生糸を作る女たちの気持ちをどうか…。
責任を取る。
うっ!こら!ランプが飾られレトロな雰囲気漂う北海道小樽駅。
降り立ったのは豊田エリーさん。
年間700万人の観光客が訪れる小樽。
明治大正の面影を残す町並みが旅心を誘います。
こちらの古い倉庫も人気スポットの一つ。
なぜかというと…。
わ〜中もステキ!実はガラス専門店。
3万点もの製品が並びますがなんと一つ一つが手作り!小樽みやげの定番です。
豊田さんのお目当ては…。
あ…ありましたよ。
かわいい!しょうゆさしいっぱい!こんないっぱい種類があるなんて。
これ全部しょうゆさしなんです。
色も形もさまざま。
150種類とバリエーションも豊富です。
きょうのイッピンは小樽で作られたガラスのしょうゆさし。
きらめく光が魅力的。
さらに人気の秘密が。
あれっ?あすごい。
すっと止まる。
注いだ時液だれせずに戻るこのキレの良さ!美しくて便利。
きょうは生活を豊かに演出する小樽のガラスの魅力に迫ります。
北海道西部の港町小樽。
50軒以上のガラス専門店や工房が集まる手作りガラスの日本有数の産地です。
早速しょうゆさしを作っている工場へ向かいました。
この工場では一日に600個のしょうゆさしを手作りで生産しています。
こんにちは。
こんにちは。
はじめまして。
よろしくお願いします。
はい。
本日は作るものっていうのはこういう形のしょうゆさしを作ります。
きれいですね。
いいですか?この日作るのはこちらのしょうゆさし。
持ちやすい形が人気の定番商品です。
担当するのは4人の職人たち。
それぞれが配置につき分担して作業をします。
さぁ見せて頂きましょう。
最初の段階なんですけどこれが「玉」っていう工程なんです。
山田さんが担当するのは「玉取り」。
ドロドロに溶けた1200度のガラスを吹き竿に巻き取り玉にする作業です。
顔が焼けそうですねフフフフ。
手の感覚だけで毎回同じ量を取り同じ大きさにしていきます。
次の担当者が作業しやすいようにするためです。
山田さんが作った玉を受け取りにきたのは…さらにガラスを巻き取っておおよその形を作っていきます。
「リン」と呼ばれる鉄製のおわんで丸みをつけ息を吹き入れ膨らませます。
そしてくびれを素早く付けたら金型に入れるんです。
「型吹き」という技法。
型の中で見えないガラスを感覚だけを頼りに的確に膨らませていく高度なワザです。
この難しい工程をもう一人のベテラン根井さんと交互に担当します。
型は足元よりも低い位置にありますがそれには理由があります。
下からこうやって吹いていくのねガラスって。
型は水でぬらしてあります。
そのため高熱のガラスを入れると水蒸気が発生します。
この水蒸気を外に逃がしながら下から膨らませると型に沿って均等な厚みに仕上がるんです。
逆に上を先に膨らませると行き場を失った水蒸気がガラスを圧迫し破壊してしまいます。
こうやって見てほら水蒸気出てるでしょ。
出てますね。
うまいか下手かっていうのはあの水蒸気が上にはい。
上がってきているでしょ。
今水蒸気が上に出ていくから空気がたまらないの。
へぇ〜。
空気を入れる勢いや量。
そして竿の回し方。
巧みに調整しながら作っていきます。
この工場では金型を変える事で300種類ものしょうゆさしを作ります手作りによって機械では難しい多品種生産を実現しているのです。
しょうゆさしの形になったものは最後に平野さんのもとへ。
木のコテで底を整えた後炉に運び入れます。
ここで6時間かけてゆっくりと冷ましていきます。
ガラス作りは時間との勝負。
ガラスは溶解炉から出すとみるみる冷めていき1分ほどで固くなってしまいます。
吹き担当の職人は複雑な作業をなんと1分以内でやり終えていたのです。
熱いガラスを扱う危険と隣り合わせの現場。
でも皆巧みにかわしながら作業を滞りなく続けていきます。
1日600個のしょうゆさしを作り出す職人たちの無駄のない動き。
よく見ると声もかけずに黙々と作業していますが。
息合わせてるっていうかもう一人一人動き見ながらやってますよねみんながみんな。
やってやって体に覚えさせるしかないです。
冷ましたしょうゆさしは口の部分をカットします。
断面を滑らかにしもう一度焼いて丈夫にします。
こうして出来上がり?いえいえまだまだ完成ではありません。
出来たしょうゆさしで注いでみると…。
瓶に沿って液だれしてしまいます。
でもフタがあると…垂れずに戻ります。
ポイントはフタの裏に付けた溝。
しょうゆを外に導くだけでなく中に戻す誘導路なんです。
ご覧のとおりしょうゆは溝を通って垂れる事なく戻っています。
さらにフタがあっているかも重要。
ぴったりでないときれいに注げず液だれを引き起こす原因になります。
この「ぴったり」を実現するのも職人の手です。
こんにちは。
お話伺っても大丈夫ですか?はい大丈夫です。
フタを取り付ける作業を担当しているのが茅生さん。
そうですよね。
一つ一つこんなに丁寧に作られてたら…。
手作りのしょうゆさしの口。
一見同じ大きさに見えますがそれぞれ僅かに違います。
合わせるフタは4つのサイズの規格品。
口より少しだけ大きい物を選んで…フタがぴったり合うよう口の内側を削っていくのです。
一瞬の判断で一応見てすり合わせしていきます。
そこで削ってるんですね。
そうです。
摩擦の熱を水で冷ましながら口の内側を削っていく「すり合わせ」という作業。
茅生さんはコンマ1ミリの精度で削っていきます。
栓はカタカタしちゃいけないですしかといってすぐ抜けてもいけないんで。
そうだ傾けなきゃいけないし。
落ちないように。
あびっくりした!正確にしかも素早く。
茅生さんは1時間に100個すり合わせするんだそう。
あ〜!大丈夫でした。
本当気持ちいい。
ピタッと止まる感じが。
多くの工程があるしょうゆさし。
職人がそれぞれ持てるワザをつぎ込んだチームワークのイッピンでした。
歴史的建造物が残る小樽。
明治には貿易港として栄え北海道経済の中心的役割を果たしていました。
その頃ランプの火屋や瓶の製造が始まります。
さらに小樽のガラス産業を飛躍的に発展させたのがガラス製の浮き玉。
魚を取る網を浮かせる道具です。
明治43年に初めてガラス製の浮き玉を作った工場を受け継ぐ4代目です。
明治の終わりから大正期にかけニシン漁と北洋漁業が盛んになり浮き玉の需要が高まりました。
戦後とかのまだまだ日本北海道の漁業が盛んだった頃は浮き玉なんかそれこそ作っても作っても足りないぐらいで。
刺し網で使うような小さい玉なんかだと1日1500個とかそんなような感じですね。
淺原さんは今もガラスの浮き玉を作るただ一人の職人。
小樽のガラスの歴史を守り続けています。
目抜き通りにあるすし屋さん。
(大将)こちらへどうぞ!こんにちは。
いらっしゃいませ。
ガラスの町小樽ならではのやり方でお客をもてなしてくれるそうなんですが…。
どうぞ。
わ〜!申し訳ありません。
いいですよ。
ありがとうございます。
きれい!どうぞ。
ガラスのすし下駄。
海の幸がおいしそう!それもそのはず。
小樽の海をイメージしたんだそう。
どうしてガラスの器でおすしを出そうと思ったんですか最初。
この辺がだいたいガラス屋さんが多いんでそれでガラスを使おうと思って。
はい。
全部1枚ずつオーダーで作ってもらって。
そうなんですね!全部がそうです。
じゃあこういうのがいいとか。
はい。
店の器のほとんどがオーダーメイドのガラス。
料理が映えしかも一つ一つに豊かな個性が宿っています。
どんなワザによって作られたんでしょうか?きれい。
やっぱりオーダーメイドじゃないと手に入らないですね。
オーダーメイドのガラスの工房を訪ねました。
わ…いろいろ飾ってある。
あ!こんにちは。
こんにちは!こんにちは。
淺原千代治さん。
創作ガラスの第一人者です。
こんにちは。
はじめまして。
こんにちは。
35年前大阪から小樽にやってきました。
先ほどおすし屋さんですし下駄を見させてもらって。
おもしろいでしょ。
おもしろいですね。
小樽の海のね砕け散る泡とか波とかいろんなものを表現できたらええなぁと思ってね。
それでちょっと色を小樽のブルーは海の青さと空の青さとそんなんがこう…。
っていうイメージ。
淺原さんは一貫して一つの技法で制作を続けてきました。
それは「宙吹き」。
型を使う事なくガラスを吹きさまざまな形を作り上げます。
中でもすし下駄のような平たい皿には熟練のワザが必要なんだそうです。
淺原さんは長さ1.3メートルのステンレス製の吹き竿を操っていきます。
形を整えるのは「紙リン」と呼ばれる湿った新聞紙。
作業は素手でやられているんですね。
僕ら「手袋なんかするな」って怒られてね。
「感覚が分からへんやろう」ってよく怒られましたわ。
ガラスは生き物。
常に対話をしなければならないという淺原さん。
常に状態を見極め最もふさわしいやり方を選択します。
竿を上に向けました。
すると…。
あ…平べったくなった。
重力を利用して潰しました。
そして足をつけ底の部分は完成。
ここからいよいよ仕上げです。
熱して柔らかくしてはさまざまな道具を使って平らにしていきます。
わ〜すごい。
だいぶえ〜一気に!柔らかくなったガラスをすばやく回転させながら木のコテで押さえつけます。
さっきまで器だったのに。
こうして最初は丸かったガラスの玉から平らな皿が出来ました!ガラスを知り尽くした熟練のワザが光ります。
こんなの出来ますか?なんやこれ?フフフフ。
豊田さんもオーダーする事に。
淺原さんと相談しながら形を決めていきます。
これとこれの間ぐらいの。
それは出来るわ。
出来ます?決定したのがこのデザイン。
花のようなヒラヒラした縁の部分が特徴です。
次はどんなワザで形にしていくんでしょうか?おおまかに全体を形作ったら熱し直して縁の部分に取りかかります。
ヒラヒラするよう金属の棒でへこみをつけていきます。
(淺原)一気でなくて2回。
もう一回やって。
厳しさを増す表情。
完成の時が近づいてきていました。
相手は刻々と姿・形を変える生き物。
炉の温度や火の回り具合を見極め竿を微調整しながら理想の形に近づけていきます。
わ〜きれい。
炎の中から取り出しました。
もっと?きれいですすご〜い。
かわいい!今でこんな感じ。
すてき!よろしい?はい。
かわいい!あの絵よりずっとかわいい!お花みたい。
自在にガラスを操るワザから生まれたこの世に一つだけの形です。
淺原さんが35年前小樽に移り住んだのはガラス作家のユートピアを作りたいという思いからでした。
小樽の町は運河があって山があって坂があって歴史のある街でやはり文化の香りがするしとてもものづくりをするにはいいと。
全国から弟子を引き受け惜しみなくワザを伝えた淺原さん。
やがて小樽は若い作家が目指すべき場所となり今では多くのガラス工房が開かれています。
虹色の輝き。
ポップなデザイン。
今女性に人気の器があります。
作ったのは小樽の若手作家です。
あ〜。
すごい!え!ハートの香水瓶かな。
あ…。
(職人)こんにちは。
え?こんなに若くてきれいな。
大阪出身で5年前小樽に工房を開きました。
肉体労働のイメージで…。
はい。
形も一個一個違うのがね選ぶ楽しさがありますね。
ありがとうございます。
このコップすごいカラフルですけど何色も使っているんじゃないですか?何色も使ってますね。
たくさんの色を入れた方がなんかキラキラってなってガラスの良さがもっと生きるかなと思って。
確かに。
この色合いってガラスだけのものですよね。
工房におじゃましました。
かわいいカラフルな工房も。
これはなんかロウソクみたいに見えるけど。
これが色ガラスのもとになります。
へぇ〜!ガラスに色を付ける。
いわば絵の具がこの色ガラスです。
それぞれ特徴があって一律には扱えないんだそうです。
ブルーだとすごく柔らかくなりやすかったりとか暖色系だとちょっと固くなってしまったりとか。
そうなんですね。
色の違いは含まれる金属酸化物によって生まれます。
銅やコバルトの入った寒色系は熱した時より膨らむんだそう。
寒色系の青と暖色系のオレンジで比べてみました。
同じ量の色ガラスを玉につけ吹いてみます。
この微妙な差だけど。
ブルーがすごく…。
ブルーの方が柔らかく広がって。
冷めるとその差は一目瞭然。
青はより大きく膨らんで色も薄くなっています。
吹いてる時も色の違いとか感じますか?そうですね。
こっちが膨らんでるなみたいな感じでちょっとこう傾きを変えたりとか。
おもしろい。
ではたくさんの色を使う場合にはどうするんでしょうか。
10色のグラス作り。
それは膨らみ方の異なる色をいかにコントロールするかの勝負です。
炉の中のガラスは色の違いが若干わかりますが外に出してしまうと全く同じにしか見えません。
でも木村さんは…。
なんとなくここは何色だなってオレンジの発色の違いで分かるので。
このオレンジ色の微妙な濃淡の違いを見分けガラスの色を判別していたんです。
こっちの方が色は薄いので。
こっちの部分だけを冷ましてフッて息入れるっていう…。
温度が高く伸びやすくなった部分を見極めて冷まし均一に吹く事ができるようにします。
ピンポイントで冷ます時は空気を吹きかけます。
するとここと横が均一に膨らんで。
かわいい!丸っこい。
ガラスの中に封じ込められた虹色の世界。
まるで魔法使いのワザです。
ガラスの作品を作る時はどんな思いを込めて作ってるんですか?そうですね。
私はカラフルなものが好きだったりするので見て下さった方に元気が。
これ見て元気になれたよって気持ちを抱いていただけたらすごくうれしいなぁとは思いますね。
家にあるだけで絶対幸せな気持ちになりますよ。
そうだったらいいです。
フフフ。
炎と向き合いながら新たな色と形を生み出す小樽の職人たち。
ひとつひとつ命を吹き込まれたガラスがこれからも人々の生活に彩りを添えていきます。
2015/11/08(日) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
イッピン選「きらめくガラスに 命を吹き込む〜北海道 小樽のガラス〜」[字]
北海道小樽市は日本有数の手作りガラス生産地。大好評の“液だれしにくい”しょう油さしや、カラフルでかわいいグラスなど、自在に命を吹き込む職人技を豊田エリーが紹介。
詳細情報
番組内容
北海道小樽市は、日本有数の手作りガラスの生産地。小樽のガラス製しょう油さしは、美しく、しかも“液だれしにくい”と大人気だ。実はこれ、高度なワザを持つ職人たちの一糸乱れぬチームワークによって作り出されたもの。さらに、「宙吹き」と呼ばれる技法によってどんな形も創造する熟練のワザ、魔法使いのように多彩な色を操るワザなど、一つ一つの器を、命を吹き込むようにして作っていく不思議と美に、豊田エリーが迫る。
出演者
【リポーター】豊田エリー,【語り】平野義和
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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