私事ではありますが、9月末で2年半勤めた日本銀行を退職し、株式会社ナウキャストで働くことになりました。2013年に新卒入社し、2年半本当にお世話になりました。有難うございました。
新しく働くナウキャストはいわゆる大学発ベンチャーで、今年の2月に出来たばかり。従業員は役員含めても10人もいません。
この話をすると、「馬鹿かお前は」とよく言われます。家族にも、日銀の上司や先輩、同期にも「日銀で働いた方がいいに決まってる」と言われ、非難・叱責をたくさんもらいました。
でも、今僕はこの決断に後悔していません。本当に心からベンチャーに飛び込んでよかった。
僕の家は金銭的に、比較的余裕がありました。中学受験をし、地元の進学校に進学。それなりに勉強もこなし、京大に進学。学部は就職が良さそうと思い経済学部にしました。就職活動では、半分冗談で受けたつもりの日銀から内定をもらいました。
ずっと、目標がありませんでした。何となく、要領のいい、悪くない人生を歩んでいる気がしていました。
そして、日銀に行けば何となく社会のためになり、大きな仕事が出来て、やりがいがあるだろうと思っていました。
日銀に入行後1年目は東京、2年目に山口に行き、そしてまた今年4月に東京に戻ってきました。そして今年4月に企画局という、いわゆる「花形部署」に異動しました。作成した資料が総裁に渡されることも多く、いわゆる「大きな仕事」が出来るところでした。
基本的に職員の殆ど(だいたい2/3くらい)は本店に在籍し、専門性の高い仕事も本店に集中しています。基本的に支店よりも本店の方が人気があります。
でも、この2年半の社会人生活の中で、最もやりがいを感じたのは山口県下関支店での仕事でした。
下関支店では、山口県の景況調査を担当し、山口県の景気分析のため、様々な経済統計を分析し、地元企業へのヒアリングしました。
はっきり言って、日本全体のGDPのうち、山口県の占める割合は1%程度です。多くの人が本店での「花形部署」で働きたがっています。
でも、僕には、地元の方々のお話を聞き、山口という小さな経済圏の動きを把握し、更に高齢化や人口流出、大手企業の工場撤退などの課題を克服しようと、地元企業の方々が様々な取り組みを行っていることを調べていくことのほうが面白かった。「仕事の大きさ」は僕にとって大事ではないことに気付きました。
下関支店での仕事の中でも、特に自分の転機となったのは、県内の日本酒業界についてレポートを作成した仕事です。
少しでも日本酒に関心のある方なら、「獺祭」という銘柄をご存知ではないでしょうか?
「獺祭」は、山口県の東端、岩国市の山奥の小さな酒蔵から始まりましたが、桜井社長がゼロから酒造りを見直して醸造温度の管理から米作りまでこだわった末、今や日本を代表する日本酒となり、東京や大阪の首都圏、あるいは海外でも人気を勝ち取っています。
こうした人気を背景に、設備投資、採用も積極的に行って、地域の活性化に貢献しています。
そして、山口において、地域活性化に貢献している酒蔵は決して「獺祭」だけではありません。「貴」の永山本家酒造さん、「東洋美人」の澄川酒造場さんなどなど他にも多くの酒蔵が同じようにこだわりの酒造りで人気を高めています。
こうした山口の酒蔵の取組みを日銀として調査し、発信して応援しようということになりました。
調べれば調べるほど、まるでプロジェクトXを見ているような、熱い気持ちになりました。
それを調査、分析する自分は、「カメラマン」として熱い現場に入っている気がして、本当に面白い仕事でした。
そして、一方で湧き出る思いがありました。自分は「カメラマン」ではなく、熱い現場を作る「役者」になりたいと。
「カメラマン」は結局舞台を変えられない。現場を変えるのは、調査・分析するだけではなく、汗を流す「役者」なんです。
「役者」へ転じたいと思ってしまった以上、日銀にいることは出来ない、と思いました。
無論私が最後にいた、企画局を始め日銀にも「役者」的な仕事はあります。しかし、そこは大きな組織。そういった「役者」的な仕事に携われる機会が自分に回ってくるかは分かりませんし、どうしても意思決定や判断に関わる仕事は管理職以上、年齢でいうと40代が中心となります。
やはり、「役者」になるには転職しかない、と考えました。
しかし、それではどんな仕事をするのか。
「仕事の大きさは問題ではない」「役者になりたい」という思いから、主にベンチャー企業を念頭に転職活動をしました。日銀からの転職では比較的人気のコンサルタントやエコノミスト、あるいは商社などの大企業はフィットしないだろうと思いました。
とはいえ、ベンチャーといっても数百社、数千社あります。
数百社から1社に絞るのに何を判断材料にすればいいのか。
それはその会社の目指すビジョンに共感できるか。それが「全力を尽くしたい」と思えるものかどうかだと思いました。
ベンチャーでは大組織と比べればギリギリの人数でやっていることも多く、肉体的・精神的に本当に無理をしないといけない場面は多い。
そんな時に、それでも無理が出来るかどうかは、無理をしてでも「会社を前に進めたい」と思えるかどうかだと思います。
そして私は株式会社ナウキャストに入りました。
ナウキャストは、今年の2月に出来たばかりで資産も何もありませんが、「ビッグデータを活用した経済統計を作る」「経済の”今”を知る」という明確なビジョンを持っています。
日銀で、経済統計を作成したり、経済の分析をしてきたため、このビジョン・問題意識に強く共感しました。
「経済統計」ってなんだろう?と思う人でも、失業率やGDP、消費者物価指数くらいは聞いたことがありますよね。
これらは経済の”今”を知る上で非常に重要な統計で、世の政策当局者やエコノミスト、投資家は逐次チェックしています。
では、今、最新で知ることが出来る日本のGDPはいつの時点のものでしょうか?
実は今年の4−6月のデータまでしか公表されていないのです。
よく、政策運営は「バックミラーを見ながら車の運転をするようなもの」と言われます。
これは、どうしても既存の経済統計が回答者に調査票を配布し、記入してもらい、それを集計する、という一連の作業に時間がかかり、調査時点と公表時点で”タイムラグ”が発生するからです。
しかし、現在では「ビッグデータ」あるいは「行動履歴データ」と言われるデータを使えば、タイムラグ無しにデータを取得出来る方法がいくらでもあります。
ナウキャストは「ビッグデータを活用した経済統計」を作ることで「経済の”今”を知る」ことが出来る世界を目指しています。
日銀では、本当に多くのことを学ばせてもらいました。
経済統計の使い方や、株価や為替、金利がどのように関連しているか、どのように見ればいいのか。
転職したのは決して、日銀での仕事が嫌だったからではありません。
「大きい仕事をやる」ことが好きな人もいれば「小さくとも自由に活躍する」ことが好きな人もいる。
「カメラマン」になりたい人もいれば、「役者」になりたい人もいる。
月並みですが、価値観次第なのだと思います。
だから決してベンチャーこそがみんなに正解、とは言いません。
でも、もし大きな組織で自分の価値観にフィットしない働き方になっているのだとしたら、転職するのも一つの選択だと思います。
そんな時、このエントリーが少しでも参考になっていれば、最高にうれしいです。