“ブラックバイト”初の実態調査
11月10日 15時55分
学生がアルバイト先で不当に働かされる、いわゆる「ブラックバイト」。学業に支障をきたすなど深刻な社会問題となっています。
そのブラックバイトについて国が初めて行った実態調査の結果が、9日公表され、6割の学生が何らかのトラブルを経験するなど、問題が広がっていることが明らかになりました。
ブラックバイトの実態と背景について、社会部の古川賢作記者が解説します。
初の実態調査の結果は
ブラックバイトとは、▽残業代が支払われないとか、▽必要な休憩時間が与えられない、▽賃金に見合わない責任の重い仕事を任されるなど、働かせ方に問題のあるアルバイトのことを言います。こうしたブラックバイトの問題を受けて、厚生労働省は実態を把握するため、ことし8月下旬から9月初めにかけてインターネットを通じて、アルバイトをしたことがある大学生や大学院生、専門学校生らを対象に初めて調査を実施し、1000人から回答を得ました。
学生が経験したアルバイトは、コンビニエンスストア(15.5%)、学習塾(14.5%)、スーパーマーケット(11.4%)、居酒屋(11.3%)といった業種が多く、延べ1961件に上りました。
このうち労働基準法で定められた、賃金や労働時間など労働条件の書面での提示がなかったアルバイトは58.7%に上り、全体の19.1%は口頭でも具体的な説明がなかったということです。
職場でのトラブルについて複数回答で尋ねたところ、アルバイトのシフト(勤務パターン)についての回答が目立ち、「採用時に合意した以上のシフトを入れられた」(14.8%)、「一方的に急なシフト変更を命じられた」(14.6%)、「一方的にシフトを削られた」(11.8%)などとなっています。
中には、「準備や片づけの賃金が支払われなかった」(13.6%)、「1日の労働時間が6時間を超えても休憩時間がなかった」(8.8%)、「賃金が支払われなかった(残業分)」(5.3%)など、労働基準法違反の疑いがあるケースもありました。
こうしたトラブルを経験した人は全体の60.5%に上り、ブラックバイトの問題が広がっている実態が明らかになりました。
被害の実態は
東京都内の個別指導塾で去年秋からアルバイトの講師をしているという3年生の女子大学生は、賃金がきちんと支払われないと訴えます。
この学生は、働いた時間を手帳につけていました。ある日の勤務は、夕方6時半から授業の準備を始め、授業や会議を終えて帰宅したのは夜10時前。勤務時間は3時間余りでした。
しかし、この塾では、授業以外の仕事はどんなに時間がかかっても1日600円しか支払われないということで、この日の給料はおよそ2000円。時間当たりで計算すると600円余りとなり、最低賃金を下回っています。
女子学生は「働くたびにサービス残業が出ている」と嘆きます。
さらに、人手不足を理由に大学の試験前にも思うように休みが取れず、学業に支障が出ていると言います。
この学生はアルバイトを始める際、「欠勤は原則、一切認められない」という書類を手渡されました。そのうえ、講師が足りないとして、出勤日を一方的に増やされたと言います。
学生は「塾からは『教育業界なので責任を持て』と言われるが、自分も学業との両立が大変で、大学の単位を落としてしまったことがある」と話します。
この女子学生は、大学院に進学する学費を稼ぐためアルバイトを続けざるをえないということで、「多くの学生が困っている現状を知ってほしい」と話していました。
ブラックバイトに対抗する動きも
こうしたブラックバイトに対抗しようと、学生たちの間で労働組合を結成し、企業に団体交渉を求める動きが広がっています。
首都圏の大学生などが去年、結成した「ブラックバイトユニオン」をはじめ、ことし6月には学習塾で働く大学生らが初めて業界を特定した労働組合を作ったほか、飲食店やコンビニでアルバイトをしている高校生たちも組合を結成しています。
今回の実態調査の結果を受けて、厚生労働省は、学業に支障をきたすなど深刻な影響も出ているとして、学生アルバイトを多く雇っている業界の団体に適正な労務管理を求めるとともに、個別の企業に対して労働基準監督署の指導を強化することにしています。
若者の雇用問題に詳しい法政大学の上西充子教授は「『学生のアルバイトは補助的な労働だから問題があれば辞めればいい』という誤った認識があるが、以前と比べて今は正社員の比率が低いため、アルバイトにかかる負担は大きくなっている」と指摘します。そのうえで、「これまでは『学生は労働法を知らないだろう』とか、『ちょっと強く言えば黙るだろう』というふうに使ってきたような実態もあると思うが、今回、国が調査に乗り出したことでようやく問題が広く認知され、対策に向けて動き出したと言える」と話します。
被害をなくすために
ブラックバイトによる被害をなくすには、どうすればいいのでしょうか。
学生の中には、法律の知識がなかったり、雇われていて立場が弱かったりするため、不当に働かされても声を上げられない人が少なからずいます。
厚生労働省は、来月(12月)から全国で労働関係の法律の知識を解説する学生や教員向けのセミナーを開くなど、対策を進めることにしています。
対策はまだ始まったばかりで、問題を解決するために何ができるのか、学生の声に耳を傾けていかなければならないと思います。