三省堂:「編集会議」という名の催し・謝礼 過去7回
毎日新聞 2015年10月31日 00時15分(最終更新 10月31日 00時39分)
教科書会社「三省堂」(東京都千代田区)が公立の小中学校の校長らを「編集会議」と称して集め、検定中の教科書を見せて意見を聞き、謝礼を渡していた問題で、同社は2009年以降、同様の会議を計7回開催していた。いずれもほぼ4年に1度行われる小中学校の教科書検定の時期に合わせていた。参加した校長らがその後の教科書採択に関わったケースも少なくない。文部科学省は「教科書採択に疑念を招きかねない行為」として、同社に対し11月までに事実関係と改善策を報告するよう求めた。
文科省や三省堂によると、「編集会議」は▽09年2回▽10年4回▽14年1回。09年度は小学校の教科書、10と14年度は中学校の教科書の検定時期だった。
昨年は8月に、都内のホテルに青森や大阪、福岡など11の府県から公立小中学校の校長や教頭ら11人を英語の教科書の「編集会議」と題して集めた。現金5万円を渡したほか、会議後の懇親会費や交通費、宿泊費も負担していた。
参加者のうち5人はその後、各教育委員会が来年度から使う教科書を決める「採択」に際して参考意見を述べる「調査員」などに選ばれていた。文科省が各教委などを通じて調査した結果、三省堂版を推すような言動は確認されていないという。中学の英語教科書で同社の今年度のシェアは24.5%(3位)、来年度は24.2%(同)とほぼ変わらなかった。
文科省は検定中の委員に圧力が加えられぬよう、検定中の教科書は検定終了まで外部に見せることを禁じている。教科書会社でつくる「教科書協会」は採択関係者への金銭の提供を禁止する自主ルールを策定している。【三木陽介、高木香奈】
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「少子化で教科書の発行数は減っており、どの出版社も経営は苦しい。教科書採択にかかわる先生と少しでも関係を深めたいという下心があったのではないか」。ある教科書会社の幹部は、三省堂の「狙い」をこう推測する。
この幹部によると、出版社の営業担当者は日常的に学校を訪ね、教員らに使っている教科書の感想や改善点を聞いているが、検定申請中の教科書を見せて現金を渡す行為については「信じられない」とあくまで特異なケースだと強調する。
近年、教科書の営業活動は過熱している。特に検定・採択は4年に1度のため、採択されれば4年間安定した供給が見込め、出版社の経営に大きなプラスだ。今年6月には、中学校の教科書採択を巡って、複数の出版社が教員宅を訪問するなどの過剰な宣伝活動が明らかになり、文部科学省が全教科書会社を呼んで注意を促した。
こうした背景にあるのは少子化だ。「教科書協会」(約40社)が発行する「教科書発行の現状と課題」(2015年度版)によると、14年に全国の小中高校と特別支援学校で使われた教科書は計1億2681万冊で、1985年に比べ4割減。ピーク時の58年と比較すると約半分に落ち込んだ。今後も子どもの数が減り続けると予想される中、出版社は成長が見込まれるデジタル教材の開発などで経営努力を進めている。
冒頭の出版社の幹部は「教科書選びがこのような不透明な形で行われていると誤解されたら迷惑。三省堂は事実関係をしっかり調査し、明らかにしてほしい」と注文した。
教科書協会は30日、東京都内で臨時の会合を開いて三省堂の北口克彦社長から報告を受けた。会合後、佐々木秀樹会長は、教科書宣伝に関する自主ルール違反について三省堂の処分を検討すると明かし、「今一度加盟全社に自主ルールの徹底を呼び掛ける」と話した。【佐々木洋、高木香奈】