インタビュー - 羽生 結弦
フリーは「勝ちたいという感情に任せた」
――五輪王者として世界選手権に挑みましたが、まず試合前はどんな気持ちでしたか?
五輪王者というプレッシャーは、確かにありました。一番大きなタイトルを世界選手権の前に獲ってしまったので。でもそのプレッシャーを楽しみたいと思っていました。追われる立場、という考えではなく、自分自身を追いかけたいと思っていました。五輪王者というプレッシャーに挑戦できるのも、楽しいことだと思いましたから。
――ところが世界選手権では、ショートは4回転を転倒。調子の良かった今季としては珍しいミスでしたね。
ショートに関しては、今季、練習でも試合でも安定してきていただけに、慢心や気の緩みがあったのかもしれません。そして五輪王者という肩書きからのプレッシャーと、ちょっとした過信があったかと思います。でも五輪王者という言葉自体にプレッシャーという意味はないですから、過信するかは自分の心の問題でした。小さな心の誤差が、4回転の誤差に繋がりました。
――相当悔しかったでしょう。
あの日は、自分に対して怒りを感じました。もう自分自身を許せない、という気持ちでした。五輪王者という肩書きなど、完全に捨て去ろうと心から思うことができました。
――2日後のフリーは気迫に満ちた演技でした。
実際には今シーズン、ショートが良いと、フリーを結構淡々とやってしまっていました。そこに怒りとか意地とか、自分の中から出すような気持ちが加わったのが今回の世界選手権のフリー。追い込まれたからこそ、自分のフルの力を出せたと思います。
――ショートからフリーへの気持ちの変化がキーになりましたね。
はい。シーズンを通して学んで、試みてきたことです。(メンタルの)本や理論を勉強したことで、自分の気持ちを理論でコントロールする、自分の気持ちを頭で理解する、という作業をしていました。しかし、この世界選手権で気づいたのは、理論は理論に過ぎない、ということ。最終的には自分の気持ちに正直になったほうがいいな、と感じました。「絶対に勝ちたい」「こんなんで負けてたまるか」という怒りの感情に任せたら、久しぶりに自分のアドレナリンをしっかり出し切れたと思います。ガチガチの理論じゃなくて自分らしい戦い方を改めて考えた試合でした。
――シーズン終えてみれば、グランプリファイナル、五輪、世界選手権と3冠達成です。
今シーズンの3つの試合は獲りましたが、来シーズンはまた違う試合です。今季は今季、新しいシーズンはまた新しく頑張ります。今季は、膝も足首も怪我なく、体調良く過ごせたことで最後まで全力で演技できました。カナダのコーチと日本のトレーナーの先生のお陰です。
今後は表現面やスケーティングを強化
――五輪後、ファンの数が急増したように感じます。
歓声は違ってきましたね。今までは本田武史さん、髙橋大輔選手など、日本男子の歴史を積み上げてきた選手に大きな声援が送られていたけれど、僕にも来るようになりました。公式練習から歓声があって嬉しかったです。これから先、髙橋選手だけでなく、自分も頑張ってフィギュアスケートの歴史を作っていかなければ、と重責も感じます。もちろんこの重責に怖さはなくて、重責によって試合への気持ちの持って行き方が難しくなったとしても、それを分析していくことで、自分がもっと強くなっていけると思います。
――今後は日本男子のエース、という意識はありますか?
エースに対するこだわりは全くありませんし、僕がエースという実感もないです。僕は日本代表の一人であって、髙橋選手もいますし、町田樹選手も素晴らしい演技をしていて、誰が勝ってもおかしくない時代です。今後はエースが誰とか決めつけるのではなく、皆で頑張っていく方が、日本男子の今後のフィギュアの発展に繋がると思います。
――今後は他の種類の4回転ジャンプを跳びたいと、五輪では話していましたね。
実はもう4月7日に札幌のアイスショーのアンコールで、4回転ループを片脚で降りました。オーバーターンだったけど。やっぱり難しいですね。トウループよりはサルコウに近い感覚でした。
――それは凄いですね。ほとんど練習しないで成功したのですか?
今、もっと強くなりたいというモチベーションがすごく上がっているので、そういう気持ちの中でアイスショーの合間に練習していました。4回転サルコウも2011年の夏に、3発跳んでみたらできちゃった、という感じでした。今回は大阪(4月5,6日)でやってみて「回転足りそうだな」と思い、7日に札幌のショーでシュッってやったら跳べちゃったという感じです。もちろん試合に入れるかどうかは、また別の話です。
――モチベーションが落ちませんね。
むしろモチベーションは上がっています。自分がもっと強くなりたいという気持ちでいっぱいです。そのためには、やるべき事がたくさんあります。ジャンプは一番好きだし、自分で研究していける部分でもある。一方で、基礎のスケーティングや表現面は、これが正解という答えのない分野なので、振付師のジェフリー・バトルやブライアン(オーサーコーチ)に相談したいです。
――スケーティングはこの2年でだいぶ変わりました。
スケーティングに関しては、だいぶトロントでの練習にも耐えられるようになって、世界選手権後には織田信成さんからも「本当にスケーティングが伸びるようになったよね」と言ってもらえました。でもそれがプログラムに活かされていなくて、前半はすごくスピードを出して滑っていても、後半は疲れて、綺麗な正しいスケーティングがおろそかになっています。もっとトレーニングが必要ですね。
――表現面も伸ばしたいのですね?
自分の演技を見ると、弱点は分かっています。やはり姿勢とかポジションとかまだ汚いなと思います。ジャンプはある程度得意になってきたからこそ、他の部分をもっと磨かないともったいないなと思います。五輪が終わってから、周りの方々に、姿勢とか表現の部分がもったいない、それができれば敵無しだ、と言ってもらえます。しっかり取り組みたいです。具体的にはバレエなども習いたいと思います。ちょっとずつしか変われないことを、一歩でも二歩でも進めて行きたいです。
――まだまだ成長できますね。
五輪王者、世界王者だからといってライバルがいなくなる訳じゃないです。今後は誰かを追いかける、というよりは、自分自身を追いかけたい。自分を超えたい。そしてもっともっと強くなりたいと思います。僕のスケートに誇りを持って、自信を持って、それを磨き続けていきたいです。
(2014年4月10日、都内にてインタビュー)