「一般的に不正を告発したいというプロパガンダ的意図から映画が作られることに問題はない」と原監督は言う。撮影隊が用いた隠し撮りの手法についても「作家が信念を持って、隠し撮りでしか撮れない、という選択をする状況はある」と理解を示す。「しかし、カメラは作り手の意図を裏切る何かをとらえるもの。そこから異なる価値観や見方が浮かび上がり、見る側の価値観を根底から揺さぶる瞬間がある。この映画にはそうした魅力がない。ドキュメンタリーというよりサスペンス映画の技術を駆使した、よくできたドラマだ」
顔ぼかしに違和感
劇映画を演出する崔洋一監督も「ドキュメンタリー映画として見るのがそもそも間違い。娯楽性の強いドラマ」と話す。「もっと客観的なデータを入れるべきだという批判は当然あるだろうが、それをするとドラマとして面白くなくなるから、作り手はあえて客観性を捨てている。すべての映画は『映画の中の現実』という虚構で成り立っていることを、観客が前提に見ればいい」
4人全員が一致して疑問を抱くのは、太地町の人々の顔を画面上でぼかした処理だ。米国版にはなかったが、太地町から「肖像権を侵害している」との抗議を受け、日本版にのみ入れられた。「文字通り顔がなくなることで、悪者の印象を強めている。人権の問題は常に考えるべきだが、この作品については裏目に出た」と崔監督は見ている。(文化部 白木緑)
映画、ドキュメンタリー、コーヴ、イルカ漁、森達也、想田和弘、原一男、崔洋一、エンターテインメント
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