全国のデパートやスーパーなどに入っている、資生堂の化粧品売り場です。
一番のかき入れ時は、仕事帰りの客などでにぎわう午後5時以降と、土曜日と日曜日。
その売り場を任されているのが、全国に1万人いる「美容部員」と呼ばれる女性社員です。
1人あたりの営業ノルマは1日18人以上を接客すること。
資生堂では、より多くの客と接点を持つことが売り上げにつながると考えているからです。
美容部員の勤務体系はおおむね2種類。
10時から午後6時45分まで働く「早番」と、11時15分から午後8時まで働く「遅番」があります。
「短時間勤務制度」は、早番の終わりの時間を最大2時間短縮できるものです。
その時間を子育てに当ててもらいます。
この制度を利用している木内枝里佳(きうち・えりか)さんです。
入社14年目に長男を出産し、去年11月に職場復帰しました。
美容部員 木内枝里佳さん
「(資生堂は)女性に対して優しい会社というイメージがあった。」
木内さんのように短時間勤務を利用している美容部員は、現在、およそ1,100人います。
これまで会社は、女性社員が働きやすい環境作りに力を注いできました。
短時間勤務制度は1991年に導入しましたが、店頭に立つ美容部員はなかなか利用しませんでした。
2007年、当時の社長が美容部員にも制度の利用を勧めたところ、利用者は一気に増えました。
ところが、同じ時期、会社全体で国内の売り上げがおよそ1,000億円減少します。
会社では、競争の激化やインターネット販売への対応が遅れたなど、さまざまな要因がある中で、美容部員がかき入れ時に店頭にいないことも原因の1つと考えるようになりました。
資生堂ジャパン 営業統括部 新岡浩三営業部長
「過去の習慣的に、育児時間(短時間勤務)取得者は早番、暗黙のルールがあった。
いちばん忙しい時間に1人足りないということが発生していた。
そういう時間にいないことが(販売の)機会喪失につながっていたのではないか。
そこについては悩んでいた。」
販売の現場では、子育てをしていない美容部員に遅番・土日勤務の負担が集中。
こうした社員からは「不公平だ」「プライベートの時間がない」などの声が続出するようになりました。
経営陣は制度運用の見直しを迫られたのです。
そして一昨年(2013年)、資生堂の人事部は子育て中の美容部員に、あるDVDを配布しました。
冒頭、役員が制度に甘えるなと警告しました。
資生堂が制作したビデオ
“月日を重ねるごとに、何となく(育児時間=短時間勤務)を取るのが当たり前、甘えが出てきたりだとか、そこを取るという権利だけ主張しちゃったり。”
さらに、短時間勤務の利用者でも公平に土日勤務や遅番をこなしてほしいという厳しい内容も伝えられました。
資生堂が制作したビデオ
“ひとつきの土日8日のうち2日は勤務することを基本とし、また、遅番10日を基本とし、会社が決定します。”
資生堂 人事部 ビジネスパートナー室 本多由紀室長
「育児期の社員は常に支えられる側で、本人たちのキャリアアップも図れない。
なんとか会社を支える側に回ってもらいたいという強い思いがあった。
働くことに対する意識、ここに対してメスを入れていこう。」
美容部員の木内さんは、職場復帰の前にこのDVDを受け取りました。
「短時間勤務で子育て」というプランが揺らぐことになったのです。
美容部員 木内枝里佳さん
「正直『え!?』と思った。
本当にこれで大丈夫かという不安は大きかった。」
木内さんは復帰後、短時間勤務を利用しながら月3回の遅番と4回の土日勤務をこなすことになりました。
また、営業ノルマは1日18人の接客を行うこと。
これはフルタイムの場合と同じです。
会社側は改革を実現するため、夫や家族の協力は得られるかなどを聞き取ってシフトを決めることにしました。
木内さんの場合、夫や親に協力してもらい、遅番や土日勤務をこなしてもらうことにしました。
協力者がいない場合はベビーシッターの補助を出すほか、地域の子育てサービスを活用するようアドバイスしています。
資生堂ジャパン 営業統括部 新岡浩三営業部長
「月に3回遅番をやってもらったり、土日も半分勤務をしてもらってるけど、お子さん大丈夫でしたか?」
美容部員 木内枝里佳さん
「うちの場合は主人が比較的協力的で、子どもに関しては今のところ大丈夫。」
午後8時。
この日遅番勤務だった木内さんは閉店まで働きました。
帰宅すると、迎えてくれたのは夫の昌志(まさし)さんと息子の想士(そうし)くん。
この日は夫が先に帰って、保育園のお迎えに行ってくれていました。
木内さんは、ノルマを果たしながら子育てをすることで自分のキャリアアップも考えるようになりました。
美容部員 木内枝里佳さん
「時短者だから無理、やる気がない、そうは思われたくはない。
今後はひとつ上のステップで、店を統括できるチーフ、マネージャーの立場を目指せればと思う。」
資生堂は今回の改革によって、育児中の女性社員も会社の戦力にしていきたいと考えています。
資生堂 人事部 ビジネスパートナー室 本多由紀室長
「育児時間(短時間勤務)を取っている人は悪い評価でも文句を言えないから我慢してもらおうではなく、ちゃんとそこは客観的に評価をしていく。
厳しい部分はあったかもしれないが、会社も社員もどちらも成長していく、意義のある大事な取り組み。」
和久田
「一見厳しい改革のようですが、子育て中の社員の生産性を上げることで会社の業績アップにつなげようということなんですね。」
阿部
「現在、多くの企業が子育て支援制度を導入していますが、運用を進めていく中で、職場では不公平感が広がり、現場の士気が下がってしまうこともあるといいます。
専門家は今後、多くの企業が資生堂と同じような問題に直面すると指摘しています。」
企業の人事に詳しい 法政大学経営学部 佐野嘉秀教授
「企業としては、短時間勤務社員の働き方に配慮しつつも、通常社員の働き方に負担が生じないよう、社員の間で負担の平等化、公平化を図ることが必要。
長く働く人はその分、貢献度が高いということで賃金に反映させるにとどめるのか、それともより長期的に昇格や昇進など、どこまで反映させるかを明確に示すことが、働く人の公平性、不満を和らげることにつながると思う。」
和久田
「職場の不公平感をなくすことで、お互い助け合おうという意識がより強くなるのかもしれませんね。
企業側も、制度の運用をより柔軟にすることで会社の業績アップと子育て支援のバランスをうまくとっていくことが大事になってきますよね。」