さてこれはいったい何でしょう?蛙が今蓮の葉からピョンと跳んだ瞬間。
見事ですね。
でも何で出来ていると思います?この蝉は柘榴に止まった直後なのでしょう。
まだ羽が閉じきっていません。
実はこれみんな金属で出来ているのです。
金工という工芸なんですって。
作者は…。
金工の世界に革命を起こした伝説の男です。
本日はどうしても皆さんにお見せしたい作品があります。
凝りに凝ったものなのです。
ほんとにすごい最高傑作の1つだと思いますね。
を作り出した。
これは古びた瓦なのですが…。
ん?鳥がいる?覗き込んだその先にいったい何が?いつも賑わっている産寧坂の中ほどにあるこちらの美術館が本日ご紹介する作品の所蔵先。
明治時代に作られた思わずうなってしまうような工芸品を数多く展示しています。
では改めて。
今日の作品…。
全体の高さはおよそ15センチ。
土台となるのは置き去りにされ錆びついた瓦。
実に見事な風合いを醸し出しています。
瓦の上にはメタリックに輝く鳩が1羽。
動き出す直前の刹那その緊張感。
覗き込んだその視線をたどると…。
何かいる。
クモだ。
体長はおよそ12ミリ。
体の模様や毛までも表現されています。
まさに極小の世界。
この作品は名前のとおり香炉です。
いったいどうなっているのか?鳩を持ち上げれば純銀製のお香入れ。
では古びた瓦はどんな金属でできているのか?クモや鳩はどのように作り出したのか?それこそが超絶技巧なのです。
正阿弥勝義の作品の多くは海外に売られていきました。
迫真の造形と圧倒的な表現力に西洋の人々は魅了されたのです。
ですからこんな人がいるかもしれません。
すみません。
おぉ何?あなたは何をしに京都に来たのですか?何をしに京都に来たかって?正阿弥さんの作品を見に来たんだ。
正阿弥ってだれ?えっ知らないの?アメリカから来たアダムさんは日本のアートのなかでも正阿弥の作品が大好きだそうで…。
この作品がいちばんのお気に入り。
これを見るために美術館に向かってるんだ。
これが全部金属でできているってすごくない?私も見てみたい。
ついていってもいいですか?もちろん!ありがとう。
でもなぜ明治の工芸品に注目しているの?日本人は本当に手先が器用だよね。
それはお箸のおかげだ。
俺も器用になりたくてチョップスティックを特訓中なんだ。
よくわかりませんがとにかく到着。
でもアダムさん背が高いから大変ですね。
本当に小さいね。
すっかり堪能しているみたいだけど…。
正阿弥の鳩どこだろう?見つからないよ。
すみませんちょっといいですか?正阿弥さんの作品を探しているんですが。
あの…鳩がのったやつ。
岐阜のほうで展示していただいておりまして。
あらあら。
そうこれだよ!岐阜にあるの?京都にないの?ほんとに?申し訳ございません。
岐阜か。
よし今から岐阜に行くぞ。
どうもありがとう。
というわけで私も岐阜に同行します。
ねぇ岐阜ってどっち?正阿弥勝義は77年の生涯すべてを金工に捧げた人です。
恐ろしいまでの研さんの果てにたどり着いたのが今日の作品。
勝義はこんな言葉を残したと伝えられています。
ではどうやって作られているのか?現代の金工家は…。
技法を再現すると見えてきたのです。
正阿弥勝義という金工家の恐るべき狙いが。
ヒントはこの瓦に刻まれた文字。
あっあの字だ。
果たしてそれはいったい何か。
器に蟹がよじ登っています。
焼き物です。
あかわいい。
漆黒の花瓶に蝶が舞う神秘の七宝です。
明治という時代が生んだすばらしい手仕事の数々を私たちは超絶技巧と呼んでいます。
今日の作品も金工家正阿弥勝義の超絶技巧。
そこに隠された驚くべき技法知りたいですね。
正阿弥勝義は若くして頭角を現すと18歳にして金工の名門正阿弥家に養子として入り…。
当時の勝義が作った刀装具です。
精緻で美しい装飾は大名や武士たちのステータスとなり名声を高めていくのです。
ところが明治になると廃刀令により仕事が激減。
その技量を発揮する場を失った勝義は…。
湯豆腐のスプーンであるとかあるいはピン止めであるとか。
懐中時計の鎖であるとか。
そんなものを作って売ってたという…。
だから非常に転機となったのは明治政府は海外で高い評価を得ている日本の工芸品を外貨獲得の重要な輸出産業と位置づけたのです。
正阿弥勝義の金工もそのひとつ。
彼が得意としたのは生き物の造形でした。
圧倒的な写実力で硬く冷たい金属を自在に操り命を吹き込んでいくのです。
精緻な作風は海外の博覧会で絶賛され多くの賞を獲得しました。
今日の作品『古瓦鳩香炉』はその頂点ともいえる最高傑作。
さてアダムさん京都から電車を乗り継いで約1時間30分。
岐阜県の多治見に到着。
早速向かったのは…あれ?鰻屋さん?夏が暑いことで有名な多治見の名物らしいのですが初めて食べる鰻。
お口に合うでしょうか?おいしいよ!これはまるでチキンみたいだ!え?チキン…ですかなるほど。
ともかくお目当ての展覧会に到着。
本物?違います。
マジで?ロブスターだ。
気をつけろ生きてる!襲ってくるぞ!あっ!これだ…。
思っていたより小さいね。
この古い瓦…何十年も時間が過ぎ去った感じがいいよね。
これがあれでしょ?日本のワサビ!それを言うならわびさびですかね。
今日の作品にはさまざまな金属が使われています。
鳩の体には銀と赤銅。
くちばしは銅。
古びた瓦は鉄で出来ています。
金工家の相原健作さんが最初に着目したのは瓦のくぼみに逃げ込んだ蜘蛛でした。
ヒダ状になった体毛までも作り込まれています。
その技法の一端を見せていただきました。
まずは土台となる金属の一部を彫りそこに別の金属をはめ込みます。
そのあと表面をヤスリなどで整えてならす。
これをその上からなめくりというタガネで細い線を打ちつけ蜘蛛の微細な毛並みを作り上げていくのです。
線の幅は1ミリ以下。
まさに超絶技巧。
道具がどれだけ細かい道具でやったのか?ほんとに細かく小さな道具で彫ったり削ったり叩いたりしてるんじゃないかと。
ここまでやるのかという。
蜘蛛の表情を細かいところまでを追った感じがしますし。
ちょっと人間業じゃないなという感じがしました。
更に凄みを感じたのが瓦の質感だと相原さんは言います。
今回は瓦の代わりに花瓶を作りながら…。
鉄の造形には打ち出しという技法を使います。
1枚の鉄板を叩いて成形していくのですが破れないように厚みを均一に保つ技術が必要です。
叩いて硬くなった鉄は一度熱してわずかにやわらかくなったらまた叩く。
これをひたすら繰り返すのです。
3日間20時間ほどで花瓶の形が出来上がりました。
この表面に丸いタガネを打ち込んで微妙な凹凸を作りだすのです。
これで形はひとまず完成です。
続いて古びた瓦の表面処理。
酸化促進剤を表面に塗ってわざと鉄を錆びさせます。
今回は一日2回硝酸系の錆液を5日間塗り続けて錆の風合いを徐々に強めました。
酸化促進剤のない時代勝義はアユの塩辛を使って錆びさせていたのです。
置き去りにされ朽ち果てそうな瓦の風合い。
卓越した造形感覚と錆を育てるという発想が時間の流れを感じさせるのです。
アダムさんどうしましたか?この文字何て読むのかな?ああこれね。
すみませんこの瓦の文字はどういう意味ですか?楽しいっていう字。
楽しい?いや何?だよね僕もそう思ってたんだ。
どうしたんですか?急に。
これこそが正阿弥さんの本当のメッセージなんですよ。
どうかな?果たして彼はどんなメッセージを込めたのか?例えばこの香合に施された小さな足跡。
その蓋を開ければ…。
そこに今日の作品にも通じるある狙いが秘められていたのです。
正阿弥勝義が晩年にたどり着いた美の神髄。
そのメッセージとは?正阿弥勝義の名品表にデザインされた雪景色には鳥の足跡が残っています。
蓋を開けてみると…。
2羽の鶴が大空に飛び立っているのです。
作品を手に取ることで物語が展開していく。
それこそが正阿弥勝義のねらいだったのです。
が残されています。
圧倒的な技術を活かすためにデザインや構図の研究を続けていました。
見る者の心を動かすハッと驚く粋な作品を作るために。
彼の制作姿勢っていうのは…。
っていうのはもう根底にあるわけですね。
すべてをリアルにしたらもうスーパーリアリズムになってそれで終わりなんですけれども彼はその先にもう1つ…。
今日の作品では多彩な質感やモチーフを組み合わせています。
鳩の表面をあえてメタリックな感触にすることでどこまでも細密でリアルな蜘蛛と対比させたのです。
すると見る人の視線は無意識に蜘蛛のほうへと向かうことでしょう。
そこに勝義のねらいがあったのです。
小さい蜘蛛を作ってたぶん蜘蛛を作りたかったんですよね。
それを見て瓦にとめて…。
その物語がなんたっていちばん僕は技法よりもテーマがおもしろかったですね。
物語の舞台は置き去りにされた瓦です。
鳩はこのあとどうするのか?蜘蛛はどうなってしまうのか?その一瞬を切り取ることで見る人がその先の物語を想像するのです。
これが超絶技巧の先に見いだした正阿弥勝義の世界。
アダムさん瓦の漢字の楽しいってどういうこと?正阿弥さんの作品は両方あるんだ。
楽しいって漢字はそのメッセージでしょ?ちょっと違うかな?そうなの?古くから中国では瓦当と呼ばれる瓦の面におめでたい文字を装飾的に記して幸せを願う風習があったそうですよ。
ほうへぇ〜。
正阿弥さんの人生も楽しければよかったんだけど。
えっ何があったの?日本の工芸品はあまりの注文の多さからしだいに粗製乱造となり海外での評価が急落します。
更に日露戦争などで金属が高騰。
最晩年の勝義は作品がまったく売れず借金に追われる日々を過ごしました。
希代の金工家は明治41年ひっそりとこの世を去ったのです。
おやアダムさん。
今度は東京観光?いや正阿弥さんを知って僕の人生は変わったんだ。
と言って向かったのは下町のちょっと変わったアトリエ。
あれ?相原さんだ。
アダムさん何してるの?相原さんに弟子入りして金工家を目指します!本当ですか?その死から100年が過ぎた今も作品は輝きを放ち続けています。
蜘蛛はこのあとどうなってしまうのか。
捕まってしまうのかそれとも逃げ延びるのか。
その結末は見る人それぞれのなかに。
正阿弥勝義作『古瓦鳩香炉』。
超絶技巧の物語。
2015/11/07(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち 正阿弥勝義『古瓦鳩香炉』伝説の金工家が生んだ超絶技巧の世界![字]
毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の作品は、正阿弥勝義作『古瓦鳩香炉(こがはとこうろ)』。
詳細情報
番組内容
今日の作品は、金工家・正阿弥勝義(しょうあみ・かつよし)の最高傑作『古瓦鳩香炉』。高さ約15cmの凝りに凝った香炉です。古びた風合いを醸し出す土台の瓦の上には、メタリックに輝く鳩が。体の模様や毛まで表現されたクモの体長はなんと約12mm!鳩を持ち上げれば純銀製のお香入れ。そんな香炉の技法を再現すると、勝義の恐るべき狙いが見えて来たのです。金工の世界に革命を起こした男が作品につづった超絶技巧の物語とは?
ナレーター
小林薫
蒼井優
音楽
<オープニング&エンディングテーマ>
辻井伸行
ホームページ
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ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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