(「ジムノペディ」)「ららら♪クラシック」今回は…独特な静けさをたたえたこの曲。
実は…若きサティーがパリの盛り場で見いだしたものとは…。
今の時代にもなじむ…それは脈々と続くクラシック音楽の歴史を根底から覆したものだったのです。
現代への扉を開いたサティーの名曲。
その秘密に迫ります。
「ららら♪クラシック」今日はサティーの「ジムノペディ」です。
皆さんも一度はどこかで耳にした事がある曲ではないでしょうか。
それでは今日のお客様をご紹介しましょう。
音楽家の菊地成孔さんです。
(一同)よろしくお願いします。
ようこそお越し下さいました。
ありがとうございます。
菊地さんはジャズ・ミュージシャンとしてご活躍ですがクラシックもお好き?はい。
もう聴きますし一番最初にやったのはクラシック。
それは小さな頃にピアノを習ったとかそういう事ですか?いや全然。
部活…吹奏楽部とか。
ああそうでしたか。
市民オーケストラとかそういう地方にありますよね。
ああいうので。
楽器は最初からサクソフォンだったんですか?違います。
ファゴットといってバスーンね。
こういう…こういうやつ。
ちょっとかっこいいやつですね。
まあほとんど暇な楽器。
クラシックによくある脇役系の楽器です。
ふだん聴かれる音楽としては好きな作曲家とかっていうあたりはどうでしょうか?クラシックの近現代しか聴かないですね。
19世紀より前のはちょっとこう情熱的すぎてすごい狂おしいじゃないですか。
サティーもギリギリで近現代かっていうところの人ですよね。
「ジムノペディ」はすごく有名な曲ですけどサティーもじゃあかなりお好きという事なんですね?いやそうでもないです。
なんでサティーの「ジムノペディ」の日に呼ばれたのか分かんないくらいには普通に好きなだけですね。
でも何ともけだるいというか不思議な独特の魅力はありますよねこの作品には。
手あかにまみれた言い方ですけど…叙情性もちょっとあるんだけどそんな狂おしい叙情性じゃないんで涼しいなっていう。
ふんわりしてますよね。
ちなみに今日ご紹介する「ジムノペディ」という曲名なんですけれどもどういう意味かというのはご存じですか?いえ全然。
この曲名はね古代ギリシャの神々をたたえるための「ジムノペディア」という踊りの儀式の名前から来ているようなんですね。
実はサティーはその様子が描かれたつぼを見たそうなんです。
これはね参考なんですけれどもこういった…古代のギリシャのつぼの絵からインスピレーションを受けたと言われているんですよね。
なるほどね〜。
それではこの曲を作曲した当時サティーはどんな状況だったのか「ジムノペディ」の作曲秘話をご覧下さい。
エリック・サティーの代表作「ジムノペディ」。
1888年サティー21歳の時の作品です。
この曲が初演されたのは実は劇場でもコンサートホールでもなくパリの盛り場モンマルトルの小さな酒場だったのです。
ここに至るまでの若きサティーの青春秘話とは。
フランスの港町オンフルールに生まれたサティー。
彼の音楽との出会いは教会でした。
6歳の時教会のオルガニストから音楽の手ほどきを受けたサティーはすぐに才能を現し…音楽家のエリートコースを歩み始めます。
しかしサティーはクラシック音楽の伝統と形式に偏った教育に息苦しさを感じて…自分のやりたい音楽はどうしたら実現できるのか…。
さまようサティー青年は二十歳になっていました。
そんな彼が流れ着いたのが…モンマルトルの街でした。
芸術家や詩人が集うモンマルトルの盛り場は社会のはみ出し者をも受け入れ気ままに楽しむ空気がありました。
サティーはそんな人々との交流に夢中になります。
おい。
サティーが冗談交じりに答えると酒場の店主は「すばらしい職業だ!」と喜びサティーを酒場のピアニストとして迎えました。
こうして自分の居場所を見つけたサティーは生まれ変わったように生き生きと作曲を始め「ジムノペディ」を書き上げたのです。
モンマルトルの自由な空気はサティーの創作のエネルギーでした。
社会や音楽のルールから解き放たれ思いきり羽ばたいたこの曲は音楽家サティーのはじめの一歩だったのです。
(「ジムノペディ」)いかがですか?そうですねこれ有名な話ではありますよね。
21歳とか二十歳で自分の行き場がなかったらすごく不安だし苦しんでますよね絶対。
そうですね。
菊地さんは二十歳の頃とかはどうでした?僕が二十歳の頃バブルだったんで街がお祭り騒ぎみたいになっててあんまりいわゆる青春の葛藤というか自意識との戦争みたいな大変な事は経験してないです。
バーッと遊んでましたけど。
バブルに乗って音楽の方も…。
そうですね。
盛り場の方はどうですか?うちがそもそも実家が飲み屋なんですよね。
歓楽街のど真ん中にあったんでストリップ劇場とかもありました近所に。
地方ですけど。
私はそのノスタルジーから歌舞伎町に…新宿の。
もう出ましたけど11年ぐらい住んでてほとんど…美濃さん真逆ですよね。
海辺の静かな町で…。
そうですね。
ほんとに悲しいぐらい都会では書く気にならないですね。
誘惑が多すぎて。
逆にネオンが気になってしょうがないっていう感じなので。
逆に僕…一緒一緒。
だからこれいろんな芸術俳句とか小説とか音楽みんなそうだと思うんですけど…やっぱりサティーはモンマルトル界隈の住人になってどんどんどんどんその変人ぶりがより開花されていってひげも伸び放題。
変わったエピソードばっかりですよね。
白いものしか口にしないっていう。
本当かうそか分かんないですけど。
ハンモックで寝てたとかね。
ハンモックで寝て冬は下にロウソクを50本ぐらい置いてたとかいう話聞いた事あります。
遠赤外線効果なのね。
ちょっと暖かいんだ。
それではサティーはどうしてこんな静かな曲を書いたのかこちらをご覧下さい。
19世紀末パリが繁栄した華やかな時代に生まれたこの曲。
時代のけん騒とはかけ離れたこの静かに漂う音楽の秘密とは…。
「ジムノペディ」は第1番から第3番まで3つの曲からなります。
この3曲楽譜を見るとそっくりなんです。
全ての曲が同じ速さ同じリズムの繰り返し。
山場もなくひたすら反復の中を漂うメロディーが続きます。
サティーがこの曲でした事とはまさにこの「展開しない」「終わりのみえない音楽」をつくる事だったのです。
「ジムノペディ」というのは3つの曲からなるわけですけれどもそれを例えば古典派のソナタと比べてみるとよく分かるんじゃないかと思うんです。
具体的にいいますとベートーベンの月光ソナタというのがありますが有名な曲ですがこれは第1楽章が遅くて第2楽章が軽快になって第3楽章は駆け抜けるように。
もう最後の所は嵐みたいですね。
要するにこれはどういう事かっていいますと…ところがサティーのこの3つの「ジムノペディ」はドラマは全くありません。
ただたゆたうように流れる音楽。
乱暴な言い方をすれば1番2番3番どれを入れ替えてもいいかもしれない。
しかしベートーベンのソナタに関してはそういう事は絶対にありえないという事ですね。
ベートーベンをはじめ古典派やロマン派の音楽が好まれた時代。
サティーはそういった芸術性を追求したドラマチックな音楽に違和感を感じていました。
そしてサティーは正反対の位置から音楽を見つめ独自の全く新しい音楽の形にたどりついたのです。
我々の人生繰り返しばかりじゃないかと。
朝起きて夜寝て。
これの繰り返しですよね。
そうやってグルグルグルグル人生っていうのは回ってるんじゃないか。
少なくともそういう側面もあるんじゃないか。
そして…音楽ってもっとその辺にあって心地よい響きを立てているそういうものでいいんじゃないかというそういう考えがあったんじゃないかと思うんです。
…と語ったサティーはやがて1920年にその思想を極める「家具の音楽」という曲を発表し世間を驚かせました。
音楽はコンサートホールでかしこまって聴くだけのものではなく…このサティーの思想はやがて現在の環境音楽やBGMを生み出していくのです。
いかがですか?サティーが環境音楽BGMの開祖だっていうのはもう逆に言い尽くされてるぐらい言い尽くされてますよね。
モンマルトルの飲み屋なんてすげえうるさいわけじゃないですか。
そこであのベートーベンのソナタとか弾いたら客にもうるさいし弾いてる人にもうるさいしノイズがノイズとぶつかって多分酒もうまくないと思うんですよね。
それでその中で…これは極論というか空想ですけどサティーの音楽はこれはなんかジョン・ケージ的な発想ですけど…ジャズなんかも例えばビル・エヴァンスみたいなもう天才ピアニストって言われてる人でもライブ聴いたらものすごいんですよレストランノイズが。
ガチャガチャガチャガチャ…「乾杯〜!」とか聞こえるわけ。
今はノイズリダクション技術でできるから切っちゃって音楽だけ聴かせてますけどその中で鳴ってたんだっていう事があるんだけど。
面白いね。
もしかするとメインはその酒場のノイズで……っていう見方ですね。
可能性としては無くはないですよね。
まあ時代的なものもあるんですけど一番ロマンチックでどんどん詩人が壮大に内面を…。
ロマン派ってそこじゃないですか。
形式じゃなくて内面にっていう暑苦しい時代にこれやったっていう。
何かいろんな聴く人のその時代であったりその人の生き方だったりいろんな人によって聴き方が変わる独特のエッセンスを持った。
そうですね。
ある種の…だから引き算で作った音楽に足りないところは聴く人が埋めていくっていうタイプの曲なのでその辺は面白いですよね。
その在り方を考えたってすごいね。
ここでちょっとブレーク。
今回もたくさんのおすすめを頂きました。
メッセージと共にご紹介します。
まずはこちら…穏やかな夜を過ごすにはぴったりの曲ですね。
続いては…この反復のリズム集中して勉強するにはぴったりかもしれませんね。
最後は…長大なオペラをじっくり聴くのもいいかもしれませんね。
皆さんも秋の夜長にぴったりの曲見つけて下さいね!
(「ジムノペディ」)今日の名曲は…モンマルトルの酒場から生まれたこの曲。
独特な静けさに満ちた繰り返しの音楽は新しい音楽の可能性をひらきました。
とてもシンプルなメロディーなのに強烈な印象を残すのはなぜなのか。
作曲家の美濃さんが解説します!さあ今日はですね「なんでもジムノペディ!」と題してちょっと実験をしてみたいなと思うんですけれども伴奏は…これから…。
これの繰り返し。
どちらも何ともこう…。
着地感がないというか。
そうですね。
なんかこうフワフワフワッと漂っていますよね。
基本的にこの2つの和音の繰り返し。
これがものすごく支配力を持っているんではないかという事で今日は実験をしてみたいと思います。
題して…パチパチパチパチパチ!
(拍手)サティーの伴奏が勝つのかメロディーが主役になれるのかというのをちょっと実験してみたいと思います。
まずはでは童謡から一曲。
「ぞうさん」。
どうですかサティーが勝ちましたか「ぞうさん」が勝ちましたか?そうっすね…「ぞうさん」も最初に思ってたほどなめられないです。
やっぱり「ぞうさんぞうさん」ですね。
今まあまあサティーの雰囲気にはなりましたけどね。
雰囲気はサティーだけど両者いい戦い。
さあでは続いて今度はポップスの「世界に一つだけの花」。
SMAPの。
(「世界に一つだけの花」)これでいってみましょうか。
これもうこの作品だけでちゃんと聴けちゃいますもんね。
サティー「ジムノペディ4番」みたいな。
うん。
いけるいける。
これはサティーに聴こえますよね。
サティーが勝ちましたか。
メロディーがさっきみたいにミーレドミーレドって…。
(笑い声)シンプルじゃなくてこうちゃんとねドレミ全部使ってるから聴こえますよね。
さあじゃあ次はどうでしょう。
次はですねクラシックの王道を攻めてみたいと思うんですけれどもベートーベンの第九。
終楽章の合唱の部分ですね。
これいってみたいと思います。
(「交響曲第9番」)このメロディーでいきますよ。
これどうでしょう?先生。
いいんじゃないですかね。
ただ私はジャズ・ミュージシャンなんで別にいいんだけどそんな事していいんですか?
(笑い声)サティーの伴奏でベートーベン弾いたりしたら「ららら♪クラシック」とは言うものの…。
コラボですからね。
いやでも強いですね。
強い。
もうすごい感染力。
「家具の音楽」っていうぐらいで…クラシックの人書けちゃうから。
筆が強くて。
だからロマンチックで小説だとか絵描くみたいにグワーッ書いちゃうんだけど設計が緻密。
施工が緻密だっていうのがサティーの感じですよね。
それではですねこれから今日は「ジムノペディ第1番」をお聴き頂くんですがなんと…「ららら♪クラシック」では初めてですよね演奏は。
ピアノの。
そうですね。
いつも白いピアノだけど今日は黒いピアノで弾けるって事で本当に楽しみなので変人サティーになりきって演奏させて頂きたいなと思います。
そしてスペシャルという事なので今日はですね…サックス持ってきてって言ったんだけど持ってきてくれました?
(笑い声)それで実はこれから何をやるか誰も何も知らないという開けてびっくりの展開になりました。
(一同)よろしくお願いします。
(拍手)どうぞどうぞ。
いやあ面白いですね〜。
いかがでしたか?サティーの音楽から更にドラマ性を引き抜いたみたいな感じですかね。
これタイトルあるんですか?タイトルはないですけど音を落としたんですよどんどん。
音が落ちるというのはフランス語で「サンコペ」っていうんだけど「サンコペシオン」ってシンコペーションの事。
医療の用語だと「失神する」っていう意味なの。
という事はこれサティーが失神したっていう曲なんですね。
サティーが聴いてて寝ちゃうイメージっていうか。
ちょっと失神も含めた音がサンコペするという。
面白かったですね。
ドラマチックで。
変人ぶりどうでしたか?今日はサティーに触れてみて。
まああんまりにも有名なんでついついね距離感が決まっちゃうんですけど今日はグッと引き寄せられた感じ。
次回は是非サックス持ってきて下さいよ。
また出るんですか?そう言わずに菊地さんまた是非遊びに来て下さいね!「SWITCHインタビュー達人達」。
2015/11/07(土) 21:30〜22:00
NHKEテレ1大阪
ららら♪クラシック「新しい音楽のかたち〜サティーの“ジムノペディ”〜」[字]
まったりとした時間の流れ、決して邪魔にならない不思議な響き。ジムノペディが初演されたのは何とパリ・モンマルトルの酒場。斬新な音楽に込めたサティーの狙いとは?
詳細情報
番組内容
まったりとした時間の流れ、決して邪魔にならない不思議な響き。ジムノペディが初演されたのは何とパリ・モンマルトルの酒場。斬新な音楽に込めたサティーの狙いとは?なにも展開しない、終わりを感じさせないこの斬新な音楽の秘密に迫ります。ゲストはジャズミュージシャンの菊地成孔。加羽沢美濃さんとのスペシャルコラボによる新作ジムノペディも!
出演者
【ゲスト】菊地成孔,【出演】音楽学者…田村和紀夫,【司会】石田衣良,加羽沢美濃,【語り】服部伴蔵門
ジャンル :
音楽 – クラシック・オペラ
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
劇場/公演 – ダンス・バレエ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0x0808)
EventID:32406(0x7E96)