「ヴォルプスヴェーデ村と4人の芸術家たち:1894 - 1937」
タイトル「ヴォルプスヴェーデ村と4人の芸術家たち:1894 - 1937」は大学の卒業制作展(2015年1月15日-18日)のために、私が約1年の月日をかけて制作したものです。
ゲームの概要はこんな感じ。
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本作は、美術の歴史を学びながら、芸術家の人生を体験することができる教材としてのボードゲームです。
ゲームの主人公は、19世紀に活動していた風景画家オットー・モーダーゾーン、表現主義の画家パウラ・モーダーゾーン=ベッカー、デザイナーのハインリッヒ・フォーゲラー、詩人ライナー・マリア・リルケです。みなさんは、ドイツ北部にある「ヴォルプスヴェーデ(Worpswede)」という芸術家村で活動していたこの4人の芸術家たちとなって、村の共同体を守りつつ、ヨーロッパの都市を巡りながら作品を制作していきます。しかし、共同体を破壊し、作品を「退廃芸術」にしようとするアドルフ・ヒトラーが常にみなさんを狙っています。仲間と協力して、ヒトラーから逃れながら、作品を増やしていきましょう。
また、1894年から1937年という長い時間の中で、芸術家たちにまつわるイベントが発生します。イベントは伝記まんがになっているとともに、まんが上ですごろくをすることができます。このボードゲームで彼らの生涯を追体験することで、遠い世界だったヨーロッパ美術に親しめるきっかけになれば幸いです。
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↓ちなみに「伝記まんがすごろく」とは、以下の写真のものです。ここに写っているのは、ヒトラーが芸術家たちの作品を見せ物にするため1937年に開催された「退廃芸術展」のイベントです。
つまりこのゲームでは、主となるヨーロッパ地図のゲームボードと、まんがの世界を行ったりきたりしながら、芸術家たちの人生や、その時代背景を学ぶことができるのです。
*このゲームを作ろうと思ったキッカケ
私はもともと大学で美術史やアートプロジェクト等を学びながら、学外では東京都美術館で「とびらプロジェクト」という活動に参加し、約3年間ほど美術館の教育普及を行っていました。ここでは主に、「紙芝居プロジェクト」という、美術をテーマにしてオリジナルの物語をつくり、来館者に向けて週末に上演する活動をしていました。しかし、このようなワークショップに参加できる人数は限られていることや、そもそも美術館に行かない、あるいは興味のない人々にとって、どのようなアプローチができるのかと、この経験をもとに考えるようになりました。結果的に、商品(教材)としてのボードゲームを制作し、日常生活で遊ぶことによって、美術が好きになるキッカケをつくることが重要だと考え、制作を決意しました。
*なぜ、ヴォルプスヴェーデ村なの?
Heinrich Vogeler《Der Barkenhoff》 (1910)
美術を題材にしたボードゲームをつくろう!と意気込んではいたものの、なかなか題材が決まらず、あれこれ悩む日々が続いていました。そんな時、2012年(約2年前)に聴講していたとあるデザイン史の授業で見た、ドイツの芸術家村の素朴な風景や建築の写真がふと、頭をよぎりました。当時は何気なく聞いていた芸術家村のお話が、実は自分の心の中に深く刻まれていたのだな、と実感したのでした。芸術家たちがイチから芸術家村をつくりあげ、そこに滞在してお互いを高め合いながら作品を制作していく…そんな環境にとても魅力を感じて、その世界観をゲームで体感することはできないかな、と考えるようになりました。私も、ヴォルプスヴェーデについての知識は1年前まで全くなかったので、ゲームづくりを通して、イチから勉強をし始めることになりました。日本ではヴォルプスヴェーデの展覧会は過去数回しか開催されていませんし、日本語で読める書籍も多くはありません。しかし幸いにも、私の所属していた武蔵野美術大学大学図書館にはヴォルプスヴェーデ関連のドイツ語のカタログが充実していたので、恵まれた研究環境の中で学ぶことができたのは幸運でした。参考書籍につきましては、改めてご紹介できればと思います。
*制作過程について
( ↑ 駒、シナベニア4mm レーザーカッター)
今回は卒業制作ということで、企画、システム、デザインを実質一人で担当しました。共同制作としても実現できたとは思いますが、「ゲーム制作を一人でやるとどれだけ辛いのか」を一度体感する良い機会でもありました。しかし、こんな取り組みはなんせ初めてだったので、無理をせずに、興味のあるボードゲームを参考にし、そこから「美術を学べるボードゲーム」に合うよう改良していきました。私が今回参考にしたゲームは以下のとおりです。
- ジェームズ・タルボット「Dinosaurs of the lost world」1987年(絶版)
- マット・リーコック「パンデミック」2007年
- ライナー・クニツィア「指輪物語」2000年
- ピーター・プリンツ「テーベの東」2007年
そして、制作のターニングポイントともなったのが、2014年11月13日に開催された「歴史コミュニケーション研究会」でのテストプレイでした。学生、研究者、ゲーム作家…といったあらゆる分野の方々にこのヴォルプスヴェーデで遊んでいただき、「どうすればゲームで美術を学んだことになるのか」という観点から貴重なアドバイスをいただきました。そして、所属大学では美術史や教育普及に携わる先生方、ゼミの友人たちと一緒に遊んだりしながら、どんどんゲームをブラッシュアップさせていきました。こうして、私一人だけではとても無謀だった挑戦を、周囲のみなさんに支えていただきながら、このゲームが完成しました。
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実際にドイツのヴォルプスヴェーデ村に行った滞在記や、制作日記など、まだまだ書きたいことが山積みですが、とりあえずゲーム制作に至った経緯〜制作の流れについてはこんな感じです。まだ生まれたてのゲームなので、発売もしていませんし、今後どうなっていくかも想像がつきません。しかし、とにかく今の目標は、ひとりでも多くのみなさんに遊んでいただいて、美術が少しでも好きになってほしいな…と思っております。なので、ひとまず地道にゲーム会を開催していこうかな、なんて考えていますので、これからもどうぞよろしくお願いします。
☆2015/2/23 ヴォルプスヴェーデ旅行記を更新しました!
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