みなさんこんにちは!グルメ修行僧・東山です。
今日は「両面焼きそば」なる、B級グルメ戦国時代の風雲児なる料理を求め、新高島平駅にやって参りました。なんでも、その店には「日本一の焼きそば男」を公言する店主がいらっしゃるようで、30年近く焼きそば屋を営んでいるそうなのです。果たしてどんなお店なんでしょうか……
今回ご紹介するお店「あぺたいと」です。創業が1988年だけあってレトロな外観です。 こういうお店大好きなんですよね~。
どうやら今日、人生29年間で培った焼きそばに対する認識を捨て、本当の焼きそばというものを知ることができそうです。
店内の雰囲気も、昔ながらな感じのカウンター席でいいですねぇ~。カウンター以外にもテーブル席もあります。卓上には、100円を入れてやる星座占いのマシーンがあります。懐かしすぎいぃぃぃぃぃ!
芸能人も多数来られている様子。
このように店内の雰囲気を堪能すること約3分……ついに、話題の「両面焼きそば」がやってきました。
両面焼きそば(中) 850円
おぉーーー!!
てっきり焼きそばの上面がパリパリに焼かれているものを想像していましたが、違うようです。上に乗せられている生卵の妖艶な魅力に抗うことは不可能。
サイズは、小・中・大があり、写真の(中)は麺を1.5玉使用しているらしく、もやしもたっぷり入っているため、結構なボリュームです。
麺は、通常の焼きそばよりも細めでストレート麺です。低加水麺を使用しているようで、麺の密度がギュッと詰まっている感じがしますね。もやしもシャキシャキ。
ではいただいてみます。
んまーーーーーーーーーーーーいっっ!!
まず思うのは、「今まで食べたことがある焼きそばとは全然違う!」ということです。
普通の焼きそばは、麺の食感はやわらかモッチリで、そこに甘めで濃い味のソースが絡んで、全体的に濃厚な食べ物だと思うんです。しかし、あぺたいとの両面焼きそばは、まず麺自体の味がすごい味わえるんです。
硬めのシャッキリした感触の、密度が高い麺なので、噛んだ時に小麦の甘みや香りがすごくしっかりと感じられるのです。しかもしっかり焼き目がつくまで焼かれている麺もところどころにあり、その麺のカリッとした食感が楽しい。
そして、その麺の味を活かしているのがソース。甘みが控えめでさっぱりとしていて、キレがある味わい。でも決して薄かったり、味が尖っているわけではなく、旨味がたっぷりあってコクのある味わいなんですよ。なんでもこのソースに辿り着くまでに10年の歳月を費やしたそうです。
焼きそばだから「甘くて濃厚で、油多めなコッテリ味!」というイメージをもって食べると、その違いに驚きます。そこにあるのは……
「麺の味わいを充分に活かすために、上品な味わいのソースで調味された、計算され尽くされている麺料理」
なのです。まさに目からウロコが落ちる思い。焼きそばとは、こんなにも麺を味わえる 料理だったのか!?考えてみればそれもそのはず。焼きそばの主役は麺ですからね。
Wao...How beautiful..... これは美術館に飾っても全く違和感のないビジュアルを呈しています。
しっかりコシのある食感の麺と、トロトロ卵のコントラストが絡んでたまりません!
あぺたいとの創業者であり、店主の飯野雅司さん。今回は特別に作り方をレクチャーしていただけることになりました。
あぺたいとの焼きそば作り、実況中継させていただきます
大きく使い込まれた鉄板です。焦げなんか一切ついてないんですよ。
麺を茹でる羽釜。焼きそばは通常、蒸した麺を使用することが多いですが、あぺたいとでは注文が入るたびに麺を茹でているんです。こっちの方が手間はもちろんかかりますが、味は断然良いそうです。
まず、熱した鉄板に油をひき、細切りにした豚肉を乗せます。長年の研究の結果、豚肉は赤身と脂身の割合が8:2になるのが理想とのこと。
麺は加水率低めのストレート細麺。博多ラーメンの生地を焼きそば用に仕立てているとのことです。
そして、なんと自家製麺! ラーメン屋で自家製麺をやっているところは珍しくないが、焼きそば屋では初めて。麺を作る際にも「エネルギーの法則」を取り入れた、特別な麺らしい。「エネルギーの法則」についてはのちほど……。
麺を茹で上げます。この時点ではバリ硬に茹で上げて、焼いている間に火を通していくようです。
茹でた麺は、鉄板の豚肉の周りに並べて、表面を焼いていきます。ここで豚肉の旨味を麺が吸って、一体感が増すそうです。計算されているなぁ~~!!
よっ!とひっくり返すと……
いい焼き色ですねーーーー! 焼きそば鑑定団がいたら高額査定は間違いなし。
こうして裏返したら、もう片面もしっかり焼いていくんですよ。これが「両面焼きそば」の名前の由来なのですね。ここでしっかり両面を焼くことで、焼いた麺のカリッとした食感と、内側の焼き目がついていない麺のやわらかい食感とのコントラストが生み出されます。
豚肉を脇によけて、
もやし投入! もやし1袋分くらい入れてないでスか!?なんという気前の良さ。
麺と具を混ぜ合わせていきます。とにかく手早く炒めていきます。
早い!とにかく早い!みるみる内に、麺と具材がどんどん混ざっていきます。
ソースはしっかりあらかじめ計量してあります。計量は料理の基本中の基本でありながら、極めて重要な要素です。
ソースを投入!!ジューーーーー!という音と、素晴らしく香ばしい匂いが立ち上ってきます。
更に混ぜて、混ぜて……
皿に盛り……
中央に卵を落とします!だるまの目に筆を入れるが如き神聖な作業。
はい完成!召し上がれ~~!!
飯野さんに色々とお話をうかがいました
――いやーー!両面焼きそばおいしかったです!焼きそばを食べてこんなに麺のおいしさを感じられたのは初めてです!
飯野さん「ありがとうございます。焼きそばというのはね、“麺の茹で方”で味の95%が決まるんですよ」
――ホントですか!?茹で方のコツなどはあるのでしょうか?
飯野さん「科学的な根拠は分からないんだけど……麺を茹でて、引き揚げる時の“回転”がポイントなんですよ」
――か、回転……?
不思議そうな顔をしていると、厨房で詳しく説明していただけました。

タオルを麺に見立てて解説しますと…
1. 麺を引き揚げる時に、図のように湯の水流と逆に麺をザルで回転させます。
2. この時に麺と湯がぶつかり合い、麺の表面に膜ができ、旨味が閉じ込められるそうです。
これは、飯野さんが30年近く焼きそばを作り続けていく中で発見した独自の理論なのだそうです。
――麺は「エネルギーの法則」を取り入れた特別な麺なんですよね?「エネルギーの法則」とはどのようなものなのでしょう?
飯野さん「これも科学的な根拠が分からないのですが、右回転というのは“強める”作用があり、左回転というのは“弱める”作用があるんですよ。それをエネルギーの法則を呼んでいます」
――なるほど。それを麺に取り入れるとはどのようなことなのでしょうか?
飯野さん「麺を作る際にかんすい(麺にコシを与える粉末状の添加物)を水に溶かす工程で、右に50回混ぜて、左に50回混ぜ、最後に右に50回混ぜるんです。こうすることで、かんすいがしっかり溶けて、なおかつかんすいの作用が麺に強く作用するようになるんですよ」
――料理を作るときに回転の方向なんて考えたこともなかったです!不思議な話ですねぇ。
飯野さん「そば屋では、“かえし”といって、醤油にみりんや砂糖を溶かして、甕(かめ)にいれて地中に埋めて寝かせて熟成させるのですが、その時に右回転で混ぜたものは腐らず、左回転で混ぜたものは腐ってしまうようなんです」
――えーーー!!!そうなんですか!!?
飯野さん「他にも、知り合いの板前が、タレとかを左回転で混ぜると頭を叩かれたそうなんです。ちゃんと右回転で混ぜろ、って」
どうやら、調べてみたところマクロビオティックの世界では同様の考え方があるようです。科学では解明できない、不思議な現象ってたくさんあるんですねぇ。
――飯野さんは「日本一の焼きそば男」と自負されていると伺いましたが?
飯野さん「えぇ、まあ、寝ても覚めても『どうしたら焼きそばがもっとおいしくなるか』ということはずっと考え続けていますよ。未だに、麺もタレも焼き方もずっと工夫して変化させつづけています」
――感服いたしました!飯野さんのおかげで僕も本当の焼きそばというものを知ることができました!ありがとうございます!
なんと、飯野さんは年中無休で焼きそばを焼き続けているらしい……! まさに焼きそばに人生を捧げた御方。「日本一の焼きそば男」が作る焼きそばは、心までも揺さぶられるおいしさでした!
紹介したお店
あぺたいと本店高島平店
TEL:03-3938-6302
住所:東京都板橋区高島平7-12-8
営業時間:11:00~25:00(L.O.23:00) 日曜・祭日 11:00~22:00
定休日:年中無休(年末年始を除く)
著者プロフィール
グルメ修行僧 東山広樹
中学生の時から料理を始め、高校生の時にはMy中華鍋を買い、更に料理に没頭。その後、調味料や酒を研究する大学の学科へ進学や、都内人気ラーメン店でのアルバイト、料理・飲食系の雑誌社での編集業務など、料理に関わる経験を積む。現在はラーメン屋の開業に向けて修行中の身。
【ブログ】Cooking Maniac