最新の9月の有効求人倍率は、1992年以来の23年ぶりの高さだったが、バブルの頃の水準と言われる割には、好景気の実感がなく、消費増税以降は、逆に悪化している印象がある。いまや唯一ともなったアベノミクス御自慢の数字だが、検証すると、やはり失速していることが分かる。こうした傾向は、家計調査など他の統計と共通するものだ。「家計調査は低すぎる」などと批判するより、現実を直視すべきだろう。
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有効求人には前月から繰り越されたものが含まれ、倍率は求職者の減少によっても上がるので、今回は、新規求人が、前年同月と比較し、どのくらい増えているかに着目した。フルタイム(正確には「除くパート」)における結果は、下図のとおりである。ここでは、各月の変動が激しいことから、傾向性をつかみ易くするよう、3か月移動平均を示している。
新規求人の増加数を追うと、リーマン・ショックの影響が癒えるに従い、2010年に大きく回復し、2011年から2012年にかけて、やや低下しながらの高原状態となる。2012年後半に、円高に伴う「ノダ後退」で低下するものの、アベノミクスが始まり、円安に戻った頃から急速に戻した。そして、消費増税を境に下り坂となり、2014年の終わり頃からは、ゼロをはさんで上下するまでに落ちぶれている。
こうした中、医療・介護・保育の分野は、安定して下支えする役割を果たした。特に、消費増税のあった2014年には上げ潮基調で支えている。その意義は大きく、もし、これがなければ、求人の増加数は、ゼロどころか、マイナスに転落していたところだ。この分野は、社会保障をどのくらい拡大するかで決まる。雇用を作ってきたのは、金融緩和でも、産業政策でもなく、社会保障である。
(図1)

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せっかくだから、パートの動向も確認しよう。パートは、2010年にリーマン・ショックから回復したものの、東日本大震災で、一度、大きく落ち込み、その反動で2012年前半に大きく伸びるという激しい動きを見せている。安倍政権となった2013年は、落ち着いた動きを示していたが、やはり、消費増税後は下り坂になり、2015年に入る頃には、落ちては戻すを繰り返している。
医療・介護・保育の分野の新規求人は、この1年、全体の増加数のほとんどを占めることもしばしばである。介護や保育の仕事は、低賃金が知れ渡っているが、それが新規求人の大半を占める。先に見たように、フルタイムの増加数は、ゼロ状態にあるのだから、パートからフルタイムへの移行はあまり期待できない。雇用の質の改善には、パートの地位を向上させるよりほかないと考えられる。
(図2)

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アベノミクスの雇用の命脈は社会保障にかかっているのに、財政当局は、来年度予算に5000億円増のキャップをはめ、これを断つべく、必死になっている。10%消費増税を先送りされた怨みの深さがうかがわれる。一方、安倍政権は、そうはさせじと新三本の矢を放ち、社会保障の充実で保育や介護の雇用を確保し、来年夏の参院選に備えようとする。何とも凄まじい争いだ。
一億総活躍の国民会議の資料「実現に向けた新三本の矢の関係」のド真ん中には、非正規雇用の正規化が掲げられているが、フルタイムの新規求人の増はゼロ状態という足元の有様からすれば、絵に描いたモチでしかない。それでも、安倍首相の言葉どおりの「従来の発想に囚われない発想での新たな案」なら可能だ。1.6兆円で社会保険料を軽減することで、すべてのパートや非正規に社会保険を適用し、差別をなくせば、実質的に解決できるからである。
しかし、日本に社会保険を使う発想はない。当局が自ら軽減案を出してくるはずもなく、待機児童の解消と同様、20年かけてノロノロと適用拡大を進めるだけだろう。待機児童対策をケチり、20年かけても解消できないまま、日本は少子化が進み、人口崩壊が不可避になったように、非正規の地位向上への冷淡さは、労働力の質の低下を招き、いずれ、日本の成長力の深刻な重荷となるだろう。解決策はあっても、日本は衰退するばかりだ。
(今日の日経)
中台首脳が初会談。国家公務員の配偶者手当見直しへ。
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有効求人には前月から繰り越されたものが含まれ、倍率は求職者の減少によっても上がるので、今回は、新規求人が、前年同月と比較し、どのくらい増えているかに着目した。フルタイム(正確には「除くパート」)における結果は、下図のとおりである。ここでは、各月の変動が激しいことから、傾向性をつかみ易くするよう、3か月移動平均を示している。
新規求人の増加数を追うと、リーマン・ショックの影響が癒えるに従い、2010年に大きく回復し、2011年から2012年にかけて、やや低下しながらの高原状態となる。2012年後半に、円高に伴う「ノダ後退」で低下するものの、アベノミクスが始まり、円安に戻った頃から急速に戻した。そして、消費増税を境に下り坂となり、2014年の終わり頃からは、ゼロをはさんで上下するまでに落ちぶれている。
こうした中、医療・介護・保育の分野は、安定して下支えする役割を果たした。特に、消費増税のあった2014年には上げ潮基調で支えている。その意義は大きく、もし、これがなければ、求人の増加数は、ゼロどころか、マイナスに転落していたところだ。この分野は、社会保障をどのくらい拡大するかで決まる。雇用を作ってきたのは、金融緩和でも、産業政策でもなく、社会保障である。
(図1)
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せっかくだから、パートの動向も確認しよう。パートは、2010年にリーマン・ショックから回復したものの、東日本大震災で、一度、大きく落ち込み、その反動で2012年前半に大きく伸びるという激しい動きを見せている。安倍政権となった2013年は、落ち着いた動きを示していたが、やはり、消費増税後は下り坂になり、2015年に入る頃には、落ちては戻すを繰り返している。
医療・介護・保育の分野の新規求人は、この1年、全体の増加数のほとんどを占めることもしばしばである。介護や保育の仕事は、低賃金が知れ渡っているが、それが新規求人の大半を占める。先に見たように、フルタイムの増加数は、ゼロ状態にあるのだから、パートからフルタイムへの移行はあまり期待できない。雇用の質の改善には、パートの地位を向上させるよりほかないと考えられる。
(図2)
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アベノミクスの雇用の命脈は社会保障にかかっているのに、財政当局は、来年度予算に5000億円増のキャップをはめ、これを断つべく、必死になっている。10%消費増税を先送りされた怨みの深さがうかがわれる。一方、安倍政権は、そうはさせじと新三本の矢を放ち、社会保障の充実で保育や介護の雇用を確保し、来年夏の参院選に備えようとする。何とも凄まじい争いだ。
一億総活躍の国民会議の資料「実現に向けた新三本の矢の関係」のド真ん中には、非正規雇用の正規化が掲げられているが、フルタイムの新規求人の増はゼロ状態という足元の有様からすれば、絵に描いたモチでしかない。それでも、安倍首相の言葉どおりの「従来の発想に囚われない発想での新たな案」なら可能だ。1.6兆円で社会保険料を軽減することで、すべてのパートや非正規に社会保険を適用し、差別をなくせば、実質的に解決できるからである。
しかし、日本に社会保険を使う発想はない。当局が自ら軽減案を出してくるはずもなく、待機児童の解消と同様、20年かけてノロノロと適用拡大を進めるだけだろう。待機児童対策をケチり、20年かけても解消できないまま、日本は少子化が進み、人口崩壊が不可避になったように、非正規の地位向上への冷淡さは、労働力の質の低下を招き、いずれ、日本の成長力の深刻な重荷となるだろう。解決策はあっても、日本は衰退するばかりだ。
(今日の日経)
中台首脳が初会談。国家公務員の配偶者手当見直しへ。