ちりんと喉元で音がした。
澄んだ鈴の音を聞きながら、膨大な熱量がゆっくり入り込んでくる。
これは、知っている感覚だ。
ようやく解放された唇で、喘ぐように息を吸い込みながら、仰け反った朋也はヒュウと喉を鳴らしていた。
「ひあッ、あッ、あッ、ああ!」
ビクビクと全身を震わせる姿を完二とクマが生唾を呑みながら見つめている。
背後から抱きしめられた朋也は最初大きく瞠目し、次いでキュウッと双眸を閉じていた。
陽介の熱量は最後に卑猥な音を立てて、朋也の中に全て収められてしまった。
「は、入ったクマ」
「入っちまった」
そのままグッタリと項垂れる。
囁くような笑い声とともに、陽介の顎が肩に乗せられた。
「ほーれ、お前ら、よく見とけー」
両手が朋也の腿に添えられる。
「うっ」
挿れられたままの状態で、腰をグッと持ち上げられた。
反り返った局部がうっすら開いた朋也の視界に飛び込んできた。
2人の結合部を覗きこんで、クマと完二は興味と興奮のため息を漏らしている。
「すっごいクマ、ずっぷり根元までセンセイの中に入っちゃってるクマ!」
「すげ、エロい」
「ヨースケ、気持ち良さそうクマ」
「先輩のココ、赤くなってヒクヒクしてる、こっちもまたすっかりビンビンで―――すげえ」
「み、るな」
震える声でどうにか言えた。
羞恥と快楽で今にも意識が吹っ飛んでしまいそうだ。
震える朋也の耳元に陽介が囁きかけてくる。
「そんな事言わずにさ、もっとよーくよーく見てもらおうぜ、ほらっ」
グッと奥を穿たれた。
朋也は咄嗟に「ヒッ」と声を上げて、傍らの陽介の両腕を強く握り締めていた。
「あ、や、や、やめろ、バカっ」
「へへへ」
ぐい、ぐい、ぐいと、突き上げられるたび、朋也の唇からいやらしい声が繰り返し漏れる。
「ひあッ、あッ、アッ、や、やッ、やあーッ」
「先輩っ」
切羽詰った表情の完二に口付けられた。
「クマもッ」
続けてクマに口付けされる。
今、2人の見ている目の前で、朋也は陽介にユサユサと体を揺さぶられ始めていた。
「ああっ、ヤッ、いやだっ、やだッ、やッ、やッ、やだあッ」
鈴の音の合間に陽介の荒い息遣いが聞えてくる。
朋也たちと対面する形で並びあった完二とクマが、それぞれ膝立ちで両手を前に何か行っている。
(何?)
揺れる視界に瞳を凝らすと、彼らは自らの雄を抜いているようだった。
晒すだけに飽き足らず、自慰の材料にまでされているのか、俺は。
「いッ」
事実は朋也の最後の善意を打ち砕くに十分すぎる威力を伴っていた。
「嫌だああぁぁぁッ」
細い悲鳴を上げる喉を陽介が舌先でツウッとなぞり、囁くように笑いながら抽挿の速度を上げ始めた。
男なのに、と、情けなくて涙が滲む。
けれど感度のいい朋也の体は慣れ親しんだ陽介の愛撫に蕩けきっていて、緩急つけて与えられる快楽に甘い鳴き声が止められない。
局部からも先走りの汁が滲み出し、後ろを強く深く穿たれるたび細かな水滴となって散った。
そそり立って揺れる自身を眺めながら、今の俺は無様だな、と、内心微かに哂った。
(許さん)
後で覚えていろ―――
「くろさわッ」
切羽詰った陽介の声が聞こえる。
一際奥を穿つ衝撃に、背筋を電流の様なものが駆け抜けていく。
同時に朋也の内側に叩きつけられた荒々しい奔流。
朋也の先端からも精が噴出し、完二とクマめがけて放たれていた。
2人からも返答のように白濁した体液が吐き出されて朋也の体のあちこちに飛散った。
「あウッ、あウウゥゥゥッ」
ビクビクと体を震わせながら、快楽の頂点に上り詰めた朋也はそのまま深々と息を吐き、余韻にグッタリ沈み込んでいると―――
「センセ、熱くて濃いーの、ゴチソサマでした」
「すげ、美味しかったッすよ、先輩」
擦り寄ってきた完二とクマが口々にそう述べて、所構わずキスを繰り返してくる。
「よかったぜ、黒沢」
陽介の声だ。
頬に優しく口付けされた。
「さてと、んじゃ次、誰行っとく?」
(は?)
―――今、なんて言った?
「はいクマ!クマがセンセーと気持ちよくなりたいクマー!」
「バッカ、ざけんじゃねえぞ、先輩と次ヤんのは、俺だっ」
「ダメクマ、センセイとはクマがするクマ」
「俺だっつの!」
「あーハイハイ、わかったから、じゃあジャンケンな、順番順番」
(ふざけんなよ)
陽介の熱量がズルリと引き抜かれる。
胸元にもたれたまま、朋也は内心沸々と怒りを煮えたぎらせていた。
お前たち覚悟はできているんだろうな?
(幾ら俺が寛容だからって、限度ってもんがあるぞ)
逆鱗に触れた罪は重い。
絶対後で潰す。
(覚えてろ―――この、馬鹿どもが)
屈辱は、倍、更に倍返しだ。
何も知らず、気付いてすらいない彼らからすれば、今の朋也は陽介の腕の中でグッタリしているようにしか見えないだろう。
心の奥深くルシファーの咆哮が上げられているとも知らず―――
「やった、勝ったクマー!」
暢気な声とともに投げ出されていた朋也の両足の間にクマが割って入り込んできた。
「センセイ、フツツカモノですが、どうぞヨロシクお願いいたしマス」
股間には立派なモノが反り返っている。
(陽介のと同じくらいかな)
ぼんやり、そんなことを考えていた。
朋也の腿を抱え上げて、クマはグッと腰を突き込んできた。
ちりんッ
「うくッ」
咄嗟に陽介の両手を握り締める。
背後からギュッと抱きしめられて、あやすような口付けを施された。
「おいクマ、お前どうせ初めてなんだろ、最初はゆっくり優しく動けよ、幾ら慣らした後だからって、あんまり乱暴にしたら怪我させっからな?」
「りょ、リョーカイクマ」
しかし、まだ挿れただけだというのに、クマは既にブルブルと震えだしていた。
「せ、センセーの中って、あっつくて気持ちいいクマ、クマヤバイかも、すでにイッちゃいそうかも」
「早すぎんだろ!」
「―――まあ、わからんこともないが」
陽介の言葉に、朋也は陽介との『初めて』を思い出していた。
(そういえばこいつも、最初真っ先にイッて、後からやり直したんだっけか)
そんなに俺は具合がいいのかと思う。
自分の体だから試しようもないけれど。
しかし男女共にお互いの知れない最初の交わりで即絶頂を迎えられてしまうのだから、もしかしたら常人にあらざる魅惑の力が下肢に宿っているのだろうか?
(なんて、んな馬鹿な)
―――既に女性経験済であることは、目の前の童貞トリオには秘密だ。
とにかく、それはさておき、現状朋也は本日2人目の劣情を注ぎ込まれようとしている。
2度目、ではなく、2人目。
内心最悪と唸る。
朋也の奥深く突き込んだクマは、そのまま暫く必死に堪えて、ゆっくり、徐々に、少しずつ、様子を窺うように腰を揺すり始めた。
それは逆に焦らすような快楽となり、朋也は内側を擦られるたび甘い鳴き声を上げる羽目となった。
「ア、アンッ、アンッ、あうっ、ん、ん、んんッ」
2人の肉が鈴の音とともに卑猥な音を立てて混ざり合う。
徐々に速度を増していくクマの、朋也の腰に添えた両掌がじっとり汗ばんでいる。
ふと見上げた傍らで、完二が物欲しそうな表情を隠そうともせず、2人の行為に見入っていた。
(次、こいつともヤるのか)
見上げていた背後から「黒沢、大丈夫?」と囁きかけられる。
背中に再び熱を帯び始めている陽介の雄の感触を覚えていた。
繰り返される、あやすようなキスに、陽介の妙な気遣いを感じ取って思わず手を伸ばしそうになった朋也の、その手を突然はっしと捕まえられた。
見ると、夢中で腰を振っていたはずのクマが、泣きそうな顔をして「センセぇ」と体の上に乗り上げてくる。。
「今はクマとしてるクマ!ヨースケとばっかりチュッチュしてちゃイヤクマ!」
そして、今度はクマから熱烈なキスを施される。
併せて一層早くなった動きが、そのまま一気にスパートをかけて、深々と朋也を貫いた。
ちりりりりんッ
「んあッ、アッ、アウッ、アウッ、アッ、あああああっ」
熱い精がドクドクと流れ込んでくる。
互いに体を震わせて、朋也はクマと溺れるように口付けを交わす。
クマの下腹にも朋也の精が吐き出されていた。
顔を上げたクマは、蕩けた表情で「センセイ」と呟き、そのまま仰向けに倒れてしまった。
合わせて無造作に引き抜かれた衝撃に、ウッと声を漏らすと、背後から回された陽介の腕が再び朋也を捕まえて胸に抱きこみ、唇で頬に触れられる。
「黒沢、大丈夫?」
「ん」
朋也はどこかぼんやりした気分のまま、下肢から零れ落ちる2人分の精を感じていた。
「先輩」
視界にぬっと腕が入る。
「次、俺ッスね」
陽介から奪うように朋也を抱き上げて、顔を覗き込んだ完二が至近距離でぎこちなく微笑みかけてくる。
「先輩、その、ほ、惚れてます」
分厚い胸板に押し付けるように抱きしめられた。
何言ってんだ馬鹿。
朋也の心の声と、現実の陽介の声とがリンクする。
咄嗟に思わず朋也は苦笑いを浮かべてしまった。
「何笑ってるんスか、本気っスよ俺、アンタとずっとこういうしたいって思ってたんだ」
「バァカ、酔ってんなよ完二、黒沢は俺ンだ、今日はクリスマスだから特別だって言ってんだろ」
「知らねえよンなこと、俺ぁ今夜コイツでアンタをメロメロにさせて、花村先輩より俺の方好きにしてみせるって決めてんだ」
「おーおー上等だぜやってみろ、朋也、嫌だったらこいつぶん殴っていいからな?」
(それはどこまでが冗談だ、花村)
―――嫌というならば、既にこの状況、何もかもイヤだ、イヤ過ぎる程堪らなく嫌だ。
3人がかりで半ば見世物のように廻されているだなんて―――悪夢としか言いようがない。
ふざけた馬鹿騒ぎにつき合わされて気分は最悪、おまけにイカされ続けているせいでろくに力も入らない。
(こんな状態でお前は俺にどうしろと?)
後で絶対殴ってやる。
朋也の唇に、完二の唇が重ねられた。
「先輩ッ」
…眠い。