中国と台湾は、かつて戦火を交え、互いに正統政権と認めぬ関係が66年続いている。その首脳同士が初めて会談した。

 双方がシンガポールに足を運び、相手を先生と呼び、敬意を表して向き合った。歴史的な一歩である。

 問題は、この雰囲気を今回限りで終わらせず、持続できるかどうかだ。双方の指導層に、中国国民と台湾住民も含めた真の和解をめざす責任があるが、とりわけ中国側の振る舞いが関係の行方を左右するだろう。

 会談では、中国の習近平(シーチンピン)国家主席、台湾の馬英九(マーインチウ)総統ともに「一つの中国」に言及した。中国とは「中華人民共和国」か、「中華民国」かは棚上げし、中国は一つであって台湾もその一部だ、という考え方を指す。

 習主席には、悲願である台湾統一に向け、確かな足がかりにする意図があろう。馬総統は、台湾の尊厳を示して国民党の成果としたかったはずだ。

 だが、台湾では来年の総統選で、政権が国民党から民進党に代わる見通しが強まっている。民進党は「台湾は中国とは別の主権独立国家」とする立場で、「一つの中国」を否定する。

 そこで習政権はこの会談により「一つの中国」の原則を固定化し、対話継続に向けて民進党に原則の受け入れを迫る狙いがあるとみられている。

 民進党にも現実を見すえる応分の責任があるとしても、習政権が露骨に国民党と異なる対応をとるのは狭量にすぎる。国民党であれ民進党であれ、公正な選挙で選ばれた台湾の指導者と誠実に対話するべきだ。

 習政権が原則を振りかざして話し合いを拒むようでは、台湾の人心を得ることは難しい。

 ただでさえ台湾では中国との心理的距離が広がっている。中国の経済は発展したが、民主化の兆しがなく、習政権は人権無視の姿勢を変えない。

 中台の経済関係は深まったが、独裁政治と闘って自由を勝ち取った台湾の人々にとって、いまの中国は統一の相手とするには遠い存在なのだ。

 しかも武力による台湾統一の選択肢を捨てず、1500発前後のミサイルを対岸で構えている。習主席は「台湾に向けたものではない」と説明したというが、東アジアの不安定要因であることに変わりはない。

 今後の中台関係を占ううえで問われるべきは台湾以上に、中国の姿勢である。力や威圧ではなく、対話によって平和的な共生の関係を築く。それは台湾だけでなく、アジアの各国が中国に望む行動である。