海の底へとまっすぐ潜っていくのは海女さん。
狙いはウニやアワビなどおいしい海の幸。
あの国民的ドラマで一躍脚光を浴びましたよね。
そんな海女さん顔負けの潜りの達人がいます。
こちら絶滅危惧種の鳥ガラパゴスコバネウ。
海の底を探って…お見事!魚をキャッチ。
大きなタコだって…丸のみです。
さらに…ウニ!海の幸を巧みに捕らえていきます。
ところが…あれれ?スカスカの小さな羽。
実は飛べない鳥なんです。
海の中とは大違い。
陸での暮らしは大変です。
灼熱の太陽の下で行う子育て。
小さな羽で必死に日陰を作りヒナを守ります。
空から強敵が続々と襲来!飛べない鳥たちは一致団結して立ち向かいます。
不思議な進化を遂げた鳥ガラパゴスコバネウ。
世界初の密着ドキュメントです。
(テーマ音楽)南米大陸からはるか1,000キロ。
赤道直下に位置するガラパゴス諸島。
大小100余りの島や岩礁が連なります。
私たちが訪れたのは最も西側のフェルナンディナ島。
火山活動によって出来た島は溶岩で覆われています。
うわ〜何だかいっぱいいますよ。
ガラパゴス諸島だけに暮らすウミイグアナです。
イグアナの仲間では世界で唯一海に潜り海藻を食べて暮らしています。
こちらはガラパゴスアシカ。
やはりガラパゴス諸島だけでしか見られない固有種です。
島は貴重な生きものたちの宝庫なんです。
さあお目当てのガラパゴスコバネウはどこにいるんでしょうか?岩の上に何かいます。
小さな羽。
ガラパゴスコバネウです。
大きさは60センチほど。
ガラパゴス諸島だけにわずか2,000羽が暮らす絶滅危惧種です。
羽を広げました。
それにしても小さいですね〜。
日本でも見られるカワウと比べてみましょう。
カワウは羽を広げるとおよそ1.5メートルにもなります。
ところがガラパゴスコバネウはわずか60センチほど。
世界におよそ30種いるウの仲間でただ1種飛ぶことができません。
というのも…ガラパゴス諸島には大型の肉食動物がこれまでやってきたことがありません。
飛んで逃げる必要がなかったのでこうした進化を遂げたと考えられているんです。
飛べない鳥はどんな暮らしをしているんでしょう?ごつごつした岩場を下りてきました。
ちょっと危なっかしいですね。
岩の裂け目をよいしょ!なんとか乗り越えました。
大きな足には立派な水かきがついています。
歩くのにはどう見ても不便そう。
でも水の中では事情が一変します。
ご覧下さい。
大きな足で力強く水を蹴って進んでいます。
まさに「水を得た魚」ならぬ「水を得たウ」です。
魚の群れには目もくれず一目散にどこかを目指して進んでいきます。
周りにはたくさんの魚たち。
さすがはガラパゴスの海ですね。
コバネウがやってきたのは海底です。
水深は10メートルほど。
岩の隙間を一つ一つのぞき込んでいます。
魚を探しているんです。
一見あまり魚がいないように見えますが岩の隙間は多くの魚の隠れがになっているんです。
1回の潜水時間は1分ほど。
水面で息継ぎをするとすぐに潜っていきます。
そしてまた海底へまっしぐら。
大きな足を駆使して自在に動き回ります。
首をぐぐっと突っ込んで魚を捕らえました。
水面まで上がって丸のみ。
これがホントの「鵜呑み」です。
ガラパゴスコバネウは1日100回以上も潜水を繰り返します。
獲物の量は体重の1/3。
1キロにも上るといいます。
鳥の中でも指折りの潜りの達人なんです。
いや〜さすがですな。
こりゃ人間の海女さんもかないませんぞ。
でしょヒゲじい。
うん。
でもちょっと待った!潜るのが得意なのはわかりましたがなんでわざわざ海底の魚ばっかり狙うんですか?途中にも魚はいっぱいいましたよ。
鋭いですね。
確かに群れで泳ぎ回っている魚はたくさんいますよね。
ですがコバネウはあえて相手にしないんです。
どうして?それはまずこちらご覧下さい。
お〜速い速い!ガラパゴスペンギンです。
逃げ回る魚の群れを猛スピードで追いかけて捕らえます。
うんお見事!そしてこちらはアオアシカツオドリです。
空中から…急降下。
勢いよく水中に飛び込んで魚を捕らえます。
ほほう!豪快ですな。
お〜!群れで泳ぎ回っている魚はとっても逃げ足が速いため捕まえるにはそれを上回るスピードが必要なんですね。
さすがのコバネウもそこまで速くは泳げないんですよ。
う〜んなんだ。
「潜りの達人」なんて言っても泳ぎはそれほどでもないんですな。
でもねヒゲじいコバネウを含むウの仲間にはあるずばぬけた特徴があるんですよ。
えっどんな特徴?それは浮力です。
ウの仲間は海鳥の中で最も浮力つまり水に浮く力が小さいんです。
ほう。
水に浮く力が小さいと何かいいことあるんですか?ありますよ。
まず浮力が小さいと海底まで楽に潜ることができます。
しかも体が浮き上がりにくいので獲物を探す時に複雑な動きがしやすいんですよ。
ほう。
ですから海底での狩りに関しては誰にも負けません。
は〜そうだったんだ。
こちらご覧下さい。
海底に潜むタコを見つけました。
うわこれは大物ですな。
鋭いくちばしで捕らえ丸のみです。
実は海底でこうしたすごい狩りができるのにはあの小さな羽も関係してるんですよ。
どういうこと?羽が小さくなって飛ぶことをやめたコバネウは空を飛ぶための筋肉を持つ必要がなくなりました。
その代わりに潜るのに欠かせない足の筋肉を発達させることができたんです。
なるほど!飛ばなくなった代わりに潜りの道をきわめたということですな。
潜りの達人への「進化」は海底でこそ「真価」を発揮する。
「もぐり」じゃな〜い。
こりゃ本物だ!岸の近くで泳ぐ2羽を見つけました。
寄り添うように泳いでいます。
この2羽はオスとメス。
恋の季節が始まったんです。
(鳴き声)互いに鳴き交わしながら気持ちを高めていきます。
(鳴き声)カップルが成立したようです。
固い絆でこれから始まる子育ての苦労を乗り越えていくんです。
第2章では夫婦のマイホームを脅かすやっかいな敵が出現。
そして生まれたヒナを襲う試練の数々。
空から迫る強敵。
小さな羽で果たしてヒナを守りきれるんでしょうか?独特な進化を遂げたガラパゴス諸島の生きものたち。
その進化の始まりは意外なところにあります。
それは火山です。
ガラパゴス諸島の海底には世界有数のマグマの噴き出し口があります。
地球の奥深くから大量のマグマが常に上昇し火山島を作ります。
火山島がのる海底面は1年に5センチずつ西から東に移動しています。
こうしてたくさんの島からなるガラパゴス諸島が出来上がったんです。
大陸から1,000キロも離れた島々にやがて生きものが定着し始めます。
空を飛んできたものや流木に乗って漂着したものたちです。
周りから隔離され肉食動物もいなかったためコバネウなど独特の生きものが進化してきました。
こうした生きものたちを支えたのが豊かな海です。
ガラパゴス諸島に流れ込む冷たい海流が島々にぶつかり湧き上がる時海の底から大量の栄養分を運びます。
それをもとに海藻やプランクトンそして魚たちが育つんです。
まるでニシキゴイのような模様をしたベラの仲間。
ヒレを足のように使って歩くガラパゴスバットフィッシュ。
海の生きものだけでも3,000種類に上ります。
今年5月ガラパゴス最大の島イザベラ島で新たな噴火が起こりました。
「進化の実験場」と呼ばれるガラパゴス諸島。
その壮大な実験は今も続いているんです。
7月半ば。
ガラパゴスコバネウのカップルです。
オスが海へ向かいます。
魚を捕まえに行くんでしょうか。
海藻の中を何か探しています。
あっ海藻をくわえました。
でも水面に上がっても食べようとしません。
一体どうするんでしょう?パートナーのメスに近づいて海藻を置きました。
実はこの海藻はメスへのプレゼント。
メスはオスがとってくる海藻で巣を作るんです。
こちらのオスが運んでいるのはなんとウニです。
これも食べるのではなく巣の材料にするんです。
ウニも使うとは驚きですね。
ところが…。
あれ?カニがやってきました。
ウニを食べています。
こっちでは海藻も。
カニにとってはウニも海藻もまたとないごちそうなんです。
カップルは必死に追い払いますが…キリがありません。
こんな調子でいつになったら巣は完成するんでしょう?巣作りでこれほど苦労をするのはコバネウの小さな羽に原因があります。
日本のカワウなどほかのウの仲間は空を飛んで巣の材料を探します。
木の枝などを集めて巣を作るんです。
しかしコバネウは飛び回って材料を集めることができません。
歩いて集めようにも巣の周りは溶岩だらけ。
草や木はほとんどありません。
ですからしかたなく海藻やウニなどに頼るしかないんです。
でも海藻にはもう一つ大きな問題があります。
海からとってきて数日もすると乾燥してカラカラに干からびてしまうんです。
そのため膨大な量が必要になります。
オスは2週間もの間巣と海をひたすら往復し続けなければならないんです。
そんなある日巣作りの大変さを実感する出来事が起きました。
2組の夫婦が大げんかをしています。
なんでこんなことになったのか30分前に戻って見てみましょう。
2組の夫婦は3メートルほど間を空けてそれぞれ巣作りをしていました。
その後片方の巣のメスが食事に出かけオスは留守番。
ところがオスは巣の材料を集めに出かけてしまいました。
すると隣の夫婦の1羽が留守になった巣に陣取ったんです。
さらに自分たちの巣の材料を運び込みあっという間に乗っ取ってしまいました。
10分後元いたオスが海藻をくわえて戻ってきました。
巣が乗っ取られたことに気付いてびっくり。
よほどショックだったのか大事な海藻を落としてしまいました。
こうして巣を乗っ取った夫婦と乗っ取られた夫婦が大げんかを始めたんです。
(鳴き声)両者激しい応酬です。
おや?乗っ取られたほうのオスが引き下がります。
勝負がついたようです。
決め手はこの一撃。
頭を直撃しています。
負けた夫婦はこつこつと作ってきた巣を諦めるしかありません。
飛ぶことのできない小さな羽がもたらす厳しい宿命。
ガラパゴスコバネウの陸での暮らしは苦労の連続なんです。
巣作りが始まって2週間後。
ようやく巣が出来上がってきました。
こちらの巣では…あっ卵です。
大きさはニワトリの卵と同じくらい。
大抵3つほど産みます。
夫婦は1〜2時間おきに交代して卵を温めます。
こうして1か月ほど卵を守るんです。
あっ卵にひびが入っています。
ヒナです。
親がくちばしを使い卵から出るのを手伝います。
2時間後ようやく出てきました。
大きさは5センチほど。
まだ目は閉じたままです。
体には羽毛も生えておらず皮膚がむき出し。
生まれた直後のヒナは最も弱い存在です。
直射日光に長く当たれば死んでしまいます。
親はひとときも巣を空けることはありません。
小さな翼と体を使って必死に日陰を作りヒナを守り続けます。
お昼過ぎ。
地表の温度は50度以上になります。
ヒナを守る親がのどをしきりに震わせています。
苦しそうですね。
素早く呼吸を繰り返すことで多くの空気を送り込み体を冷やしているんです。
厳しい暑さをしのぐ精いっぱいの工夫です。
片方の親がヒナを守っている間もう片方は得意の潜りで魚を思う存分捕らえます。
おなかいっぱい食べて戻ってきました。
ヒナは首を伸ばし食べ物をせがみます。
親はおなかに蓄えた魚を戻し与えます。
潜りの達人の技がヒナの成長を支えていきます。
誕生から1か月後。
ヒナは随分大きくなっています。
親の半分近くまで成長しました。
そんなある日のこと。
突然空から迫る大きな影。
グンカンドリです。
ヒナや卵を狙っているんです。
さらに恐ろしい敵も現れました。
ガラパゴスノスリです。
島で唯一のタカの仲間でどう猛なハンターです。
ノスリが近寄ってきました。
コバネウたちは一斉に威嚇。
(鳴き声)みんなで協力して敵を追い払おうとします。
それでもノスリは巣の間近までやってきました。
(鳴き声)夫婦は小さな羽を精いっぱい広げヒナを隠します。
ヒナがうずくまっています。
少しでも身を隠そうとしているんでしょうか。
ノスリを追い返そうと必死に威嚇を続ける親たち。
(鳴き声)その時です。
あっ危ない!一体何が起こったんでしょうか?ノスリが飛びかかった瞬間夫婦は鋭いくちばしを大きく開けかみつこうとしたんです。
あまりの気迫に圧倒されたのかノスリは去っていきました。
力を合わせ子どもを守った夫婦。
最大のピンチを乗り切りました。
海の上に狩りから帰ってきた父親がいます。
そこに子どもが近づいていきます。
生まれて3か月。
もう水に入れるようになりました。
父親が食べ物を与えます。
すると子どもから離れるように泳ぎます。
子どもが追いつくとまた食べ物を与えます。
泳ぎを教えているんです。
子どもは1年ほど父親のあとをついて回り泳ぎ方や獲物の探し方などを学んでいきます。
こうして潜りの達人へと成長していくんです。
絶海の孤島で独自の進化を遂げ命をつないできたガラパゴスコバネウ。
誰にも負けない潜りの技を頼りに厳しくも豊かな島を生き抜いていきます。
2015/11/08(日) 19:30〜20:00
NHK総合1・神戸
ダーウィンが来た!「ガラパゴスで大進化!潜りをきわめた鳥」[字]
潜りをきわめた鳥、ガラパゴスコバネウ。羽が小さく、ウの仲間で唯一飛ぶことができないが、水中では巧みに泳ぎ、魚を狩る。ふしぎな進化を遂げた鳥に水中と陸上から迫る。
詳細情報
番組内容
海女さん顔負け!巧みに海に潜り、魚やタコ、ウニなどを捕りまくる鳥がいる。絶滅危惧種のガラパゴスコバネウだ。羽が小さく、世界におよそ30種いるウの仲間で唯一飛ぶことができない。今回、取材班は世界初の長期密着!水中での華麗な泳ぎや狩りのワザ、そして陸上での苦労だらけの子育てに迫る。強い日ざしや怖い天敵から、小さな羽で必死にヒナを守る親鳥。果たしてヒナの運命は?ふしぎな進化を遂げた鳥の物語。歌:平原綾香
出演者
【語り】龍田直樹,豊嶋真千子,中山準之助
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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