは、顧客と企業のエンゲージメントの度合いを単純かつ明快に示してくれる指標だ。設問もいたってシンプルで、「この企業(あるいは、この製品、サービス、ブランド)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という究極の問いを顧客に投げ掛け、0~10点で回答してもらう。

 9点または10点をつけた人を推奨者、7点か8点をつけた人を中立者、6点以下をつけた人を批判者と分類し、推奨者の割合から批判者の割合を引いた数値がスコアとなる。

シンプルな設問が
詳細な分析に役立つ

 顧客のエンゲージメント度合いを測る代表的な指標の一つに顧客満足度(CS)があるが、最大の違いは、NPSのほうが業績との相関性が強く、過去との変化も見えやすいことである。
 実際、最近の研究でもNPSリーダー企業は、それ以外の企業に比べて2倍の成長を達成していることがわかった。

 CSが「満足しましたか?」と過去の経験を問うのに対し、「親しい人に薦めたいですか?」と将来を問うNPSのほうが業績に直結しやすいことは、納得できるのではないだろうか。

 設問がシンプルであるがゆえに調査が実施しやすく、スコアがどのように変化していくのかが見えやすい。また、拠点ごと、あるいは販売現場、コールセンターといった機能ごとの調査を行えば、満足度を下げている拠点や機能を、より詳細に特定することもできる。

システムとしてのNPSの推進

 これらのメリットは、すでに欧米では十分に認知されており、1000社を超える企業が何らかの指標としてNPSを使用していると見られる。

 たとえばNPSの活用によって全米一のレンタカー会社になったエンタープライズ・レンタカーは、最も成功した企業の1つといえるだろう。

 同社はすべての営業所のNPSを社内公開して、互いにその向上を競わせた。ある営業所が空港送迎バスの客に無料のペットボトル水を配るサービスを開始したところ、NPSが大幅にアップし、それを見たほかの営業所も次々と真似をするようになった。このように、施策の結果がすぐに表れ、成功例を横展開できるのもNPSの大きなメリットである。

 大切なのは、NPSを単なる調査に終わらせるのではなく、エンタープライズ・レンタカーのように商品やサービスの改善を促すための仕組みとして機能させることである。その意味で当社は、NPSの「S」を、「スコア」ではなく「システム」(仕組み)と言い換えることを提言している。

 そして、この仕組みを回すためには、調査に協力してもらう顧客に「協力することには意味がある」と思ってもらうことが非常に重要だ。
 通常NPSでは「親しい人に薦めたいですか?」という究極の質問のほかに、その理由や要望についても簡単に答えてもらうことが多い。言うまでもなく、改善策がより明確になるからだ。

 寄せられた要望には、きちんと耳を傾け、なるべく迅速にアクションに結びつけることが肝心である。これを「クローズ・ザ・ループ」という。

 ループが完結すれば、顧客は調査に協力することへの意味を感じるようになるし、従業員は改善の取り組みを「当たり前の日常業務」としてとらえるようになる。その相互作用によって改善の好循環が生まれるのである。

 こうしたフィードバックを回す仕組みを企業文化として定着させれば、おのずとスコアとしてのNPSも上がり、企業の成長に結びついていくはずだ。

(構成・まとめ/渡辺賢一 撮影/有光浩治)