(隠館厄介)
その朝ある者は体のメモを見つけ…
(掟上今日子)やった〜〜〜!!っしゃ〜!!
らしからぬ奇声を上げた
ある者は情報収集に余念がなく…
ある者はひそかな野望を胸に秘め…
ある者はいつものようにコーヒーを入れる
そしてある者はついにこの日が来たと臨戦態勢で家を出た
その前日彼らを迎える館のあるじは休日を彩るための準備を完成させた
彼は二度とこの家に戻ることはなかったがその人生は多くの人に楽しみを与え時に幸せな記憶を刻み付けた
一日で記憶をなくしてしまう彼女の心にも
(重信)いやいやいや…よく来てくれたね。
今の仕事古本屋だって?すいません出版社の敵みたいで。
座って座って。
ジュンちゃんコーヒー2つ。
はい。
バイトなんですけど推理小説の勉強にもなるかなって。
ほぉ〜いい心掛けだね。
あの時の推理はホントに助かった。
あれは今日子さんが。
そう!美しき忘却探偵掟上今日子。
(重信の声)今日子さんの素晴らしい推理力がなかったらあの事件はどうなっていたか。
俺も編集者として大変感謝してる。
今日子さんは作創社の救世主といっても過言ではない。
あれ以来俺は激しく今日子さんを尊敬している。
なぜ「今日子さん」と名前呼び?ダメなの?いや1度しか会ってないのに。
なれなれしい?ちょっと。
でな今日子さんの推理力を見込んで…。
呼ぶんだ。
須永フェスタに参加しないか?須永フェスタ?
須永の休日通称須永フェスタ
須永昼兵衛は日本を代表する推理小説化の1人
エンターテインメント性を重視するその作風は幅広い層から愛され今日子さんも熱烈なファンである
その須永先生が書き上げた新作原稿を須永先生自らがどこかへ隠し出されたヒントを元に編集者達が捜し出す
それが須永フェスタ
バブルの頃には球場や遊園地海外のカジノを貸し切って行われた
無人島が会場になった際には食料が流され自給自足で3日間過ごすはめになったという伝説までもある
その須永フェスタが11年ぶりに開催されることになった
会場は須永先生の軽井沢の別荘だという
(絆井法郎)へぇ〜面白そうじゃんねぇ?えっ?今日の話?次の日曜日。
あっじゃあダメだよ。
今日子さんの記憶は1度眠ったらリセットされる。
事前予約は不可当日の依頼しか受けない。
分かってんだろ?はいしかもノーギャラなんです。
じゃあダメだよ無理無理あの守銭奴の今日子さんが。
ハァ〜ですよねいくら須永ファンでも…。
行きます!行きます行きます!絶対に行きます!先生本人は来ませんよ?行きます。
新作を読めるわけでも…。
行きます!それに…。
行くったら行くんです!どんな条件でも行きます!予定を忘れないように何度も何度も油性ペンで書き直して何が何でも絶対に行きます!行かせてくださいお願いします!ハァ…行きましょう。
やった〜!夢みたい!最高です!全国の須永ファン憧れの須永フェスタに参加できるなんて!絶対絶対忘れないでくださいね?次の日曜日楽しみにしてます!《これはまるで…デートの約束!》今日子さん!あっ!須永フェスタの。
はい厄介です。
厄介さん今朝これを見つけてもう嬉しくて叫んじゃいました!今日はきっと人生最良の日です。
はい脚しまいましょう。
はい。
何着てくか迷っちゃって。
どうですか?お似合いです。
よかったです!《分かってるこれはデートじゃない》《須永邸に着いたら大勢の編集者達がいる》《でもいいじゃないか》《軽井沢までの2人きりの時間デート気分を味わったって…》バス来ました。
あっ…軽井沢行きの乗り場はあっちで…。
(まくる)お待たせ〜!えっ?法郎さんまで何してんですか。
えっ?バス旅行?さきいか食べる?いいです。
ってか見れば分かります。
まくるちゃんも塗君も軽井沢行きたいって言うからさ。
塗君?そう。
仕事以外のことは普段しない塗君が珍しくほら!あれ?何ですか?あれ。
スカイツリーでございます。
スカイツリー?
(まくる)日本一の電波塔で高さは「ミナナロウ」3776メートル。
高い!ミナナロウすごい!今日子さんがこんなアホみたいな間違いに気付かないなんて…。
見たことねえテンションだな。
法郎さんでも?うん厄介君ラッキーだよ?よし寝よ。
ハァ…。
《確かにいつもの探偵モードとは違うこんな今日子さんと一日を過ごせるなら僕にとってもそれは最高の休日だ》楽しみですね。
はい。
この時僕はすっかり忘れていた
よりによって自分の名前を
厄介の「厄」は災厄の「厄」なのだ
どこまで行っても運が悪い僕に最良の日なんて訪れるはずもない
ホホっ!わ〜!ここは須永先生の2つの別荘のうちの1つで毎年6月から10月までを過ごすんです。
はっ!
昔から言われていた
僕の不運は近くにいる人間にまでうつる
(着信音)もしもし。
(重信)大変なことになった。
須永先生が滞在先のホテルで亡くなった。
心不全らしい。
もうお年だったからな。
ここ作品の中にも出て来るんです。
(まくる)そうなんですか?はい。
(重信)おい聞いてんのか?はい…。
分かりました今日は中止ですね。
いや原稿の捜索は予定通り続けてくれ。
えっ?須永昼兵衛の遺作が行方知れずじゃまずいだろう。
(重信)これはもう正式な依頼だ。
今日子さんに事情を話してだな…。
待ってください!ならこのまま須永フェスタで行かせてもらえませんか?
(重信)えっ?要は原稿さえ見つかればいいんですよね?《須永先生ごめんなさい》《今日だけは先生の訃報を僕の胸の内にとどめさせてください》《その代わり須永フェスタはつつがなく行わせていただきます》《僕が不運を呼び込んだのならなおのこと》《僕には彼女の最良の日を守り抜く責任がある》《今日子さんには今日しかないのだから》厄介さん入りましょう。
はい。
はっ!はぁ〜!編集部の方達は?あっ遅くなるみたいで。
何時になるか分からないって。
どうかしたんですか?
(バイト君)俺バイトなんでよく分かんないっす。
代わりに行って来いって鍵の置き場所教えられただけで。
ハァ…。
(口笛)
(口笛)
(遠浅)ここにいたか隠館厄介。
貴様を逮捕する!
(新米)遠浅さん!ふざけ過ぎです。
休みの日ぐらいふざけさせろ!休み?
(バイト君)こちら警視庁の刑事さん達で。
よく知ってます。
須永先生のファンで須永フェスタに参加したいと強引にねじ込んで来たそうですよ職権乱用で。
愛だ須永先生への愛。
ならお仲間ですね。
はじめまして探偵の…。
掟上今日子さん3度目まして。
遠浅と申しますこちらは新米。
あっどうも。
まぁいくら挨拶しても忘れてしまいますわなぁ。
毎度毎度忘却のかなたへ!ファ〜!ファ〜。
須永先生の原稿は…俺が先に見つけ出す。
お手柔らかに。
(バイト君)これ隠し場所のヒントだそうです。
須永先生の原稿はこの家のどこかに隠されている
先生からのヒントは4つ
1「作品の原稿枚数はおよそ120分あれば読めるくらい」
2「デリケートな場所に隠してあるので細心の注意を払って探すこと」
3「あるものではなくないものを探せ」
そして4つ目のヒントは…
4つ目が空欄…。
書きかけてやめたんですかね?お楽しみがあるのかも。
お楽しみ?第2回の須永フェスタであったんです。
須永先生ご自身は来ないと言っておきながら4番目のヒントを携えて現れた!本人が?はい!それはどうだろう?先生は昨夜から東京に泊まってて今日も来られないって聞いてますし。
それがフェイクなんですよ。
須永先生が同じ手を2度も使いますかね?1部屋目行くぞ。
最初はどの部屋へ?そりゃあもちろん…。
プッ!どこですか?さぁ…?ジャ〜ンオホホ!お〜いいとこあんじゃん。
♪〜♪〜いいね。
♪〜♪〜いいね〜。
♪〜あっちだ!観光会館の向かい側…これだ〜!おいしそ〜!すいませ〜ん!えっとこれとあとこれと…。
あったあった!これこれこれ。
あっ!これも!フゥ〜…。
まだまだ!次!はぁ〜!おぉ〜!おぉっ…!はぁ〜〜…!須永先生の作品が全部ある〜!はぁ〜!おぉ〜!2人とも真っ先にここへ来たってことはこの部屋に隠されてる可能性が高いってことですか?はっ?はっ?あぁ〜!これを見ろ〜!須永先生のデビュー作『水底の殺人』の初版本だぞ〜!え〜!
(新米)はあ…。
もしかして書斎を見たかっただけ?当たり前じゃないですか。
言うまでもない。
(新米)これやけにど〜んと置いてありますね。
テレビと金庫。
番号が必要ってことかな?
(遠浅)金庫の中はないだろ〜。
何のひねりもない。
それにテレビも古いし廃品なんじゃないか?そもそも原稿って原稿用紙そのものが隠してあるんでしょうか?どういう形態なんでしょう?須永フェスタの第1回はここで行われたんですが本にしてあったそうです。
本?須永先生自ら原稿を製本して本の形にして書棚の1冊に紛れ込ませておいた。
フンよく知ってるじゃないか。
お褒めにあずかり光栄です。
それじゃ何でもありですね。
この人数じゃ捜し切れない可能性もあるんじゃ。
須永先生は推理作家です。
人海戦術ではなく頭脳で解ける出題しかしないと思います。
恐らくヒントを見ただけでもある程度は推察できる隠し場所かと。
ヒントだけで?
(遠浅)フフフ…フハハ…アハハ…!アハハ!アハ…!
(せき込み)
(せき払い)ヒント3は「あるものではなくないものを探せ」。
確かにこの部屋には足りないものがある。
それが手掛かりだ。
分かったんですか?
(遠浅)ああ。
だが掟上今日子。
貴様にこの手掛かりは見つけられない。
毎日記憶をなくす人間に捜査なんて無理なんだ。
今日子さんは何度も事件を解決して…。
(遠浅)今までのはただのラッキーだ。
捜査ってのはな知識と経験の蓄積だ。
おい新米行くぞ。
(新米)あっはい。
手掛かりは黄色だ黄色い場所を捜せ!はい。
聞いてんのか?あっはい。
黄色…黄色ですねはい。
あの…。
遠浅さんの言うことはもっともかもしれません。
そんなこと…。
現に私はここに並んだ須永先生の著作のうち3分の2程度しか読んでいません。
そうなんですか?読んだのかもしれない。
でも記憶が消えるようになってから出版された本は読んだとしても忘れちゃってますから。
私の部屋に読書用の本は1冊もありませんでした。
須永先生の本もなかった。
置いておくと毎日読んでしまうからだと思います。
私の人生は読んだはずの本を繰り返し読むだけで終わってしまう。
だから今日子さんは探偵なのかもしれませんね。
外へ出ていろんな人と会って。
今日子さんのほうは覚えていなくてもそれで助けられたり幸せになれる人が大勢います。
まだ原稿は見つかっていません。
他の手掛かりから逆転するチャンスもあるはずです。
諦めず頑張りましょう!はい!まだ4番目のヒントも出てませんしね。
あの…先生は来ませんよ?はいはい来ない来ない。
4つ目のヒント?空欄なんです。
先生がご存命だったならこちらに来てヒントの追加をするつもりだったんでしょうか?それはないな先生は今夜のホテルも予約してた。
4つ目のヒントはそっちにあるんじゃないのか?こっちに?重信さん!
(重信)ああ今行く。
頼むぞ書き下ろしの長編原稿なんだ。
もし見つからなかったら何人かの首が飛ぶ頼んだからな。
(通話が切れた音)ハァ…。
あぁいた。
須永先生のヒントの紙ってこの家にあらかじめ置いてあったんですよね?どこにあったんですか?はいあっちです。
あっ戻さないで黙ってますから。
あっちです。
ご存じですか?うおぉ!!3回目の須永フェスタでは須永先生が遊園地の職員に変装して現れたそうです。
女装してまで。
今日子さんは普通に現れてください。
あのバイトの方ソーセージの前はズワイガニの缶詰まで食べてました。
見てたんですか?1缶1500円はする代物ですよ?信じられない。
ただ者じゃありません。
違いますよ。
無理ですからね70歳すぎの先生がどう変装してもあの人にはなれませんからね。
すっごく頑張れば。
頑張っても無理です。
チッ。
(バイト君)ここに画びょうで留めてありました。
他には?
(バイト君)何もヒントの紙だけぺらっとここに。
ヒントが何か?第4のヒントないみたいなんです。
今回は追加のヒントがないということですか?はい確認しました。
分かりましたとなると…。
(新米)・あったありました・あったか…!おぉまさに黄色!隅から隅まで捜せ!おっとストップそれ以上は近づくな。
あったって原稿が?原稿はまだだ。
だが隠し場所はここだ黄色い洗面所。
黄色?すごい色ですね。
黄色?なぜここに目星を付けたか聞きたいか?うんなら教えてやろう。
須永先生が45年かけて書いた全著作99冊がここにある。
そんなに書かれてたんですね。
…と見せかけてここにあるのは98冊しかない。
1冊だけ抜けているんだ。
ヒント3「あるものではなくないものを探せ」。
それは…『青色を盗め』という本。
この部屋のどこを捜してもこの1冊だけがなかった。
『青色を盗め』は先生の作品群の中でも最も新しい怪盗ブルーというシリーズの第1作目に当たる。
読んだことは?あっても覚えてません。
だろうな。
その怪盗ブルー最新作が先月出版されたばかりのこの『連投グリーン』!グリーンから青色を盗むと?黄色?そう!緑から青を引くと黄色!黄色が手掛かりだ。
そう思って捜してみると壁一面が黄色い洗面所があった。
フッフッ。
忘却探偵には解けない問題だったなぁ。
ハァ…。
遠浅さんそれはおかしい!なぜ『連投グリーン』なんですか?あっ?『青色を盗め』がポイントなのは分かりました。
でも最新刊だからといって『連投グリーン』が関係あるかどうかは分からないその推理はこじつけです!4つのヒント!「4」という数字がポイントだ。
4?
(遠浅)怪盗ブルーシリーズは『青色を盗め』『裏切りの赤』『青い夕焼け』『連投グリーン』…と全部で4冊!4…。
(遠浅)4冊と4つのヒントは符合している。
つまり4つ目の空欄に当てはまるのは4作目の!『連投グリーン』…くっ…。
(遠浅)どうだ!反論できまい!!でさっきから何してんだ?探偵さんは。
これ何ですか?
(遠浅)俺の推理を聞け!遠浅さんは須永先生の全著作を読んでますよね?当然だ。
じゃあ…これは?『人工密室』。
密室3部作の1つだろう。
この作品のモデルは?この須永邸だ。
覚えてますねぇ。
(遠浅)当然だ。
貴様と一緒にするな。
後書きは?後書き?「家の別荘の洗面所には派手な彩色が施されている。
僕の開運を願った祖母が塗ったものだ。
品がいいとは言い難いが祖母が亡くなった今となっては勝手に塗り替えるのも申し訳なくその壁はいまだ…金色のままである」。
金?どう見ても黄色だったろう!須永先生ご自身が金色と形容している以上あの壁を黄色に見立てたヒントはつくらないと思います。
読んだはずなのに…。
忘れちゃったんですね。
人の記憶とは不思議なものです。
知識が増えれば増えるほど得るものも大きいんでしょうが同時に失われるものもあります。
(新米)洗面所何もありませんでした。
あるわけないだろそんなもん。
え〜…。
大変ですねお休みの日に。
しかし!あるはずでないものが『青色を盗め』を指してるのは間違いない!俺の目の付け所はなぁ…。
ふぁ〜あ…いや〜よく寝た。
結局1ページも読めなかったアッハッハ。
ちょっとすいませんはいすいません。
あっ…。
(遠浅)貴様〜!!何?俺?俺?俺?貴様っていうか王様だぞ。
王様…貴様のせいで俺は延々と見当違いな推理を〜!よかったじゃないですか。
推理が間違ってたってことはまだまだ須永フェスタを楽しめるってことです!いい休日です!そうですよいい休日です!何?これ。
アハハ…。
(シャッター音)
(シャッター音)
(也川)苔いい〜。
はぁ〜!須永先生の寝室!あっいけませんそれ危ないファンの行動です!ちょっとぐらい…。
寝ちゃったら困ります。
う〜ん。
今日子さんダメです!寝たらどうするんですか!?ちょっとちょっとだけ…!はぁ〜!ここで須永先生が!やめてくださいますます危ないファンです。
ダメですよ今日子さん絶対ダメですよ。
わぁ〜。
うわっ!カッコいいな!須永先生何聴くんだろ?オペラがお好きだったかと。
2時間程度の演目を執筆の合間に聴くことがあると昔雑誌で読みました。
2時間。
そもそもどうして120分なんでしょう?2時間じゃなくて。
「120分あれば読めるくらい」という書き方も気になります。
読むスピードは人それぞれですし。
僕なら120分だと短編かな。
短編となると400字詰め原稿用紙で100枚以下ですね。
あれ?でも…。
頼むぞ書き下ろしの長編原稿なんだあっ。
あれ?はじめまして今日子です。
今日子です。
あっぶつかりますよ。
お〜すごいですね。
もっと速く走れるんですか?あっダメなんですね。
今日子さんは?ん?あっさっきあっちのほうに最新型のペットロボだと思い込んで追い掛けてった。
ペットロボ?まっ少し休めば?コーヒーブレーク。
あるものでないもの…。
何なんだ?何でしょうね?ほら刑事さんも。
あの〜。
須永先生って死んだんですか?えっ?死んだ!?何でそんな!ここに。
何でもかんでもつぶやくな!!本当なのか!?あぁ!ガセですネットの情報なんて信じちゃいけません!本当に亡くなってたら今頃大騒ぎでこの上だってマスコミのヘリコプターやら何やら…。
あっ飛んでるな。
あっともかくもしそうなら重信さんから連絡があるはずでそんなことはありません!皆さん早く須永先生の遺稿を捜しましょう!い…遺稿!?イイ稿です!イイ稿!先生の素晴らしくイイ最新作の原稿!遠浅さんまだ解けないんですか?刑事歴長いんですよね?長いけど…。
厄介君?ちょっと。
う〜ダメか。
頑張れ頑張れ!出れないね。
そういうことか。
今日子さんがいない時で助かりました。
今日子さんウソには敏感だから今日子さんの前ではウソだけは言わないよう何とかかわしてるんですけど。
そりゃ無理ゲーだな。
やるしかありません。
う〜ん…まぁ今日のあのテンションだったらごまかせるか。
でももしバレたとしても今日子さんは明日になれば忘れてしまう。
そこまで頑張んなくても…。
だからこそです。
いつも身を張って探偵であり続けようとする今日子さんのせっかくの休日。
せめて今日だけでも楽しく過ごさせてあげたいんです。
OK!
(カメラのシャッター音)秋の軽井沢…。
いいわ〜…。
・おいあの噂本当かよ?・・ホテルの人の情報らしいです・・じゃあ死因とかは?・・まだそこまでは…・
(チャイム)ニチニチテレビの者ですがこのたびは誠にご愁傷さまでしたどなたかいらっしゃいませんか?早いな。
鹿せんべいを前にした奈良の鹿のように早い。
どうしましょう。
え〜皆さんお待たせしました。
(記者)あの須永先生の…。
嫁です。
(記者達)えっ?家内がいつもお世話になっています。
(記者達)家内?あちらのほうに会場が用意してあるようなないようなそんな雰囲気なのでどうぞ皆さんご一緒に。
さぁどうぞ。
ハハハ…。
嫁って…どう収拾つけるんだろう。
厄介さん?先生は来てません。
本当に来ませんから。
ハァ…。
そんな顔してもダメです。
チェっじゃあそろそろ真面目に考えようかな。
真面目に考えてなかったんですか?部屋を見終わる前に見つけちゃったらがっかりじゃないですか。
全部見て回れたので満足です。
よかったです。
どうもヒントが足りない気がするんですよね。
やっぱりヒント4ですか?あらっ私としたことが。
浮かれるあまりこんなことに気付かなかったなんて。
画びょうの跡?コピーだからこんなふうに?私達はまだ原本を確認していないということです。
はい奥のコピー機でコピーとりました。
資料配る時は原本取っとけっていつも言われてるんで。
意外ときっちりしてるんだ。
1500円のカニ缶は食べるのに。
これです原本。
修正テープで消してある。
書き損じでしょうか?だとしたら4という数字ごと消すはずですからこれ自体がヒントだと思います。
「鉛筆が必要になるかもしれない」。
(遠浅)鉛筆?ヒント1「120分あれば読めるくらい」。
あっ重信さんが原稿は長編だって言ってました。
(遠浅)長編?120分では読めないだろう。
120分で読める長編。
デリケートな場所。
あるものではなくないもの。
そして修正テープと鉛筆。
どういうこっちゃ?う〜ん。
(チャイム)あ〜あ!そのまま考えててください。
はい。
このたびはご愁傷さまでございます。
もうニュース速報で拝見しまして。
出ちゃいましたか。
何かできることがあれば。
あぁお気遣いは嬉しいんですが。
遠慮なさらず。
でもご遺体もまだこっちには。
えっ!?ご遺体もまだ…。
・ご遺体!?・静かに!ご遺体ですって。
・ご遺体!・・ご遺体ね!・連呼しない!・ごめんください・あぁ…。
昼兵衛さんに檀家になっていただいている…。
困りますそんな格好で来られたらそのものズバリじゃないですか!厄介さん?取り込んでるんで明日また来てください。
明日ぜひ明日ぜひ来てください。
ありがとうございましたすいません失礼します。
あれ?どなたか?あっ先生のお友達が大勢。
でも先生はここにはおりませんとお伝えしてお引き取り願いましたあっ騒がしくて推理の邪魔ですからいっそ抜いちゃいましょう。
お線香のにおい。
あ〜!いますよね服にお線香のにおいたきしめてる人って。
いますか?いますいます。
お盆の頃によく会いますさっ行きましょう。
推理推理推理をしましょう。
推理をします推理を…。
(リポーター)次のニュースです。
小説家の須永昼兵衛さん…。
おわ〜!そこに!水素と水とアルゴンと窒素と二酸化炭素とヘリウムと酸素の固まりが!!ハァ!要するに空気があると?
(遠浅)何もないってことじゃねえか。
今流れてたニュース須永…!今はその話なしで。
何で玄関閉まってるの?早かったですね。
(まくる)だってニュース見てびっくりして!須永先生が…。
まくるちゃんストップ!!
(スイッチを入れる音)
(鳴き声)世界でも評価が高い影響か…。
あらら。
海外メディアもトップニュースで報じ…。
運が悪い…。
こちらは亡くなった須永昼兵衛さんが現在お住まいの軽井沢の別荘です。
須永…先生?現在須永さんの近親者を名乗る男性の会見が行われています。
関係ですか?関係はですねあるとも言えますしないとも言えますというか…。
(まくる)法郎さんカメラ映りいい!こりゃあえらい事態だ。
原稿が見つけられなかったら須永先生の遺稿が永遠に失われるってことだ。
連絡先だけ…。
なぁ新米。
ナンパしてないで考えろ新米!俺?刑事だろ。
遠浅さんだって。
修正テープと鉛筆です。
修正テープの形状もヒントの1つだったんです。
もしかして隠し場所分かったんですか?はい僭越ながら。
修正テープの2つのリールに巻かれたテープ。
そして「鉛筆が必要になるかもしれない」というヒント。
テープと鉛筆。
2時間ではなく「120分」という書き方。
連想するものは?ひと昔前の文化ですから記憶が抜けてる私のほうが身近に感じるのかもしれません。
ジャン!カセットテープ!カセットテープ!はい昔好きな歌を録音したりこの穴に鉛筆を通して緩んだテープを巻き直したりしましたよね。
オーディオルームで見つけました。
(今日子の声)何本かありましたが120分テープはこれ1本。
カセットテープを聞くことができる機器はどこを捜してもありませんでした。
他の部屋にもラジカセの類いはなし。
カセットテープがあるのにもかかわらず。
それがあるはずでないもの。
だが先生の新作は長編だ。
原稿を読み上げて録音したとしても2時間では収まらない。
ここで言う「読む」は違う「読む」なんです。
言い換えると「読み込む」。
データを読み込むの「読む」。
はい。
そしてデリケートな場所とはこのカセットの中を指していました。
磁気データ…磁気データはデリケートで水にも磁石にも弱い。
いやだから120分では音読して吹き込んだとしても…。
カセットテープには音声だけでなくデータも保存できるんです。
最近また見直されててバイトした大学でも使ってました。
見せたほうが早いでしょう。
ここに番号が。
この番号…!
(ダイヤルを回す音)
(鍵が開く音)MZ−700!あっ…ごめんなさい。
中古パソコン屋で働いてたことがあって。
(スイッチを入れる音)これ起動までに10分近くかかります。
そんなにか。
あと10分ワクワクしていられるってことですね。
私にとって須永昼兵衛はそんな存在でした。
須永先生って刊行ペースが速いんです。
年に2冊多い時には3冊。
学生時代って今思うとつまらないことでも悩んだりつらくなったりするじゃないですか。
私もご多分に漏れずそういう時代もありまして。
でも…あと1か月で須永先生の新作が読める。
あのシリーズの続き…ずっと気になってた続きがもう少しで読めるって思うと…。
未来が楽しみになりました。
私の時間は途中で止まってしまったけど…。
須永先生は99冊分たくさんの人をワクワクさせて来たんですよね。
じゃあ行きます。
はい。
だっ!あぁ…。
(カセットテープを読み込む音)あれ?はい!楽しかったです。
うん…楽しかった。
楽しかったですね。
はいスーツケースあったんで機械ごと持って帰ります。
マスコミの人達は?フフフ。
俺のことを無関係の単なる危険なヤツと正しく認識してくれてご近所インタビューに興味がスライドアハハ。
(まくる)あっ塗どこ行ってたの?その辺。
楽しかったの?楽しかったんだ。
楽しかったんだ。
まくるちゃんまた…。
また今度。
あっはい…。
(遠浅)新米!はい!行くぞ!
(新米)はい!じゃあね。
(新米)じゃっまた…じゃあね。
キレイ最後までいい日。
須永先生のこと今日のどこから気付いてました?どなたかいらっしゃいませんか?どうしましょう
(記者)ニチニチテレビの者ですこのたびは誠にご愁傷さまでしたあちらのほうに会場が用意してあるようなないようなそんな雰囲気なのでどうぞ皆さんご一緒にハハハ…厄介さん?先生は来てません本当に来ませんからそんな顔してもダメですテレビを見て初めて。
僕が隠してることに気が付いて逆に気を使って気付いてないふりをしてくれたんじゃ?いいえ全然。
隠しておいてくれてよかったです。
厄介さんのおかげで思う存分楽しめました。
ありがとうございました。
惜しむらくは須永先生の新作原稿を読めなかったことです。
ホントは早く見つけて1人でこっそり読もうと思ってたのに。
まさかあんな形で保存してあるなんて。
出版予定は来年の2月だそうです。
出版されたらプレゼントします。
あっ…家に本置かないんでしたっけ?はい日記もつけません。
明日になれば楽しい今日のことも全てリセットです。
ですがこんなのはどうでしょう?私にプレゼントする代わりにサンドグラスの書棚に置いておく。
面白いと思いませんか?はい楽しみです。
私も想像するとワクワクします。
その日が来たら僕は須永先生の最後の新刊を買う
サンドグラスの書棚にそっと差し込んでおく
今日子さんは気付くかもしれないし気付かないかもしれない
でもある時ふと気付いて大好きな作家の死を初めて知ることとして受け止める
彼女が悲しい気持ちになったら伝えよう
お茶でもしませんか?それでどうなったんですか?画面に「ハズレ」。
ん?「なんちゃって」。
この原稿を捜した日がどれだけ楽しかったか
今日子さんの楽しい日は確かにそこにあってこれからも続いて行くんだということを伝えよう
今日子さんと初めて交わした未来への約束
(カメラのシャッター音)
その約束を果たす前に僕らはある疑惑に巻き込まれ須永先生の遺稿を読むことになる
お〜い!帰るよ〜!
その一件は僕と今日子さんの関係を大きく変えることになるがこの時はまだ誰も知らない
僕達Goodbyeholidayの歌うこの番組のオープニングテーマ『溢れるもの』のCDを抽選で30名様にプレゼントします。
詳しくは番組ホームページをご覧ください。
『溢れるもの』…。
聴いてください!2015/11/07(土) 21:00〜21:54
読売テレビ1
掟上今日子の備忘録 #5[字][デ]
大ファンの作家・須永昼兵衛の新作原稿探しイベントに招待された今日子と厄介。しかし開始直前に須永が急死!厄介ははしゃぐ今日子のためその事実を隠そうとするが・・・
詳細情報
番組内容
今日子(新垣結衣)と厄介(岡田将生)は推理作家・須永昼兵衛が開催する“須永フェスタ”に招待される。須永フェスタとは、新作原稿を須永自らが隠し、ヒントを元に編集者達が探し出す恒例イベント。須永ファンである今日子は大喜び。今日子と厄介&サンドグラス一行は会場である須永の別荘へ向かうが、開始直前に厄介だけ須永の急死を知らされる。今日子の喜びを奪いたくない厄介は、そのままイベントを続けようとするが…。
出演者
新垣結衣
岡田将生
及川光博
有岡大貴(Hey!Say!JUMP)
内田理央ほか
原作・脚本
【原作】
「忘却探偵シリーズ」西尾維新
『掟上今日子の備忘録』『掟上今日子の推薦文』『掟上今日子の挑戦状』『掟上今日子の遺言書』
【脚本】
野木亜紀子
監督・演出
【演出】
佐藤東弥
音楽
笹野芽実
末廣健一郎
【主題歌】
「No.1」西野カナ(ソニー・ミュージックレーベルズ/SMEレコーズ)
【オープニングテーマ】
「溢れるもの」Goodbye holiday(avex trax)
制作
【プロデューサー】
松本京子
森雅弘
【制作協力】
日テレアックスオン
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
ステレオ
サンプリングレート : 48kHz
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