サイエンスZERO・選「眠りのミステリー 睡眠研究最前線!」 2015.11.08


人生のおよそ1/3を眠って過ごす私たち。
人は…眠気はどこから訪れるのか?こんなに身近な睡眠という現象が実は科学的にはほとんど解明されていません。
しかし今ある物質の発見をきっかけに睡眠研究が飛躍的に進んでいます。
それは睡眠と覚醒を調節する重要な物質。
眠りの謎を解く糸口となり世界を驚かせました。
この物質の働きに注目した次世代の睡眠薬も誕生。
不眠症治療の切り札になると期待されています。
更に遺伝子レベルでの研究も進み眠りの正体に近づきつつあります。
今日は知ってそうで知らない眠りの森の深〜い世界へご案内します。
今日のテーマは「睡眠」ですか。
このスタジオにもちょっと気持ちよさそうに寝てる子がいるんですけど。
何か僕の夢みたいですけども。
本当ですか。
でも睡眠ってすごく身近だけどメカニズムって全然知らないかもしれない。
ちなみに奈央ちゃんは一日どれぐらい寝ますか?大体5〜6時間ですかね。
あ〜そうですか。
人間は大体7時間ぐらい寝るといわれてるんですよ。
じゃあほかの哺乳類はどうかというとですねキリンはどうでしょう?キリンって動物園とかで見ても寝てるイメージってないんですよね。
ですよね。
だから3〜4時間ぐらい?いい線いってますね。
2〜3時間ぐらいです。
短いんですね。
キリンは体が大きいので起き続けてたくさん食べないといけないんですよ。
そうなんですか。
はい。
次は水中の哺乳類であるイルカの仲間。
ほう。
あっ。
ほらこれ左目は…。
あれっつぶってますね。
そうですね。
何かあくびなのかな。
ところが右目は…。
開いてる!そうなんですよ。
え〜!これは片方の目を開けて片方の脳が起きてる。
もう片方の目をつむって脳の半分は眠ってるんですよ。
これを半球睡眠っていうんです。
え〜!器用ですね。
そんな事できるんだ。
どうしてかというとイルカは哺乳類なので呼吸が必要なんです。
ほう。
なので半分寝ながら水面に出て息継ぎをするんですよ。
へえ〜面白い。
知りませんでした。
でもそうやってどんな動物でも睡眠っていうのは欠かせないものなんですね。
そんな睡眠ですがこれまでメカニズムがほとんど解明されてなかったんですね。
ところがある日本人研究者の世界的な発見がその謎の解明をぐっと手繰り寄せたんですよ。
世界中から一流の研究者が集まる睡眠に特化した研究施設です。
生物や化学薬学までフル動員で睡眠の謎の解明に挑んでいます。
100人もの研究者たちを束ねるリーダーがこの人。
睡眠研究の世界的権威…イッツジャストマターオブ…。
窓ガラスまでもアイデアボードに使いながら睡眠の謎と20年近く闘い続けています。
そのブラックボックスをこじあける鍵となったのが柳沢さんが1998年に発見したある物質です。
オレキシンとはドーパミンなどと同じ脳内に信号を伝える神経伝達物質です。
このオレキシンが睡眠に深く関わっている事が分かったのです。
その仕組みです。
オレキシンが分泌されるのは脳の視床下部と呼ばれるこの部分。
それを細胞レベルまで拡大してみると…。
神経細胞から分泌されたオレキシンは「起きろ!」という覚醒の信号を出します。
その受け皿であるオレキシン受容体にはまる事で初めて覚醒の信号が伝わります。
いわば鍵と鍵穴の関係です。
脳には覚醒をつかさどる覚醒中枢と睡眠をつかさどる睡眠中枢があります。
オレキシンの分泌が高まると覚醒中枢が活性化。
すると覚醒物質が脳全体に広がり覚醒状態が作られます。
一方オレキシンの分泌が足りないと覚醒中枢の働きが抑えられ睡眠中枢の働きが強まります。
これにより眠りが誘導されるのです。
オレキシンの分泌が多いと覚醒。
少ないと睡眠。
このシーソーの傾きを決める大本の物質がオレキシンだったのです。
え〜オレキシンという物質によって起きたり寝たりのスイッチが入ってたんですね。
そうなんですね。
それでは早速オレキシンの発見者筑波大学教授の柳沢正史さんに伺いましょう。
素朴な疑問なんですがどうして人は眠るんでしょうか?人に限らず全ての動物が眠ります。
眠らなければいけないんですけれども。
実は満足のいく回答がまだいまだに得られていないんですね。
睡眠っていうのは進化論的に言えばものすごくリスキーな状態です。
睡眠中というのは唯一我々が健康な状態で意識がなくなる訳ですから当然生産的な事は何一つできないですしそれからいろいろな危険や外敵から身を守る事もままならない訳で。
そのリスクを補って余りあるだけの何か利点がなきゃいけないんですけどもそれが説得力のある説明がいまだにできてないんですね。
そんな謎だらけだったんですね。
そうなんです。
でもそんな分からない事ばっかなのにどうしてオレキシンという物質発見できたんですか?これは実は私たち…睡眠に行き着いたんですね。
ところがオレキシンを作る神経細胞はこの脳の奥深くの視床下部という所の脳の中でも本能的な部分ですね。
それを担う重要な部位とされているので食欲体重だけではなくて何かほかにも非常に大事な事をやってるんではないかっていう思いがあったんですね。
そこでこのオレキシンを作れなくしたマウスこれを作ってその食行動や体重の変化も含めいろんな事を観察していくうちに非常に意外な事に…へえ〜。
こちらのビデオご覧下さい。
このマウス今盛んに行動しています。
明らかに起きていますね。
ところがこのマウス頭が床に落ちて突然眠ってしまうんですね。
これは慣れてる目で見ると明らかに異常です。
仲間が来て横から蹴っ飛ばして。
そうですね起きない。
突然また起きるっていう。
突然起きた。
へえ〜。
そのあと調べてみると人間のナルコレプシーという病気があります。
これは…そのナルコレプシーという病気と全く同じ症状がこのマウスに出ているんだという事に気が付いたんですね。
それがきっかけで逆に…それにしても最初は食欲に関係する物質と思っていたのに実際は睡眠と関係してったって何か非常に面白いですね。
実は私座右の銘がありましてね…それをもじって…これは実は私の自戒の句でもありましてね。
本当ですね。
睡眠と覚醒に密接に関わるオレキシン。
その働き方を更に詳細に解明した研究者がいます。
研究成果を上げた時の学生との乾杯が楽しみ…山中さんはこの研究にノーベル賞候補と呼び声高い最先端の技術を駆使しました。
それは…。
どちらにしても…光と遺伝学?一体どういう技術なのでしょう?まずマウスの神経細胞に光によって反応する特殊なタンパク質を組み込みます。
その神経細胞にオレンジ色の光を当てます。
すると細胞の中にマイナスのイオンが流れ込み神経細胞の活動が抑えられる仕組みです。
山中さんはこの技術でオレキシンを分泌するオレキシン神経細胞の働きを調べようと考えたのです。
光ファイバーをマウスの脳につなぎオレンジ色の光のオンとオフでオレキシン神経細胞の活動をコントロールします。
これは光がオフの状態。
オレキシン神経細胞の活動は抑えられていないためマウスは覚醒状態です。
そこにオレンジの光をつけてオレキシン神経細胞の活動を抑えます。
すると筋肉の活動を示す筋電図の動きが弱まり数秒後には眠ってしまいました。
逆に光を消すと…。
オレキシン細胞の活動が再開。
マウスは直ちに目覚めました。
オレキシンが出る出ないであんなに睡眠の状態がすぐ変化するっていうのは驚きですね。
このオプトジェネティクスの手法によって…オレキシン神経細胞を抑制してやるともう秒の単位でそれまで起きていたマウスが眠ってしまう。
だからもう本当に秒単位の直接の因果関係があるという事が非常に強力な形でこういう実験によって証明できる訳です。
ほう〜。
でもここまでオレキシンが睡眠とか覚醒に大きく関わってって分かったって事はもう薬とかにも応用できるんじゃないですかね。
寝つきが悪い。
夜中に何度も目が覚める。
不眠症状を訴える人が5人に1人もいるといわれる日本。
去年次世代の睡眠薬がオレキシンの研究から誕生しました。
スボレキサントという化合物で出来た新たな睡眠薬。
一体何が従来の薬と違うのでしょう。
一方の新薬はというと…。
青い玉がスボレキサントです。
これがオレキシンが入るはずの受容体を塞ぎ鍵穴をブロック。
オレキシンによる覚醒の信号が伝わらないようにします。
そのため自然な眠りが促されるといいます。
一方これまで特効薬がなかった…柳沢さんは創薬の専門家長瀬博さんと共同で薬作りに挑んでいます。
きっかけは製薬企業に薬の開発を依頼した時の苦い経験でした。
結論を言ってしまうと…ナルコレプシーの患者は日本でも10万人ほどいるとされます。
強烈な眠気や急な脱力による事故を防ぐためにも治療薬が望まれていました。
そのため覚醒状態をキープできません。
そこで長瀬さんたちはオレキシンの代役を作る事にしました。
オレキシン受容体にぴったりとはまりオレキシンと同様に覚醒の信号を出せる物質を作り出そうというのです。
まずは25万個の化合物から代役候補をリストアップ。
そこに共通する構造を手がかりに2,000個の薬を作ってみました。
そこには長瀬さん特有の力が働いたようで…。
4年間勘ピューターをフル活動しついにオレキシンの代役となる化合物にたどりつきました。
今年9月。
新薬のプロトタイプが完成しました。
オレキシンをコントロールする事で睡眠をコントロールできる時代がもうすぐやって来るかもしれません。
スタジオも変わって更に神経細胞まで来たようなんですけどオレキシンが降り注いでますね。
ですね。
こうして見てくるとオレキシンの発見が創薬にまで結び付いてもう睡眠と覚醒の謎はかなり解明されたように思いますね。
私たちも最初はそう思ってたんですよ。
オレキシンを発見してこれをきっかけに芋づる式に睡眠覚醒の謎が全部解けちゃうんじゃないかってものすごい最初期待したんですけれども実はそうは問屋が卸さなくて。
ああそうなんですか。
こちらのちょっと図を見て頂きたいんですけど。
我々の脳の中には脳全体を覚醒に傾けたり睡眠に傾けたりするスイッチ神経回路があるという事は分かったんですけども。
じゃあそのスイッチを押す指が何かというとそれが実はまだ何も分かっていない訳なんです。
へえ〜。
いくつかキーワードを出しますけれども。
今眠気とか体内時計とかキーワードが出てきましたけれども例えばこの眠気って脳の中で実際どのように表現されてるのかって実は何も分かってないんです。
え〜。
もう一つはその睡眠の質というものもあって。
例えば睡眠の中にもノンレム睡眠レム睡眠っていう言葉を聞いた事あると思うんですが人の場合はノンレム睡眠レム睡眠を一晩の間に5〜6回ぐらい繰り返す事によって健康な睡眠が維持される訳なんですけれども。
そういう睡眠の質の調節とか睡眠量の調節そういったものは実は何も分かっていない。
へえ〜。
それらのいろいろなキーワードをやはり最終的に規定してるのは遺伝子なんですよ。
全てのものはやはり遺伝子によってある一定度は少なくとも規定されていると考えられる訳ですね。
そういうものが複雑に絡み合って最終的な調節が起こっているんだというのが「絵に描いたような餅」なんですけれども。
それを実際に解明したいですね。
柳沢さんは睡眠の大本に関わる遺伝子を探すという世界初のプロジェクトを立ち上げました。
その秘密の部屋がこちら。
7,000匹のマウスから睡眠に異常のあるマウスを見つけその症状の原因となる遺伝子を探すという途方もない試みです。
柳沢さんたちは4年間毎日マウスの脳波や筋電図を精密に記録。
睡眠に異常のあるマウスを探しました。
実験を始めて2年目の事。
ついに睡眠に異常を来すマウスを発見しました。
普通のマウスに比べ少しぽっちゃり系。
えっ?結構大きい。
その名も…名前の由来は眠る量にあります。
普通のマウスの睡眠量は10時間程度ですがスリーピーはなんとその1.5倍も寝るんです!重度な過眠症のスリーピー。
詳しく調べたところ原因となる遺伝子を突き止める事に成功しました。
人にも同じ遺伝子があるため人の睡眠量を決める鍵になるかもしれないと現在も研究を深めています。
遺伝によって睡眠時間が分かる可能性もあるっていうのちょっと自分の睡眠時間知りたいですね。
そうすれば自分で目覚ましねきっちりセットできますよね。
でもこれで更に研究が進めば睡眠の謎の解明にもつながりそうですね。
そうですね。
例えばだからこのスリーピーという家系は明らかにもう遺伝的に一日の睡眠量が多い訳で。
逆に言えば一日の睡眠量を規定するメカニズム。
そこに迫れる可能性がある訳ですよね。
だからひいてはやはりこの根源的な睡眠がどうやって調節されてるかというそういう大きな疑問に迫れるんじゃないかというふうに皮算用しています。
こうした眠りに関わる遺伝子のうちもう役割が分かってる遺伝子があります。
それがこの体内時計の上流にある時計遺伝子ですね。
時計遺伝子って何ですか?私たちの体には…この時計遺伝子に注目して睡眠を改善しようという新たな医療技術が開発されつつあるんです。
リーダーの三島和夫さんを中心に時計遺伝子と体内時計の関係について先駆的な成果を出しています。
これまで一人一人の体内時計の差が寝起きのタイミングや睡眠障害にまで影響する事を明らかにしてきました。
時計遺伝子は睡眠と覚醒の周期だけでなくホルモン分泌や心拍数までも決めています。
三島さんたちはこの時計遺伝子から体内時計の周期を簡単に測る手法を開発したのです。
必要なのは僅かな皮膚細胞だけ。
そこに蛍が持つ特殊な光る遺伝子を入れます。
すると時計遺伝子の影響下で光る遺伝子が発光します。
この時計遺伝子が光る量をはかる事で体内時計の周期を導けるのです。
オーダーメード医療か〜。
何か自分が何時に寝れば快眠できるのかとか知れたらすごい助かりますね。
将来こういう研究がもっと進めばそういう一人一人の体内時計の個性に合わせた診断や治療医療が可能になる可能性があるという事です。
体内時計とかって年齢によって変わってったりもするんですか?そうなんですこれ結構有名な話で。
そういう結果を出してる学校もたくさんあって。
いいな〜。
高校生朝早く起こしちゃ駄目です。
という事は小学生だったらば朝早くてもいいんですね。
でも中高の場合はむしろ朝ちょっと1時間遅くすると。
遅い方が生物学的にはフィットだと思いますね。
へえ〜面白い。
今後の研究の目標は何でしょう?睡眠障害に関連したいろいろな病気ってたくさんありますので。
メタボ症候群なんかもその一つですしいろいろなうつ病とかそういう脳の疾患こういったものは睡眠障害と非常に強く結び付いてますのでそういったもののより新しい診断治療健やかな眠りを皆さんに届けるそこまで行けたら本望ですね。
柳沢さん今日はどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに。
2015/11/08(日) 01:15〜01:45
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO・選「眠りのミステリー 睡眠研究最前線!」[字]

脳科学における最大のミステリーと言われる“睡眠”。しかし、ある物質の発見が眠りの謎を解くカギとなった。睡眠と覚醒メカニズムや次世代の睡眠薬など研究最前線に迫る。

詳細情報
番組内容
人生のおよそ3分の1を睡眠に費やす私たち。この身近な“睡眠”という現象は、実は科学的に未解明なことばかり。しかし今、“オレキシン”という睡眠と覚醒を調節する物質の発見により、眠りの謎が少しずつ解き明かされ、その働きに注目した“次世代の睡眠薬”も誕生。さらに、遺伝子レベルの研究が急速に進み、眠りの正体に近づきつつある。現代の脳科学が抱える最大のミステリー“睡眠”を巡る最新研究に迫る。
出演者
【ゲスト】筑波大学 統合睡眠医科学研究機構教授…柳沢正史,【司会】竹内薫,南沢奈央,【語り】土田大

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
情報/ワイドショー – その他

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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