黒い雨:対象区域拡大で被爆者手帳交付を…広島64人提訴
毎日新聞 2015年11月04日 12時21分(最終更新 11月04日 12時44分)
米軍による広島への原爆投下直後に降った黒い雨に遭い、被爆したと訴える広島県在住の男女64人が4日、広島市と同県を相手取り、被爆者健康手帳の交付を求めて広島地裁に提訴した。原告は被爆者援護法に基づく援護対象区域の外で黒い雨を浴びており、手帳の交付申請を却下されていた。国は広島市などが求める援護対象区域拡大に否定的で、訴訟を通じて被爆者認定制度の見直しや援護対象区域の拡大を求める。
訴状によると、原告は1945年8月6日の原爆投下時は生後5カ月から20歳。現在はがんや貧血、甲状腺機能低下症などを患い、放射性物質を含む黒い雨を浴びた影響と主張。「身体に原爆の放射能を受けるような事情の下にあった」とする被爆者健康手帳の取得条件に該当するとして、今年3月以降に手帳交付と、特定の病気にかかれば被爆者健康手帳に切り替わる「第1種健康診断受診者証」の交付を広島市と同県に申請したが、いずれも却下された。
訴訟では却下処分の取り消しを求めるが、広島市と県は現行の法令に基づいて対応したことから、国の被爆者援護行政の不当性を争う形になる。
黒い雨の援護対象区域を巡っては、2010年に広島市と県が独自のアンケート結果を基に現行区域を6倍に広げるよう国に要望。しかし、国は12年、厚生労働省の有識者検討会が「科学的根拠がない」などと結論づけたことを基に、拡大しない判断をした。
原告団長で広島県「黒い雨」原爆被害者の会連絡協議会の高野正明会長(77)=同市佐伯区=は「私たちの長年の訴えや、市や県の拡大要望を国は認めなかった。司法の場で争うしかない」と話している。
松井一実・広島市長と湯崎英彦・広島県知事は提訴を受けて発表したコメントで「援護対象として認められない方々が、やむにやまれぬ気持ちで司法による解決を選択されたものと受け止めている」と理解を示す一方、「現行の法律・政令等に基づき却下処分を行わざるを得なかった。国とも協議し、適切に対応したい」とした。【加藤小夜、石川将来】
◇黒い雨
原爆投下直後、強烈な爆風によりすすやほこりが巻き上げられ、放射性物質を含む雨となって降った。終戦直後に調査した広島管区気象台(当時)の技師らは、爆心地北西の楕円(だえん)状の地域(長径約29キロ、幅約15キロ)で雨が降ったとまとめ、国は1976年、大雨が降った長径約19キロ、幅約11キロを援護対象区域に指定した。