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優越感ゲームから降りられなかったオトナ女子「40歳OL」の正体

■自意識の牢獄から抜け出せない理由

今日は与太話。

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だいぶ話題になってましたね。「東京カレンダー」の連載「東京女子図鑑」。秋田の国立大学を卒業してアパレル企業に就職したというOL「綾」を主人公にしたストーリーが、いろんな方面で物議を醸したりしながら、先日最終回を迎えた。僕はこのタイミングで知って、さかのぼって全部読みました。

おもしろかった。

能町みね子さんも興奮してたり、

大山顕さんもおもしろがってた。

お二方も書いてたけれど、最後でいきなり飛び火したジェーン・スーさん、どう反応するかなあと思ったり。

というわけで、今回はこの物語の主人公「綾」の正体を探ってみよう、という話。最初に書いとくけど、この記事はホラーに着地しますからね。

あ、あと、SNSの反応を見てると「どうせおっさんが書いてるんだろう」みたいな意見もあったけど、それに対しては「そりゃそうでしょ」と思います。男でも女でもどっちでもいいけど、おそらくそれなりに歳のいったライターが書いてるでしょう。ちょっとでも読めば実在する女性の独り語りエッセイではなく、架空の話であることがわかるわけだから。それはもう大前提。

で、おもしろかったのは、いろいろ反応を見てみたら、ムカついてたり、ストレートに反発してたりするリアクションが沢山あったこと。それもそうだよなあ、と思う。だって、記事の文章からは、拭い去れない「バブルの残り香」と「優越感ゲーム」のキナ臭さが漂ってくるから。

三軒茶屋、恵比寿、銀座、豊洲、代々木上原、そして再び三軒茶屋と、それぞれの街に暮らす女性のライフスタイルと価値観をストーリー仕立てで書いてきた記事。そこには、読んだ人の神経を絶妙に逆撫でるポイントが仕込まれている。

たとえば「恵比寿」の回での、東京に慣れて読者モデルにもなった主人公が、ちょっと前まで住んでいた三軒茶屋を見下すこの感じ。

25歳頃からね、広告代理店の男性や、一流総合商社勤務の男性と合コンの機会が増えてきて。そのときに「どこに住んでるの?」って必ず聞かれるじゃない?「三茶」って言った時の男性の「へー(笑)」っていう語尾の含み笑い。それがすごい嫌になって・・・ 

残念ながら、三茶の女性は、「あ・・・今日脱げない・・・」って日が結構ある感じ(笑)

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「銀座」の回もそう。外資系ブランドに転職して、そこの上司との会話。恵比寿ですら見下げて「一流」にこだわる感覚。

住んでる場所を聞かれて「恵比寿です。」と言ったところ、あぁ、って苦笑いされました。そして、「若いお姉ちゃんたちが住んでる街ね。」って笑われたんです。

上司が言ってた「30歳を超えたら、一流のものに囲まれて暮らしなさい」って言ってた理由が最近わかるようになってきました。

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この二つが象徴的だけど、この主人公・綾の行動原理は、結局のところ「優越感ゲーム」でしかない。自ら主体的に何かを欲して求めていくというよりも、「他人からどう見えるか」とか「どっちのステータスが上か」とか、そういうところに突き動かされている。合コン相手の「含み笑い」や上司の「苦笑い」が引っ越しの理由になる、というのもその象徴。さらに言うと、語尾に「(笑)」が頻出する文体も、その感覚の表出と言える。

結婚して「豊洲」に住むのも、結局、同世代の女子との「どっちが幸せそうに見えるか競争」に煽り立てられたからで、こうなるとタワーマンションに住んだら当然高層階か下層階かの“優越感ゲーム”に巻き込まれる。
同じマンションでも、階数によって値段がまるで違うのはわかっているので、上層部の人は、お金持ち特有の気遣いでボタンを押すのが心なしか遅い気がしますし、下層部の人たちは、エレベーターから降りるとき、自尊心を保つかのように毅然と笑顔で挨拶をしてくれます。私はちょうど、17階と真ん中くらいのフロアなので、その両者を演じ分けています。

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よくよく読むと「お金持ち特有の気遣いで」とか「自尊心を保つかのように」って書いてるのは、ただただ「そう見える」だけなんだよね。見る側の心理が何かにからめとられているから、そう見えちゃう。こういうのを「自意識の牢獄」と僕は呼んでます。

で、別居して「代々木上原」に住んで、選びとるものを「一流」から「バランス感」に変えても、やっぱり同じものにからめとられてる。
グランメゾンも経験してるのに、唸るほどおいしいカレー屋さんも、朝ごはんがおいしいお店もちゃんと知ってる。それでいて、地球に優しいエコ的生活も好きで、アートも好き。ヒールも、スニーカーも両方いける。合コンも、ワンナイトの失敗も、恋愛も失恋も、ちゃんと女の人生の旨味と、苦味を全部経験してきた女性が多い気がします。バランス感覚が抜群に優れてる。アップサイドも、ダウンサイドも知った上で、選ぶ中庸は最善なのだと。

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この感じは、やっぱり読んだ側の気分をかなり逆撫でると思うわけなのです。で、もちろん書き手もそのことをちゃんとわかってる。だから最終回でこんなものをぶちこんでくる。
長らく私なんかの話を読んでくださってありがとうございます。23歳のとき東京に出てきてから、17年間をこの東京で過ごしてきて、40歳になりました。これを読んでくれてる方の中には、若い女性もいますよね?あなた、私のこと、どう思ってますか? 

「イタい」って見下していますか?「あんな風には、なりたくない」と反面教師にしていますか?もしくは、自分と関係ないおばさんの話を、笑っているかもしれませんね。 

その感情覚えていてください。

それは、そのまま、あなたが10年後、若い子たちから向けられる感情ですから。若い女性の年上の女性を見るときにうっすらと感じる優越感は、いずれ世代交代していくんです。部下の女の子と話すときの笑顔の奥にある、老いへの畏怖と、蔑みの感情、私はちゃんと透けて見えています。だって、もともと私の内側にあった感情ですから。

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やっぱり優越感ゲームから降りられなかった。最終回で三軒茶屋に戻って、かつての同僚といい感じになって、それで「一周回って自分なりの幸せを見つけて大人になった」みたいな風味のエンディングになるんだけど、相変わらず「自意識の牢獄」からは全然抜け出せていない。別れた夫の近況をFacebookでチェックして見下げるこの感じ。
Facebookを時々のぞいてしまうのですが、奥さまにタグ付けされた満面の笑みの旦那の写真が上がってきます。先日のハロウィンはひどかったですね。かぼちゃの着ぐるみの子供の写真ですよ(笑)「うわー。こういう女と結婚したんだ。」ってバカにしながらも、胸が少し痛みます。

17年たって、まったく変わってないわけです。

■東京という街が生み出した「人の心に住み悪夢を見せる妖怪」

さて。ここからが怖い話。

この連載、注意してよく読むと、時空が歪んでいるのですよ。

というのは、これが「お店紹介」の記事でもあるから。「三軒茶屋」の回を比べるとわかりやすい。作中では時間が経過して17年前の話になっているのにもかかわらず、「23歳OL・綾」が紹介しているのは、2009年にオープンしたフレンチビストロの『トロワ』だったり、2014年にオープンしたバー『ドイーニョケンタローネ』だったりする。

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「恵比寿」の回でもそう。作中では12年前の話なのに「次から次に新しいお店が出てくるからキャッチアップが大変!」と、『AU GAMIN DE TOKIO』や『モード カフェ ギャマン』など、2014年~2015年オープンの店が次々と出てくる。

連載の中で主人公・綾は23歳から40歳まで年を重ねるものの、それぞれの街の描写はあくまで2015年のもの。これは、果たしてどういうことなのか?

(「そういう目的の記事なんだからしょうがないでしょ」というツッコミは、論理を飛躍させるために無視します)

ここから読み取れるのは、主人公・綾は「永劫の現在」にしか存在できない、ということ。過去がいつになっても過去にならない。何年前のことを振り返っても、それが現在の街の描写と紐付けて語られてしまう。

同じ時間軸を繰り返し生き続ける。ということは、このストーリーは「ループもの」の物語構造に位置付けることができる。代表的なものは、主人公たちが永遠に学園祭の前日を生き続ける『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の世界観。『涼宮ハルヒ』の「エンドレスエイト」や『魔法少女まどか☆マギカ』も同じ。

しかし、この「東京女子図鑑」のストーリーが多くの「ループもの」の物語と違うのは、主人公・綾が「ループを抜け出す」という行動に出ない、ということ。17年前の自分も、12年前の自分も、今の自分も、最近にオープンしたお店を紹介し続ける。そこに主人公が疑問を持たない。自意識の牢獄だけでなく、常に現在のグルメを味わい続ける時間軸のループからも抜け出せない。「快適で悦楽に満ちた地獄」を生き続ける。

普通の人間だったらそうはならない。ということは、主人公のOL・綾は人外の存在なのだと考えられる。いわば「都市の亡霊」のようなもの、というか。もしくはループ構造を作る側かもしれない。だとすれば『ビューティフル・ドリーマー』に登場する「夢邪鬼」、すなわち「人の心に住み悪夢を見せる妖怪」と同じ類いのものである、とも考えられる。

そうやって考えていくことで、ようやくこの物語の主人公「綾」の正体が浮かび上がってくる。

「優越感ゲームから降りられなかったオトナ女子」は、実在する40歳OLではなく、東京という街が掻き立てる羨望と焦燥が具現化した、ある種の妖怪だった。「人の心に住み悪夢を見せる妖怪」だった。しかもそれは、いくら歳を重ねようと「現在」という時間軸にしか存在できない。除夜の鐘と共に消滅し、元旦を迎えて再び生まれ変わる。カレンダーのごとく。

そう、彼女こそ、妖怪「東京カレンダー」なのです。

(という妄想)

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