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時論的に諸問題に持論を展開します

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原発事故を起こし広げた官僚の意識

2012-10-06 19:58:40 | 政治的なこと 
 2012年3月中旬、新聞各紙は、元原子力保安院長の広瀬研吉氏(以下敬称略)の「寝た子を起こすな」という発言を報道しました。事実はつぎのとおりです。
 2006年5月、経済産業省原子力保安院の幹部たちは、内閣府の原子力安全委員5人と会合をもちました。当時、安全委員は国際基準をもとに原発事故時の避難区域の拡大を検討していました。これに対し保安院長の広瀬は「臨界事故(茨城県東海村、99年)を受けてせっかく防災体制がまとまった。なぜ寝た子を起こすんだ」といったのです。これを受けた安全委員は主張を変えませんでしたが、その後の保安院からのしつような働きかけで避難区域拡大の提案をやめました。
 
「寝た子を起こすな」と言った広瀬の意識はどんなものだったのでしょうか。こういった発言をする官僚一般の心理をもとに私が推理すると次のようになります。
「原発には安全面で多々問題がある。原発反対派が指摘する多くのことは当たっている。しかし、それを解決するのはわれわれにとって荷が重い。幸い、いま、反対派の運動は静まっている。そのときに一つでも新たな対策をとると反対派からどんどんあらたな施策を要求される。いまは何もしないのがよく、それがわれわれの身の安全にもなる」
 広瀬は私の推理を裏づけるかのような発言もしています。彼は安全委員との会合の直前に、保安院内部の会合で「少なくとも10年間は現行の体制で動かすべきだ」と言っています(彼はこの発言をしたことを否定していますが)。ようするに広瀬は保安院長という役職にありながら安全施策は何もしないという方針だったのです。

 つぎに、この報道をみたときの私の全体的な感想を書いてみます。
 私はさほどショックは受けませんでした。というのは、原発の安全対策に取り組む東電幹部の姿勢が「寝た子を起こすな」だと思ってきたからです。東電幹部は福島県に超大規模地震(貞観地震)が起きていたことを、2005〜2008年あたりに知りながら、「寝た子を起こすな」の姿勢で何らの対策をとってこなかったのです。福島原発で津波対策をとると他地域の原発にも波及するほか、津波以外の安全対策もとらされると考えたのでしょう。

 さて、われわれは以上のところから何を学ぶかです。いろいろあるでしょうが、私は、役人(官庁や大企業の幹部たち、すなわち官僚)は、一般人が思っているより悪質だということを知ってもらいたいと思いました。

(参考1)政府・行政の原発安全対策に関し、佐々淳行(さっさあつゆき)氏は、1995年出版の本のなかで次のように書いています。佐々さんは警察庁出身で初代内閣安全保障室長だった人です。
「危機管理を専門にやってきら私は、常に「もしかしたら」と考える。しかし一般の日本人は「まさか」と考える。この違いは大きい。例えば、かってのチェルノブイリ原発事故の再現などあり得ないとして、先般の「防災臨調」では検討対象事項外として不問に付されている。「起きてほしくないことは起きないことにしよう」(亀井正夫・元行革審会長の言)という発想が支配的だ。
「もしかしたら」そういうこともあるかもしれない。偏西風にのって放射能が雨でも降ったらどうするか。国内の原発だって必ずしも例外にあらず。そのときは科学技術庁の所管になるのだろうが、今の体制では無理に決まっている。自衛隊や警察や消防などが実働部隊になるなら、そのときの指揮命令系統を決めておかねばならない−このように私は考えるし、機会あるごとに意見として述べている。
 日本では、これが素直に受けとられない。「そのうようなことを言うと原発反対運動が激しくなりかねない」と、顰蹙(ひんしゅく)を買う。もともとは第二のチェルノブイリに備えておこうということで、日本の原発が危ない、と言ったわけではない。日本には「縁起でもない」という言葉があるが、風潮としてもそのとおりで、そんな不吉なことを考えるな、ましてや口に出して言うなんてとんでもない、というわけだ。「まさか」の発想が強いあまり、「もしかしたら」の発想からの意見を聞きたがらない。少なくと行政にたずさわる者は、これからは「もしかしたら」の発想を持つべきだと思う。」(『危機管理宰相論』文芸春秋、1995年)
 政府・行政における原発問題での「寝た子を起こすな」の姿勢は、少なくともチェルノブイリ事故(1986年)のときからあったのです。

(参考2)つぎは私の体験です。私は今から35年ほど前、公営大企業の現場の所長になりました。着任後、まもなく、私は業務災害防止対策にとりくみました。それをみた次長は「寝た子を起こすことになりませんか」といってきました。災害防止策は常に組合や社員から提起されてきます。それに対し一部の管理職たちは上部機関との調整や経費などを理由に「寝た子を起こすな」の姿勢で逃げまわっていました。
 私はこの公営大企業の幹部的地位に10年ほどいましたが、「寝た子を起こすな」といった発言に出会ったのは1度だけです。官僚たちもそれほど悪いわけではありません。
 元保安院長の広瀬や東電幹部が「寝た子を起こすな」の姿勢をとった背景には、原発問題が安全面で「とび抜けてむずかしい」ことと関係もあると私はみています。
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