先月の事。
オレは荷物の他にも、カタログの類いも配ったりしている。
大抵のお宅は快く受け取って下さるのだが、中にはそうでない方もいる。
いらない。持って帰ってくれ。
そう言われる事も度々ある。
しかし、住所氏名が明記されている物は、勝手に処分する訳にはいかないので、頭を下げて受け取って貰う。
ゴミになるからいらないわぁ。ごめんなさ~い。
そう言って中島さんちの奥さんが、オレが差し出したカタログをの受け取りを、やんわりと断ると、
お兄さんも仕事で配ってるんだから受け取りなさい。お前が買い物した会社からのカタログだろ?
庭の植木の間から、中島さんが剪定鋏を片手に出てきた。
お兄さん悪かったね。ご苦労さん。
いえいえ、とんでもないです。
ありがとうございます。
中島さんとの出会いはこんな感じだった。
それからは中島さんの奥さんも快く受け取ってくれたんだ。
中島さんは定年退職したのか、いつも奥さんと庭いじりを楽しんでおり、物腰の柔らかいニコニコしたおじさんだった。
今日午前6時頃、山へキノコ取りに入った中島xxさんが遭難した模様です。
夕方の地方ニュースから聞き覚えのある名前が聞こえた。
(XX町の中島xxって、中島さんじゃん!)
慌ててテレビのボリュームを上げ、ニュースにクギ付けになった。
嫁に
知ってる人?
と聞かれ
あ、うん…お客さん…
と答え、中島さんとのエピソードを少し語った。
翌日、中島さんちの前を通ると、数台の車と慌ただしく家に出入りする人達がいた。
(まだ見つからないんだ)
そう思いながら、その場を立ち去った。
今日午後2時過ぎ、捜索中の中島xxさんが沢に転落しているのを消防と警察が発見し、死亡しているのを確認致しました。
(!?)
ニュースから伝えられた事実を、ただ黙って聞いていた。
翌日から数日の間、中島さんの家から沢山の人と車が消える事が無く、ようやくいつもの日常に戻ったのは、中島さんの葬式が終わった後だった。
毎日の様に庭にいた中島さんの姿は無く、奥さんの姿も見かけなくなった。
昨日中島さんちに園芸関係のカタログ置いてきたんだ。
玄関に並べられた鉢植えは萎れ、綺麗に掃除されていた家の回りには枯葉が散乱していた。
奥さんショックから立ち直れないんだな。
先月の事だもん。
オレのばあさんも栗拾い中に川に落ちて亡くなったんだが、キノコだの栗なんかスーパーで買えよって思うんだ。
死んだらダメだって。