美の壺・選「障子 和の光と暮らす」 2015.11.08


(テーマ音楽)あ〜これ困っちゃったな〜。
障子に穴開けちゃった。
あ〜これ妻にバレたら怒られちゃう。
あそうだ!ちょっとだけなら何か適当な紙を当てちゃってバレないようにしよう。
ひどいわ!私傷つきました。
あっ!障子がしゃべった。
適当な紙だなんてあんまりだわ。
障子には障子紙って決まっていますのよ。
えどうして?白い紙だったら何でもいいんじゃないの?まああきれた。
障子紙に秘められた私のやわらかな光と影のヒ・ミ・ツ知りたくないんですか?え?ヒ・ミ・ツ…?あ〜気になる。
岐阜県長良川のほとりにある和紙の里美濃。
和紙作りの歴史は1,300年。
江戸時代には巨万の富を築いた和紙問屋が立ち並び栄えました。
旧今井家もその一つ。
往時をしのばせる室内には伝統が育んだ究極の障子紙がほんのりと光をたたえています。
美濃和紙の粋を集めた逸品…外からの光を和らげるというものが障子紙の役目なんですけれども本美濃紙を張った障子紙はその光をより上品なやわらかい光に変えて優しい空間を作ってくれるんじゃないかなと感じております。
この光。
手漉きの技でしか生み出せないといいます。
今日一つ目の壺は…現在本美濃紙を漉ける職人はわずか数人しかいません。
澤村正さんはこの道70年というベテランです。
本美濃紙といいますと大事なのは原料なんですよね。
原料を上質な物。
原料の顔を見れば製品も読めています。
本美濃紙はナスコウゾと呼ばれる良質のコウゾだけを使います。
特徴はその白さ。
漂白剤は使用せず天然の色をそのまま障子紙に再現するため数十年も色がくすむことがありません。
この繊維をいかに生かすかが手漉きの技。
桁と呼ばれる木枠にすだれを敷きナスコウゾの繊維をすくい取ります。
「流し漉き」と呼ばれる技。
よく見ると最初は縦方向に。
続いて横方向に桁を揺すっています。
縦揺り横揺りこれを重ね合わせて均等に漉くということが大切です。
縦揺りと横揺りを交互にバランス良く行うことおよそ70回。
繊維が隅々まで均等に絡まり合います。
漉き上がった和紙はわずか0.15ミリの薄さです。
まるで絹のようなきめ細かな繊維が放つ光沢。
数ミリの繊維がムラなく絡まり合っています。
この均質さこそが障子紙の命。
裏から光がさし込むと…ほら!きめの細かい紙の繊維が光を拡散し明かりにやわらかみが増します。
心癒やす障子の明かり。
繊維手業自然が織りなす光の魔法です。
美濃では手作りの技を駆使してさまざまな障子紙が作られています。
こちらは…草花や波模様など四季折々の透かし模様が個性的です。
作り方はまず漉いたばかりの和紙を型にセットします。
型には伝統的な文様麻の葉。
すると上から水が。
型を通り抜けた水滴だけが和紙に当たり表面にこまやかな穴を開けていきます。
そこには…立体的な麻の葉文様が現れました。
今度はもみじや金箔を載せて…。
落水紙を上から重ねると…。
模様が動きを生んでまるで落ち葉が清流を流れるようです。
落水紙の魅力はその多彩な光の表情にあります。
やっぱり全然変わりますね。
光が入ることによってその同じ1枚の和紙の中でも光の当たる角度というか当たる所と当たらない所によって全然模様の出方とかもみじの発色のしかたとかがすごく変わるのでなのでそういうのを見るのも楽しいかなと思います。
障子が生み出す優しい空間。
やっぱり和紙っていいよねなんか。
うん。
和みの時が流れます。
ウハハ〜!楽しいなこれ。
フフフッ。
キャ〜!な何をなさるの?え?何をってどうせ張り替えるんだから破いちゃえと思ってね。
ダメよ〜ダメダメ。
そんなことしたらきれいに張り替えられなくなるんですから。
え…?私の言うとおりやってみて下さる?…はい。
まず裏から糊バケで骨組み全体にたっぷりと水を含ませて下さらないかしら。
2〜3分置いたら下からゆっくりと持ち上げますのよ。
あ〜ドキドキしますねぇ。
そうっと慎重にね。
あ〜!きれいに剥がれた〜!ハハ〜!お上手よ正雄さん。
フフン。
こちらの老舗料亭は昭和25年昭和天皇の行幸にあたって増築を行いました。
そこで白羽の矢が立てられたのが日本近代建築の巨匠堀口捨己。
堀口はドイツなどで建築を学び大正から昭和にかけて斬新な西洋建築を発表しました。
そんな堀口が一転和の建築にモダニズムの新風を吹き込んだのがこちら。
昭和天皇が宿泊した…一目見ると数寄屋造りですが実は画期的な障子の使われ方が。
この天井です。
帯のように伸びる障子のライン。
その裏に当時最先端だった蛍光灯を配したのです。
障子を照明装置として扱い天井に組み込むなどそれ以前の和風建築には考えられないことでした。
堀口先生自身は非常に新しいものを建築に取り入れるのが好きな方だったものですから天井面でもそれまでは裸電球を置くとかっていうふうないわゆる点の照明だったわけなんですけども蛍光灯によってラインの照明ができてきた。
それをそのまま出すのではなくて障子の中に入れ込む事によって障子としての大きな面として明かりをとると。
全体を明るくすると。
これは堀口先生が初めてだと思いますね。
更に堀口は障子と天井の間「小壁」と呼ばれる部分にまで障子の照明を施しました。
障子を閉めきっても全体が明るい。
和に洋のモダンが見事に溶け込んでいます。
障子っていうのは要は……の一つ。
このパターンそのものがそのまま近代的な建築の中に持っていっても十分通用すると堀口先生は感じてらして新しいいわゆる洋風のコンクリートの建物みたいなものの中にでも障子を持ち込んでいくというふうなことはこのあといろんなところでやられるようになったと思いますけどもね。
そこで二つ目の壺。
1960年代障子は更に進化して洋風建築に合うデザインのものが登場します。
こちら茅ヶ崎にあるお宅。
玄関を入るとまず目を奪うのは40畳を超えるリビングの壁一面をガラスにした窓。
しかしそこにしつらえられているのはカーテンではありません。
そう障子です。
床から天井まですっぽりと障子で覆われた大胆なデザイン。
設計したのは昭和を代表する建築家の一人吉村順三。
吉村の障子がなぜ洋風建築に合うのか。
その理由はパターン化を極めたデザインにあります。
実は桟の太さが骨組みと同じに設定されているのです。
これによって伝統的な障子に見られるようなつなぎ目が一切分からないように工夫されています。
更に規格外の自由なサイズ。
一升が通常のおよそ2倍にデザインされしかも壁面全体が均等に割り付けられているため横にも縦にも無限の広がりを感じさせるのです。
この家のあるじには特別な楽しみ方があります。
お気に入りの椅子のコレクションを並べると…。
障子全体がスクリーンとなりそこに椅子がシルエットになって浮かび上がります。
ふだん障子を開けてると周りの緑が楽しめるんですけども障子を閉めるとそこが白いキャンバスみたいなものになるもんですからその手前にあるインテリアが今度主役になってまたきれいに見え方が変わるので抽象絵画のような見え方っていうんですかねそういう味わいがありますね。
日本に生まれやがてモダニズムにも進化。
障子の可能性は無限です。
ちょっといい物見つけたんです。
きれいでしょう?こうやって一升一升色や模様の異なる和紙を張るとまるでモザイクアートみたいにモダンな感じがするでしょう?僕も挑戦して君をすてきに着飾ってあげちゃおうかな。
ハハン。
ジャ〜ン!どうです?ゴージャスな仕上がりでしょ?アハハハ…き気持ちはありがたいんですけどちょっとやり過ぎじゃありません?…すいません。
京都藪内家にある茶室燕庵。
江戸時代初期に武家の茶を大成させた古田織部が設計したものと伝えられています。
燕庵には数寄者古田織部ならではのおもてなしがその意匠に施されています。
露地を渡ってにじり口から入ると…。
なんと5畳ほどの狭い空間に障子窓が10個も。
ほの暗い中主人が現れます。
秘めやかな茶事の中ひしゃくの柄を畳に落とすかすかな音を合図にして障子の外側にあるすだれが一つ一つ外されていきます。
みるみる光が茶室を満たし客は驚きの中に今茶事が最高潮を迎えることを感じ取るのです。
新しい光の中でお点前や道具をじっくり拝見できるようにもなります。
この障子というのはあくまで景色ですよね。
あの…お茶席の中にある景色。
この障子窓はまさに光と影の織りなす景色となっています。
(藪内)織部さんというのは光のエンターテイナーやと思います。
この光をお茶室の中に取り込むことによって来るお客さんをもてなしたということでしょうね。
今日三つ目の壺。
箱根にある明治創業の老舗旅館です。
多くの文人墨客に愛された宿は部屋ごとに意匠を凝らした障子を楽しめます。
こちらが「せせらぎの間」でございます。
どうぞそのまま。
ごゆっくりどうぞ。
「せせらぎの間」と名付けられた部屋。
全面にしつらえられた障子にはある仕掛けが。
下半分を上に滑らせて景色がのぞける…全ての雪見障子を開けるとパノラマの景色が広がります。
部屋でくつろぎながら外の谷川をかいま見る贅沢です。
では全ての障子を開けてみましょう。
(せせらぎの音)心が解き放たれるような風景が現れます。
この部屋を愛したのは作家大佛次郎でした。
大佛先生はやはり川の流れそういったものをお楽しみになったんじゃないかと思いますね。
よく執筆の際にですねお疲れを休めるためだと思いますけど河原に下りていったりされてそこで川の流れを見てた。
それでしばらくお考えごとをなさってたということを母から聞いております。
(せせらぎの音)大佛とは対照的な部屋を好んだ作家がいます。
「桐の三番」のお部屋でございます。
どうぞそのままお進み下さいませ。
川の反対側にある…静かな部屋で執筆に専念したいとこの部屋を選んだのは川端康成でした。
障子には川端も愛したという箱根の山が組木細工で施されています。
川端先生は時々特にご予約なしで来られたらしいんです。
着流しでそれでひょいと来られてここにお泊まりになった。
「夜は物を書くからたくさん炭を置いといてくれ」と。
で「3時間ごとにお抹茶をたててくれ」と。
ですから夜通し執筆して朝扉の所に原稿を出しておくと出版社の方が来られて取っていかれたと。
夜通し執筆に集中した川端に障子は癒やしの景色を用意していました。
夜が白々と明けると…。
ほら!まるで太陽のような丸い光が現れます。
更に…山にかすみのシルエットが浮かび上がります。
正体は…裏の柵組みの影だったのです。
外から日がさすと山に雲がかかったようなしつらえになってますのでお楽しみになったんじゃないでしょうか。
川端先生は本当に小さな所で集中されてお書きになってるわけですから障子っていうのは多分外と内をわずかにその境をですね隔てるやさしい「しきり」じゃないでしょうかね。
そのあたりを多分楽しまれてたんじゃないかと思うんですけどね。
音や影で伝わる気配。
(せせらぎの音)障子は外の世界とやさしくつながり続けるやわらかな「しきり」なのです。
あ〜だいぶん日も傾いてきたな。
あちょっと肌寒くなってきた。
障子を閉めますか。
正雄さん障子紙を張り替えてくれたお礼にとっておきのものお見せしますよ。
うわ〜すてきだ!まさに光と影のアートですね。
いやちょっと一杯やりたくなってきたな。
うん。
あ〜うまい!君の美しい姿を眺めながらの酒はたまらない。
う〜ん。
ウフフありがとう。
いや〜ホントきれいだ。
ところで君名前何ていうの?・ただいま〜。
あっ!妻が帰ってきちゃった。
あの…残念だけど君とは今度またゆっくりね。
約束よ。
番組の司会を務める…2015/11/08(日) 23:00〜23:30
NHKEテレ1大阪
美の壺・選「障子 和の光と暮らす」[字]

身近なテーマを中心に3つのツボでわかりやすく観賞指南する新感覚美術番組。今回は「障子」。伝統技の逸品から、洗練のモダン障子まで!案内役:草刈正雄 語り:木村多江

詳細情報
番組内容
日本が誇るユニークな障子、その柔らかな光と影をご堪能あれ。▽千年の歴史を持つ障子紙「本美濃紙」が醸し出す、微細な光の秘密とは?▽透かし模様が芸術的な「落水紙」。驚きの「落水」の技とは?▽日本建築史を変えた斬新な障子は、天井から?▽40畳の洋館リビングの大窓を飾る、究極のモダン障子とは?▽古田織部の茶室で障子が見せる、劇的な光の演出とは?▽大佛次郎や川端康成が愛した老舗旅館。文豪がめでた障子とは?
出演者
【出演】草刈正雄,【語り】木村多江

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
情報/ワイドショー – 暮らし・住まい
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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