(リポーター)本日午後5時40分ごろ東京都府中市の化学薬品工場で爆発事故が起こりました。
(奥寺美和子)状況!?作業ミスで大爆発を起こしたらしいの。
今消火活動の途中。
ケガ人もどんどん救出されてる。
え?負傷者の数!?そんなのまだわかんないわよ!
(救急車のサイレン)
(ポケベルの音)もしもし柴田だけど…。
(看護婦)大至急来てください!大変なことになってるんです。
(救急車のサイレン)お願いします。
あと5分でもう1人到着します。
他に誰かいないのか!?病院内のドクターを全部かき集めろ急げ!!頼むよいいから排除して!
(救急隊員)すみませんお願いします!どんな状態?意識がありません。
ヴァイタルは?血圧50脈拍微弱です。
処置室に運ぶぞ!お願いします。
・急げ!早くしろ!!血液型とクロスマッチ4成分!急げ!!
(鴻野麻奈美)手伝うわ。
1外の鴻野よ。
すみません助かります。
・おーい内科も呼べよ!・すみません通ります。
(救急隊員)こちらもお願いします!早くして!昇圧剤2ミリ。
(看護婦)はい!
(リポーター)帝国医科大学付属病院前です。
府中の化学薬品工場爆発事故の負傷者が次々と運び込まれています。
新たにまた1人運ばれてきました。
爆発炎上した工場は3交代制勤務だったため事故当時200人以上が働いており今後もケガ人が運ばれてきます…。
(亀山薫)…ウソッ!?何で…?
(騒然としている病院内)どうしました?大丈夫ですか?
(杉下右京)痛いんです…。
(ポケベルの音)
(騒然としている病院内)こっちも誰か手伝ってくれ!…消毒して!…ああ間違えた!メス。
コッヘルガーゼ。
(宮部たまき)あっ亀山さん。
…えっ本当ですか!?俺もびっくりしたんですけど…すぐに病院に行きますから。
はい…。
…やだ。
ただいま。
お…おい大変だぞ。
何が?右京さんだよ。
右京さん?行くぞ!どこ行くの?何があったの?わからないから行くんだよ。
わかんない奴だな。
薫ちゃんのほうがわかんないよ。
・
(亀山)えっ盲腸!?
(笑い声)な〜んだ!
(笑い声)腹イテェ〜!…お腹が痛いのは右京さんでしょ。
だけどさ…。
僕が盲腸だとそんなにおかしいですか?いえ…全然おかしくないです。
すみません。
でもあまりに心配しすぎて…その反動で…。
(笑い声)おかげんどうですか?いささかなりともお腹を切られてますからねえ決して良好とは言えません。
右京さん!ああ…あなたも来たんですか。
大丈夫ですか?どうしました?心配いりません。
…盲腸ですって。
…盲腸!?まったく人騒がせな…ねえ。
君が一番騒いでいるように思えますがね。
すみません。
でも豪勢ですね。
はい?個室なんて。
他に部屋が空いてないそうです。
なるほど。
…しかしお高いでしょう?個室ともなると。
ちょっと薫ちゃん。
さすがに眺めはいいな〜。
…見た?何今の?人ですね。
…やだ!たしかに…人です。
ええ。
男です…。
ええ。
落ちたみたいです…。
わかってます。
物騒な病院ですね。
この人で間違いないですか?はい今井先生です。
今井先生…。
(パトカーのサイレン)
(刑事)何やってんですか!?
(刑事)写真撮っちゃダメだ!!じゃまじゃま!何だ君たちは?ごくろうさん。
あっ本庁の…。
ごくろうさんです。
どうやらここの先生みたいだね。
はいあげる。
しかし…本庁の方がどうしてまた?まあ…たまたまね。
うわ〜高いなこりゃ…。
ここから落ちたのかな?そうっすねきっと。
誤って落ちたとは考えづらいよな。
づらいっすねたぶん。
争った形跡もないし誰かに突き落とされたってわけじゃないよな。
ここから落ちたんですよ。
監察医も来るの?ええ。
でもお医者さまならここにいっぱいいるじゃないですか。
死因を特定しなければなりませんからね。
先生どうも。
警視庁の亀山です。
(監察医)警視庁!?本庁が乗り出すような事件なの?まあ偶然現場に居合わせたものですから。
(監察医)司法解剖に入るから運ぼうか。
ああ先生…どうなんでしょうかね?ああ。
この状況じゃあ自殺だろう。
(ノックの音)ご気分はどうですか?おかげさまで。
先生ありがとうございました。
それじゃあ。
先生。
はい。
随分下が騒々しいようですね。
ええ…。
どなたか落ちてきたようで。
うちの医局の…助教授です。
お騒がせして申し訳ありません。
ただいま。
ああごくろうさま。
僕の手術をしてくださった先生です。
あ〜そうですかどうもお世話になりました。
珍しいでしょこの歳で盲腸なんて。
またよりによって大事故で忙しい最中担ぎ込まれることないのにね。
ねえ。
まったく間が悪いっちゅうか…ホントご迷惑おかけしました。
亀山君どんな様子でした?ああ…亡くなったのはどうやらここの先生みたいですよ。
外科の助教授だそうです。
差し支えなければ助教授のお名前を。
ああ…今井です。
今井貞一。
そうその今井先生…どうやら屋上から飛び降りたようですよ。
…飛び降りた?ええ。
つまり…自殺ですか。
九分九厘。
残りの一厘は?…残りの一厘?いや…言葉のあやですかね。
限りなく自殺というセンが濃厚ですよ。
今井助教授には自殺をするような理由が何かあったんでしょうか?…さあどうでしょう。
だけどおふたり何か刑事さんみたい。
ハハッすみませんね。
「みたい」じゃなくて刑事なもんで。
ああっ…そうなんですか?
(ノックの音)府中南署の井上です。
報告ですが遺書が見つかりました。
遺書?遺書ですか…。
これで残りの一厘も消えて…100パーセント自殺ですね。
たしかめてきてもらえますか。
引き出しから遺書が出た?ええ。
これです。
何か…随分あっさりした遺書だよね。
「医師としての限界」って何だろうね?さあ?わかりませんな。
117号室のクランケ…ちょっと気になるわ。
アッペの急患でさっきオペしたんだけど…警視庁の刑事らしいの。
拝借してきちゃいました。
これが遺書ですか…。
(亀山)随分あっさりした遺書でしょ。
(角田六郎)ヒマか?…おおっ!?おかげさまで。
お前昨夜現場にいたんだって?ええ。
飛び降り自殺ねえ…。
理由は何だ?医師としての限界を感じたらしいんですけどね。
限界か…。
俺なんかしょっちゅう限界を感じてるけどなあらゆることに。
一説には離婚も原因かと。
泥沼の離婚劇だったそうですよ。
そんなこともあってくたびれちゃったんですかね。
俺なんかしょっちゅうくたびれてるけど…死のうとは思わないよな。
…ヒマなんですか?いや…お前ほどじゃない。
(伊丹憲一)…ったく特命特命特命…どこなんだ特命!…まさしく島流し。
盲腸なんだってな。
そうなんですよ盲腸。
おかしいでしょ。
別におかしくはねえけどさ。
そうですかおかしいけどな。
だってあの顔で盲腸ですよ。
特命係の亀山!…いいか何度も言わせんな!いちいち特命係ってつけるんじゃねえよバカヤロー!これが新しい特命の部屋か。
いや探した探した。
相変わらず暗いな。
何か用かよ?おはようございます。
ああおはよ。
(伊丹)薬物対策課の課長が何で特命くんだりに?くんだり!?単なる暇つぶし。
何か用かって訊いてんだよ。
これは何のまねだよ?何だこれ?…あっ。
監察医の先生からお前あてにだ。
捜査一課にか?お前捜査一課の名前かたってんじゃ?そんなことするかよ!どうだか。
何だと!だったら何でこんなもんがうちに届くんだ?向こうが勘違いしたんだろ。
俺は警視庁って言っただけだよ!これ昨夜自殺したって医者の検死報告だよな。
…こいつのか!?何でそんなもんがいるんだ?お前に関係ねえよ。
自殺に何か不審点でもあるのか?知らねえな。
自殺じゃねえのかよ?自殺でしょ。
新聞に書いてあるし。
お前に訊いても始まらねえな。
何だと!どうせお前は使いっぱしりだからな。
不審点に気づくとしてもお前じゃなくあの変わり者の警部殿だろ。
逆立ちしたってお前には警部殿のまねはできねえぞ!誰もまねなんか…。
杉下右京は人材の墓場。
下についた者はことごとく警視庁を去る!ウエはお前を捨てたくてここに移したことぐらいその足りないおつむでもわかってんだろ。
所詮お前は捨てられた人間なんだよ。
それを忘れるな!相変わらず仲がいいなお前ら。
どこがっすか?
(大谷房子)太宰先生…。
(太宰謙介)今井が死んだって?はい屋上から飛び降りて…。
ご無理言って申し訳なかったですね。
いえお安いご用です。
たまきさんがね昨夜あなたが現場の写真を撮ってたはずだって言うものですから。
彼女ずっとそこから見てましたから。
警察の人に叱られちゃいました。
写真があるとありがたい。
亀山君から現場の状況は聞きましたがどうも要領を得ないものですからね。
ああ…すみません頼りなくて。
便利になりましたねえ…こういう物に写真が収まってしまうんですから。
亀山君とは結婚しないんですか?えっ何ですか?やぶからぼうに。
一緒に住んでるぐらいですから結婚を前提のお付き合いじゃないんですか?…気になります?僕は特に気になりませんけど。
たまきさんがねしきりに気にしてました。
たまきさんが?似合いのカップルなのにどうして一緒にならないんだろうって。
そうですか…似合ってますかね私たち?あまり長く付き合うのも考えものですよね。
何て言うか…しなってきちゃうって言うか…新鮮味が足りないって言うか…きっかけを失っちゃうって言うんですかね…。
…どうかしました?ちぎれています。
はい?ズボンのベルト通しです。
ベルト通し?ほらここのところ。
ぴょんと跳ね上がったようになってるでしょ。
ちぎれてますね。
ホントだ。
何ででしょう?…さあ?
(山田英雄)洗い直したい!?なぜだ?この件について特命が動いてます。
(山田)なに?特命のふたりが嗅ぎ回ってる様子です。
だから何だ?あんな連中関係ないだろ。
お言葉ですが亀山のバカは別として杉下右京は侮れません。
杉下右京の動くところには確実に犯罪がある。
それは奴の実績を見ても明らかでしょう。
(山田)ああ…。
おはようございます!…何やってんだお前?おはようございます。
昨夜の写真をね。
写真?ああこれか。
またお見舞いですか?そうじゃありませんよ。
はい。
今井助教授の?ええ。
睡眠薬が検出されてますね。
やっぱり気になりました?俺も気になりました。
微量ながら検出されたみたいですね。
検死報告で気になるところはそれだけです。
この点について所轄署は調べなかったんでしょうか?でしょ。
俺もそう思いました。
だとするとずさんですからね。
所轄に問い合わせてみました。
君にしては手回しがいいですね。
で結果は?今井助教授は睡眠薬を常用してたらしいんですよ。
睡眠薬を常用…。
どうして?不眠症だったんだって。
随分神経質な人だったらしいですよ。
離婚やなんやかやで…。
とまあそういうわけで微量の睡眠薬も不自然ではない。
やっぱり素直に自殺ですね。
…今何て言いました?え?「やっぱり素直に自殺ですね」いやその前です。
その前?え〜何て言ったっけ俺?え〜と…「神経質」?ああそうそう…。
神経質な人だったらしいですよ。
神経質な人がこんなズボン平気ではいたりしますかね?あ…!「こんなズボン」って?まったく…感心を通りこしてあきれちゃうよなあの人には。
目端がきくっていうのか…。
たしかにさ言われてみれば変だよね。
だって今井助教授は昨日学会で札幌に出発する予定だったわけでしょ。
よそいきであんなズボンはかないよね。
神経質な人ならなおさら。
何落ち込んでんのよ?…俺にはとてもまねできねえな。
人それぞれ持ち味でしょ。
じゃあ俺の持ち味って何だよ?黙るなよ。
何かひとつぐらい挙げろよ。
俺の持ち味。
考えとく。
おい。
そんなとこでたそがれているヒマあったらジャンジャン調べなさいよ。
(ナースコール)はい?はいはい…行きます。
また308号室だわ。
何か?あの…亡くなった今井助教授のことについてお訊きしたいんですけど。
(看護婦)今井先生のこと?ええ。
これで全部かな。
あのね自殺じゃないんですか?まだはっきりしないんだけどね調べてみる価値はあるね。
じゃあこれ借りてくね。
はいこれ。
はいどこですか?はい。
どうも。
…亀山てめえ!何だお前?何しに来たんだよ!それはこっちのセリフだ。
…ああ!何だこれ?これは!?関係ねえだろ。
寄こせよ!おいこら!何だあんた?捜査一課の伊丹です。
これ借りていきますわ。
ごくろうさんです。
亀山お前少しは自分の立場をわきまえろ!ちょこまか動くと島流しぐらいじゃすまなくなるぞ。
貸せ。
おい!だからって何だ…!サインお願いします。
バカ。
まったく…ハイエナみたいな野郎ですよ。
まあいいじゃありませんか。
よくないですよ。
これで手柄まで横取りされたら俺らの立つ瀬がないでしょ。
手柄ですか?そうですよ!そもそも今回の自殺に疑問を持ったのは俺らでしょ。
手柄を立ててどうしますか?どうするって…。
仮に手柄を立てたところで我々は評価されませんよ。
手柄を立ててほめられたいと言うのであれば…君はこの一件からおりたほうがいい。
それこそ徒労に終わりますからね。
仙人みたいなこと言うんじゃねえよ。
あっ!
(麻奈美)またお見舞いですか?熱心ですね。
そんなのんきな状況じゃないんですよ。
えっ?まだここだけの話ですけどね今井助教授の自殺はどうもあやしい…。
ホントですか?あの例えばですけどね…今井助教授に恨みを抱いていたような人いませんか?恨み?ええ。
恨みを持ってる人を捜すよりも…恨みを持ってない人を捜すほうが大変かも。
はっ?私も大嫌いでした。
えっ?ここだけの話にしておいてくださいね。
(杉下)亡くなった今井助教授というのは随分評判の悪い方ですね。
え?みなさんいろいろご不満をお持ちのようでしたよ。
そんなことを訊いて回っていたんですか?散歩のついでです。
動いてお腹が空いたでしょう?でももう少し辛抱してください。
あさってには重湯が出ますからね。
太宰先生という方はどんな方ですか?はい?今井先生と同じ…第1外科の助教授だそうで。
立派なお医者さまですよ。
うちの先生はみなさん優秀です。
太宰先生は今井先生と教授のイスを争ってらっしゃったとか?太宰先生ですね?
(太宰)そうですが。
(太宰)何か用ですか?
(伊丹)今井助教授の件でお話を。
亡くなった今井先生と教授選を争ってらっしゃったとか?先生!
(太宰)今井も俺も次期教授候補であることはたしかだね。
しかし今井先生は亡くなった。
つまり教授選は随分先生の有利になられた。
…違いますか?昨夜の8時ごろ先生どちらにいらっしゃいましたか?…屋上だよ。
(伊丹)えっ?ここの屋上…。
…屋上で何を?
(太宰)今井を突き落としたんだよ。
そんな答えでも期待していたんですか?バカバカしい!忙しいんだ帰ってください。
(伊丹)先生!これが読めないんですか?ここまで来ると…我々にもお手上げだな。
ましてや外科に出る幕ないだろ。
やるだけのことやったんだよ。
しかたないさ。
まだいらっしゃったんですか?ああ。
読み切ってしまおうと思ってね。
お飲みになります?
(太宰)いやいらない。
先生。
ん?318号室の中島さんのことなんですけど…。
318号室…肝ガンの末期だったな。
(麻奈美)…ええ。
(麻奈美)モルヒネも効かなくなってきていて…。
(太宰)苦しむのか?
(麻奈美)…はい。
これ以上モルヒネで痛みを抑えるのも限界です。
(麻奈美)どうしてあげたらいいか…。
向き合うことだな。
(麻奈美)…えっ?患者の苦しみから目を背けずに向き合うことだ。
もはや打つ手がない患者に対して医者ができることはそれしかない。
はい。
先生。
(麻奈美)妙な噂が流れているようですけどどうかお気になさらないでください。
太宰先生が今井先生を殺したという噂が立っているみたいですね。
その噂なら僕も聞きました。
教授選がらみの噂のようですよ。
太宰・今井両助教授は次期教授候補だったそうですからね。
ふたりは同期でライバル関係にあった。
ライバルを亡き者にということですか。
今井先生が死んで直接的な利益を受けるのは太宰先生ですからね。
教授になれるのはたったひとり。
なれなかった者はよその病院へ行くか開業するか万年助教授で終わるか…。
そのあたりはお役所のエリートと一緒ですね。
上へ行くほど同期が減っていく。
まさにサバイバルゲームですよ。
教授選が近くなると妙な噂が飛びかったり怪文書も出回るそうです。
しかしよかったですね。
はい?しっかり屁が出てめでたく退院。
おめでとうございます。
どうもありがとう。
聞きしにまさる光景ですね教授回診てのは。
ええ。
何だ君たちは?無礼じゃないか!それはおたがいさまでしょう。
私もコケにされて黙っているほどできた人間じゃないもんで。
お話お伺いできませんか?今は回診中だ。
(教授)何なんだねこの連中は!我々はこういう者です。
(教授)警察?太宰先生ちょっとお話を聞きたいだけなんですよ。
ダメですかね?…わかった。
あとで俺の部屋に来てくれ。
それでいいだろう。
そうですかありがとうございます。
最初からそう接していただければこんな大げさなまねはしなくてすんだんですがね。
それじゃあとで。
よろしく。
失礼しました…。
何て不細工なまねしやがるんだあの野郎は!あれじゃヤクザですよね。
我々もあとで太宰先生の部屋におじゃましましょう。
えっ?僕も太宰先生の話が聞きたかったんです。
彼がアポを取ってくれて手間が省けました。
「手間が省けました」って…。
そうと決まったら病院をひと回りしましょうか。
時間潰しも兼ねて。
はい。
(美和子)正確な時間はわかりますか?
(主婦)ちょうどあの爆発事故のニュースをテレビでやっていたから。
6時ぐらいですかね?
(主婦)そのころだと思いますよ。
その時刻に男が今井先生の部屋から出てきた?
(主婦)ええ。
今井先生じゃなかった?
(主婦)間違いないです。
感じが全然違いますから。
(美和子)顔はご覧にならなかったんですか?
(主婦)後ろ姿しか…。
そうですか…。
(主婦)でもねポケベルが鳴ったの。
ポケベル?ええ。
(ポケベルの音)
(主婦)急にポケベルが鳴って…その人慌てたようにして階段を下りていってしまいましたけど。
(看護婦)ちえちゃん!ちえちゃん!
(看護婦)ちえちゃん?…まったくもうっ!ちえちゃんですか?どうしたんですか?ちえちゃん!こんなところにいたんだ。
こっちいらっしゃい。
(ちえ)やあよ怒るもん。
ちえちゃんが怒らせることを言うからでしょ。
どうしたんですか?変なことばかり言いふらすので。
ウソじゃないわ。
ちゃんと見たんだから。
この間屋上から落ちた先生は本当は奥の部屋で死んでたのよ。
ねえ走ったりして平気なの?平気よ発作も治まったしもうすぐ退院なの。
ふ〜ん喘息は苦しいって言いますからね〜。
ええ。
ねえ早く事情聴取してよ。
…はい。
屋上から落ちた先生が別のところで死んでたというのはどういうことですかね?おじさん刑事のくせに頭悪い。
…はい?屋上から落ちる前に死んでたってことよ。
もう少し詳しく最初から話してもらえますか?最初から?ええ。
いいわ。
(ちえ)私あの夜救急病棟に行ったの。
救急車がたくさん来てたでしょ。
何だろうと思って。
(ちえ)でもねすぐにつまんなくなってお部屋に帰ることにしたの。
そしたらね…。
(ポケベルの音)
(ちえ)ピーピーって聞こえてきたの。
ピーピー?ポケベルに決まってるでしょ。
病院はね携帯電話を使えないから先生たちはねポケベルなの。
覚えておきなさいね。
…はいしっかり覚えておきます。
(ポケベルの音)
(ちえ)…死んでたの。
死んでましたか…。
本当に死んでた?死んでたわよ。
だって死んだ人はシーツをかぶせられて運ばれるんだもん。
私たくさん見てるもん。
なるほどねえ…。
(携帯電話の音)まあ!さっき言ったのにケイタイはダメでしょ。
…あっすみません。
(携帯電話の音)何で切るのよ?いや…病院の中だったからさ。
しかも聞き込みの最中だぜ。
小生意気なガキの。
ガキ?それはいいんだけど何だよ?今ね今井助教授の自宅マンションに来てるの。
「何で?」取材よ。
うまくいけばスクープだもん。
で?マンションで気になること聞いたのよ。
「気になること」?あの爆発事故の夜今井助教授の部屋から不審人物が出てきたの。
それホントか!?ポケベルが鳴って慌てた様子で飛び出して行ったって。
う〜んポケベルですか。
ええ。
6時過ぎというとちょうど僕がここへ運ばれてきた時刻ですね。
たしかそのころ救急病棟がてんてこまいでした。
この病院のお医者さまのポケベルが鳴りまくってる最中でしたね。
(ポケベルの音)ってことは今井助教授の部屋から出てきた不審人物もここの医者。
充分考えられますね。
そして同様に今井助教授のポケベルも鳴っていた。
一般外来の処置室のようですね。
あのあたりは夜間人気がなくなるそうです。
今井助教授は屋上から落ちる前…一般外来の処置室で死んでいた…。
いや死んでたはずはないですよ。
検死報告も見たでしょ?「死んでいたように見えた」正確にはそういうことでしょうね。
死んでいたように…?つまり眠っていた。
眠って?いや正確には眠らされていた。
九分九厘殺しですねこれは。
ちなみに残りの一厘は?言うまでもなく言葉のあやですよ。
ですね。
(亀山)何だよ気持ち悪い!
(伊丹)何が!お前のケツが当たって気持ち悪いんだよ!お前のケツのほうが気持ち悪いんだよ!何でお前がここにいるんだよ!?うるせえバ〜カ。
まあそうかたいことをおっしゃらずに。
警部殿あなたはご自分の立場が全然わかってない!
(太宰)遅くなってすまなかった。
訊きたいことはさっさと訊いてもらおうか。
ゆっくりしてる時間はないんだ。
どうぞ。
我々は今井助教授の自殺に疑問を持っています。
(伊丹)といって事故ではない。
何者かによって殺害されたという心証を持っているわけですよ。
どんな心証を持とうと君たちの勝手だな。
しかし病院内では先生が今井助教授を殺したという噂がたってますよ。
「火のないところに煙は立たない」って言うじゃないですか。
火のないところに煙が立つのが教授選挙なんだよ。
あの夜先生がどこにいたのかをお訊きしたいんですがね?パークビューホテルだ。
(伊丹)ホテル?女と一緒だ。
言うまでもなく愛人だ。
ホテルに問い合わせてみればいい。
なんなら彼女の連絡先を教えようか。
無論このことは捜査上の秘密として扱ってもらうことが前提だがね。
6時ごろはどちらにいらっしゃいましたか?…6時ごろ?ええ。
ずっとホテルの部屋だ。
ちょうど食事をしていたころじゃないかな。
外で女と会うのは冒険なんでね。
教授選にはそういうスキャンダルが一番怖い。
といって女と会うのもやめられない。
人間というのはつくづく業の深い生き物だね。
そのころ先生のポケベルは鳴りませんでしたか?どうですか?鳴らなかった…。
スイッチを切ってた。
せめてテレビでもつけていればあの爆発事故のあった夜…救急を手伝えたんだが…。
太宰先生のアリバイの裏取りはお任せします。
あなたに指図される覚えはありませんよ!我々は次へ行きましょうか。
はい。
遺書はワープロ打ちの簡単なものでしたし文面も非常に曖昧なものでしたからね。
やっぱりあれは偽造ですかね?その可能性が高いですね。
いずれにしてもあの夜この部屋から出て行ったという不審人物…。
(留守番電話)「用件0件です」その男が今回の事件の鍵を握ってると思われますね。
その男がこの部屋で何かをしていた…。
その「何かが」わかれば事件の核心に近づけると思いますよ。
だけど…特に気になるところはありませんね。
…そうですね。
このパソコン以外は…。
えっ?空です。
データが何も入ってません。
…何もですか?消されています。
ほらどこを押してもダメでしょ。
その不審人物がデータを消したんですかね?おそらくそうでしょう。
データを盗み出したわけか。
盗み出すだけならばパソコンの中のデータまで消す必要はありませんよ。
ひょっとすると…見られると都合の悪いものが入っていた。
そういう考え方のほうが自然ですね。
なるほどね。
さすがに神経質で几帳面な人だけありますね。
はい?ほらスケジュールがびっしり書き込まれてますよ。
…やっぱり札幌の学会も予定に入ってるな。
まあ出発当日に死んじゃったわけですけどね。
…ん?どうしました?見てください。
学会はこの日から3日間…初日は19日でしょ。
だけど今井助教授は17日に学会に出発する予定だった。
何でこんなに早く出発しようとしたんでしょうね。
18日に出発すれば充分だし最悪朝一便なら19日でも平気かもしれませんよね札幌なら。
札幌に女でもいたんですかね?まったく医者って奴はどいつもこいつも…。
たしかめてみましょう。
右京さん。
おいそれが何なんだよ?お前には関係ねえよ。
どうもありがとう。
参考になりました。
独り占めした捜査資料と遺留品しっかり管理しとけよ。
じゃましたな。
失礼。
おい!何がどうだか説明しろよ!足りないおつむで考えな。
(山田)何だどうかしたのか?特命がまた妙な動きをしてるんですよ。
今井助教授は札幌まで列車で行くつもりだったんですね。
ですから早々と17日に出発する必要があったわけです。
だけどどうして…?札幌なら飛行機が普通でしょう?どうしてでしょうね〜?
(杉下)どうしてだか…先生は理由をご存じありませんか?
(亀山)わざわざ列車で札幌というのは妙でしょ?今井先生は飛行機がお嫌いでしたから。
飛行機が嫌い?ええ。
…それは飛行機が怖いってことですか?そうだと思いますけど。
つまり高い所がお嫌いだったんでしょうか?たぶんそうだと思います。
高所恐怖症…?…ええ。
高所恐怖症の人が屋上から飛び降りたりしませんよね?しないでしょうね。
…自発的には。
・
(電話の音)もしもし?…わかったわ。
すぐ行く。
患者の容体が急に悪くなったんで…失礼します。
しませんよね?
(看護婦)すみません。
山口先生が学会でお留守なものですから。
アドレナリン1ミリ!はい!お願いします!
(心拍モニターの警告音)先生!先生!
(患者の妻)先生…もういいです…。
やめて…もういい…先生!もう充分です…このまま逝かせてあげてください…。
(心拍停止を知らせる音)
(患者の妻)頑張ったね…お父ちゃん…。
どうぞお気をつけて。
ありがとうございました。
あんまり飲み過ぎたらダメですよ。
わかってます。
退院したばっかりなんですから。
くどいです。
盲腸か…。
たしかにあなたが盲腸なんておかしいわよね。
亀山さんの言ったとおりだわ。
おかしいですかねぇ?おかしいわよぉ〜!
(笑い)…少し笑い過ぎじゃないですか?シワが増えますよ。
えっ?シワが増えます。
…あらびっくり。
あなたそういうこと言うようになったの?亀山さん効果かしら?何ですかそれ?あなた亀山さんとお仕事するようになってからなんか変わった気がする。
亀山くんの影響ということですか?…とすると盲腸になったのも亀山くんのせいですね。
またそんなこと…。
少し向こうに行っててください。
えっ?気が散ります。
あ…はい。
わかりました。
・
(客)こんばんわー。
(たまき)いらっしゃいませ。
どうも。
ご無沙汰ですね。
(ちえの声)〔死んでたの〕〔高所恐怖症…?〕ちょっと…出かけます。
あっちょっと待って。
はい?また病院でしょ?ええ。
しばらく病院通いが続きそうだから…これ持ってて。
ケイタイ使えないからコレで呼び出すわ。
なるほど。
(亀山)敗北…。
ええ…患者の死は医者の敗北…。
医者ってどうしてもそう思ってしまうんです。
だから無意味な延命措置もする。
患者の息が止まってしまうのを何よりも恐れてるんです。
1日でも長く息をさせていたいと思うんでしょうね。
だけど果たしてそれが本当に患者のためなのか…。
多かれ少なかれ医者はそういう疑問と闘ってるんです。
お医者さんって想像を絶するお仕事ですよね…。
逮捕できそうですか?えっ?今井先生を殺した犯人。
それはします!必ず捕まえます。
本当にすみませんでした。
どうせ途中ですから。
途中って言ったって…けっこう回り道でしょ?距離が長いほうがその分長くハジけられるし。
ハジける?ついスピード出しちゃうんです。
なんだかんだとストレスの多い仕事ですから。
その分パーッと発散したくなっちゃうのかしら?なんなら今度一緒にハジけません?ええぜひ。
…あら?アッ…!!こんばんは〜!…先生に送ってもらったの。
そう〜!ありがとうございました。
どうもありがとうございます〜。
どこでハジけるのかな〜?いやそれはだな…。
どういうふうにハジけるのかな!?だからそれはね…。
聞かせてごらん。
んっ?ほんの挨拶でしょ。
挨拶!社交辞令ってもんでしょ。
美人を見ると鼻の下伸ばしてさ…。
伸びてるかな?ハハハ…。
しっり捜査を進めてるかと思えば女とドライブですか!そりゃ結構ですわね!誤解だってば!それは…。
5階も6階もヘチマもないっての!なんでヘチマが出てくんだよ!
(携帯電話の音)あっ…電話だ。
電話が鳴ってます。
いちいち断らないで早く出なさいよっ!はい…。
はいもしもし?
(杉下)「僕です」ああ…右京さん!急に呼び出してすみません。
いやナイスなタイミングでした。
はい?いやいや…こっちのこと。
何スか?ちょっとここに腰を降ろしてください。
はっ?いやいや危ないですよ。
足を外に放り出すようにして座ってください。
怖いですか?いや…怖かあないですよ!すみませんこれで。
本当は向こう側に座ってほしいんですけどね。
そんなことしたら落ちますよ!落ちてしまっては困りますからこれで結構です。
ちょっと失礼。
ウワッ…!右京さん…何やってんですか?検証です。
ケンショー?僕の想像に間違いなければ今井助教授はこうして殺されたんです。
あの夜今井助教授は睡眠薬で眠らされたまま今君がこうしてるようにして座らされたんですよ。
やがて睡眠薬が切れ今井助教授は目を覚ます。
どうなると思いますか?そりゃびっくりするでしょう!こんな高い所で目を覚ましたら。
やってみてください。
…ウワーッ!?そのとおり。
それも…尋常な驚き方じゃないと思いますよ〜。
なにしろ今井助教授は高所恐怖症ですからね。
(今井の悲鳴)今井助教授はあわてて立ち上がろうとします。
立ち上がってみてください。
あ…ムリですよ。
結ばれてちゃ…。
そう。
立ち上がろうとしても立ち上がれませんね。
まして足は外に出てます。
あそうか。
だから今井助教授はパニックに陥ります。
もはや冷静な判断力など失われてます。
そしてついに…。
(今井の悲鳴)今井助教授の体内から微量の睡眠薬が検出されたのは転落する直前に目を覚ましたからです。
不眠症で睡眠薬を常用している今井助教授ですから体内から多少の薬が検出されても怪しまれることはありません。
高所恐怖症の今井先生だからこそこの仕掛けは成立します。
そして何よりも犯人がわざわざこんな手の込んだまねをしたのはこの仕掛けが一種の時限装置の役割を果たすことになるからです。
現場にいなくて済む…アリバイを作ることができるワケですよ!だけど…ベルト通しがちぎれてたってことは…ここにヒモが残ってしまうワケですよね?落下直後は残っていたと思いますよ。
しかし下は当然大騒ぎになりますし警察が来るまでの時間もありますから犯人は充分に安全を確認したうえで…そのヒモを回収できたはずです。
いったい…誰がそんなことを…?さあ来ました来ました!あの夜今井先生と太宰先生を除いて救急病棟に呼び出された医師は…8名みたいですね。
8名ですか。
この中に犯人がいるんですかね?少なくとも今井助教授の部屋から出てきた人物は必ずいます。
医者とおぼしき不審な男…ですね。
とりあえず第1外科から当たりますか?それが順当でしょうね。
第2外科…第2外科…第3外科…。
第1外科…第1外科…2名ですね。
佐野昌平に柴田康浩。
(米沢鑑識官)お邪魔します。
あどうも。
…どうでしたか?バッチリ救出できました。
そうですか!救出って何を?データです。
今井助教授のパソコンの中のデータです。
だって消えたって…。
いや消えてませんよ。
えっ?データを消去するということはつまり「消去しました」という情報をインプットしたにすぎないんです。
内部のハードディスクに情報は残されてますが「消去しました」という信号を受け取ったパソコンがもうデータがないものと判断してるわけですね。
そのとおりです。
もうちょっとわかりやすくかみ砕いて…。
これ以上かみ砕けません。
本当にパソコンのデータを消したければまったく意味のないデータを上書きするしかないんです。
しかし意味のないデータを上書きするには専用のソフトが必要ですし時間もかかります。
今井助教授の部屋に侵入した不審人物がそこまで徹底的にやる時間があったのか疑問だったものですからお願いしたワケです。
お願いされたワケです。
つまり…データは残っていた!…まあ素人にはそういう大ざっぱな理解で結構でしょう。
そうっスか…。
パソコンを下取りに出すときは気をつけないと。
消したつもりでも消えてませんから。
情報が流出する恐れが多分にありますからね。
亀山くん。
えっ?何かありました?ダイアリー…今井助教授の日記です。
ええ…。
読んでみてください。
…はい。
(太宰)わざわざ日記に書くとは…几帳面な今井らしい。
プリントアウトしてきましたがお読みになりますか?いや…結構だ。
ここに書かれてることは事実ですか?…事実だ。
だけど…安楽死なんて…。
それが最善の処置だったんだよ。
それが患者を救う唯一の道だった…。
〔先生…〕
(太宰)俺は医師としてその決断をしたんだ。
今も間違っていたとは思わない。
それを今井助教授が嗅ぎつけたワケですね?そうだ。
そして脅された…。
今度の学会から戻って来たら告発すると最後通告を突きつけられたよ。
〔とにかく俺の話を聞けよ!〕〔聞きたくないな。
人殺しのたわ言なんか〕〔今井!〕〔学会から戻ったらすべてを明らかにする〕〔それでお前は終わりだ〕先生が失脚すれば今井助教授は教授のイスを勝ち取ることになるわけですよね?教授選挙がそんな単純な話ではないがま…かなり有利にはなるだろうねぇ。
いずれにしても先生は追いつめられていた…。
だからって今井を殺したりはしないよ。
俺は人殺しじゃないんだ。
しかし…誰かが今井助教授を殺したことは確かです。
心当たりはありませんか?今井助教授殺害を企てるような動機を持った人間が病院にいませんか?いるならそれは誰ですか?先生…!俺だろうな…。
えっ?今井を殺す最も大きな動機を持った人間は…俺だよ。
俺にまさる殺意を持った人間はあの病院にはいない。
なにしろ俺はあいつに破滅させられようとしてたんだからな…。
ありがとうございました。
行くぞ。
しかし…。
俺を捕まえないのか?俺は…患者を安楽死させた医者だぞ。
我々は人殺しを捜しに来たんです。
放っておくんですか?我々がどうこうせずとも身の処し方は先生ご自身がしっかりお決めになるでしょう。
とにかく我々は今井助教授を殺した犯人を捜しましょう。
(柴田医師)あの夜はポケベルで呼び出されて応援に来ましたよ。
当直の夜しばらく病院を留守にしたなんてことは…?そんなことしたらクビになっちゃいますよ。
ですよねぇ…。
(佐野昌平)ポケベルが鳴ったんで急いで駆けつけましたよ。
ポケベルが鳴ったのは6時ごろじゃありませんか?さあ?時間を確認したわけじゃありませんから…。
先生はあの夜当直じゃないですよね。
どちらにおいででしたか?なんか…不愉快だな。
…はい?僕はそんなこと訊かれる覚えはありませんよ。
形式的な質問です。
お気を悪くされたなら謝ります。
…家にいましたよ。
自宅です。
あっそうですか〜。
病院に到着されたのは何時ですか?そんなのいちいち確認してませんよ。
なにしろあわただしい最中だったから。
看護婦さんの証言によると先生は6時20分ごろ病院に到着されました。
そして救急病棟の応援に加わってます。
だったらその時間でしょう。
…忙しいんですよ。
論文を書き上げなきゃならないもんで。
もうお暇します。
ありがとうございました。
…たしか駒沢でしたね。
僕の記憶に間違いなければ先生のご自宅は駒沢だったと思うんですが…。
駒沢から20分程度でどうやってここまで来られたんですか?20分じゃそこらじゃ不可能だと思うんですが?…どうも理屈に合わないことが気になる性分で…悪い癖です。
ご説明いただけるとありがたいんですがね。
あるいは先生の思い違いで別の場所にいらっしゃった。
…なんてことはありませんか?仮に今井助教授の部屋からならちょうどここまで20分ぐらいなんですよ。
…だから何だってんだ!?単なる勘ぐりです。
これも悪い癖…。
僕が今井先生を殺したとでも言うのか!?そんなふうに聞こえましたか?ウッ…!
(たまき)杉下ですか?来てませんけど。
そうですか…わかりました。
どうも。
どこ行っちゃったんだあの人…?
(房子)すみません。
こうするしか…。
俺をそんな目で見るなよ!この刑事ったらネチネチと…。
汚いよ…!
(房子)今はペンタザシンで眠ってます。
あとどれくらいで目を覚ますの?まだ当分…。
こうなったら…始末するしかないよな?そんなこと簡単に言わないで!・
(物音)何でもないみたいだ…。
どうしたら一番安全でしょう?もう…殺すしかないよ…。
口をふさぐしかないだろう?遺体をどう処理するのよ?
(携帯電話の音)ムッ…?クソッ!病院内はケイタイ禁止だろうが!コイツまだヤバイもん持ってんじゃないのか?少し落ち着いてよ!とにかく方法を考えましょう…。
難しいのは遺体の処理よ。
ええ…。
いずれにしてもこの時間じゃまだ動けないわ。
いったん戻りましょう。
(房子)はい。
なぁ?…俺たちもうダメなんじゃないのか?お願いだから普通にしてて…!あすみませーん。
ウチの杉下見ませんでしたか?杉下さんですか?…あ婦長さん。
杉下さん見かけました?病院の中にいるはずなんですけど…。
見かけませんでしたけど…どうかなさいました?いえいえ…。
あっ佐野先生はどちらにいらっしゃいます?研究室で論文をお書きになってます。
そうですか…。
杉下さんですか?
(亀山)ええ。
話を訊きに見えたんですけどすぐお帰りになりましたよ。
そうですか…。
(ノックの音)お邪魔しまーす。
…あのうウチの杉下を見かけませんでした?杉下さんですか?…いえ。
おかしいなぁ?ケイタイがブチッって切れたしなぁ…。
なーんか気になるんですよね…。
あの…お見かけしたら亀山さんが捜してたことお伝えしておきます。
あ…お願いします。
あっ。
はい?病院内でケイタイは使用禁止ですのでよろしく。
気をつけまーす。
・
(扉の閉まる音)いるワケねーか…。
いねえよなぁ…。
いくら何でも変だよなぁ?こんな時間まで連絡ナシなんて。
協力?…俺がお前に協力する義理はねえ!そこを何とか頼むって言ってるだろう?切るぞー。
俺がお前に頭を下げて頼んだことねえだろ?初めて頭を下げてんじゃねえか!あいにく電話じゃお前が頭を下げてるかふんぞり返ってるか確認のしようがねえからな。
あっ!おいっ…!…死ねバカヤロー!・
(電話の音)はい「新ふくとみ」です。
あ亀山です。
右京さんから連絡入ってないですかね?いいえ入ってませんけど。
そうですか…。
あ…ポケベル鳴らしてみます?ポケベル?杉下に昨夜持たせたんです。
番号言います。
ちょ…ちょっと待ってください。
…はいお願いします。
ええ…はい…。
わかりました。
じゃさっそく…。
(アラーム音)んっ?もしもし?うわっ…電池切れだよ!献体…?そう…。
遺体は大学の解剖用の献体に紛れ込ませる。
それしかないわ。
…書類はなんとかしてそろえる。
わかりました準備します…。
うわっ…小銭もねえよ…!・
(電話の音)もしもし?
(麻奈美)「やるわ。
準備して」…わかった。
・
(扉の開く音)あ…たびたびすみません。
お電話をお借りしても?あ…はいどうぞ。
すみません。
(ポケベルの音)なんでだよ…?なんでこんな所で鳴るんだよ…?ちょっと失礼!何ですかコレ…?何ですかコレ…!?先生が…!?どこですか右京さんは?…俺の相棒はどこだっ!?遅いじゃないか!何してたんだ?右京さん!…お前ら右京さんに何したんだ!?アーッ!!バカヤロウッ!右京さん!?なんで…!?右京さん…!小さな救世主が現れましてね。
(ちえ)〔先生〕〔んっ?〕〔刑事さんが死んでる〕そして太宰先生が駆けつけてくれましておかげで…このとおり命拾いしました。
待てっ!!このクソッタレが!!どけぇーっ!!もうやめろっ!
(泣き声)
(泣き声)先生もお仲間だったとは…とても残念です。
佐野先生…あなたが今井助教授の部屋に忍び込んだのは間違いありませんね?あなたはそこでパソコンのデータを消去しすべてのフロッピーを持ち去った…。
その理由は今井助教授が太宰先生の行った安楽死の事実を記録している恐れがあったから…。
そうですね?つまりあなた方は太宰先生のために今回の事件を引き起こしたということになります。
(麻奈美)そうよ。
太宰先生の危機を黙って見過ごすわけにはいかなかったんです!〔俺の話を聞けよ!〕
(今井)〔聞きたくないな。
人殺しのたわ言なんか〕〔今井…!〕〔学会から戻ったらすべてを明らかにする〕〔それでお前は終わりだ〕〔…そうだ。
お前に言ってもわかってもらえないが…〕
(麻奈美)私たちは今井先生殺害の計画を立てて実行に移した。
〔何だよ話って?早く話せよ〕〔僕はもうすぐ出発しなきゃならないんだよ〕〔…何だ君たち?〕〔ウッ…!〕
(麻奈美)クロロホルムで気絶させペンタザシンを打ち夜まで眠らせてそのあと屋上から落とす…。
そういう計画だった。
途中までは計画どおりに進んでた。
けれど…。
(ポケベルの音)予期せぬ爆発事故で計画は一時中断を余儀なくされた…。
爆発事故の大騒動が計画にわずかなほころびを生じさせたワケですね?ええ…。
でも取り止めるわけにはいかない計画だったから私たちは騒ぎがひと段落ついたころ計画を再開したわ…。
そして計画どおりに今井先生は屋上から転落した…。
だけど…刑事さんあなたがいた。
それも予期せぬ誤算だった。
完全犯罪なんてこの世にありませんよ。
あなた方がどうやって今井助教授を殺したかそれは充分理解できました。
しかしなぜ殺したか…僕にはわからない。
なぜ…?奴の口をふさがなきゃ…太宰先生が潰されちまうだろう!今井先生は頭を下げたところで聞いてくれる方じゃありません!あいつは…クズだ!
(今井)〔時間のムダだ!俺にはやるべきことが山ほどある!〕〔外科医としてやるべきことはやった。
あの患者は助からない〕〔せめて患者の苦しみを知る努力はできるだろう?〕〔それが何になる?それで助かるならいくらでもするさ〕〔そんなもん医者の自己満足にすぎないんだよ!〕〔…お前にはお前のやり方があるさ〕〔そうだよ。
余計なお世話だ〕〔患者から何も学ばないなんて…お前も寂しい医者だな!〕〔…何だよその目は?〕〔いえ…〕〔お前のクソみたいな論文…俺は認めんぞ!〕〔顔を洗って出直してこい!〕〔…お前ら太宰の肩入れをするんだろうけどなあとでほえ面かくなよ。
俺が教授になったあかつきにはみんなここからたたき出してやるっ!〕
(房子)肩書きが何よりも大事な方でしたからね…。
お医者さまという立場も仕事と割り切ってらっしゃいました…。
まだ予断を許さない患者さんを下のお医者さまに任せてお出かけになることもしょっちゅうでしたし何か問題が起こればすぐに下の者に責任をなすりつける。
…患者さんのことなんかこれっぽっちも考えない方でした。
そんなお医者さまと太宰先生のような立派なお医者さま…秤にかけるまでもないじゃありませんかっ…!あんな人に…太宰先生が破滅させられるのが許せなかった…!人のことをさんざんコケにしやがって…あいつ…!あなたはどちらの先生にかかりたいですか?患者と最期まで向き合おうとする太宰先生と患者の顔色さえも見ようとしない今井先生…。
どちらの先生を選びますか!?太宰先生を失うのは耐えられなかった…。
その太宰先生は何とおっしゃいますかねぇ?あなた方のその言い分を聞いて。
あなた方の尊敬する太宰先生も…人を殺しました。
けれどもそれは命と真摯に向き合い悩んだ末での決断でした。
あなた方の愚かしい行為はそんな太宰先生を助けるのではなくむしろ先生の医者としての誇りを傷つけることになりませんか?太宰先生が…そんなことを望んでいたと思いますか?あなた方はそれを…しっかりと考えたんですかっ!?先生が医者としてこれまでに救った命と同じ医者として今回奪った命…どう違うんですか?どうかゆっくり考えてください。
時間だけはありますよ。
考える時間…そしてやり直す時間も。
放してっ!!放してーっ!!先生ーっ!!何をするんですかあなたはっ!?あなた方は生きるんですっ!!そして罪を償ってください!!
(泣き声)ま…悪く思うなよ。
殺しは俺たちの管轄だ。
なんとか事件は解決したんだけどさま結局手柄は伊丹の野郎にかっさらわれた。
ふ〜ん残念ね…。
ま仕方ないよ。
そうでなくて…美人先生とハジけられなくなっちゃって!…バカかお前は!ちょっとは残念でしょ?う〜んちょっとね。
…冗談だよ!やっぱお人好しなところかなぁ?えっ?薫ちゃんの持ち味って。
そういうのって持ち味かなぁ?持ち味ですとも。
そうかなぁ〜?まあとにかく…今回はお疲れさまでございました。
ホント…疲れたよ。
えー…お疲れついでに…もうちょっと疲れてみる?何言ってんのお前は…!だって最近ご無沙汰だし…。
やめろよお前…。
ねぇ…!疲れてんだからさぁ…。
ついでにもっと疲れちゃえ!疲れちゃう?疲れちゃおっか!あんもう助けて〜・そう…病院を辞めるの…。
すべてを公表するそうです。
そして被告席に立って自らの信念を堂々と訴えるとおっしゃってました。
でも安楽死は罪なんでしょ?法律上は許されることではないですね。
しかし僕は人殺しとは簡単に決めつけたくない気がします。
おはようございます!おはようございます。
昨夜はゆっくり休めましたか?ああ…もうバタンキューで…。
それはよかった。
んっ?…どうしました?何がですか?目の下にクマができてますよ。
そうですか?お疲れのようですねぇ。
別に黒くないですよ。
あ失礼。
間違えました。
目の下は黒くありませんが首筋にアザみたいなのがありますよ〜。
…ないですよ!
(笑い)いらっしゃいませ!
店内に響く元気いっぱいの声
ここは大阪では珍しく2015/11/09(月) 14:00〜15:51
ABCテレビ1
相棒3 警視庁ふたりだけの特命係[再][字]
大学病院助教授墜落殺人事件!日付の違う乗車券の謎と、死体が語る美人外科医の秘密
詳細情報
◇出演者
水谷豊、寺脇康文、高樹沙耶、鈴木砂羽、伊藤裕子 ほか
※
「土曜ワイド劇場」作品
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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日本語
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