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結局のところ「ツタヤ図書館」は何が問題なのか

Tポイント 武雄市図書館 重箱の隅つつきだと思う人は読むだけ時間のムダ

ツタヤ図書館問題が広く知られるようになったキッカケは、2015年8月に判明した、武雄市図書館の選書問題です。
1999年版のWindows98マニュアル本や、2001年版の公認会計士受験ガイド、埼玉ラーメンマップなど、約1万冊の中古本をグループ企業の中古書店から調達し、蔵書していたことが雑誌やネットニュースで報じられ、広く話題となりました。
ツタヤ図書館2館目のオープンを控えていた、神奈川県海老名市にも飛び火するなど、選書問題をきっかけに「ツタヤ図書館」が大きく注目されています。

ラーメンマップ埼玉17

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特徴的すぎる選書や分類が注目されていますが、「ツタヤ図書館」は何が問題なのかを考える上では重要ではありません。
まずは、約2年半前に購入された武雄市図書館の蔵書が、なぜ、今ごろになって問題視されているのかということに着目する必要があります。

2年間開示されなかった契約書類

2012年、武雄市カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下 CCC)を図書館の指定管理者に選定し、その後、代官山蔦屋書店仕様の書架・サインなどの設置や蔵書の購入などを「新図書館サービス環境整備業務」及び「新図書館空間創出業務」としてCCCに発注しました。

これらの契約は随意契約で行われたため、詳細を把握すべく、武雄市民らは情報公開請求*1を行いました。
しかし、武雄市は、条例に定める15日の期限を過ぎても情報公開請求を放置し続け、武雄市図書館のリニューアルオープンから1年半後になってようやく「契約内容はCCCの営業ノウハウに当たり、開示することでCCCに不利益を被るため開示しない」という決定を行いました。
その後、武雄市民らの異議申立により開かれた、武雄市情報公開審査会の「開示すべきである」という答申を受け、ようやく武雄市書類が開示されたのは、今年のことでした。すでにオープンから約2年が経過していたのです。

武雄市から開示された契約関連書類には、見積書の日付が平成13年となっているものや、日付や決裁印が無いなど、手続き上不備のある書類が複数あったため、武雄市民らは「ずさんな手続きにより随意契約が行われた」として、直ちに住民監査請求を行いました。
ところが、武雄市監査委員は「契約効力終了から1年以内の(住民監査請求ができる)法定期間を過ぎている」事を理由に、住民監査請求を却下したのです。
対象となる書類が開示された時点ですでに2年が経過していたことは、1年間の法定期間を経過した、やむを得ない理由にはあたらないとして、門前払いされたのです。

現在、住民監査請求の却下*2を受け、当時の市長に対して約1億8千万円の損害賠償請求を行うよう求めた住民訴訟が行われています。

隠されていた1300万円の予算流用

情報公開請求によりもう一つ明らかになったのが、リニューアル時に購入した、1万冊に及ぶ購入書籍のリストです。
リストがインターネットで公開され、その内容が話題になったのは前述のとおりですが、もう一つ明らかになった事実があります。

蔵書問題の報道を受け、CCCは社長名で選書の精度に問題があったと発表*3しましたが、そこにはCCCグループの企業から調達した中古本10,132冊を、武雄市に760万円で納入したと説明されていたのです。

武雄市から開示された契約資料によれば、書籍1万冊を2,056万円で購入するという契約、つまり、単純計算で「1冊あたり2,000円以上の本を1万冊納入する」契約となっていました。しかし、実際に納入されていたのは、1万冊の中古本で、さらに1,300万円の使いみちが宙に浮いたのです。

蔵書問題の発覚以降、マスコミや議員に対して「係争中の案件であり回答は差し控える」と言い続けてきた武雄市は、CCCの発表を受け「高層書架の安全対策に書籍購入費用を流用したため、中古本を購入して書籍購入費用を760万円に圧縮した」と経緯を説明しました。

この約1,300万円の予算流用は、武雄市がCCCと随意契約した2つの業務委託契約をまたいで行われています。
本来であれば契約を再締結すべき内容ですが、それは行われておらず、予算流用を決裁した書類も存在しないと武雄市は回答しています。
これが事実であれば、1,300万円の税金の使いみちを、武雄市とCCCがなんの手続きもなく変更したことになります。

この予算流用についても、住民らが住民監査請求を行っており、こちらは受理されています。

神奈川県海老名市や、宮城県多賀城市でも、ツタヤ図書館に関する情報開示請求に対して「営業ノウハウに当たるとして」情報開示が行われない、ほぼ黒塗りの文書が開示されるなど、不透明な対応に共通点があります。

契約手続きのずさんさや、中古本1万冊の購入、1,300万円の予算流用など、武雄市図書館で起きている様々な問題は、武雄市が条例通り情報公開を行っていれば、もっと早い時期に判明していたでしょう。

ツタヤ図書館の実態が、武雄市図書館オープンから2年半を経た今になって注目されているのは、武雄市が徹底して情報公開を拒み続けて来たことがすべての原因です。
その結果、オープン以来2年間、武雄市図書館は、民間と連携した画期的な図書館として、注目されることになりました。

指定管理制度と公共図書館の未来像

図書館は、地方自治体の公の施設であり、その管理運営は地方自治体が行うのが原則ですが、施設の設置目的を効果的に達成出来る場合には、民間が公の施設の管理を代行することができます。
これが指定管理制度で、公共図書館の約1割が、民間により運営されています。

ツタヤ図書館第1号である武雄市図書館も、CCCが指定管理者として運営している図書館であって、制度上の新規性はないのです。
では、なぜ武雄市図書館はなぜここまで注目されたのでしょうか。

ツタヤ図書館が提示した新しい指定管理の姿

これまで民間企業等は、自治体から支払われる指定管理費で図書館を運営しており、自主事業を行っていても主たる収入源と見ていませんでした。

しかし、武雄市は「代官山蔦屋書店のノウハウを活かし、書店やカフェがありTポイントカードが使える図書館が武雄市に必要である」と定義し、その目的を達成できるCCCを指定管理者に指定しました。
武雄市図書館は「図書館の指定管理費以外に、書店やカフェの営業によって収入を得る」ことが前提の図書館なのです。
実際、武雄市図書館でCCCがどれだけの収入を得ているかは、民業部分の収入が公開されていないのでわかりませんが、館内の専有面積や人員配置から、民業部分に注力していることは間違いないでしょう。

自治体からの指定管理費で運営されるのがあたりまえだった公共図書館に、武雄市とCCCは、指定管理費と民業収入で運営される「ツタヤ図書館」というモデルを持ち込んだのです。

公共図書館を無料で運営できる時代がやってくる

「ツタヤ図書館」の延長として、近い将来に登場が予測されるのは、「民業収入のみで運営される公共図書館」でしょう。

いまあるツタヤ図書館と同じ仕組みですが、書店やカフェなど民業の比率を限りなく上げる事で、民業の収益で公共図書館を運営するのです。
自治体はハコモノを整備し、指定管理者に図書館を運営させますが、その指定管理費を無償とすることができます。

指定管理費が無償などありえないと思うかもしれませんが、施設を自治体が整備し、民間が指定管理者として運営している「道の駅」では、指定管理費無償の事例が散見されています。
建物の維持管理や観光案内所の運営などにかかる費用を、物品販売など民業の収益でまかなうことを前提として、自治体は指定管理費を支払わないのです。
民間事業者にとっても、集客が見込め、設備の整った道の駅に家賃負担なく出店できるというメリットが有ります。

にぎわい創出を目指して新築された、駅前の再開発ビル。
そこに入居する図書館に足を踏み入れると、広々としたカフェと書店の片隅に、ほんの少しの蔵書が並んでいる。

そんな「公共図書館の未来像」が見えてくるのは私だけでしょうか。

「駅前にハコモノを建ててもらえれば、図書館の運営は私達が無料でやりますよ」という提案を持ちかけられた時、あなたの住む自治体は断ることが出来るでしょうか。

「ツタヤ図書館」は誰のため?

指定管理者制度は、業務委託などの契約ではなく、自治体が民間を指定する「行政処分」のため、入札は行われません。
公募を行う事が原則ですが、武雄市のように「代官山蔦屋書店のノウハウを活かし、書店やカフェがありTポイントカードが使える図書館を作れる事業者」という仕様だと、それも意味をなしません。

武雄市は、指定管理者制度を駆使して、ツタヤ図書館を生み出しました。

そして、全国から武雄市に視察に訪れ、「オラが町にもツタヤ図書館を作ろう」と声を上げた首長や議員によって、ツタヤ図書館が全国に広がっていったのです。
今後ツタヤ図書館が広がっていくかどうかは「各自治体が図書館をどう位置づけているか」に左右されるでしょう。


ところで、ツタヤ図書館の生みの親である前武雄市長は、任期途中で辞職し県知事選に立候補するも落選しました。
その後は、CCCグループ企業の代表取締役社長に就任しているほか、在職中に市民病院を移譲した一般社団法人の理事にも就任しています。
ツタヤ図書館問題は、公と民の関係はどうあるべきかという、新しくて古い問題なのかもしれません。

反省しない。 (中経出版)

反省しない。 (中経出版)

*1:武雄市情報公開条例

*2:住民訴訟は住民監査請求が行われた案件が対象です。

*3:http://www.ccc.co.jp/news/2015/20150910_004827.html