横紋筋融解症の真実

Picture 1横紋筋融解症(おうもうきんゆうかいしょう)とはごく稀にアスリートに見られる症状です。今回はマイク・レイ医師がこの症状が引き起こされる理由、その治療法、そして指導者としてどのようにそのリスクを最小限にすることができるかについて説明していきます。

「横紋筋融解症の症例はマラソン、ハイキング、ジョギングへの人気が高まるにつれ増加しましたが、一般的には圧挫損傷(あつざそんしょう)、電撃症(でんげきしょう)の患者に多く見られる症状です。」- マイク・レイ医師

横紋筋融解症とは筋肉細胞が破壊され、血中に流れ出すことで引き起こされる医学的状態です。そして、その細胞内の分子、特に腎臓に有害なマヨグロビンが腎不全の原因となり、重度の場合は患者を死に至らしめます。

横紋筋融解症を引き起こす原因としては高い運動強度で行なわれる運動、多くの緊急病棟の医師によく知られた事故などで筋肉が圧迫され破壊されることにより起こる圧挫損傷、感電により起こる電撃症、重度の蜂毒アレルギー、感染症、高温の中での長時間運動による脱水症状などが上げられます。私が働いている北アリゾナ州では、グランド・キャニオン国立公園をハイキング中に横紋筋融解症になった患者を多く治療しています。

Picture 2症状と治療法
横紋筋融解症がもたらす症状として極度の筋肉痛、吐き気と嘔吐、腹部痙攣、重度の場合は茶褐色(コーラ色)の尿があります。この茶褐色の尿は筋肉の赤い色のもとである分子、マヨグロビンによるためです。

患者の血中に含まれる分子、クレアチン・キナーゼ(CK, CPK)の上昇が確認された時、紋筋融解症と診断されます。実際に身体に害を及ぼすのはマヨグロビンですが、この分子の量を計測することは難しいため、マヨグロビンと同時に上昇するクレアチン・キナーゼの血中量が横紋筋融解症の指標として使われます。

治療は大量の静脈輸液で腎臓内のマヨグロビンの濃度を薄めるとともに洗い流すことで行われます。重度の場合は腎臓の機能が正常になるまで透析が必要となります。稀ですが腎不全により電解物質のバランスが崩され心不整脈を引き起こした結果、死に至る場合があります。ほとんどの場合は、症状の程度により数時間から一週間程度の点滴注射による水分補給を行うことで完全に回復します。横紋筋融解症にともない稀に隔壁腔症候群が現れることがあります。これは、拡張できない結合組織内の軟部組織が腫脹する症状です。結果として、その圧力が隔壁内の毛細血管の圧力を上回ることで断血を引き起こし、軟部組織細胞を死に至らしめます。そして、この軟部組織細胞が筋質であった場合はマヨグロビンがさらに血中へと放出される結果となります。

一般的に隔壁腔症候群は身体末端部の筋肉隔壁で最も起こります。そして主な原因として圧挫損傷、管状骨骨折、そして高強度の運動が上げられます。

クロスフィットでは全身を使った実用的動作が行われます。なぜなら、これら動作がスポーツ、実生活、戦闘で必須であるからです。私達はこれら動作を高い運動強度で行います。なぜなら、高い運動強度が成果を上げるために最も有効であり、クロスフィットのフィットネス定義である幅広い時間域、運動域における仕事遂行能力を最大限に高める成果をもたらすからです。

私達は高い運動強度で行われる運動が筋肉を破壊し、マヨグロビン、そして同様にCPKを血中へ放出することは理解しています。そして、この放出が危険なほどなされることはごく稀であることも理解しています。私は実際に緊急病棟で運動直後(ジョギング、マシーン・トレーニング、ハイキング、クロスフィットなど)に横紋筋融解症とは関係のない症状のために来院する患者を診察することがあります。これら患者のCPK値が若干上昇していることは珍しくありません。しかし、危険なまでのCPK値の上昇、または病弊の訴えはごく稀でしかありません。その理由として人体が高い標高に定期的にさらされることで順応するのと同様に、高強度の運動による横紋筋融解症からも人体を保護する順応効果の存在が考えられます。

Picture 3リスクの軽減
横紋筋融解症のリスクを軽減する方法としてまず、徐々に高い運動強度に慣れるということが上げられます。最も高いリスクをともなうアスリートとはクロスフィット以外の運動である程度のフィットネスレベルを既に持っている方、または一定期間運動から遠ざかったクロスフィット経験者だと言えます。このようなアスリートは横紋筋融解症を引き起こすために十分な筋量を保有し、さらに自身に害を与えるほど頑張ることができる精神力を持っています。しかし、彼らは高い運動強度に定期的にさらされた経験がなく、横紋筋融解症から身体を保護する順応効果を十分に持ってはいません。

極度に運動不足の方は横紋筋融解症を引き起こすために十分な筋量を持っていなく、自身に害を与えるほどの強度で運動をすることはできません。経験を積んだクロスフィッターはその仕組みははっきりと科学的に解明されてはいませんが順応効果を持っていると考えられます。

横紋筋融解症のリスクが特に高い動作として意図的に持続された伸張性収縮であるネガティブが上げられます。伸張性収縮とは、筋繊維が縮まろうとしている状態で実際には引き伸ばされる筋肉収縮を言います。また初心者、運動不足のアスリートが軽いウェイト負荷で運動することもリスクを高めます。ウェイト負荷が軽いため、動作速度を上げやすく運動強度もそれにともない高くなります。一般的に初心者、運動不足のアスリートにはウェイト負荷がある程度ある方が休憩が必要になるため、動作速度が下がり運動強度も下がります。その結果、横紋筋融解症のリスクを軽減することができます。さらに運動後に水分と栄養を補給することもとても重要です。水分は腎臓で蓄積されるマヨグロビンを洗い流し、栄養は過剰な水分補給のための血中塩分濃度が下がることで引き起こされる高ナトリウム血症を予防する効果があります。

マラソン、ハイキングの人気が高まるにつれ、私どもの緊急病棟では横紋筋融解症の症例を頻繁に目にするようになりました。そして、その予防策として水を頻繁に飲むようにとアドバイスを与えました。その後、皮肉なことに横紋筋融解症以上に高ナトリウム血症の症状を訴え、グランド・キャニオン国立公園から運ばれてくる患者を頻繁に治療する機会が増えました。

クロスフィッターであり、私と同様に医師であるアーミック・ジョーンズ氏によってクロスフィット・メッセージボードに投稿されたクライアントを横紋筋融解症から守る10の方法はとても良いアドバイスであると言えます。

実際に重度の横紋筋融解症は極めて稀ですが、そのリスクは偽りない真実です。アーミック医師が自身の投稿で述べているように、あなたがすべてを間違ってもあなたの大多数のクライアントは横紋筋融解症になることはないでしょう。そして逆にもし、あなたがすべてを正しく行ったとしても横紋筋融解症のリスクを完全にぬぐい去ることはできません。

効果のあるトレーニングとは必ず何らかのリスクをともないます。もし、完全にリスクのないトレーニング・プログラムがあるとするなら、その効果とはカウチポテト的習慣の促進以外の何者でもないことは明確です。クロスフィットを含む、総合的な身体能力の形成を目的としたストレングス&コンディショニング・プログラムの安全性は、野球、フットボール、サッカーなどの他のスポーツと比較して高いと言えます。

アスリートが怪我に苦しむことは不運以外の何者でもありません。しかし、正しい動作を学ぶ機会を持たなかったがために腰を痛める結果となったアスリート、または十分な心肺機能を養う機会を持たなかったがために自身だけではなく要救助者をも火事の山中から救えることのできなかった消防士はもっと不運と言えるでしょう。クロスフィットは全身を使った実用的動作を高い運動強度で行います。なぜなら、それがスポーツ、実生活、戦闘の場で必須であるからです。

 

Picture 4著者について:クロスフィット・フラッグスタッフの共同経営者でもあり、ロッククライミング、格闘技、トレイルランニングを楽しむアスリート。クロスフィット本部セミナースタッフであり、2009年度クロスフィットゲーム女子個人戦44位に輝いたリサ・レイ選手の夫でもある。
 

記載されている内容は日本でのクロスフィット普及の目的で翻訳されたものであり、クロスフィット本部から認定を受けた正式なものではありません。よって、チカラクロスフィット、または翻訳者はクロスフィット・レベル1コース合否の責を負わないものとする。クロスフィット(CrossFit)とは商標登録がなされた名称である。

This translation of The CrossFit Training Guide was prepared by Otoya Oshima for informational purpose only and has not yet been approved by CrossFit, Inc. CrossFit is a registered trademark of CrossFit, Inc. The translations and other documents included in this site were prepared to assist athletes and coaches interested in CrossFit. The collection makes no claim of being either complete or current, and should not be relied upon for the basis of passing the Lvl1 Trainer Certificate Course.


翻訳者:大島男弥(Otoya Oshima)

チカラクロスフィット

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