大学生の就活解禁(面接開始のタイミング)が6月に前倒されたようです。
説明会は従来通り、3月解禁。つまり選考開始までの期間が短くなりました。
もともと就活メディアの副編集長だったこともあり、このへんのニュースは仕事で関わらなくなったいまでも、わりと気にしてしまいます。
昔と今とで、どう変わったのか?
ところで、この就活解禁騒動。なにやら最近、毎年のように騒がれており、もはやこの時期の風物詩のような印象すら覚えます。
そこで、ちょっと気になり、就活解禁の歴史を調べてみました。といっても、筆者は09年卒のため、そこまで古い話にはなりません。ここ10年、2005年卒から2015年卒までの歴史を振り返ってみようと思います。
小さくて申し訳ないですが、ざっとこんな感じかなと。
それぞれの時代についてかんたんにまとめますと、
05卒〜12卒:
説明会解禁:3年10月
面接解禁:4年4月(実質、3月には始まっていたように思います)
2010年卒頃から、ウインタージョブ(冬のインターンシップ)という考え方が出てきた気もします(資料上は都合により、13卒以降に登場します)。
13卒〜15卒:
説明会解禁:3年12月
面接解禁:4年4月
筆者にとって謎の時代です。
16卒:
説明会解禁:3年3月
面接解禁:4年8月
当時、就活サイトの副編集長でした。
17卒(予定):
説明会解禁:3年3月
面接解禁:4年6月
どうなるでしょうか。
前提:説明会解禁が後ろ倒しにされた背景
この就活解禁騒動の論点は、単純に言えば「学業との両立」です。
大学側は「学生が就活ばかりに目を向けて勉強しない」ため、学業との両立が可能な「3年3月説明会・4年8月面接解禁」を求めていました。
そして一昨年の3月、政府は「3年3月説明会・4年8月面接解禁」を経済界に提言。いまの16卒の採用スケジュールが生まれたというわけですね。
ですが、これは倫理憲章に賛同した企業のみの話で、賛同しない外資系企業などは特に守らなくても罰則などはありません。
倫理憲章とは?
正式には「新規学卒者の採用・選考に関する倫理憲章」と言います。「就職協定」に代わるものとして日本経団連が中心になって定めた新卒者の採用活動に関するガイドラインです。
(参照:日本の人事部「倫理憲章とは?」より)
ざっくり言ってしまうと、経団連に加盟している多くの企業が守っている、それ以外の企業は守っていない、というイメージです。
新経済連盟の三木谷さんなどは、かねてからこの採用スケジュールを時代遅れと批判し、自由化を求めて提言を繰り返されています。
先月も自民党に提言されていたようです。
後ろ倒しに効果がないことは、やるまえから分かっていた?
面接が4年の8月解禁になった当時、筆者は就活サイトの副編集長でした。そのため、就活に関わる仕事をされている方や就活生と、このテーマで話をすることがありました。
そのときの印象を、事業者と就活生ごとに一言でまとめますと、
事業者「絶対に失敗する。やるまえから分かる」
就活生「急に言われても困る。なんで来年卒の人たちからにしないの?」
*事業者視点の話
まず事業者側の話。
就活関連の仕事をされている多くの方は、この「3月説明会・8月面接解禁」(以下、3月・8月解禁とします)によって「学業との両立」が実現するとは(おそらく)誰も考えていなかったのではないかと思います。
というのも、このタイミングで説明会・面接を解禁とすると、学業と就活を同時期に両立しなければならなくなるからです。
ちょっと小さいですが、こちらをご覧ください。
背景が赤い部分は、3年生の冬・春期休暇のタイミングです。実際、1月は講義やテストがあるかと思いますが、資料の便宜上、こうした見せ方にしてあります。
これをご覧いただくと、昔は3年の冬休みを利用して説明会に参加したり、自己分析などに取り組んだりできたことが分かります。
一方、16卒は説明会が3月から始まります。つまり、4月以降は講義と説明会を両立しなければならなくなったのです。公務員試験の併願を考えている人は、その準備もありますね。
また、4年の8月は卒論や卒研で忙しい時期でもあります。就活生によっては、大学院入試の準備などもあるでしょう。その時期に面接がぶつかるのも、かなり痛いですね。
・・・というように、8月解禁は「やるべきことが一時期に集中する改悪だ」というわけです。
(橙色の部分が、前期講義の期間=16卒における学業と就活の両立期間です)
12卒くらいまでは、倫理憲章を守った企業の新卒採用スケジュールと、守らなかった企業のそれとがわりと被っていたので、就活生もそこまで苦労はなかったような気がします(自分が当事者だったからかもしれませんが)。13卒あたりから、それが少しずつズレはじめました、というわけですね。
ちなみに、当時の筆者もほぼ同様の考え方でしたが、「そうは言っても、やってみないと分からない。もしかしたら誰も気づかなかった思わぬ恩恵が、学生にもたらされるかもしれない」などと日和見してもいました。
*就活生視点の話
さて、就活関連事業を生業とする人たちは、おおよそこんな感じの分析を行っていたのではないかと思います。
では、当事者の就活生たちはどうだったのでしょうか?
これは筆者が話を聴いた就活生に限る話ですが、スケジュール自体に強い不満を覚えている方はそこまで多くなかったです。
逆に、多くの就活生が漏らした不満が、先述した、
「急にやると言われても困る」
でした。
たとえば、今回の「6月解禁」を見てみましょう。
これまで「8月解禁だから、卒論の準備は前倒しで春休みくらいからはじめよう」と考えていた就活生がいるとします。ですが、6月解禁に変わったことで、この卒論の準備を前倒す必要が出てくるかもしれません。そして、それによってほかのスケジュールもずれてくるでしょう。
このように、事前にある程度の余裕をもって変更を伝えないと、就活生は困ってしまうのではないかと思います。
もっとも、半年前の通知が急すぎるのか、それとも妥当なのかは就活生のみぞ知るですので、なんとも言えません。ただ、16卒の学生のなかにも、告知当時「急な話すぎる」と感じた就活生がいたので、今回も同様の不満を覚えている人が一定数いるのではないかと思われます。
就活生は本当にスケジュール自体に不満なのか?
ここで一つ筆者の感じた疑問について・・・。
ニュースサイトなどを拝見していると、今回の「8月解禁」への変更に「学業との両立が難しくなった」「以前のままで良かった」と不満を感じた就活生も多いようです。
ですが、これは本当にスケジュールの問題なのでしょうか?
就活生の話を聴くうちに、筆者はどうにも「大人が自分たちの都合で突発的にコロコロ変えること自体に憤っているのではないか?」と感じるようになりました。
仮に、もし十分な余裕(それがどのくらいかの期間かは分からないのですが)を持ってスケジュール変更を発表していれば、みんなそれに合わせてきちんと大学生活や就活のスケジュールを考えると思うんです。
もちろん、それでも批判や不満は出ると思います(そもそものスケジュール自体に対する批判も多いので)。ですが、あらかじめ分かっていれば、就活生側も対処しやすくなるのではないでしょうか。
大学は「学生が勉強しない」から8月にしてくれと言っています。
企業は「遅すぎる」「外資に囲いこまれる」から前倒し・自由化してくれと言っています。
ですが、就活生はなにを考えているのでしょうか?
いま、就活解禁の問題は、企業や大学側の都合で「早い」「遅い」が議論されているだけな気がします。就活生のためを思って話を進めているようで、結局は自分たちの都合だけ考えているのではないかと。
*大学の都合
たとえば、大学は「学生が勉強しなくなった」と言いますが、本当にそうでしょうか?
勉強しなくなった理由は、本当に就活なのでしょうか? 就活生になる前から、学生はそもそも勉強していないのでは? その原因は大学の講義が面白くないからでは? など、先に考えるべきことがあると思います。
*企業の都合
企業は自己都合を優先して、すでに多くの企業が採用活動をスタートしています(ベンチャー企業や倫理憲章に賛同しない企業の多くは、3月解禁・6月解禁に沿う必要がありません)
たとえば、最近はwantedlyなどのソーシャルリクルーティングも盛り上がっており、同サイトではすでにインターンシップの募集や17卒生への採用活動が行われています。
当然ですが、この時期だけで採用を終わらせてしまう企業もあるでしょう。来年のこの時期は、18卒に向けて活動しているでしょうから。
そのため、就活生がなるべく多くの企業を見ようと思うと、いまから色々なサイトをチェックしなければなりません。
また、説明会の話を理解するためには、企業分析なども行う必要があります。そもそも企業を見る目を養う力を磨く時間も必要でしょう。
そうして来年3月になったら、今度は倫理憲章を守った企業の説明会などに参加することになります(本人が望めば)。そして、なかなか内定が出なかった場合、ほぼ通年で説明会行脚をつづけなければなりません。これでは勉強もなにもあったものではありません。
以前、夏や秋に説明会を開く意図を「この時期なら学生も参加しやすいだろうし」とおっしゃっていたベンチャーの人事担当者とお会いしたのですが、結果として就活の長期化を招き、就活生を苦しめてしまっているのではないかと思います。
*就活関連事業者の都合
就活関連の事業者は「意味がない」「自由化すべきだ」と持論を繰り返すばかりで、本当の意味で就活生の苦境に目を向けていた人はいなかったように思います。筆者も含めて。
8月解禁のとき、筆者たちが本当にやるべきだったことは「就活生はこうして欲しいと言っている」と、彼らの声を政府や企業、大学に届けることだったのではないかと。
目の前にいる就活生の声に耳を傾けずに、自分たちなりに8月解禁の影響を想像して政府や企業を批判していただけのような気がします。言わば、机上の空論を振り回していただけなのではないかと。猛省。
就活生が不満だったことって、本当はなんだろう?
就活生たちが本当に不満だったのは「スケジュールそのもの」「解禁のタイミングどうこう」ではなく、採用スケジュールをコロコロと変える大人たち、自分たちの都合で「ああだこうだ」と議論する大人たちに対して不満だったのではないかと思います。
就活解禁騒動で就活生が苦しんでいるのは、解禁に賛成の人だけのせいではなく、反対の人も含めて、就活に絡んでいたすべての大人たちに責任があるのではないかと。
誰の責任でもない、大人みんなの責任ではないでしょうか。