煙から逃れてくるメイド服姿の女性たち。
直前まで働いていた雑居ビルは激しい炎に包まれていました。
先月8日、広島市の繁華街で6人が死傷した雑居ビル火災。
燃えたのは、昭和23年ごろに建ったと見られる木造の建物。
壁の材質や通路の幅に法律違反があった可能性が浮かび上がってきました。
ところが、市はこの状態を知りませんでした。
行政が建築の状態を把握していないこうした建物の火災が相次いでいます。
取材を進めると危ういリフォームが行われている実態が見えてきました。
見抜けなかった繁華街の死角。
建物の安全を確保するために何が必要なのか現場からの報告です。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
繁華街に数多くあるのが小さな雑居ビルです。
入居している個々のテナントの面積はそれほど大きくなく階が違えばあるいは壁を隔てればテナントごとに、そこは別世界そんなことも珍しくありません。
広島の繁華街の中心部の2階建て雑居ビルで3人が亡くなり、3人が重軽傷を負う火災が起きてからまもなく1か月になります。
ビルの1階にはメイドカフェと居酒屋。
2階のフロア全体をメイドカフェが使用していました。
戦後まもなく建てられた古い建物で建築基準法を満たしていないいわゆる既存不適格の建物でした。
建築基準法が改正されると法律を満たさない既存不適格の建物が多く生まれますがそのことだけで法律違反とはなりません。
既存不適格なりに防災対策・防火対策を進めることで、建物の価値を高めそして安全に使い続けられるとされています。
建築基準法を満たしていない建物の場合安全を確保するための防災・防火対策が取られているかどうかとりわけ重要なわけですけれどもビルの実態を把握する徹底した仕組みはありません。
基準を満たしていない建物に一定規模のリフォーム改築を行う場合行政に申請が必要でこのとき実態把握が可能になります。
逆に申請がなければ行政は建物の状態をいつまでも把握することができないという場合も少なくありません。
国土交通省は既存不適格の建物は把握できないぐらい多いとしていまして不特定多数が利用するビルやホテルで、危険なものが一体どれだけあるのでしょうか。
広島で火災が起きた雑居ビル。
行政には建物の記録が全くなく危険性が見過ごされていました。
飲食店などが入った雑居ビルがひしめく西日本有数の歓楽街、流川です。
中心部にあるこの2階建てのビルで火災は起きました。
3人が亡くなったメイドカフェに通っていた男性です。
ひとつきがたとうとする今も現場に足を運び続けています。
ここ数年、人気を集めていたメイドカフェ。
仕事帰りのサラリーマンたちで連日にぎわっていたといいます。
火災のあとこの建物の実態を知り男性は驚きました。
この地域では建てられない木造建築。
さらに、国の調査で燃えやすい板が使われ通路は基準より狭いなど建築基準法に違反していた疑いが明らかになったのです。
建物を監督する立場にある広島市の建築指導課。
この雑居ビルの状態を把握していませんでした。
新築や一定規模のリフォームの際所有者から提出されるはずの建物の記録が一切なかったのです。
この建物は昭和23年ごろに建ったと見られています。
昭和51年、この場所が防火地域に指定されたことでより厳しい法律の基準が適用され既存不適格になりました。
取材では、この建物に入る店舗が何度も変わりリフォームが行われていたことが分かりました。
しかし市は、申請がないかぎり建物を確認できないとしてどの程度のリフォームが行われたのか把握していませんでした。
申請がないために建物の危険に気付けない行政。
その問題が顕在化したケースが過去にありました。
3年前、7人が犠牲となった福山市のホテル火災です。
福山市によると昭和46年の法改正を受け既存不適格となったこのホテル。
申請を出さず、1階をリフォーム。
避難に使う階段を撤去しました。
違法なリフォームでした。
この火災を検証した専門家は申請を待つだけになりがちな行政の在り方に問題があると指摘します。
この火災を受け国土交通省は全国の都道府県に昭和46年以前に建てられた既存不適格の可能性がある宿泊施設を緊急点検するよう伝えました。
その結果、全国では1840件中5割近くで法律違反がありました。
その中には、既存不適格の建物をリフォームしたものも多くありました。
申請がない既存不適格の建物。
どうやって危険性を見抜いていくのか。
自治体では飲食店など不特定多数の人が利用する建物の所有者に建物の状況について定期報告するよう義務づけています。
広島市では3階建て以上の建物が対象。
今回のような、2階建ての雑居ビルは対象外でした。
そして、もう一つ気付く機会がありましたが生かされませんでした。
広島市の消防がこの8年間で5回今回の雑居ビルに立ち入り検査を行っていたのです。
調べたのは、消火器や火災報知器などの消防設備のみ。
一方で建物の材質や通路の幅など建築基準法の観点で注意を向けることはありませんでした。
既存不適格の建物に行政の目が届かない現実。
その陰で危ういリフォームが行われている実態が見えてきました。
広島市で複数の雑居ビルを所有する会社の幹部です。
今夜のゲストは、建築物の防災・防火がご専門でいらっしゃいます、早稲田大学教授、長谷見雄二さんです。
申請がないと、なかなか行政も危険に気付くことができないということなんですけれども、実際には、テナントが替わるごとに、それぞれリフォームが行われて、最終的には建物全体が危険になっているという、そういう雑居ビル、数多くあると見てらっしゃいますか?
結局、お店ごとに改修する分には、それを届ける必要、建築部局には報告しませんので、ですから、そうすると、建築知らないような業者が、そういう改修するという例がたくさんあると思います。
ですから、非常にたくさんあると思います。
どういった場合に、届け出が必要になっていくんですか?申請が。
結局、建物のかなりの部分を、改造するとか、それから建物の形が変わってしまうとか、増築の場合ですね、そういう場合は届け出をするわけですけれども、そうじゃないと、そのあとの建築行政には届け出が必要がない、そういうことになります。
それぞれの店舗が、小さなリフォームを積み重ねていく中で、非常に防火という意味では、危険な部分が生まれやすくなるんでしょうか。
そうすると、まず、要するに建築届け出る必要ありませんので、建築の知識がない人がこう、勝手にやりますんで、そうすると、飲食店なんかですと、例えば、排煙設備があったり、防火ドアって、いろんな設備がある、それから防火材とかあるんですけど、それを考えないで、改造してしまいますね。
ですから、いつのまにかすごく法に合わない危険なものになってしまうということが、かなり起こっていると思います。
ただ、気付くチャンスというのは、消防の検査で、今回、火災があった雑居ビルでも8年間に5回、消防の検査があったということですけれども、消防設備の有無に限られ、そして検査された部分は、共用部分だったということなんですけれども、もう少し気付けたらなというふうに思えますね。
あの建物は、やっぱり防火地域ですから、そうするとほとんどのものはある程度の規模になれば耐火構造が必要ですね、そうじゃないわけですから、だから、どこか法に合っていないだろうというふうに思ったほうがいいですね。
そこで、だからそうすると、既存不適格かもしれませんが、それなりに既存不適格なら、こういうところに気をつけようとか、そういうことを指導してもいいわけですよね。
それから飲食店なんかの場合には、共用部分よりむしろ、店舗の中のほうですね。
最近、特に小さい部屋に区切っていくような、サービスが多いですから、そこで雑居ビル、最近起こっている大きなビル火災、みんなそういうものなんですけれども、むしろ共有部分よりは店の中のほうが、問題のことが多いですので、やっぱりそこまでちゃんとチェックをするということがあったほうが、していればだいぶ違ったと思うんですね。
消防が、どこまでそういう知識をこれから持つべきなのかっていうふうにも。
先ほど、建築の指導はできないというお話もあったんですが、消防がですね。
ですけど、消防の方がそういう建築の知識を少し持っていると、だいぶ建築が弱いから、こういうふうに、…こうしようとか、そういう指導ができると思いますので、やはりその連携ですね。
建築と消防の?
そういう連携が必要だと思いますね。
なるほど。
しかし、あの地域は、防火地域に指定されて、新築の木造建築ができない地域になっていた。
だけど定期報告が義務づけられるビルというのは、2階ではなく、3階以上のビルだったということなんですけれども、防火地域にある木造の2階建てのビルが、定期報告の対象になっていてもよかったんじゃないかというふうにも思えるんですけれども。
防火地域であり、なおかつ相当大きな、2階建てとはいえ、相当大きいですよね。
ですからやはり、火災になったら、どんどん燃えていくんじゃないかというぐらいのことは考えて、指導していただいたほうがよかったんじゃないかなと思いますね。
行政が建物の状態を把握することができないまま起きました、広島の火災ですけれども、国土交通省の通知を受けまして、全国の自治体が今回、火災が起きた規模の木造2階建ての雑居ビルの飲食店の緊急調査を進めています。
NHKの調べで、全国25万人以上の都市で、1100万件以上が調査の対象になったことが分かりました。
そんな中、建物の危険性をどう把握し、安全を確保していくのか、対策に乗り出す自治体が出てきました。
築100年以上の木造の建物が、町に数多く残る京都市。
今、次々と改装されレストランやカフェなどに利用されています。
建物の安全対策を担う建築安全推進課です。
広島での火災を受け注意喚起のビラを作成。
不適切な改装などを見逃さないようおよそ300軒の建物所有者に郵送しました。
今、特に力を入れているのが役所内での連携を深め情報を共有する取り組みです。
この日、集まったのは建築安全推進課に加え建物の防火設備のチェックを続けている消防局。
飲食店などに営業許可を与える保健福祉局。
そして、宿泊施設の最新事情に詳しい産業観光局。
急増している既存の建物を利用した宿泊施設をどう把握していくのか議論が行われました。
1枚の紙にそれぞれの部署が持つ断片的な情報をまとめることで建物の安全が脅かされる状態になるのを未然に防ごうとしています。
監視を強める一方で建物所有者からの情報収集にも力を入れ始めました。
注目したのは、建物の所有者に義務づけられている定期報告です。
京都市では、飲食店の場合床面積1500平方メートル以上の建物が対象でした。
これを2年前500平方メートル以上の建物にも適用することにしたのです。
その結果、対象件数はおよそ600件から3900件へと6倍以上に増えました。
連日、市には建物の所有者たちから報告書が次々と提出されています。
職員は、是正すべき点がないか一つ一つ確認。
改善方法などを助言します。
行政の指摘をきっかけに所有する建物の安全性を高めようという動きも生まれています。
老舗旅館の3代目滝川敦之さんです。
100年以上前に建てられたこの旅館。
今回のルール変更で初めて定期報告の対象となりました。
結果は既存不適格。
煙の逃げ場のない玄関。
木がむき出しとなっている軒裏。
市から防災上好ましくない状態にあるとして改善を要望されました。
すべての部屋の窓を交換し新たに非常灯も設置。
木材がむき出しだった壁は燃えない材料で覆いました。
改修費用はおよそ1800万円。
滝川さんは旅館を続けていくためには安全対策は欠かせないと決断しました。
違法ではない既存不適格。
それでも、そこにはらむ危険性に向き合い安全を確保しようという試みが始まっています。
長谷見さん、木造2階建てで、雑居ビルの飲食店の緊急調査が行われていて、NHKの調べで、全国25万人以上の都市で、1100件以上、1100件以上が調査対象になったという中で、京都では、踏み込んだ模索を今、始めようとしていますけれども、取り組み、どうご覧になられましたか?
京都はすばらしいと思うのは、やっぱり、施設って建物と、それから消防対策ですね、それから管理者の意識、3つが組み合わさらないと、安全にならないですよね。
建物は法律に合っていても、消防対策とか管理者の意識がだめだったら、全然安全じゃない。
この3つの行政部局がそろって、1つの紙になんか書いて、それで相談をしているというのは、いいと思います。
それによって、この建物はちょっと弱いから、じゃあ、管理のほう頑張ろうとかですね、そういう弱点とか長所が見えてきて、組み合わせて、全体として安全なものができる、そういう取り組みだと思いますので、これはやはり、今建っている既存不適格な建物、いろいろあるんですけど、安全にしようという前向きな取り組みだと思います。
そしてもう一つの取り組みが定期報告の対象を、1500平米から500平米という小さな建物に広げていく。
これで十分でしょうか?定期報告の対象は?
旅館とかですので、もっと小さいものもありますね。
だからゆくゆくはもっと小さなものも安全にしていくという必要があると思うんですが、まずは、これまで1500平米だったものを500平米にして、今まで、観光とかそういうものまで入れた防災っていうのは、あんまりやっていませんので、まずその500平米の範囲で、いろんなどういう課題があるのか、どういうふうに指導していったらいいのかということをまず、まとめていただいて、それで、さらに小さいところに入っていくと、小さい施設であれば、旅館なんかであればもっときめ細かいサービスとか防災もできると思いますので、そういうことを生かしていって、安全なものにしていけばいいんじゃないかというふうに思いますけど。
長谷見さんは専門家として、不特定多数の人々が利用する建物での火災というのを見続けてこられたわけですけれども、今回の雑居ビルのこの火災、どう位置づけていらっしゃいますか?
やはり、最近、雑居ビルの火災が多くて、それで施設で難しい問題あるんですけれども、でも、弱いものは弱いなりにそれで管理をしっかりしていくとか、消防対策を補っていくとか、ということで、安全にしておくことはできると思いますので、そういうことを考え直す、いい機会じゃないかと思いますけど。
これまでデパート火災やホテル火災、そういった火災があって、やっぱりこの雑居ビルの火災というのは、いわばなんていうんでしょうか。
取り残されてきたものというふうに?
やはり、なかなかね、そこまで考えて店を選んだりしないですよね。
ホテルなんかであれば、安全なところを選ぶとかってやるんですけれども、そうなっていなかったんですね。
2015/11/05(木) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「繁華街に潜む“死角”〜“メイドカフェ火災”の波紋〜」[字]
広島で起きた雑居ビル火災。建物が建築基準法に違反していた疑いがあるが行政は把握していなかった。背景に「既存不適格」という建築確認を巡るルールの盲点が見えてきた。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】早稲田大学教授…長谷見雄二,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】早稲田大学教授…長谷見雄二,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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