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辺境伯ロイド・アレクシス・フォン・ファーレ奇譚 作者:台風伯爵
1/1

開幕。日常から暗転。

投稿は2作目となります。前作との繋がりはありません。
頑張って完走させますが、時間がかかります。申し訳ありません。
作者、キング・オブ・チキンハートなので、手加減して下さいね。
 俺はロイド・アレクシス・フォン・ファーレ。ファーレ伯爵の息子をやってる。まぁいわゆる公子というやつだ。
歳は19。兄弟はいない。
 伯爵公子と、こう記せば、さぞかしイケメンだと思うであろうが、ところがどっこい完璧なまでの『ブサメン』君だ。
 身長は6エンド(約180センチ。エンドは約30センチ)ちょい。体重4ドール(120キロ。ドールは約30キログラム)越えの巨漢デブ。見た目はオークの親戚がお似合いの豚面で胴長短足。ついでに薄毛で、今はツルツルに剃っている。そして当然運動オンチ。かろうじて魔法が使えるけど、属性は炎と光の付与魔法のみ。魔力はなんとか中級レベル。
 ......まぁオツムの出来は悪くないが、天才という訳ではない。せいぜい秀才レベルかね。うん。
                           そんな俺は帝都の学院にて、真面目に修学中。実家は帝国のはじっこ、辺境に沿ったド田舎(帝国領には、ここより辺鄙な田舎もあるけどね)にある。事実、自領までは馬車で片道1ヶ月少しもかかる、まごうことなき田舎中の田舎。 
 両親は、そんな田舎が嫌いで領地を代官に任せっぱなし。ちなみに両親は俺の両親だけあってオーク夫婦だ。しかもケチで成金趣味の俗物ども。この帝都にある上屋敷は下品な事この上ない。
 しかし、ずっと帝都に居ていい訳じゃない。両親は今、実務の為、領地に向かっている。もう領地に着いた頃だろう。果たしてどんな政務をとるのやら、またぞろ増税でもして肥え太る算段か?
 さておき、俺が爵位を受け継いだら、上屋敷なぞ真っ先に更地にする予定だ。領地も賄賂や不正の楽園なんで、代官を始めクソ役員どもを片っ端からリストラしてやる。リストラだけでなく、横領背任で財産没収の上、帝国外に追放する予定。
 ついでに成金低俗両親をさらに僻地の修道院に送り込んでやる。そして俺は領地を健全に運営し、自領を発展させるのだ。 

 俺はその為の学業留学中。成人は15歳で、領内の学院を卒業している、それからさらなる高等教育を受ける為に帝都の上級学術院に進学している。←今ココ。
 勉強に勉強を重ね、卒業に必要な単位は無事に終了している。今は学術院の図書館にてサークルの友人達(俺には勿体ないくらいの友人達なんだよ)と勉強会の最中。経済や経営に関する討論を開いている所だ。
 彼らもまた貴族や一級市民の子弟で、男女問わず秀才の集まりだ。卒業後は官僚に内定しているエリート達なんだよね。まぁ女子の方は大抵結婚するのだが、それでも勉学に熱心だ。彼らの将来はかなり明るいと言っていい。自慢の友人達さ。
 時刻はそろそろ午後3時頃だと思う。区切りも良いのでお茶の時間にしてもいいかな? そう思い、俺は手を挙げた。

「諸君、良いかな? 一旦お茶にしないか?」 
 そう言い、皆を見渡す。うん。反応は良さげだ。

「良いね、ロイド」
 最初に賛成したのはまとめ役のアレックス・ヘルマン・フォン・ベルデナント・グーン大公公子。歳も同じで、真性のイケメンだ。やや冷血気味だが、サラブレッド中のサラブレッドであり、全く隙がない青年である。
 大公の息子でありながら、爵位を受け継ぐまでは財務官僚を目指し、閣僚を望む大望を持っている。きっと彼なら財務官僚のエリートになるだろう。
 また彼は大公公子故に王位継承権を有し、その将来はどう転んでも安泰だ。ぶっちゃけ、今の王太子より清廉で、どんな王位継承権を持つ連中よりもマトモなんだがね。冷血気味なのは、公人としてふさわしい態度だとそう思っている。
 そんな彼だから周囲の皆は反対もしない。気のきく年上の友人オットー・ヴァン・フォン・ヘイゲルコーン子爵公子が従者を呼ぶ。 
 アンネルーゼ・エリア・マリーネ・フォン・クロイツェル伯爵公女とユーノリアル・シズ・ファリオン(彼女の父親は軍務参示官)が顔を見合せ、何かを囁いている。何か発表でもあるのかな? 

 まぁ、とにかくお茶の時間だ。彼女らは何か話題でも提供するのだろう。俺は自分の従者に自作の新作菓子を取りに行かすため腰を浮かせた。ちなみに、俺は菓子作りを趣味にしている。

 そしてそれが、俺の人生に波紋を投げ入れた瞬間だった。


 腰を浮かせて、従者を呼ぼうとした時、俺の視界に従者とは別に一人の紳士が歩いて来るのをとらえた。
 その紳士は俺を見つめ、迷うことなくこちらへと近づいて来た。

「失礼いたします。ロイド・アレクシス・フォン・ファーレ伯爵公子様でいらっしゃいますか?」
 紳士は一礼し、俺に確認をとった。
「はい。自分がロイドですが。貴殿は?」 
「失礼しました。私は国務尚書、オイゲン様より言伝てを持って参りましたブリタニカ一等書記官と申します」

 何故に大臣が? しかも国務尚書? 皆目見当もつかない。ブリタニカ一等書記官が続けて口を開く。
「オイゲン様からファーレ伯爵公子様に『可及的速やかに内府へと参内せよ』と」

 これは重要だ。なにやら不穏だが、事件かもしれない。いや、事件なのだ。領地にてなにやら事が起こったみたいだ。
 俺は努めて冷静になろうと呼吸を整えた。一つ深呼吸して書記官を見、頷く。
「承知しました一等書記官殿。すぐに参内せよとの事、これより参内いたします」
 そこで皆を見やり、俺のブサメンを笑いに歪め軽く頭を下げる。

「まぁ、そう言った次第でお茶は退席するよ。申し訳ない。あっと、お茶受けを持って来させるから食べてくれ。では失礼」

 女性陣の一人、レティカ・エリザベート・フォン・マイルズ侯爵公女がなにやら言いたげに口を開けかけたが、姿勢を正し、黙礼する。
 アンネとユーノ(とレティカは皆、19歳)が再び顔を見合せ、やはり口を開けかけたが、二人も押し黙り黙礼だけをした。
 アレックスとオットー、そしてつねに笑顔を絶さないフランク・ダスベール(彼の実家は穀物の豪商で、とにかく金持ちなのだ。確実に帝国最大で、その実家の資産額は侯爵に匹敵する)も神妙な表情で頷いた。

「お茶受けは俺がこさえたシュークリームって菓子なんだ。聞いたことないお菓子だろうが、是非食べてくれ。自信作なんだがね」
 この世界にシュークリームは存在しなかった。これは俺が記憶にあった思い出を元に再現したやつだ。このシュークリーム、見た目は不恰好だが、生地は変わらない筈だと思う。再現率は7割程度かな?
 俺は職人でもないので、そっくりにはならなかった。けど味は保証する。頑張ったのは評価して欲しい。そんな出来だ。

 ああそうそう、俺はいわゆる転生者だ。説明は後にする。今は参内しなければいけないからな。
「それでは失礼するよ」
 ブサメンはクールに去るぜ。従者に菓子を持ってくるよう指示し、俺は図書館を去った。



 内府は学術院よりそう遠くはない。歩いても十数分ってところだ。帝都は広いが、学術院と内府はわりと近い。
 表に出ると、一等書記官殿は馬車を用意していた。馬車は二頭立ての軽快馬車だ。まぁ楽でいい。俺は控えめに言っても肥満体なのだ。楽するならそれで良いからな。

 そして俺達を乗せた馬車は走り出し、数分で内府へと到着した。本来なら正装で参内するのが慣わしなのだが『可及的に速やかに』なので、今回は大目に見てくれたようだ。実際助かる。俺はあまり堅苦しい、首が締まるような正装が苦手なのだ。
 パリッとしたシャツに、あの窮屈なタイ。その上からコートに伯爵用の深い緑のローブ。首が締まる締まる。本当に苦しい位なのだ。
 当然なくらい、内府や政庁、公共施設、おおよそ全ての建物には地球と違いクーラーなぞ無い。建物は石造りだが、空気が循環しないのか、意外と暑いのだ。
 従って俺は肥満なんで、汗だくになる。そこに正装なんて、最早拷問だと思う。今回は今着ている学士装束で良かったのだが、それでも汗が出る。あぁ嫌だ。

 汗を拭いつつ、内府を足早に歩く。巨漢の豚野郎が汗を拭きつつチョコチョコズンズン歩く訳だ。かなりみっともない。何時もの自己嫌悪にさい悩まされつつ、内府の通路を進む。
 ほどなく内府の奥の院、国務尚書閣下の執務室へと到着した。何を知らされるのか若干不安になる。しかし、行くしかない。俺は覚悟を決め、一等書記官殿の後に続いた。

 執務室の扉を前に、書記官殿は振り向き、口を開いた。
「ファーレ伯爵公子様。これより内府執務室でございます。私が先に入り、到着を知らせます。
 国務尚書閣下がお答えになられてから、入室して下さいませ。では」
 そう言って、書記官殿はノックをし、入室して行った。
 いよいよ本番だ。もう一度(汗で湿って重くなったハンカチで)汗を拭い、深呼吸。

「国務尚書閣下、ファーレ伯爵公子様が到着いたしました」

「......うむ、入るがよい」 

 響きの良いテノールの声。初めて聞く国務尚書の声だった。俺は緊張しつつ入室した。

 執務室の内装は質実剛健。調度品は少ないが、品の良いシックなトーンで固められていた。こういう雰囲気は嫌いじゃない。俺の将来の執務室も、こうであるべきだ。
 おっといけない。この部屋の主人を忘れてはいけない。俺は一礼し、国務尚書閣下に向き直った。
「はじめましてオイゲン国務尚書閣下。ロイド・アレクシス・フォン・ファーレ、只今参内いたしました」
 よし、上々だ。緊張はしているが、萎縮はしていない。

 オイゲン国務尚書閣下は50代半ばの銀に近いグレーの髪の男前のおっさんだった。我がモンスターペアレンツ、オーク顔の父も是非、見習って欲しい。まぁオークの息子もオーク。世は全て事もなし、世界は平常運転だ。変わることない現実に内心で苦笑する。なんの慰めにもならないがね。

「良く来てくれた伯爵公子。ふむ、立派な青年だな。歓迎するよ」
 ちらりと微笑を浮かべ、軽く頷いてみせる。だが、すぐさま表情を固め、姿勢をあらためる。そして本題を述べ始めた。

「急使が入った。君の両親についてだ。
 ......昨日、三日前だが、カドモス街道の難所にて君の両親を乗せた馬車が峠より転落。......死亡、即死とみられる。天候は豪雨故に、馬車の転落は事件性は無いとの報告だ。慎んで御悔やみ申し上げる」

 は? 転落? おいおい、どういう事なんだ?
 俺は混乱した。顔がひきつる。一瞬、足元が揺らぐが、どうにか踏ん張った。しかし、状況をまとめきれない。いや、冷静になれ。冷静になれ。

 国務尚書は痛ましそうに俺を見やった。俺は今、どんな表情だ? いや、そんな事はどうでもいい。状況を整理せよ。冷静になって、事態を把握するんだ。

 帝国の冬は重く、暗い。外は早い夕闇が近づいて来た。





          

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