「オウサマ獲ったクマー!」

先端を赤く塗られた割り箸を頭上に高々と掲げてクマが宣言する。

陽介、完二同様、ぽかんと見上げていた朋也の目の前で、突然傍らの二人がクマに飛びかかり押し倒した。

何事かと様子を窺っていると、コソコソと声を潜めて話し合いが行われているらしい。

―――益々嫌な予感がする。

やがて、わざとらしい咳払いをして陽介と完二が起き上がり、再び朋也の傍らにそれぞれ陣取った。

次いで起き上がったクマも、やはり同じ様な咳払いをひとつして、再びくじを掲げ高らかと声を張り上げる。

「では、オウサマのメイレイクマ!4番!」

びくっ。

朋也の肩が震えた。

即座に陽介の腕がスルリと回されて、そちらへ引き寄せられる。

「2番からコチョコチョの刑〜」

「悪いな、相棒ッ」

脇に差し込まれた手が朋也をくすぐり始めた。

「うわッ、ちょ!」

半ば押し倒されるような格好で、上に圧し掛かって来る陽介から脇腹といわずそこらじゅう触れまくられる。

ある部分では指先でコチョコチョと刺激され、ある部分では掌で擦られ、撫でられ、やめろ、やめろと身悶えているうちに、気付けばシャツの前がはだけられていた。

(ズボンのチャックが開いてる―――?)

「はい次!おうさまだーれだ!」

「俺―!」

完二が歓喜の声を張り上げてくじを持った手を高く上げる。

キャラじゃない行動に、ついでのように陽介が引いたくじを握らされていた朋也は、寝転がったまま呆然と様子を眺めていた。

再び―――陽介とクマが集まっていく。

「じゃあ、3番、王様からプレゼントを受け取って欲しい、ッス」

ちりん。

完二が鈴付きの首輪を取り出した。

先程クリスマスプレゼント交換と称した、なんとも切ないイベントでクマと取り替えたものだ。

ちなみに傍らでは陽介がクリスマスソングを歌っていた、あまりに寂しい光景に、朋也はそちらを見ないよう心がけながら無心でケーキを食べていたのだった。

(3番)

朋也は自分のくじを見る。

先端に『3』と書き込まれていた。

「おー相棒が3番かあ!」

陽介が仰々しく声をあげ

「え?じゃ、じゃあ、自分がプレゼント、その―――つけてあげるッス」

近づいてきた完二が、惚けている朋也を抱き起こして、首に鈴のついた首輪をそっと巻きつけた。

「どんどん行くクマ!はい、オウサマだーれだあ!」

チリチリと鈴が鳴っている。

まずい。

何だかよく分からないが、非常にまずい。

朋也はテンタラフー重ねがけされたような心理状態のまま、現状をどう見るべきか混乱の極みにいた。

酒が入っていた所為もあるのだが、それ以上に周囲の妙な熱気に呑まれていたと見るほうが正しい。

クマが片手に握った棒の束を、完二が1本、陽介が2本引き抜いて、内一本を朋也の手に握らせる。

(これは俺がくじを引いたことになるのか?)

的外れなことを考えている間に、終末のラッパは高らかと吹き鳴らされたのだった。

「よっしゃあ!キタコレ、今度の王様はこの俺だあ!」

くじを握る手でガッツポーズを作る陽介。

振り返り、満面の笑みで呼びかける。

「あーいぼっ」

朋也の手のくじには、2の番号。

「では、王様が命ずる!」

―――ここで、遅ればせながら、ようやく朋也は(はッ)と我に返っていた。

「ま、待て、落ち着けはなむ」

「4番!2番の両手を縛り上げろ!」

「花村!」

クマが「アイアイサー」と嬉しそうに声を返し―――取り出したのは先程完二と交換したクリスマスプレゼントのマフラー

完二が小さく「あっ」と声を漏らす。

「こら、待て、そんな命令聞けないぞ、やめろクマ、花村お前よくもっ」

聞く耳持たない陽介が和んでいる目の前で、完二が朋也を押さえつけ、クマがマフラーで朋也の両手首を縛り上げようとする。

だが。

「あれ?アレレ?」

「何やってんだよクマ」

どうもうまく行かないらしい。

僅かに安堵したのも束の間、「ちょっと貸してみ」と入れ替わった陽介が脅威の速度で両手首を固定してしまった。

花村先輩ウマイッすね、と、完二がしきりに感心している。

「まーな、普段から色々特訓してたんだ、相棒縛るくらいわけないって!」

(ほ、本当なのか?)

真贋の程はともかく、朋也は声も出ない。

床に転がされ、呆然としたまま、熱狂している6個の瞳を見詰め返す。

(冗談にしても、これは)

やり過ぎだろう。

ごくり、と、完二の喉が鳴った。

即座に朋也の危機感知メーターは振り切れ、メーデー発動と同時に脳髄が急速冷凍されていく。

「お前たち」

―――朋也、必殺の眼力が、調子に乗りすぎた面々をギラリと睨み付けた。

効果は抜群だったようだ。

即座に完二が硬直し、クマも擬音付きでサーッと青ざめていく。

しかし陽介だけは―――

「だッ、ダーメ、ダメ!ダメ!」

咄嗟に竦みはしたものの、すぐ立ち直って朋也の目の前で指を振った。

稲羽の番長は(しまった)と歯噛みする。

実は―――陽介とだけは既に何度か、体の関係を結んでしまっている。

しかしその都度、調子に乗りすぎる彼に睨みを利かせていた所為で、どうやら免疫がついてしまったらしい。

ちっちっち、と、舌を鳴らし、陽介は多少怯えながらもウィンクすら投げて寄越す余裕だ。

「そんな可愛い顔で睨んでもダーメ、俺には効かないぜ」

(おのれ)

「さて、相棒?」

堂々としている陽介を見て、完二もクマも安堵するとともにすっかり落ち着きを取り戻してしまった様子だった。

逆に一気に窮地に追い込まれた朋也はなす術もなく嫌な汗を滲ませる。

(マズイ)

奥の手が封じられてしまった以上、他に出来ることはかなり限られている。

(け、けどっ)

―――こんな緊急時に、要らない気遣いが朋也の理性の最後の砦となって立ちはだかっていた。

「いい格好だけど、そろそろ俺達王さまゲーム飽きちゃった」

「じ、じゃあ、他のゲームでも」

「けど、こんなお前放っといて、他の選択肢なんて選べねーよ、なあ?」

「そ、そうッスね」

「クマも同感クマ♪」

「せっかくのクリスマスですし?ここはいっちょ」

陽介がペロリと口元を舐める。

「―――4Pなんて如何でショー!」

(クリスマス関係ないだろ!?)

さんせーさんせーと無情の声が次々上がる。

「それでは賛成多数により可決します!」

「ま、待て」

「問答無用っ」

先陣を切った陽介の唇が朋也の唇に押し付けられた。

馴染んだ柔らかな感触と、熱過ぎる温度。

唇の合間から這い込んだ舌先が慣れた調子で朋也の舌に絡みつき、口腔内を蹂躙していく。

濡れた音を立てて深いキスを交わす二人の姿に、若輩者2名がおおッと歓声を上げた。

「陽介ズルい!クマもセンセーいただきまっす!」

「お、俺ん事も、男にしてくださいッ、黒沢先輩!」

「んむーッ!?」

僅かに唇を解放された朋也が、至近距離で蕩けた表情を晒している陽介を睨み付ける。

陽介は「へへ」と、ほんの少しばつの悪そうな笑みを返しつつ、囁きかけてきた。

「まあ、お前は俺のものだけどさ、今日くらい皆で楽しもうぜ、いいだろ?」

「よ、よくないっ」

「うんうん、ゴメンな、今度ちゃんと埋め合わせに2人っきりでしような」

「話を聞け!」

ニコニコと頷かれて、再び唇を奪われた。

陽介の腕を掴み返し必死の抵抗を試みる朋也の首筋に、何かが触れる。

ズルリとズボンが引き下ろされた。

体中あちこちに音を立てて唇が触れている。

(ちょ、ちょっと待った!本当に待った!)

胸を押す掌をスルリと絡めとられて、陽介に抱きしめられる格好となった朋也の唇から吐息も言葉も全て残らず飲み干されていく。

背後からはクマが、首筋から背中に掛けてキスの雨を降らせながら、前に回した両手で朋也の胸元の突起を弄っていた。

完二が掲げた朋也の足の、滑らかな表面にネットリと舌を這いまわせている。

体の自由を奪われた朋也は、目尻にうっすら涙を浮かべ―――その一滴が、頬を伝い落ちていった。

 

 

 

笑うところです、ここ。

それでも番長最強伝説は終わりません、安心してよし。