江戸時代幕府の天領として栄えた商人の町。
白壁の蔵屋敷と豊かな水をたたえる倉敷川が時の流れを忘れさせる。
京都大原からやってきたベニシアさん。
実はここ倉敷はベニシアさんが来日まもない頃に暮らした町。
20代半ばで京都へ越してから思えば30年以上この地を訪れた事はなかった。
若かったあの頃日本語はまだまだでお金も無くこの道でアクセサリーを売っていた。
これもイヤリングですか?そう。
こちらがピアス。
ピアス。
う〜んこれちょっと面白い。
面白いですよ。
軽いし。
この形いくらですか?もういいや。
500円。
安い!私昔売ってたよ。
ああ…。
本当昔だけどね。
どのぐらい売ってるんですか?ここ長い長い。
いつから?あなたの後ぐらいから入ってきてるから。
へぇ〜。
こちらから京都に移られたんですよね。
そうそう。
知ってるの?うん知ってますよ。
そうなの?びっくり!倉敷あんまり変わってないけどきれいになったと思う。
そうですね。
全体的な景色は変わらないかもしれない。
ありがとう。
本当にありがとうございました。
今も昔も倉敷の象徴…独りぼっちで日本にやってきたベニシアさんにとってこの場所は生まれ育ったヨーロッパを感じさせてくれる所だった。
モネがすごく好き。
なんかすごく柔らかい感じが…。
花畑で草をとってドライして牛のために冬の間の食事に。
ちっちゃい女の子が居る…。
女の子かなぁ…?多分。
倉敷出身の資産家大原孫三郎は私財を投じて世界中から名画を集め日本中に誇れるものを倉敷にと大原美術館を設立した。
その画期的な思想が後に倉敷を国際的な名所にした。
ギュスターヴ・クールベはフランス人ですから恐らくこれは私が住んでいたジャージーの近くの西のフランスの海岸だけど。
結構秋の海はこういう感じ。
ヨーロッパは秋が早いものね。
9月になったらもう秋ですね。
1日は短いからちょっと暗い空が多いのね。
幼い頃フランスに近いジャージー島で暮らした思い出がよみがえる。
クラシカルな美術館が与えてくれた時間。
ベニシアさんは言う。
この町はずっと私の心のふるさとなの。
江戸の時代物資を運び倉敷の町の発展を支えた船。
長い時を経た今その風情が訪れる人を喜ばせる。
この船からの眺めはタイムトリップという心地よい錯覚を抱かせる。
「倉敷」という地名の正式な由来は謎だという。
けれどこの町に今も建ち並ぶ美しい家並みを見ると「蔵屋敷」が転じて「倉敷」と名付けられたという説は納得がいく。
江戸時代から残る伝統的な家屋は張瓦の模様もさまざま。
往時の文化の豊かさをしのばせる。
この地方に伝わる倉敷格子。
大きな親竪子の間に細く短い3本の竪子を使うのが習わし。
ここに暮らす人々は変わる事のない町並みを誇りに思いその伝統を大切に守り続けている。
蔦の美しい懐かしい喫茶店へ。
ベニシアさん旧友と待ち合わせをしていた。
あ!こんにちは…。
すごい。
なんか不思議な感じがするのね!
(竹内)お久しぶり!画家の竹内さんとはおよそ30年ぶりの再会。
当時まだ日本に慣れていなかったベニシアさんに親切にしてくれた。
元気ですか?ええ元気ですよ。
なんか久しぶりに来てるから。
あまり変わらないね。
竹内さんも全然変わってないわ。
髪の毛がちょっと…。
髪が白くなったけどね。
うん。
元気ですよ!23歳から2年間ほど岡山に暮らしたベニシアさん。
結婚し母親になったばかりだった。
旧家を借りて畑を作りながら近所づきあいもした。
ベニシアに会ったのが考えてみると1974年の夏に会ったと思うのね。
あの時私そんなに日本語しゃべれなかったから…。
そうそう。
だから僕もベニシアとねどんな話をしたかなぁって…。
アハハハ思い出せないんだけども。
でもいろんな人の話を聞いていたと思うのね。
何を話してんのかなぁとか想像して…。
うん。
ほんでだんだん日本語が出来たよね。
懐かしいよね。
うん懐かしいよね。
でもお金全然ないよあの時。
あの時期。
なんか英語の先生やってたんじゃなかった?うん。
やってたけどそんなにたくさんお金作れなかった。
すごくみんながいろいろな面でいろんな人に会ったけど皆それぞれ手伝ってくれた。
ああ。
最初何も持ってなかったから生活に必要なものをいろいろと持ってきてくれてなんかすごくみんな優しい。
岡山の人は優しいと思ったよね。
受け入れてくれると感じたね。
ベニシアさん竹内さんに特別な感謝の思いがある。
岡山から京都に移る前ひと月の間家族で竹内さんの家に居候させてもらったのだ。
家変わったじゃないですか?アハハハ!え〜なんか…。
少し広げようかなと。
サッシとかあまり好きじゃなかったからもう自分で作ってみようかと思ってそれなりにやってみた。
上の方覚えているけど。
ああ覚えているよね。
随分古い90年ぐらいの家です。
これ新しい部屋?うん。
1年半ぐらいかけてね少しずつ継ぎ足していってね。
あれは前の?そうそう。
昔の軒下をちょっと増築してという事でやりました。
これ覚えてますか?え?これはもしかして…。
ベニシアさんからもらった本箱ですね。
え〜。
私出て行った時みんなにあげたのかな?多分僕のところへいくつかの物が来ていろんな人がいろいろともらったと思うんだけども。
じゃああの時本当はみんなに家具まであげてるんだったらしばらくは帰ってこないと思ってたのね。
だろうね。
あれから30年。
本棚は大切に使われていた。
踏み締める床板がきしむ度懐かしい記憶がよみがえる。
京都に家を探す間ここで子供の面倒を見てくれた竹内さん。
日本人の思いやりに助けられた日々。
ベニシアさんはこの国で生きていこうと考え始めた。
ここで…。
僕は1か月と記憶しているんだけども?多分そのぐらいだったと思う。
あの…夏場来てたんだよね。
だから2人の子供が庭先の水道の所で子供用のプールに水を入れて水着着てから遊んでるところがね…。
覚えてんの?よく覚えてる。
近所の人も「へぇ〜珍しいなぁ」っていう感じで。
最近になって聞いても「よく覚えてる」って言ってた。
今も深く心に刻まれている事。
それは岡山で感じた人の優しさ。
山に囲まれた吉備中央町。
倉敷とはまた違う景色が広がる。
見渡す限り豊かな自然が残る町だ。
ジャージー島で暮らした幼い頃。
父の牧場ではつぶらな瞳の牛が飼われていた。
そしてベニシアさんは新鮮なチーズの味を覚えた。
この地にチーズを手づくりする家族がいると聞き立ち寄る事にした。
こんにちは。
は〜い!こんにちは。
こんにちは。
ここでチーズ作ってるんですね。
はい。
私ちょっと興味ある。
チーズが大好きで…。
牧場には小さな店が併設されていた。
作ってるのはここに並んでます。
ここにあるんですか。
はい。
きょうはだいたいそろってます。
ラクレット。
このままでもいいですが溶かして食べると特徴が出ます。
そうね。
溶かしてポテトの上に載せて食べる。
これは?オランダのチーズみたい。
これはねイタリアのチーズです。
これ知らない。
ちょっと独特な形をしていてここに紐ぶら下げてこの形にして乾燥させる。
ご主人が作ってるんですか?息子と一緒に作ってます。
何年ぐらいやってるんですか?チーズを作り始めてからは25〜26年だけどここへ来て牛を飼い始めたのは27〜28年かな。
見たことのないチーズに興味津々のベニシアさん。
山道を歩いて牧場へ。
あるじの吉田全作さんの案内で放牧されている牛を見せてもらう。
来ました来ました。
あれジャージーですよ。
本当だ。
会いに来たみたい。
挨拶しに来た。
フフフ。
ベニシアさん懐かしのジャージー牛が居た。
他にはこの地方の気候に合うブラウンスイスという牛。
全部で24頭だ。
これジャージーのララちゃん。
ララ?ララちゃん。
向こうはショコラ。
ちょっとシャイやね。
あ…すごい!結構広い所ね。
すごい眺めがいい山が。
ええ。
坂だから結構強いんじゃないみんなの脚。
強いですね。
しょうがないですよ。
うちは山を削って牧草地にしてるので。
へえ〜いいですね。
空気もいいし。
じゃあなんでこういう仕事を選んだの?僕は東京で5年間サラリーマンしていたんですけど。
生きている感じがしないのね。
ああそうですね。
なりそう。
仕事を含めた暮らしをしたかったんですよ。
それで始めたんですよこれを。
牛を飼って牛を飼えば乳が出て乳からチーズを作れるかなと思って。
まぁそれだけなんですけど。
すばらしい。
だからこれは仕事というより暮らしの一部なので僕の。
たぶんベニシアさんもそうだと思うんですけど。
吉田さんのチーズ作りは吉田さんの暮らしそのもの。
だから誠実に一生懸命生きている。
夜明けを待たずに吉田さんの一日は始まる。
朝夕の2回。
乳搾りの時だけ放牧された牛は牛舎に戻る。
おいしいチーズに欠かせない新鮮な牛乳。
乳搾りは牧場を始めた頃からの日課。
草刈りや乳搾りという地道な作業もその全てが吉田さんの暮らしの一部。
だから自分でやる。
放牧された牛から搾る乳は季節によって色や味が変わるという。
うちのは外で草を食べているので黄色っぽい。
春はもっと黄色い。
岡山で生まれ育ち北大の畜産科へ進んだ吉田さん。
当時は牛よりも探検部の活動に夢中だった。
その探検部で出会ったのが妻の千文さん。
東京で5年間サラリーマンとして働いたが自分で営む暮らしという実感がなかった。
そして地元の岡山へ戻り牧場を作った。
当時は日本国内にそういうチーズを作っている人が殆どいませんでしたから英文で書かれた分厚い本があってそれどおりにやって間違えてたらまた自分なりに工夫するというようなことを繰り返していました。
最初はヨーロッパのマネしようと思い一生懸命やっていたわけだから。
途中からこれはちょっと違うよなと思いだした。
チーズの歴史とか乳製品の歴史とか勉強したり現地へ行ってみたりそういうことを通してそこにはそこでしか出来ないチーズがありますよと。
ここで暮らしの一部として草を刈ったり牛を飼ったりということも含めて結果としてチーズ作りがあるということです。
ヨーロッパのチーズではなくて岡山県のここの土地のチーズなんですよ。
言ってみれば日本の食材なんですよね。
もうすぐ30年になる吉田家の牧場での暮らし。
東京で生まれた子供もたくましく育った。
チーズ作りは息子の原野さんと二人で。
わぁすごい!うん。
たくさんある。
今とったんですか?そう。
きょうの朝。
牛乳とか。
どうぞ。
う〜んおいしい!思ったよりアッサリしてるでしょ。
うん懐かしい。
今何のチーズを作ってるの?この2つがカチョカバッロというイタリアのもので。
珍しくない日本で?今は結構作ってますけど僕が作り始めた時は僕が最初に作りました。
カチョカバッロ?
(吉田)はい。
とれたての牛乳を湯せんにかけ攪拌する。
そこへ自家製の乳酸菌を加えて待つ。
30分ほど乳酸発酵させたらレンネットという酵素を加えて牛乳を固める。
専用の道具で細かく切ると水分と分離しチーズの原型が出来上がる。
あっすごい!おもしろい。
形になったのね。
あ…。
日本の樽。
ベニシアさんもそうだと思うけど仕事をしている現場じゃステンレスとか金属ばっかりとかプラスチックとかだとイヤでしょ?うんイヤ。
1つぐらい木があったほうがいいかなぁということもある。
保温性にも優れたお気に入りの桶に湯を入れ発酵の具合を見る。
カチョカバッロには適度な伸びが必要だ。
これ手で1つずつ?はい。
これがカチョカバッロの形の秘密。
伸ばして手に巻きつけたら外側だけを丸めるように包む。
こうすることで歯応えのある独特の食感になるという。
これすごくきれいになるね。
紐でやるの?紐でね。
こうやって…。
あまり結びすぎるとね切れる。
ちょうどいい。
直接紐でくくったら塩水に一晩つけておく。
冷蔵庫で1週間ほど熟成させれば完成。
吉田さんのチーズの特徴はどれもミルクの味が強く残っていること。
岡山の豊かな自然が育んだここにしかない日本のチーズだ。
リコッタというチーズを使ってベニシアさんとパンケーキを作る。
リコッタ入りのパンケーキ。
へぇ〜おいしそう。
不思議にふっくらとしたのが出来るので召し上がって下さい。
(千文)リコッタをざるでちょっとこします。
リコッタチーズをざるで細かくする。
それで卵を入れる?そう。
後は普通のパンケーキです。
この辺の卵ですか?これは九州の卵です。
すごく元気のいい卵です。
ねぇ色がいいのね。
卵に牛乳を加えます。
はい。
押さえましょうか?
(笑い声)卵黄に牛乳とリコッタチーズ。
薄力粉ベーキングパウダー塩を加え軽く混ぜる。
卵白はしっかりと泡立ててから加える。
(吉田)泡が壊れない程度に。
(千文)あとは焼きます。
(千文)ちっちゃい。
(吉田)この人あんまり形にはこだわらないほうだから。
吉田さんは不ぞろいな大きさが気になるようだ。
(吉田)どうせやるんだったらもうちょっと丸く…。
(千文)全作さん。
そうやったら…ふんわかするのを潰しちゃ駄目。
アハハハハ…。
吉田さんの庭のミントでベニシアさんがシロップを作る。
吉田さんの庭から採りました。
入れて煎じる。
(千文)全くのお水?はい。
水しかない。
煎じる時間は大体10〜20分。
人による。
どのくらい強くなってほしいか。
ブラックミントは10分で十分。
10分ほど煎じたらこして湯と同量の砂糖を入れる。
普通私はブラウンシュガーばっかりだけどシロップを作る時はきれいな薄いグリーンがいいから白い砂糖を使うの。
オッケー。
リコッタチーズのパンケーキが完成!チーズのかすかな酸味とミントシロップの爽やかな甘みがよく似合う。
なんかありがとう。
本当にきょういろいろ教えてくれて。
いいえ。
じゃあこのパンケーキ食べてみましょうか。
息子の原野さんもこのパンケーキは大好きという。
うん。
チーズがおいしいよね。
すごくおいしい!チーズの味は後で少し出てくるね。
最初はパンケーキで後はチーズが…。
おいしい。
ミントの香りが…。
(千文)ミントが効いてるねシロップの。
きょう作ったカチョカバッロはこれです。
う〜ん。
もらいます。
ほのかな塩気とミルクの甘みがカチョカバッロの特徴だ。
う〜ん。
これすごく軽いね。
食べやすいのね。
これはイタリア料理でどういうふうに使ってるの?フライパンで焼いて食べてますね。
焼いて溶かしてその上にハーブか何か載せるの?コショウをかけて食べたり。
コショウ。
ふ〜ん。
それもおいしいのね。
家族でおいしいチーズを作りながらすごく理想の生活をしてるのかな。
でもすごい労力…。
時間がかかったと思うのね。
分かります。
こういうことをやる時一日でパッと出来るものではない。
出来ないですよ。
ゆっくりでしょ?チーズを作って良いチーズを見つけたという喜びもあるし。
また来たいと思います。
どうぞ。
いらして下さい。
おいしいチーズと豊かな暮らし。
30年ぶりの岡山で見つけた新しい魅力。
ベニシアさんにとって日本での暮らしの原点となった岡山。
この国で生きていこうと決めた理由を思い出すことができた。
日々の暮らしを大切にすることこそが生きる喜びなのだ。
2015/11/08(日) 18:00〜18:30
NHKEテレ1大阪
猫のしっぽ カエルの手・選「思い出の地へ〜岡山県〜」[字]
ベニシアさん、思い出の地、岡山県を訪れる。昔暮らしていた倉敷では旧友の竹内伸明さんと30年ぶりの再会。吉備中央町ではチーズ農家・吉田さん宅を訪れ、作業見学する。
詳細情報
番組内容
ベニシアさん、思い出の地、岡山県を訪れる。昔暮らしていた倉敷では、旧友の竹内伸明さんと30年ぶりに再会。京都に引っ越す前にお世話になった竹内さんの家はほぼ当時のままだった。吉備中央町ではチーズ農家の吉田全作さん宅を訪れ、チーズ作りの様子を見学。チーズ作りの全てを吉田さんと家族で行なっている。ベニシアさん、この土地にしかない手作りチーズを味わい感激。吉田さん夫婦と一緒にチーズを使ったパンケーキを作る
出演者
【出演】ベニシア・スタンリー・スミス,【語り】山崎樹範
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 園芸・ペット・手芸
情報/ワイドショー – 暮らし・住まい
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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